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インタビュー
2021年5月18日
2021年5月18日

スタッフのモチベーション向上・維持を意識した環境づくり

訪問看護ステーションハートフリーやすらぎでは、スタッフのモチベーションの向上と維持のためにどのようなことを意識しているのか、引き続き常務理事の大橋さんと所長の田端さんにお話を伺います。 資格を積極的に取りに行ける環境を提供 ―ハートフリーやすらぎでは、資格取得や研修を受けに行きやすい環境が整っているのでしょうか? 田端: そうですね。2010年に大橋さんが認定看護師資格を取りに行き、「すごく勉強になるし、うちのスタッフみんなにも取ってほしい」と言われてから私も興味が湧き、2012年に訪問看護の認定看護師資格を取りました。大橋さんというロールモデルがいたおかげで、利用者さん宅に訪問する姿、地域の医師やケアマネとの連携のやりとりなど、間近で魅力を教わることができたんです。 2018年には、特定行為研修も受講しました。病院での胃ろうの交換には、ヘルパーさんの付き添いやタクシーの予約、移動の準備、病院での待ち時間などの負担がかかり、たった10~15分の処置に多大な労力が必要です。これが家でできれば、利用者さんが地域で暮らしていくのに役立つ資格ではないかと。 ―受講にあたり、金銭的補助はありましたか? 田端: 資格取得や研修に関しては出勤扱いで給料保障(ボーナス含む)をしてくれました。 なかなか、個人の訪問看護ステーションではこうした保障はないですよね。仕事を辞めてきたり、休職扱いで貯金を切り崩していたり、という人も多かったので…。学びやすく、研修に出やすい環境を整えてもらっています。 「オールOK」の精神でスタッフを後押し ―大橋さんはどうして、資格や研修などスタッフの学ぶ環境を後押しされているのですか? 大橋: もう私は、「ええやん、ええやん」言っているだけです。私が若いときに学びたい意欲が強かったのですが、「研修に行きすぎ」「あなたは2回行ったから、次はあの人に」と、頭から抑え込まれていたことがありました。別に研修に行きたくない人に嫌々行ってもらうくらいなら、学びたい人が行ってシェアすればと思っていました。 なので、自分がトップになったときには「オールOK」でやりたいと。学びたい人はどんどん学べ、学びたくない人は学ばなくてもいいと…。 ただ、学んだ人がそばにいることで、周りも自然に学べる。それは田端さんから教えてもらったことです。 褒めることがスタッフの活力に ―看護師さんからの人気が高く、魅力あふれるハートフリーさんですが、その理由はなんでしょうか? 田端: うちの看護師はみんな元気で、生き生きしているとよく言われます。それがいい看護に繋がり、患者さんや家族にもいい影響を与えると大橋さんからもずっと教えられているので、みんなで引き継いでいこうという思いがあります。 大橋さんは結構小さなことでも褒めてくれますね。「ありがとう」は毎日言うし、「今日の髪型似合っているな~」と何気ないことから、看護のことまで。利用者さんの家族がこう言ってくれていたという話を私から大橋さんに報告すると、スタッフ本人に「聞いたで~」と言いに行きますから。 大橋: 褒め言葉は無料ですから。特に褒めることは大事にしています。しかも一対一で、一人ひとりを特別に褒めます。 田端: 半年に1度、人事評価がありますが、一般的には課題や改善点を言われて、ネガティブなイメージも多いと思います。そこでも、必ず褒めることをしています。「ここができていないから頑張ろう」ではなくて、「ここができていたね、また頑張っていこう」と。 大橋: できていないところが目につくかもしれないけど、できていないところをわざわざ面接の場で言うなんて、管理職としてはあってはならないと思っています。その都度、注意したらいいんです。 「1週間前のあれな~」と言うなんて、こんな注意のしかたはありません。だから、人事評価ではしっかりとできていたことを褒める、そうしたらスタッフは元気に部屋を後にしますよ。 人事評価はご褒美をいただくような場であるべきだと思っています。 ** 医療法人ハートフリーやすらぎ 常務理事・統括管理責任者 大橋奈美   三次救急で8年、看護短大の非常勤講師として1年、公立病院で5年勤務の後、ハートフリーやすらぎを立ち上げる。 日本訪問看護認定看護師協議会 代表。 医療法人ハートフリーやすらぎ 訪問看護ステーション所長 田端支普  総合病院の小児科を含めた混合病棟で6年、産婦人科混合病棟で4年勤務後、ハートフリーやすらぎに入職し、訪問看護師に。2012年に訪問看護認定看護師の資格を取得。2018年に特定行為研修修了。

