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多疾患併存の緩和ケアがよく分かる 開始のタイミングと支援ニーズの理解

多疾患併存の緩和ケアがよく分かる 開始のタイミングと支援ニーズの理解

非がん疾患の患者さんに質の高い緩和ケアを届けるための知識・視点を整理。訪問時のケアの実践につながるヒントをお届けします。今回は、「多疾患併存(multimorbidity、マルチモビディティ)」を取り上げます。東京ふれあい医療生活協同組合 ふれあいファミリークリニックの角允博先生に、多疾患併存に対する緩和ケアにおいて必要とされる支援について解説いただきます。

はじめに

多疾患併存とは、一般的に2つ以上の慢性疾患が1人の患者に並存している状態と定義されます1)。またQOLの低下、死亡率、ポリファーマシー、転倒、入院などのリスク増加との関連が示されており、国際的にも喫緊の課題に挙げられています2)

本稿では、多疾患併存に対する緩和ケアの意義と課題を、「なぜ」「いつ」「どのように」の3つの観点から検討します。

なぜ多疾患併存の緩和ケアが求められるのか

WHOの緩和ケアの定義は「緩和ケアは生命を脅かす病に直面する患者と家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に発見・評価し対応することで苦痛を予防・緩和するアプローチ」とされています 3)

日本ではこれまで緩和ケアはがん中心に発展してきましたが、この定義に照らせば対象はすべての重篤疾患であり、がん以外の慢性疾患にも対応する体制整備が急務とされています。また、これまでは単一疾患に対する緩和ケアが主体でしたが、現在のわが国の超高齢者の多くは認知症や心不全、COPD、脊柱管狭窄症など複数の慢性疾患・障害の連鎖の中で終末期を迎えています。こうした患者群では疾患間の相互作用や医療的介入の複雑化により、身体的・心理社会的苦痛が重層化しています。したがって、疾患単位の管理を超えた緩和ケアが今、求められているのです。

多疾患併存の緩和ケアをいつ提供するのか

多疾患併存の軌跡は一見予測不可能なため、終末期を特定することがしばしば困難です。多疾患併存の中でも、慢性的で治癒不可能な性質を反映している「Advanced multimorbidity」 (高度な多疾患併存)という概念がありますが、近年のレビューでは緩和ケアを必要とする多疾患併存症の患者をどのように認識し、どの時期に緩和ケアを提供することが望ましいかは明らかではありません4)

「サプライズクエスチョン」による特定方法

終末期を迎え、緩和ケアを必要とする可能性のある患者を特定するための方法の1つに、「サプライズクエスチョン」というシンプルな質問法があります。これは、「患者が12ヵ月以内に亡くなっても驚きませんか?」と医師や看護師が自問し「驚かない」と回答することで緩和ケア対象者を同定する方法です。

サプライズクエスチョンを検討したメタアナリシスでは、「驚かない」と回答した場合のその後の死亡率を感度として0.69、「驚く」と回答した場合のその後の死亡率を特異度として0.69であり、中等度の精度を示しました。ただし、セッティング、追跡期間、回答者により、ばらつきがみられました5)

「治療負担」という考え方

また、多疾患併存への緩和ケアの開始は、治療負担の概念から考えることもできます。Mayらは、慢性疾患患者や長期医療を受ける人々にとって、病気そのもの(症状、制約、合併症など)から生じる負担(burden of illness)に加えて、医療制度・治療プロセス・自己管理から生じる「治療負担」(burden of treatment)という別の重みがあると論じ、注意喚起をしています6)

これらの負担に対応する能力はcapabilityと呼ばれ、負担とのバランスが崩れると個々の患者の医療成果が悪化するだけでなく、介護者の負担が増大し、さらに医療サービスの需要とコストが増加する可能性が指摘されています7)。これをふまえ、多疾患併存の各疾患の医療制度・治療プロセス・自己管理が患者や介護者の生活にどのような影響を及ぼしているかを把握し、医療者と生活者である患者の間で調整を行うことが重要です。

この調整は、今まで疾患治癒を目的としていた医療的介入を縮小し、症状緩和や患者家族の生活を配慮したケアにシフトするアプローチです。医療従事者が多疾患併存への治療介入自体が患者にとって生活負担になっていると感じる時こそ、緩和ケアの契機になると考えられます。

多疾患併存に対してどういった緩和ケアを行うか

多疾患併存にどのような緩和ケアを行うかは明らかになっていない点が多いですが、多疾患併存に対する緩和ケアのニーズをまとめた先行文献8)、9)を参考に、どういった緩和ケアが必要かを考察します。

(1)身体的苦痛

多疾患併存の身体的苦痛では、痛みと移動の困難が最も多いといわれています8)。日常臨床でも心不全、腎不全などの内部疾患に伴う疼痛、変形性膝関節症や脊柱管狭窄症などの整形疾患、帯状疱疹後神経痛など多様な痛みを訴える患者に遭遇します。さらに認知機能障害を合併した場合、疼痛の評価は困難となることも多くあります。

症状は疾患間で相互作用を及ぼし、一連の疾患をそれぞれ個別に治療し、他疾患を考慮に入れないことは非効率的で、潜在的に有害であることを考慮する必要があります10)

移動の困難については、介護保険サービスによるリハビリテーションや福祉用具を活用してサポートしているのが現状ですが、「移動が困難であること」それ自体が患者の「苦痛」であることを認識しておく必要があります。これらの身体的苦痛は、後述する心理社会的・スピリチュアルな苦痛と混在し、その表現型として疼痛を訴える場合もあり、解釈には注意を要します。

