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初回訪問から始まる臨死期の意思決定支援 訪問看護師の役割とは

初回訪問から始まる臨死期の意思決定支援 訪問看護師の役割とは

在宅医療の第一線で活躍されている、すぎもと在宅医療クリニックの杉本由佳先生に解説していただき、臨死期における訪問看護師の役割を深く掘り下げていきます。今回は、信頼関係構築の起点となる初回訪問での状態把握のポイント、そして利用者さん・ご家族の意思決定支援に求められる実践的なかかわりについてお届けします。

「自宅で最期まで」を支えるために

すべての人はいつか死を迎えます。その場所は病院、自宅、施設、ホスピスなどさまざまです。近年では、在宅医や訪問看護師、ケアマネジャー、ヘルパーなど多職種や社会資源を活用することで、自宅で最期を迎えることも可能になってきました。

しかし一方で、在宅療養には課題も多くあります。独居や老々介護、認知症の増加に加え、経済的困窮者の増加により、在宅療養が困難になるケースも少なくありません。

これらの課題を克服し、自宅で利用者さんを最期まで支えるためには、各職種の密な連携が不可欠です。また、それぞれのメンバーに、病態を正しく判断する能力と対応力、そして継続的なスキルアップが求められます。特に訪問看護師には多くの役割が期待されているといえるでしょう。

その役割を具体的に考える上で、まず注目したいのが初回訪問です。訪問看護師の皆さんに意識していただきたい視点とかかわりについて解説していきます。

初回訪問は状態把握と信頼関係構築の起点

病院からの事前情報を基に訪問する場合や、在宅医・利用者さん本人からの直接依頼で訪問する場合などがあります。いずれにおいても、初回訪問時は「初めまして」と挨拶をし、利用者さんとの最初の会話に注意を払いましょう。

この初対面の印象は重要です。「予想より元気そうな様子」「かなり厳しい状況かもしれない」といった直感的な判断材料となります。まずは意識状態、表情、体形、栄養状態、脱水の有無、浮腫・黄疸・貧血の兆候、皮膚の衛生状態、呼吸状態などの確認を行い、利用者さんの状態を大まかに把握しましょう。その後、腹水・胸水・腫瘤の触知、バイタルサインの測定、排尿・排便などの確認を通じて、病状をより詳しく推測していきます。(図1)

図1 初回訪問時に確認すること

初回訪問時に確認すること
これらの項目を確認し、利用者さんの状態を慎重に見きわめる。

そして、どのような治療やケアを施しても生命的に厳しい状況なのか、あるいは痛み・呼吸困難・栄養状態などに対応することで改善の可能性があるのかを慎重かつ敏速に判断する必要があります。また、病院からの情報よりも病状が悪化しているのかも見きわめます。

特に病状が急速に悪化していると感じた場合は、初回訪問時に十分な時間をかけて本人やご家族と密にコミュニケーションを取り、信頼関係を速やかに構築し、意思決定支援を行うことが重要です。

意思決定支援をするために

1)本人やご家族の病状認識の確認

特に厳しい状況にある利用者さんの場合、初回訪問時には在宅医と訪問看護師が同席することが望ましいです。病院で病気の進行や予後についてどの程度説明がされているかを確認し、同時に利用者さん本人やご家族がそれをどのように受け止めているかを推測します。

例えば、家族やご本人が以下のようにおっしゃる場面にしばしば遭遇します。
「先生は『まだまだ大丈夫』と言っていたけれど、食事量が減ってきていて、元気がなくなってきているので心配だ」
「先生は『厳しい状態で、週単位です』と言われたけれど、私はどこも悪くなく健康そのものだと感じている」

医師の診断と利用者さんやご家族の認識にズレがある場合、または病院と在宅の医師の見立てに相違がある場合には、速やかに調整を行わないと、自宅での治療に遅れが生じてしまうことがあります。さらに、理解や心の準備が不完全であった場合には、「なぜこんなに急に亡くなってしまったのか?」と死亡後のご家族の喪失感が深まってしまう可能性もあります。

正確な情報を共有し、利用者さんとご家族の気持ちを尊重しながら、適切な意思決定を支援することが大切です。

2)性格や家庭環境を把握

以下の要素を確認し、現在の状況に応じて安全に行える治療・ケアを選択して提案します。

・ 独居の有無、ご家族間の関係性(親密度・距離感)
・ 本人および介護者(キーパーソン)の認知機能や体力レベル
・嗜好や衛生環境(生活環境、介護スペース、ライフラインなど)
・食生活、経済状況(医療・介護保険の負担割合など)

利用者さんの理解力が低い場合や病識がない、または否認している場合や認知症の独居などでは在宅療養が困難となることがあります。そのようなケースでは、経済状況や医療依存度に見合った施設の検討も必要です。