インタビュー
2021年5月11日
2021年5月11日

退院後の子どもや家族が安心して生活できる環境を

都内23区を対象エリアとし、小児に特化した訪問看護ステーションとして育児支援サービスを提供しているベビーノさん。今では、小児に特化した訪問看護ステーションの数も増えてきていますが、所長の平原さんはNICUでの長年の経験を活かし、退院後の子どものサポートが手薄だったころに訪問看護ステーションを立ち上げました。 開設してから10年という月日の中で、真摯に子どもと家族と向き合ってきた平原さんにお話を伺います。 ベビーノはなぜ小児に特化したのか ―ベビーノの事業内容について教えてください。 平原: NICUから退院してきた未就学児を対象に、医療保険で訪問が可能な方に看護を提供しています。事業所は新宿にありますが、訪問エリアは23区に対応しています。開設した当初は新宿や中野のエリアを想定していましたが、大学病院にはいろんなところから通ってきている家族も多く、退院後の住所がバラバラだったため、対象エリアを広げました。 ベビーノでは小学校に入るまでに今後の見通しを立て、繋げていく役割を担っています。小さく生まれた子どもや生まれながらに障がいがある子どもは、酸素や経管栄養を使うこともありますが、その後普通に保育園や小学校に行く子もいますし、反対に疾患や障がいが複雑になっていく子もいます。前者の場合には、医療サービスから福祉や教育のサービスに繋げていき、後者の場合には訪問看護ステーションを併用する必要も出てくるため、一緒に探していきます。だいたい3歳くらいで今後の見通しを考え始めて、子ども本人の状況とご家族と相談しながら決めていきます。 NICUからお家に帰ってくる子どもや家族をしっかりサポートしていきたいという思いから、乳幼児専門の訪問看護をしています。 ―ベビーノさんでは、どのようなケースが多いのでしょうか。 平原: NICUは、生まれてすぐに医療的なサポートが必要な子が集まっているので、小さく生まれた子や、心臓や脳の疾患など、本当にさまざまです。24時間呼吸器管理が必要な子もいれば、ちょっと小さく生まれはしたけど、医療ケアは必要なく、だけどご両親の不安が強いために、精神的なサポートも含めて訪問に行くこともあります。ご両親の精神面が不安定になると、子どもの体重の増えが悪くなることもあります。その場合には、医療保険で訪問をしているので、体重増加不良などの疾患名がついて訪問に行きますが、全体的に子どもたちの健康を守るために、子どものケアはもちろんですが、家族看護という視点で入らせてもらうことがほとんどです。 病院、他のステーションとの連携 ―病院との連携はどのようなことをされているのでしょうか。 平原: 子どもの訪問看護の場合には、ケアマネージャーがいるわけではないので、病院のソーシャルワーカーが地域のサービスに繋げるために動きます。そこでケースに入らせてもらうことが多いです。24時間医療ケアが必要な子どもの場合だと毎日のように訪問看護が入るので、訪問看護も2社使っていることがあり、一緒に組んで入らせてもらいます。 今は新宿にある病院だけではなく、母子医療センターがある病院とはだいたい連携をとらせてもらっています。開設した当初は「子どもの訪問看護って何?」という状態だったので、こちらからこういうサービスを行っていると病院に直接話をしに行くこともありました。今は、子どもたちに訪問看護を入れるのが当たり前になってきたので、病院からの連絡で訪問看護に繋がることがほとんどです。 ** 訪問看護ステーションベビーノ所長 平原真紀 (助産師、看護師) 大学病院のNICUで勤務し、主任を経験した後、2010年に訪問看護ステーションベビーノを開設。当時はNICUから退院した子どものサポートがなかったため、育児支援サービスとして乳幼児専門の訪問看護を提供している。 ※本記事への写真掲載はご家族の許可をいただいております。

インタビュー
2021年5月11日
2021年5月11日

利用者とスタッフの思いを反映する先進的な訪問看護ステーション

大阪市住吉区にある「医療法人 ハートフリーやすらぎ」。その訪問看護ステーションで、スタッフが生き生きとして働けるよう、さまざまな取り組みをされているのが、常務理事の大橋奈美さんと、訪問看護ステーション所長の田端支普さんのお二人です。今回は事業内容や職場環境についてお話しを伺いました。 常勤看護師17名が在籍する訪問看護ステーション ―ハートフリーやすらぎの事業内容について教えてください。 田端: ハートフリーやすらぎは医療法人で、『地域住民の命と尊厳を守ります』という法人理念のもと、診療所、訪問看護ステーション、居宅支援事業所、ナーシングデイを開設しています。 訪問看護ステーションは、2004年に2.5人からスタートし、現在では常勤看護師17人、非常勤看護師1人で運営しています(2021年1月時点)。訪問認定看護師、認知症認定看護師に加えて、特定行為研修(創傷管理関連、ろう孔管理関連、精神および神経症状に係る薬剤投与関連)を修了した看護師が在籍しています。 訪問看護での気付きからナーシングデイを開設 ―ナーシングデイの概要を教えてください。 田端: 小児医療が発達し、500gに満たない赤ちゃんも助かる時代になっています。しかし、なんらかの障害を持ちながら退院することが多く、その子たちが自宅に帰ってきたときに使えるサービスが余りにも少ないという現状があります。 ママが24時間離れずに吸引し、ちょっと散歩に行くにも器材など準備をしないと外出できず、ママが引きこもりになっている。そういうママたちがゆっくりお茶をしたり、安心して美容室に行けたりする時間を提供できるように、小児をメインとしたナーシングデイをオープンしました。 大橋: ナーシングデイは2020年の1月から全国で13か所目、大阪では1か所目として開設しました。障がいを持った子どもの親御さんとの出会いがきっかけです。障がいを持った子どもは、特別支援学校に通うまで受け皿がないので、ナーシングデイを立ち上げて全国にも広げていく必要があると考えました。 田端: 訪問看護では1時間や1時間半と限られたなかでの関わりですが、自分が見ていた部分は本当に少ないものだと、ナーシングデイをはじめてからよくわかりました。1日6~8時間と一緒に過ごすなかで、1日の変化や非言語的コミュニケーションも段々とわかるようになり、お母さんたちと一緒に育てていく気持ちで関わらせてもらっています。 ナーシングデイに通う子どものお母さんたちからは、「お風呂に入れるのが大変だったのですごく助かります」と言ってもらえています。何より、お母さんのリラックス具合がすごく変わりました。それが子どもにも大きく影響していると思います。 訪問看護でのニーズや看護師の意見・思いが反映される職場環境 ―訪問看護からニーズを感じてデイを作られたと思いますが、看護師の意見や思いが反映される法人の姿勢についてどう思われますか? 田端: 大橋さんの力が強いですね。ないものを作っていこうというパワーがあって、先見の明というか、必要なものを早いうちに取り入れていこうとされています。情報収集をいろいろなところでされていたり、常務理事という立場で経営にも参加されていたりと、新しいことを取り入れるために動かれています。「自分たちのステーションさえ良ければいい、ではなくて、法人全体の底上げをしていこう」とよく言われていますね。 常務理事になられたときに、経営の知識が欲しいと盛和塾に行き、経営について学ばれていました。学んだ内容について管理者への伝達講習があり、経営の考え方や人材の管理方法、新しい事業の進め方などをみんなで勉強させてもらっています。毎月の収支はスタッフが見られる場所に貼り出していて、収支の増減について原因を伝えるようにしています。 大橋: これまでは、訪問看護ステーションで利用者さんに対してケアをしてきましたが、ナーシングデイのように組織として地域貢献や社会貢献をするフェーズに来たとも感じていて、今後はより広い視野で活動をしていきたいと思っています。 ** 医療法人ハートフリーやすらぎ 常務理事・統括管理責任者 大橋奈美   三次救急で8年、看護短大の非常勤講師として1年、公立病院で5年勤務の後、ハートフリーやすらぎを立ち上げる。 日本訪問看護認定看護師協議会 代表。 医療法人ハートフリーやすらぎ 訪問看護ステーション所長 田端支普  総合病院の小児科を含めた混合病棟で6年、産婦人科混合病棟で4年勤務後、ハートフリーやすらぎに入職し、訪問看護師に。2012年に訪問看護認定看護師の資格を取得。2018年に特定行為研修修了。