(2)心理社会的苦痛

Nicholsonらの研究によると、多疾患併存の患者とその介護者は、身体的なニーズには十分に対応されていると考えていた一方で、心理社会的およびスピリチュアルなニーズへのサポートが不足していると認識していました。

心理面では「不幸」「孤独」「不安」「抑うつ」、社会面では「社会的なつながりの維持」「個性とアイデンティティの維持」「介護者への信頼」「家族のサポート」がテーマとして抽出されました8)。心理面は社会面とも密接に関係し、患者本人だけでなく、対応する家族や介護者への教育的サポートも必要であると示されています。

社会的なつながりの維持については、患者と介護者の双方において指摘されています。患者自身も機能の低下によって社会と断絶されることは容易に想像されますが、介護者もまたフルタイムの介護を提供することで、社会的接触が減少し、友人、隣人、地域社会からの孤立感を訴えます。

実臨床において、介護者が患者に信頼され、家族がサポートできる体制をとれているケースがすべてではありません。その結果、患者家族は施設入所を選びますが、介護施設で問題になるのが多数の入居者の中で個性とアイデンティティを維持することです8)。こういった社会的苦痛に現行の介護保険制度の枠組みだけで対応していくことは困難であり、介護施設を含め、介護を社会にひらいていく上での新たな取り組みも必要であると考えられます。

(3)スピリチュアルペイン

さらに、Nicholsonらによる研究では、多疾患併存のスピリチュアルに対するニーズは、「意味と目的」「悲しみと喪失」「宗教性および宗教的嗜好」「現在をよく生きること」の4つのテーマに分類されています8)。がん患者において、時間存在である人間は、過去から将来をつなぐ時間の中で現在を生きていますが、罹患し将来がみえなくなることで現在の生に意味や存在が成立しなくなるといわれています11)。この時間存在の概念は、「意味と目的」や「現在をよく生きること」といったニーズに関連します。

多疾患併存の高齢者は、長期にわたる臨床経過の中で、こうした実存的な課題に直面しているのです。時にそれはスピリチュアルペインほど強くない訴えで、身体的・心理社会的苦痛と混在して表出されるため、これを識別・認識するのがしばしば困難になります。

臨床では、「もう生きていてもしょうがない」「早く迎えが来ないかな」「迷惑ばかりかけている」といった言葉を耳にすることも少なくありません。ここではそれをメッセージとして受け取り、言語化し、それを相手に返していく作業が大切です。元来、スピリチュアルペインの概念はがん領域で問題になることが多くありましたが、訪問看護を含めた在宅医療従事者はこの問題に今後、普遍的に取り組む必要があると考えます。

まとめ

本稿では、多疾患併存に対する緩和ケアの必要性、導入時期、提供方法について検討しました。多疾患併存の緩和ケアは、緩和ケア領域のみならず在宅医療やプライマリケアの現場でも喫緊の課題です。今後、臨床実践と研究の両面から、患者の多層的な苦痛を的確に理解し支える枠組みの構築が期待されます。

本文で使用した略語一覧(本文登場順)
QOL:quality of life(生活の質)
WHO:world health organization(世界保健機関)
COPD:chronic obstructive pulmonary disease(慢性閉塞性肺疾患)


執筆:角 允博
東京ふれあい医療生活協同組合 ふれあいファミリークリニック
 
東京都足立区小台宮城で家庭医・在宅医として外来、在宅を通じプライマリケアに従事。多疾患併存における臨床的複雑性と意思決定にチームで取り組んでいる。
 
編集:株式会社照林社

【参考文献】

1)Valderas JM,Starfield B,Salisbury C,et al.:Defining comorbidity:implications for understanding health and health services.Ann Fam Med 2009;7(4):357-363.
2)Multimorbidity:clinical assessment and management.NICE guideline,2016.
https://www.nice.org.uk/guidance/ng56
2026/8/10閲覧
3)日本ホスピス緩和ケア協会:WHO(世界保健機関)の緩和ケアの定義(2002年)
https://www.hpcj.org/info/history.html
2026/8/10閲覧
4)Bowers SP,Black P,McCheyne L,et al.:Descriptions of advanced multimorbidity:A scoping review with content analysis.J Multimorb Comorb 2025;15:26335565251326309.
5)Gupta A,Burgess R,Drozd M,et al.:The Surprise Question and clinician-predicted prognosis:systematic review and meta-analysis.BMJ Support Palliat Care 2024;15(1):12-35.
6)May CR,Eton DT,Boehmer K,et al.:Rethinking the patient:using Burden of Treatment Theory to understand the changing dynamics of illness.BMC Health Serv Res 2014;14:281.
7)May C,Montori VM,Mair FS:We need minimally disruptive medicine.BMJ 2009;339:b2803.
8)Nicholson CJ,Combes S,Mold F,et al.:Addressing inequity in palliative care provision for older people living with multimorbidity.Perspectives of community-dwelling older people on their palliative care needs:A scoping review.Palliat Med 2023;37(4):475-497.
9)Llop-Medina L,Fu Y,Garcés-Ferrer,et al.:Palliative Care in Older People with Multimorbidities:A Scoping Review on the Palliative Care Needs of Patients,Carers,and Health Professionals.Int J Environ Res Public Health 2022;19(6):3195.
10)Hourican C,Peeters G,Melis R,et al.:Understanding multimorbidity requires sign-disease networks and higher-order interactions,a perspective.Front Syst Biol 2023;3:1155599.
11)村田久行:終末期がん患者のスピリチュアルペインとそのケア.日ペインクリニック会誌 2011;18(1):1–8.

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