3)病状の説明、理解の確認

在宅医の説明を念頭に置きながら、利用者さんの環境や能力、体調を考慮し、理解しやすいように分かりやすく説明をしましょう。落ち着いた雰囲気で、ゆっくりと伝えることが重要です。

例えば、「もともとは〇〇癌ですが、現在は肺への転移が主な症状の悪化要因となっています。さらに、肝臓にも腫瘍がありますが、これによる痛みは今後もほとんどないと思われます」といった説明です。

在宅医の説明が利用者さんやご家族に十分に伝わっていないと判断した場合は、訪問看護師がより分かりやすい言葉で補足説明を行うとよいでしょう。理解の確認は何度か繰り返し行い、不明な点を気軽に質問できる環境を整えることが大切です。

4)予後予測に基づく症状や対応・治療方法の説明

病状の変化を理解した上で、自宅で可能な治療・ケアを提案しましょう。治療方針を決めるのは在宅医になりますが、利用者さん・ご家族の思いや、看護師の意見も重要です。在宅医に対し、看護師の気持ちや意見をしっかり伝え、議論できるような信頼関係を築くことが理想です。

予測される症状に対して、環境に見合った、適切な対応を伝えることで本人やご家族の不安を軽くすることができます。以下に、症状別・利用者さんへの安心につながる説明の例をご紹介します。ただし、「大丈夫です。治ります」といった過度な期待を持たせる表現は避けるべきでしょう。

表1 症状別・利用者さんへの安心につながる説明の例

痛みの管理
「痛みが出た場合は、適切な痛み止めを使用するので安心してください。近年は改良された薬が多数開発されており、利用者さんに合ったものを選びやすくなっています」
 
呼吸困難への対応
「呼吸が苦しくなった際は、自宅でも酸素を吸うことができます。必要になった場合、すぐに手配できるので心配ありません」
 
栄養補助
「食事が口から摂れなくなる前に、高カロリーの点滴を行うことで、体の負担を軽減できます。また、口から摂取が可能であれば、今はいろいろな病状に対応した補助食品がたくさんあるので、経口補助食品のサンプルをお持ちします。少量でも栄養価が高く、おいしく摂取できます」
 
浮腫・腫れの対応
「むくみや腫れが出た場合は、ステロイドを使用すると症状が軽減することがあります。例えば、顔にできた赤みの強いニキビがステロイド軟膏で改善されるのと同じような効果が期待できます。先生に相談してみましょう」

5)ご家族の受け入れ、心の準備を促すかかわり

病状が進行すると、治療を行っても近い将来に死を迎えることは避けられません。QOL(生活の質)やADL(日常生活動作)をできる限り維持することは可能ですが、永遠の命を保証することはできません。

そのため、死が近づいた際の話をする場合には、自宅での生活を意識した伝え方が望ましいでしょう。例を以下に示します。

「せっかく自宅で療養しているのだから、痛みをなくし、やりたいことをできる限り支援します」
「多少不自由な点があるかもしれませんが、楽しく快適に過ごせるようお手伝いします」
「ギリギリまで自力でトイレに行けるよう福祉用具も駆使しながら支援します」

利用者さんが「今日は一日楽だった」と思える時間を作るために、「私たち医療者が全力で支える」という姿勢が重要です。ていねいな言い回し以上に、気持ちを込めた言葉や態度こそが利用者さんにとって必要なものであるといえます。

しかし、病状の進行や介護の負担により、「家で最期まで過ごす」と決意していた利用者さんやご家族の気持ちが揺れることもあります。病状の変化やご家族の表情に曇りが見えたときには、必ず声をかけ、心の負担を和らげながら治療・ケアの方針を随時見直していくことが大切です。そして、「必ず家で看取らないといけないわけではないですよ。納得できる形を一緒に考えていきましょう」と、柔軟な選択肢があることを伝えることも必要です。

利用者さんとご家族が愛情に満ちた濃密な時間を過ごせるよう支援し、利用者さんとご家族、そして医療者との間に信頼関係を築けるようにすることが何より大切です。どこで誰とどのように生活し、最期を迎えたいのかを何度も話し合い、調整を重ねる過程こそが大切な思い出となるでしょう。

執筆:杉本 由佳
すぎもと在宅医療クリニック 院長
 執筆:杉本 由佳
1995年名古屋市千種区にすぎもと在宅医療クリニック開業。
在宅栄養管理、緩和医療が専門分野。
 
所属学会
日本在宅医療連合学会(専門医・指導医・評議員・特任理事)
日本緩和医療学会(認定研修施設 認定医)
日本栄養治療学会(認定医)
 
その他、活動実績
● 日本在宅医療連合学会「がん疾患の在宅医療人材育成講座」執筆
● 原著論文「在宅静脈栄養における脂肪乳剤の使用状況と問題点 」
Medical Nutritionist of PEN Leaders Vol.2 No.1 2018 に掲載
 
編集:株式会社照林社
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