インタビュー
2021年5月6日
2021年5月6日

地域住民の健康生活を支える場として

 「せわのわ」の名前は「世話の輪」から付けられました。その名のとおり、地域で住み続けるためのキーステーションとして健康支援ネットワークの役割も担っています。 最終回は、地域住民との「世話の輪」のコミュニティづくりを進める取り組みについて、せわのわ事業支援部長の半田さん、せわのわ事業本部長の目井さんにお話を伺いました。 地域に開かれたレストラン「健康食堂」 半田: 地域住民の方に普段使いをしてもらえるような、楽しく食事ができる場所を目指しています。車いすやベビーカーでもそのまま入れる、お一人さまもお母さん方や子ども、ご高齢の方も気軽に入ってこられるようなフリーアクセスな場所にしたい、というのが狙いとしてあります。 当初はもっと健康志向が強く、健康に寄与できる、役立つような場所として考えていました。最初は管理栄養士だけで、栄養素を重視した食事を提供したのですが、食事そのものを楽しみに来てもらえるような感じにはならず、リピーターもつきませんでした。 そこで、コロナ禍の影響もあり、営業自粛となった段階で食の部分は大きく考え直し、調理師を迎えてメニューを全部見直しました。基本はやっぱり食べておいしいもの、もう一度行きたいねとなるような食事。健康の捉え方にはさまざまあるでしょうが、身体も心も健康になるという観点でいえば、適度なカロリーやアルコールなどもあっていいだろうと考えています。 目井: ご高齢の方でもお肉が好きな方が多く、実は今一番の人気メニューはから揚げなんです(笑)。 ご高齢の方で毎日のように来られる方もいますし、お母さん方も多いです。意外にもお一人で食べに来られる女性・男性も多くて、一人でもふらっと入れるような雰囲気があるようですね。 ―地域の見守りネットワークみま~も(※1)のまちづくりにも参加されているそうですね。 半田: 窓口は私がやっています。 当初、健康食堂のコミュニティサロンを活用して、さまざまなコミュニティを引き込みたいと考えていたのですが、独自のアプローチだけでは難しかったのです。その後いろいろ探していたら、ちょうど大田区で地域のネットワークを作る活動をしている団体があるということで、入れていただきました。 目井: 今はコミュニティサロンの提供がメインになります。コロナ禍で今まで使っていたところが使えなくなったとかそういう話もありまして、無償で貸しています。高齢者の方々が簡単な運動をしたり、引きこもりの家族会、生活保護世帯の子どもの学習支援など、社会福祉協議会や地域包括センターなどとも連携し、いろいろやっています。 最初の3カ月くらいはどこの誰だと怪しまれましたが、段々と既存の町づくりをやっている団体ともつながりができてきたところです。 地域の拠り所、在宅のなんでも屋 ―せわのわさんは今、地域にとってどんな場所なのでしょうか。 目井: 大田区高齢福祉課から大田区高齢者見守り推進事業者に登録してもらっていて、地域の困ったときの拠り所として活動しています。 半田: せわのわとしても、「もやっと相談」という窓口を設けて対応しています。なんとなく「専門家がいるので相談できるかな」と、ふらっと来られる方もいます。 みなさん、お話がしたいんですね。そんな場所はほかにはなかなかないので。 目井: ここは、住民の方々との距離がすごく近いと思います。近所のおばあちゃんが毎日顔を出してくれたり、おすそ分けしてくれたり…。 その方々も今は元気ですが、今後、訪問看護などが必要となったときに、せわのわがいいと言ってもらえたら…と、そうしたことも考えながらやっています。着地点はそこですね。先の長い話ですが、ご高齢の方、地域のコミュニティをうちに呼び込むことが最終的な目的です。 住民の方々や利用してくださる方々から、「とにかく困ったときは『せわのわ』に…」と言われることがありますが、そうした声に応えられるようにしていきたいですね。 半田: あとは、今後の展開としてはデリバリーサービスですね。 階段があるのがしんどくてという相談があったりしたので、試験的に始めました。データを集めるために今は無料でやっていますが(2020年12月取材時点)、ある程度スキームが固まれば、2021年から有料化も考えていかなければとは思っています。 目井: 現場の声を集めるために始めましたが、まだ依頼はそれほど多くはないですね。現状ここに来るお客様は歩ける方が多いので、そもそも用がない人が多いのです。民生委員経由で独居の高齢者などにアプローチする方法もありますが、いきなりだと怪しまれることもあるので、社会福祉協議会や地域包括支援センターなどとも連携して、地道に足元から固めている段階です。 半田: 最終的には広域デリバリーの中に調剤薬局の薬を届けることも入れ込んで、ネットワークを作っていきたいと思っています。 ** 株式会社キュアステーション24 せわのわ事業支援部 部長 半田 真澄 30年以上臨床検査領域で働いた後、2013年にTRホールディングスグループに入社。代表取締役の田中氏とは社会人1年目が同期という縁。せわのわでは主に業務全般のサポートを行っている。 株式会社キュアステーション24 取締役/せわのわ事業本部 本部長 目井 俊也 ゼネコンや外資系保険会社などを経て、まったく畑違いの介護業界に。訪問介護ステーションやデイサービス、サービス付き高齢者向け住宅などの開業・運営経験がある。 【参考】 ※1 みま~も(おおた高齢者見守りネットワーク) 高齢者が安心して暮らせる街づくりのために、地域の医療・福祉・介護の専門職が活動する大田区の地域ネットワーク 関連記事:全国に拡大中!地域を支える『みま~も』とは?(牧田総合病院 地域ささえあいセンター センター長 澤登久雄)

インタビュー
2021年5月6日
2021年5月6日

外部センターとICTの活用で運営効率アップ!

株式会社ツクイでは、効率的な事業運営や現場スタッフの負担軽減のために、外部センターやICTの運用を進めているそうです。 今回は、事業企画推進部部長の竹澤仁美さんに、外部センターやICTの活用によって現場にどのようなメリットがあるのか、詳しくお話を伺いました。 外部センターを活用して現場の負担を減らす ―外部の事務センターを利用しているそうですが、どのように活用しているのでしょうか。 竹澤: 今は、医療保険の請求業務だけですが、全国の訪問看護ステーションのレセプト入力から提出までの業務を、すべて沖縄にある外部の事務センターが行っています。介護保険の請求業務はまだ体制が整っていないので、各地域、各県にある自社の事務センターで、介護保険の請求業務や勤怠管理、その他事務にかかわることを行っています。 今後、変更申請や事業所の新規出店、新しい加算の申請に関する書類手続きなどの事務作業も、全部やっていけるようにと考えています。 ―なぜ、外部の事務センターなのですか? 竹澤: 悠翔会さんとツクイが同じグループ企業になったということもあり、両者が育てばいいなという気持ちで、悠翔会さんの沖縄にある外部センターを選択しました。 また、一括集中できる事務業務は、外部の事務センターでも可能なので、事務作業のための事務員はステーションに置いていません。 現場のスタッフがサービスを提供しながら電話を受けるのは、お客様にも失礼ですし、スタッフも大変なので、2021年度からは夜間の電話だけでなく昼間の電話も、沖縄の事務センターで受けてもらうように調整しています。 ICT活用でステーション内のシステムを標準化 ―ICTの活用はどのようにされているのでしょうか。 竹澤: 悠翔会さんの在宅医療用クラウド型電子カルテhomis(ホーミス)を利用し、実績入力など請求関連をおこない、直行直帰ができるようになっています。 記録に関してはWyL株式会社のオマハシステム(※1)を実装してトライアル中で、それが終われば2021年4月から本格始動の予定です。オマハシステムはケアの質の標準化、情報共有、スケジュール管理も全部できます。また、携帯でとったものが転送され、大事なものを持ち歩かなくていいので、現場看護師の受け入れは良さそうです。今は記録が手書きなので、「楽になるよ」と、伝えています。 電子カルテは病院向けにできていることが多く、領域も少なく、在宅での汎用性の低さを感じていました。訪問看護をやっていくうえで、一人一人使ってきたカルテも違いますし、記録の書き方なども違うので、オマハシステムを導入することでやり方を全員統一することができるのは良いですね。 今後オマハシステムとhomisの連携作業を行い、さらに効率化を進める予定です。 ―今後、業務の効率化のためにやっていきたいことはありますか?  竹澤: とにかく現場の事務業務を無くすことです。 例えば今は、事故やトラブルが発生した際の業務を、本部の事故課で引き取るようにしています。初動は事業管理者がしなくてはならないですが、入力フォームがあって、そこに必要事項を入力すればシステム上にあがるようになっています。 本部でまだ作っているところではありますが、そのように事務業務を現場から取り上げて、現場のスタッフが業務に集中できるようにしたいです。 ** 株式会社ツクイ 事業企画推進部 医療系事業プロジェクト 部長 竹澤仁美 【参考】 ※1 オマハシステム 関連記事:ケアの質を向上させる!オマハシステムを徹底解説(ウィル訪問看護ステーション 岩本大希)

特集
2021年4月27日
2021年4月27日

介護施設での看取りをさらに推進、ACPの取り組み促す

2021年度の介護報酬改定では、介護施設や在宅での看取りの対応がさらに強化されました。報酬を手厚くする条件として、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の考え方を取り入れた「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に沿った取り組みが盛り込まれました。 繰り返し、話し合い、記録に残し共有する ACPでは介護職もチームの一員 ACPでは、人の意思は心身の状態の変化に応じて変化するものと考えます。ですから、一度決めたら終わりではなく、医療・ケアの方針や、どのような生き方を望むかを日頃からよく話し合い、それを記録し関係者で共有していくというものです。 前のバージョンのガイドラインは、2006年に富山県射水市で起きた医師による人工呼吸器の取り外し事件が起こり、尊厳死のルール化の議論が活発になったのを受けて策定されたものです。病院で医療を停止する手続きが前提だったのに対し、新しいガイドラインは在宅医療・介護の現場で活用することが前提で、地域包括ケアの時代に対応できるよう2018年3月に策定され、さっそく、前回改定で、訪問看護ステーションには取り入れられました。ACPでは、医療の専門職だけでなく、介護職も情報を共有すべき医療・ケアチームの中に含まれると考えられています。 介護施設の看取り加算、45日前から算定可能に 特別養護老人ホームは、生活の場での看取りに先駆けて取り組んできた施設も多くありました。厚労省の調査では、8割の施設で人生の最終段階における医療・ケアについて、本人・家族に対して説明して意思確認または推定を行っていると回答しましたが、ACPが求める「繰り返しの話し合い」を行っているのは43%にとどまっていました。今回、報酬アップとともに取り組みを促すようにしています。 手厚くなったのは、看取り介護加算です。特養では死亡日30日前から算定できましたが、回復の見込みがないと医師が判断して施設で看取り対応を開始しているのは30日よりも前のことが多く、15日前倒しして、45日前から加算が取れるようになりました。1日75単位、15日分で1080単位の上乗せになります。 看取りに関する協議の場に、医療職ではない生活相談員の参加も明記されました。老健、介護医療院、介護付きホーム(特定施設入居者介護の指定を受けた有料老人ホーム等)、認知症グループホームも同様の扱いです。ガイドラインへの取り組みで先行する訪問看護ステーションへ研修の依頼も増えるかもしれません。 認知症グループホームは、軽度の認知症高齢者が家庭に近い環境で穏やかに過ごすことができるように制度化されたものですが、近年、医療ニーズのある人や看取りの対応も増えてきています。認知症の方は環境の変化に弱いので、本人のQOLの問題や医療機関での対応の難しさから考えても自然な流れとなっています。 認知症グループホームでは、看取り介護加算を算定するためには、医療連携体制加算を算定し、看護師を24時間体制で確保することが条件となっています。小規模で自前での人材確保が難しいために、地域の医療機関や訪問看護ステーションとの連携での人材確保や24時間対応が認められています。 改定では、医療ニーズのある人の受け入れを促進するために、より高い区分の医療連携体制加算を算定できるよう、要件となる医療的ケアが必要な人の状態像を拡大しています。褥瘡や気管切開など7項目が追加されました。近年、介護保険制度の中では、地域の他の事業所の助けをかりる「専門職シェア」ができる項目が増えてきていますが、認知症グループホームの医療連携はその先駆けです。 在宅でも看取り間に合わなかった場合も、準備したケアマネの報酬算定が可能に 在宅サービスに目を向けます。がん末期でご自宅での看取りを覚悟し、退院の準備をしていた方が、急変して間に合わないことも現実にはあります。その場合は、ケアマネジャーには「サービスの利用実績がなかった」という通常のルールが適用され、相談に出かけてサービスの調整をした分はタダ働きとなってしまっていました。今回の改定では、利用者が退院前に死亡した場合などは、通常のルールの適用外とし、報酬を算定できるように見直されました。(※1) 訪問介護では、看取り期の対応評価として「2時間ルール」の運用の弾力化をおこなっています。「2時間ルール」とは、訪問詰め込み防止のために、訪問の間隔が2時間未満の場合に合算した時間で算定し、報酬額を低く抑えるルールです。医師が回復の見込みがないと判断した場合も運用が弾力化され、それぞれの時間で報酬が算定できるようになります。サービス付き高齢者住宅や住宅型有料老人ホームなど、在宅サービスを利用してホスピスケアを行っているような施設で、役立ちそうです。すでにさまざまな手を打っているため、細かい内容の改定項目が多いのが今回の改定の特徴です。 介護での看取りは新たな生活文化 制度上、病院でない看取りの選択肢は着実に増えています。しかし、まだまだ日本人にとっては、ハードルの高い選択肢と言えるでしょう。「本人の覚悟があれば、今でも十分在宅で安らかに死ぬことができる」とあるベテランの訪問看護師は話していました。しかし、本人が納得していても、死に目に合えなかったことで苦しむ家族もいて、本人だけの問題ではありません。一人で立派に往生しても、周りから「孤独死」と言われたら浮かばれません。 看取りは、生活文化そのものです。もちろん、収入が増えるからといって、入院させずに施設を死に場所に選ぶことを強要することは許されません。関係者の揺れる気持ちに寄り添い、いつも話し合う。介護での看取りを増やしていくには、新しい文化としてACPが根付いていくことが必要でしょう。 【参考】 ※1  厚生労働省 令和3年度介護報酬改定における 改定事項について https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000768899.pdf ** 介護・福祉ジャーナリスト 川名佐貴子 介護保険の専門新聞、ケアマネ向け月刊紙の編集長を長年務め、2019年12月末に独立。フリーで活動中。介護保険制度の創設前から、介護福祉分野の幅広く取材してきた。

インタビュー
2021年4月20日
2021年4月20日

地域密着型のオンリーワン戦略を貫く

さまざまな先進的な取り組みを実践し、精神障害を持った方々の在宅支援を行うKAZOCの看護師とは、どのような人が適しているのでしょうか。最終回は、KAZOCで求める看護師と、今後の事業展開について邊乾さんに伺いました。 病院職員の地域での受け皿として 渡邊: 訪問看護ステーションを作ったとき、患者さんだけではなく病院スタッフの地域移行も重要と考え、その受け皿を作ることもコンセプトに入れました。 うちのスタッフは、8割ほどが精神科病院の経験者ですが、訪問看護は未経験が多い。中には精神科未経験のスタッフもいますが、僕らがやろうとしているのは日本の精神科病院の問題を解消することなので、むしろ精神科未経験のほうが業界の変な刷り込みがなくて支援においては良かったりします。 「精神科の経験がなくても大丈夫か」と気にする人が多いのですが、一般科を経験した人は、ケア技術や対人援助などの部分ですごくホスピタリティが高いことがよくある。そういう面では精神障害を持った方々にもいい影響を与えるため、そのスキルを活かしてほしいと思います。 -新しく入職した人はどういうステップを踏んでいくのでしょうか。 渡邊: 今まで新卒は採用したことはありませんが、新人のステップとしては、まず訪問先の人と知り合いになることからはじまります。最初の2~3か月は同行訪問としてついていく感じですね。 能力差が出ることはわかっているので、質を均一にするために利用者さん一人に対して3~4人のチームで回していきます。若くて経験が浅い人がついても、次はベテランに入ってもらえますから。 またステーションのコンセプトが、「管理しない、変容を求めない」なので、ここは一番徹底したいところです。 他のスタッフのやり方をみて、自分だったらどうするかを考えて欲しいです。そのために相談できる時間があるし、一人で抱え込まなくて済む構造にしているので自分のペースで少しずつマイスタイルを作っていく感じです。 統一した型や技を求めるところもあると思いますが、うちはマイスタイルで、いかに多様な価値観を持ち込み、広げていくかというところを重視しているし、それが専門性なんだと思っています。 -採用のときには、どういうところをみますか。 渡邊: チームワークがとれるかは大きいですね。チームで動いていくので、個人のスキルアップを重視している人は、個人担当制の事業所の方がいいかもしれません。 先ほどマイスタイルでいいと言いましたが、その中でも権利擁護の部分はかなり意識しています。権利をちょっと抑制してでも治療を優先するというのがマジョリティ側の考え方かもしれませんが、そこに問題意識を持っているのがKAZOCなので。 例えば、生活保護を受けている利用者さんが引っ越したいと言ったときに、福祉事務所はなかなかOKを出さないので、あの手この手の作戦が必要となります。僕らからすると、エビデンス的にも引っ越ししたほうが在宅維持率は高くなるし、引っ越しは支援すべきなんですが、別の視点でいうと、引っ越しといっても税金はかかるし、手続きは面倒だし、それはわがままじゃないか…ということもあるわけですよね。 ましてや、それは医療ではないし、訪問看護の枠を出ている、私たちのやることなのか?という人が出てくると、チーム内でしんどいことになるので、採用のときにそうした考え方はある程度はすり合わせていますね。 地域密着型のオンリーワン戦略を貫く -今後、渡邊さん個人、またはグループ全体で取り組みたいことはありますか。 渡邊: 僕らは、入院中心から地域生活支援への転換が大義名分なので、そこに挑戦し続けることが第一です。そのために、自分たちが地域資源となり、その資源を増やしていく…。基本的には地域密着型のローカルなネットワークをつないで機能させていきたい、全国展開というよりは今の地域の資源を強化していきたいという思いが強いですね。 その意味で言うと、ネイバーフッドプロジェクトには作業所と不動産部門がまだなくて、そこを作りたいという考えもあります。宅建を持っているスタッフもいるし、融通の利く不動産屋が自前であると強いですからね。 ビジネス的な話をすると、精神科の訪問看護は雨後の筍状態。そこのパイを取り合うので、営業体制がしっかりしている大資本は優位になりますよね。大手が同じエリアに出てきた瞬間に、僕らのような小規模事業所は依頼が厳しくなるので、新しいルートの顧客開拓を考えないといけません。 大手にできなくて僕らだからできること…と考えると、やっぱり顔繋がりみたいなローカルネットワークなんです。そのパイプが大きな生命線となります。 僕がわざわざ精神科に特化させた理由は、一般的な地域包括システムとは違う精神科独自のネットワークを持っているということで、それが存在意義そのものだと思います。スペック勝負になってしまうと大手などには到底敵わないので、これからもニッチな領域でオンリーワンの存在として奮闘していきたいです。 その意味で、新規で訪問看護ステーションを立ち上げたい人がいたら、僕はオンリーワン戦略を勧めますね。 自分の旗を立てて、そこに賛同する人たちで集まって一点突破を狙う。そして、それは社会的なものであったほうがいい。自分たちがうまくいけば、業界全体が良くなる可能性を秘めているという思いを持てるので。とはいえ国際的なエビデンスは大事なので、外のものを取り入れて自分たちの取り組みとすり合わせていく。そういうフットワーク足腰の軽さや、柔軟性など…、取り入れと融合がオンリーワン戦略には非常に重要だと思っています。 ** 株式会社Neighborhood Project 代表取締役 訪問看護ステーションKAZOC 作業療法士・精神保健福祉士 渡邊 乾 都内の精神科病院に就職し、日本の精神科医療の現実を知る。その後、浦河べてるの家、イタリア・トリエステの活動を視て地域支援を志す。2013年に精神科訪問看護ステーションKAZOC(かぞっく)を開設。当事者研究、ハウジングファースト、オープンダイアローグなどの先進的な手法を取り入れ、精神疾患を持った人たちの在宅生活を支援している。

コラム
2021年4月20日
2021年4月20日

訪問看護の社長業~創業経営者 水谷氏から学んだこと 営業編②~

第6弾は前回に引き続き、営業に関する方針を列記します。「営業」という言葉やその活動に違和感を訴える医療職が多いのは事実ですが、「営業」をしなければ健全で永続的な経営が成立しないのもまた事実です。経営者・幹部の皆さんは建前ではなく、真に地域や社員に利益を還元する為にも、是非「営業」を実践してください。 営業方針 ①お客様・ご紹介先への訪問によって、お客様や市場の要求の本質、変化を知ることができます。さらに、ライバル(競合事業所)の動向も具体的に情報が入ります。相手の手の内が解れば、打つ手は無限です。ただし地域には不正・不当を行う競合事業所が存在し、(医療介護業界においても一般社会と同様です) 他社の模倣ばかりを行なったり、横取りも平気で行います。これらとは毅然と対峙し、営業力・経営力で凌駕(りょうが)(=上回ること)します。 ②安定とは現在のお客様をよく守ること、成長とは新しいお客様が追加されることです。どんな事業でも売上増の原則は、単価×数量です。訪問看護の制度上、単価は一緒なので、数量を獲得する為の追及が重要です。その為の営業方針であり、営業戦略・戦術なわけですが、ソフィアメディ(株)創業経営者の水谷氏は「1年前と同じお客様数しかいない経営者に敬意を持ちません。成長が止まっており不遇を味わうのは社員だ。」と経営幹部に指導していました。 ③決めたエリアの市場占有率(シェア)が大きいか?小さいか?が優良・限界企業の定義です。一定地域内で市場占有率がどの位置にあるかということに、常に留意しなければなりません。 そして質の高い経営とは、全て単位あたりの数値(※1)で他社と比較して有利を得ていることです。 ※1:事業所あたりの売上・利益、1人あたりの労働生産性、社員の給与、社内教育の投資額、お客様や社員の満足度等々、全てにおいて1番を目指すことが質の高い経営だと、水谷氏は説きます。その大前提が地域内でシェアが1番大きいことなのです。 ④営業戦術を実施する際、例えば営業のツール1つを作成して地域へ案内するだけでも、シリーズ化、ストーリー型、派生型等があり、唐突な内容ではなく脈略のある手の打ち方、機微を読むセンスが肝心です。とくに「感動を与える」と、その内容を人に喋りたくなり、口コミでお客様が増えていきます。感動する「コト」を実践し続ける企画力が、営業コミュニケーションの一つのコツです。 ⑤定期訪問営業の信頼性の上に立った提案、企画はよく通ります。不定期で洗練されていない、欲しいときだけの自分都合の営業は、不快感を与えます。ご都合主義の営業にならないよう計画を立て、実践してください。また、年数回でかまいませんが、社長・幹部・管理者・専門職の同行営業も実施すると営業効果は抜群に上がります。節目節目で時間を作って、こちらも計画的に実践することが大切です。 一方、地域の競合事業所において、非医療職の総合職が定期訪問をしている場合は要注意です!彼らは、医療介護業界の慣例・常識にとらわれず、成果を上げる為の知恵を駆使してきます。裏に参謀・軍師の存在がありますので、戦略・戦術のレベルを上げる必要があります。戦略・戦術のレベルを上げるのは一朝一夕では成せませんが、まずはそういった競合他社がいないかアンテナを張る、その上で前述のとおり相手の手の内を研究し、一つ一つ課題をクリアしていってください。 ちなみに、専門職がたまに営業をしている組織は放置しても問題ありません。仲良くしてください。 ⑥紹介成果は、訪問回数の二乗に比例します。これはランチェスター戦略の基本ですが、期待以上の効果を発揮します。 営業訪問した際、ご不在時でも必ず置き名刺にコメントを書いてください。また、名刺を工夫する、時流/自社ニュースを提供する、時節の挨拶関連、はがきのお礼は必須です。すべて接触頻度を上げる為の知恵ですが、ただ実践すれば良いということではなく、感性(センス・先読み)と人間性(気が利く、誠実)が最高の差別化になります。 ⑦メーリングリストやライングループ、クラウドのプラットフォーム等は、毎日の共通認識手段です。競合情報・必要な指示・評価・労いは、遠慮なく書込むこと。社長は営業現場を大事に考え、毎日確認するのが必須です。 ⑧基本である訪問営業と併せて、SNS・ICTの駆使、メディアの活用、双方向性のある媒体営業の活用が医療介護業界の課題です。これを制する事業者が次世代の医療介護業界を牽引していくものと見ています。 ⑨営業がわからない・嫌い、売り方が下手な者は、経営幹部として通用しません。 大きな会社になると分業化が加速しますが、商売の基本は、まず営業です。利益・成果は外部・お客様からのみ得られます。この原理原則がわからず、社内仕事や仕組み作り、コストカットにばかり没頭する幹部は良くない、というのが水谷氏のもっぱらの口癖でした。 いかがでしたでしょうか。ソフィアメディ(株)創業経営者の水谷氏は、創業から一貫して営業現場に拘り続け、社長を退くまで第一線で指示をし続けて参りました。定期的に営業マンと泥臭く同行営業、月2回の営業会議には全て参加、どんなに多忙でも営業報告には全て目を通して細かく指導する。おそらく最も身近で見続けてきた私からしても、その営業姿勢はまさに「営業の鬼」でした。(水谷氏本人も、よくそう申しておりました。) 従業員やお客様が少なかろうが多かろうが、営業現場を知らずに健全経営ができるわけがない、という経験に基づいた思想ですが、それが業界オピニオンリーダーたる所以であります。 「着眼大局着手小局」。よく水谷氏より指導された言葉ですが、経営と営業活動の関係性に当てはめるとたいへんわかりやすく、具体的に行動しやすいかと思います。是非貴社事業所でも実践してみてください。 ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【 略歴 】 2012年 ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。 2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務  【 参考 】 水谷和美著「訪問看護の社長業」

特集
2021年4月20日
2021年4月20日

【訪問看護ステーション】重度者対応は拡充、前途多難なリハビリ型

4月からの介護報酬が改定。その中から、訪問看護ステーションに関連の深い項目を紹介します。ステーションからの訪問のうち、「看護」は拡充ですが、理学療法士などリハビリ専門職の派遣を中心に行なっている事業所には厳しい改定内容となりました。 リハビリ職の訪問、要支援者1日3回の報酬は5割減 令和3年度の介護報酬改定は、0.7%のプラス改定でした。コロナ禍での対応として半年間基本報酬の引き上げが行われ、全体が上げの基調の中にあって、マイナスが際立ったのが重点化対象とされた訪問看護ステーションのリハビリ専門職の訪問に対する報酬です、 介護給付(訪看Ⅰ5)では297単位が293単位、予防給付(予訪看Ⅰ5)の287単位が283単位でともにマイナス4単位。1日2回を超える(3回以上)の訪問の場合は1割減ですが、予防給付では、5割減と大幅減額。計算すると、20分2,830円、40分5,660円、60分になると4,250円になります。 「ちょっと触って、たくさん回れば儲かる。そんなビジネスモデルを吹聴する儲け主義の経営者がいたのも事実。ただ、真面目にやっているところも一律にカットされるのは残念」リハビリ職でもある介護経営者は話していた。リハビリ中心の事業所では軽度者の割合も多く、経営に与える影響は大きいと考えられます。 消えた「看護職が6割以上」、看護強化体制加算の要件で復活 訪問看護ステーションからのリハビリ職派遣は、2012年度に20分単位のリハビリ体系に改訂されるまでは報酬も訪問看護と同じでした。もともとは「おまけ」の位置付けで、今のように数が増えることは想定していなかったと言えます。無視できないほどの量になり、地域包括ケアシステムの構築が目指される中で、訪問看護ステーションの役割や、訪問リハビリとの関係は本来どうあるべきかという議論になっていきました。 2018年度の介護報酬改定では、訪問看護ステーションは看護が中心であることを明確にする見直しが行われました。看護師が定期的に評価を行い訪問看護計画書や訪問看護報告書を理学療法士等と連携し作成することや、リハビリ職が中心でも看護師の代わりの訪問であることを利用者に説明して同意を得ることが算定要件となるとともに、予防の報酬の引き下げが行われ差がつけられました。 そして迎えた今回の改定は前回改定の方向性をより強化する内容です。厚労省は、昨年、11月、ステーションの設置要件を「看護職の割合を6割以上」とし、リハビリ型を事実上排除することを提案しました。これに対し、日本理学療法士協会など職能3団体は猛反対。「規制強化により、8万人が介護サービスを利用できなくなり、5千人のリハ職が失職する」と訴えて署名活動を展開し、政治に働きかけて規制案を撤回させた経緯があります。 しかし、「看護職が6割以上」の要件は、看護体制強化加算の要件として取り入れられました。報酬額は看護体制強化加算(Ⅰ)が月600単位から550単位に、看護体制強化加算(Ⅱ)が月300単位から200単位に下がったものの、クリアするのが厳しい特別管理加算を算定している利用者の割合が「30%」から「20%」に引き下げられたことで算定しやすくなりました。また、退院当日に訪問ができる対象者も拡大され、医師が必要と認めれば訪問できるようになり、中重度者の在宅療養を支える訪問看護の役割は強化されました。「看護職が6割以上」は医療保険の機能強化型の算定要件にすでに導入されており、いわば厚労省の推奨事業モデルです。 中重度者対応の強化が経営面でも重要に 「需要があるからといって漫然とリハビリ職を増やしていたところもやっていけなくなるでしょう。経営的にも看取りや医療ニーズの高い中重度者の対応を増やしていく必要がある」と別の経営者はこの先を予測しています。看護職割合での参入規制は、今回は撤回されましたが、先送りになっただけというのが関係者の共通の見方となっています。 医療機関や老人保険施設での訪問リハビリの報酬は、要支援者・要介護者ともに307単位に引き上げとなり、訪問看護からの訪問と報酬上の評価は初めて逆転しました。訪問看護からのリハビリ職の訪問について、「通所リハビリだけでは屋内のADLが自立できない場合」限定という規定が追加され、運用上の扱いは訪問リハビリと同じになりました。介護予防・重度化防止に力を入れる厚労省は、近年、介護保険の中でのリハビリ職の役割を強化してきていますが、医療機関での通所リハビリテーションや、訪問リハビリを伸ばしていく考えです。 リハビリステーションの必要性指摘する意見も 医療機関での訪問リハビリは、原則事業所の医師の診察を受けることが必要で、事業所数そのものが少ない中で、利用しづらいという問題があります。かかりつけ医師の指示書一枚で済む訪問看護ステーションのほうが、利用者にとって利便性は高く、需要を増やしたと考えられます。職能団体はリハビリ専門のステーションの設置を可能とすることを求めて活動を続けており、介護報酬を議論する介護給付費分科会では、自治体代表の委員から強く支持する意見もありました。職域や専門性からのあるべき論だけでなく、利用者の目線からも検証していいってほしい問題と思われます。 ** 介護・福祉ジャーナリスト 川名佐貴子 介護保険の専門新聞、ケアマネ向け月刊紙の編集長を長年務めた。現在、フリーで活動中。介護保険制度の創設前から、介護福祉分野の幅広く取材してきた。

インタビュー
2021年4月13日
2021年4月13日

対話による介入「オープンダイアローグ」とは?

 KAZOCが取り組むオープンダイアローグとは、「開かれた対話」による精神科のクライシス(精神症状の悪化に起因する危機)介入の手法です。「対話」の場を重視することで良好な治療成績をあげています。第3回は、オープンダイアローグの具体的な内容について、渡邊さんに伺いました。 対話を繰り返すリフレクティング・プロセス 渡邊: オープンダイアローグは、フィンランドの西ラップランドという地方にあるケロプダス病院だけで行われている取り組みです。そこが、エビデンスが桁違いの論文を出したことで注目されました。 日本では統合失調症患者への向精神薬の投与率は99%といっても言い過ぎではなく、治療=薬のイメージですが、それがケロプダス病院の論文では投与率25%だというのです。また、統合失調症は国際水準でいうと100人に1~2人は発症すると言われていて、文化的な影響や男女差もないとされていますが、これが一万人に一人という発症率だというのです。ということは、統合失調症の症状が投薬治療をせずに半年以内に症状が消失しているということになる…もう衝撃的でしたね。 ―どのようにして実践していくのでしょうか。 渡邊: オープンダイアローグでは、ファミリーセラピーという構造を取っていて、一対一ではなく、家族の中に支援者が複数名で入っていきます。対話を促進するために必要であれば、親せき、学校の先生、職場など外の人も参加し、リフレクティング・プロセスという方法で対話を繰り返すのが特徴です。 当初は、ファシリテーターを置いて家族に話をさせて、それをマジックミラーの外側から見ている専門家が、家族の問題点を修正するための質問を遠隔でファシリテーターに伝えるという方法でした。しかし、ノルウェーの精神科医トム・アンデルセンが、片方だけが見えていて、もう片方が見えていないのはどうなのかと考えて入れ替えを行うようになりました。 今度は家族の話を元に専門家が話をする場面を、家族が見ることになったわけです。自分たちの会話がどう解釈されているのかを知ることで、何かが変化する、構造が変わるということで実践と研究が進み、そこで起きているのは対話が促進されるということであるということがわかりました。 次に、対話であればもっとフランクなほうがいいとマジックミラーがなくなり、ただの日常会話の中で時折、専門家同士がパッと向き合って専門的な話をして、また元に戻るようなやり方になっていきました。 こうした対話の繰り返しが薬以外の治療方法になり、それが統合失調症の発生率を下げているというのです。 ―患者さんと家族が直接話をすると、ケンカも起こりそうですね。 渡邊: ケンカもありますね。だけど、みんなに気づきがあるんですよね。 人と話していることを外的対話、話を聞いて自分の頭で考えることを内的対話とすると、対話が二層構造になっていると考えられます。ファシリテーターは、家族という内側の構造と家族以外の外側の構造を出入りしながら、外的対話と内的対話にアプローチしていく。その時ファシリテーターは家族構造の何かを掴んで出たり入ったりするような…。 これがすごく難しくて、何かとはいったい何なんだ…という話になるんですけど(笑)、論文では「LOVE(愛だ)」と言っているんですよ。愛だと。 困難を抱えている家族の中に入り込むときに持ち込むものが愛だとすると、それは血族や恋愛の愛ではなく、母性の愛でもなく、セクシャルなものでも自己愛でもなさそう…。社会的なもののようですが、日本ではあまりその文化がないのかもしれませんね。 オープンダイアローグの実際 ―実際にどのような会話のやりとりをされていくのでしょうか。 渡邊: 例えば、引きこもりの息子さんがいてお母さんはどうにかしたい、本人はたまに暴力をふるってしまうんだけど、というような状況の場合、まずは二人の話を聞きますが、この時の話は説明なんですね。 僕らがやりたいのは、探索、つまり内的対話に持っていきたいので、それが始まるようにリフレクティングをします。二人の前で専門家の一人が「こんなに長い間、家にいざるを得ない状況だったら、とんでもなく大変な体験だったんじゃないかと思います」などと本人について話をします。もう一人はお母さんにピントをあてて、「息子さんがこういう状況ですごく大変だったと思う…」と話をしたとします。 すると、それを聞いた本人たちの中で、「暴力はまずかったな」とか、「本当に辛かったな」とか、何かしらの気づきが生まれるので、それをすくい取りながらリフレクティングを繰り返すという感じです。 ―繰り返すことで、患者さんや家族はどうなっていきますか。 渡邊: 最初は感情が出てきて早口だったり、ケンカになったりもすることもあります。しかし、対話を進めていくと、お互いに自分で考える内的対話が増えてくるので、最後のほうはアウトプットとしてはゆっくりで、外的対話がスローになります。 オープンダイアローグの勉強をしている人たちの属性によって、いろんな見方もあります。研究領域だと心理分析的なテクニカルな捉え方をするだろうし、僕らのような在宅領域だと生活に密着してくるような捉え方になるだろうし、いろいろな解釈があってまとまっていない。エビデンスとしてはしっかりあるんですけど、説明のつかないところもありますね。 精神科医の斎藤環さんが言っていたんですが、起こってしまったこと、過去はもう変わらない。でもメモリの容量は小さくすることはできると。トラウマ体験は心のメモリをめちゃくちゃ食うけれど、それを語り直すことによって容量に占める割合は小さくなっていく、それが大事なんですよと。 対話とか語りにはそういうところがある気がします。変化ではあるけれど、変容ではないんですね。 ** 株式会社Neighborhood Project 代表取締役 訪問看護ステーションKAZOC 作業療法士・精神保健福祉士 渡邊 乾 都内の精神科病院に就職し、日本の精神科医療の現実を知る。その後、浦河べてるの家、イタリア・トリエステの活動を視て地域支援を志す。2013年に精神科訪問看護ステーションKAZOC(かぞっく)を開設。当事者研究、ハウジングファースト、オープンダイアローグなどの先進的な手法を取り入れ、精神疾患を持った人たちの在宅生活を支援している。

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