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認知症の学び直し
認知症の学び直し
特集
2023年5月30日
2023年5月30日

【在宅医が解説】「認知症」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回のテーマは認知症。訪問看護師に求められる知識や注意点を、在宅医療の視点から解説します。 はじめに 日本における65歳以上の認知症有病率は、2045年には25%以上になると予測されています1)。何と4人に1人が認知症。私たち医療従事者は、認知症と上手に付き合ってゆく術を身に着けることが必須です。 ここでは、 ・「認知症じゃないか」と相談されたらどうするか?・ 認知症の鑑別・ 認知症を疑ったときにすべきこと・ 認知症を悪化させないために について順に解説します。 「認知症じゃないかしら?」と相談されたら 認知症とは「いったん正常に発達した記憶・思考などの知的機能が低下し、6ヵ月以上にわたって日常生活に支障をきたしている状態」とされます。 ご高齢の患者さんやご家族から「物忘れがひどくなってきた。ボケてきちゃったのかしら?」といったご相談を受けることは、みなさん多いのではないでしょうか。 判断のポイントは「日常生活への支障があるか否か」です。たとえば、物の名前がなかなか出てこないようなことは、ある程度の年齢になれば高頻度で起こります。正常な老化の範疇かもしれないし、これから症状が進んでいくかもしれません(いわゆるMCI)。認知症の初期の段階では、今後どうなるか予測するのはきわめて困難なのです。 したがって、日常生活に支障が出ていないようなら、「もう少し様子をみましょう」でいいです。もちろん、ご本人・ご家族がご心配されるなら、認知症専門外来の受診をおすすめするのもありです。 一方、外出したら家に帰れない、食事をしたことをすぐ忘れる、これまでできていた家事ができなくなるなど、日常生活に明らかに支障を生じている場合は、すぐに専門医につなぎましょう。 認知症の鑑別 多い順から、下記の4つを考えればいいでしょう。 注意するのは、必ずしも典型的な症状が出るわけではないこと、認知症以外の疾患の可能性もあることです。もともとの知的水準や気質、性格、生活環境などによる個人差も大きいでしょう。安易に結論を出さず、一人ひとりの患者さんと向き合っていくことが大事です。 認知症を疑ったときにすべきこと (1)認知症以外の可能性を見逃さない 本当に認知症なのか、他の病気が隠れていないか、という意識を常に持ってください。それが患者さんを救うことにつながります。鑑別すべき代表的な疾患を挙げます。 ■せん妄状態高齢者の場合、特にADLが低下している方や軽度でも認知症を発症している方は、入院中に高頻度でせん妄状態となります。短期間(目安として2週間以内)の入院なら、退院していつもの生活に戻れば、すぐ(筆者の経験では1週間以内に)治ります。 問題は、鎮静薬を投与され、入院が長期間になってしまった場合です。鎮静による意識レベル低下や活動性低下、副作用による運動障害等が相まって、寝たきり、ADL全介助、廃用性運動機能低下、四肢拘縮著明、という状態までなってしまうと、退院後に元のADLに戻すのは非常に難しくなります。 ご高齢の方を入院させる場合、できるだけ短い入院期間でお願いしましょう。場合によっては入院治療をあきらめる選択もあると思います。 ■うつ病うつ病は、わかりやすく言うと「脳と心のエネルギーの電池が切れそうな状態」。意欲が低下し気分が沈み、はたからみると無表情でぼーっと無為に過ごしているように見えます。精神活動全般が低下しますから、判断力、記憶力などにも支障が出ます。 うつ病は薬でコントロールできる病気なので、見逃してはいけません。 思いあたる節があれば、受診する際にしっかり情報提供してください。 ■内科的疾患これは見逃してはなりません。代表的なものを順に挙げます。 甲状腺機能低下症血液検査で診断でき、ホルモン補充療法をすれば劇的に症状が改善します。身体的な症状は、脱毛、皮膚の乾燥、徐脈、心不全症状、粘液水腫(non-pitting edema)等です。 ビタミンB12欠乏症普通の食事をしていればビタミンB12が欠乏することはまずありませんが、菜食主義者、萎縮性胃炎や胃切除後で消化管吸収障害がある方は、調べたほうがいいです。認知症以外に、巨赤芽球性貧血や亜急性脊髄連合変性症が合併する場合があります。前者は採血でわかり、後者は知覚障害と運動障害(深部感覚障害により失調様の歩行となる)が出ます。これもビタミンB12補充により劇的に改善します。 心不全、腎不全、電解質異常、消耗性疾患、悪性腫瘍による悪液質など当たり前のことですが、こうした疾患・異常を抱えていると頭も普段どおりに働きません。「ボケたんじゃないか?」と相談を受けたら、これらの可能性も考慮して丁寧に聴取してください。看護師の皆さんのアドバイスや情報提供で、隠れていた内科的疾患に医師が気づくかもしれないのです。 (2)治る可能性のある認知症を見逃さない ■慢性硬膜下血腫比較的軽微な頭部外傷(転倒して頭部を打撲した、といった程度の)の2週間~3ヵ月ほどの時期に発症するとされます。ケガを気にとめていない、忘れていることも多々あります。 血腫の部位や脳圧迫の程度により症状はさまざまです。 頭部CT検査で診断でき、血腫除去術で治療が可能ですので、早めに診断することが大事です。 ■正常圧水頭症髄液が増加し、脳室が拡大して脳実質が圧迫されることにより、神経障害が出ます。 正常圧水頭症も頭部CT検査で診断でき、シャント造設で症状改善します。 ■脳主幹動脈狭窄症脳梗塞に至っていなくても、広範な脳虚血により認知機能に影響が出る可能性があります。脳の虚血部位によって、症状は多様です。 認知症を悪化させないために 難聴や視覚障害などがあると、外部からの刺激が乏しくなりコミュニケーションにも支障が出るので、認知症が悪化しやすいです。「社会的孤立」も認知症を悪化させます。 「社会的孤立」については、現場の努力だけではなく、認知症と共生できるコミュニティづくりが必要です。私たち現場の医療者が「認知症でも生きていきやすい環境づくり」を考え、提唱していかなければなりませんね。 執筆:佐藤 志津子医療法人社団緑の森 理事長さくらクリニック練馬 院長編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)Nakahori,N.et al.Future projections of the prevalence of dementia in Japan:results from the Toyama Dementia Survey.BMC.geriatrics.21(1),2021,602.doi: 10.1186/s12877-021-02540-z.

漫画「きっかけはポーカー」
漫画「きっかけはポーカー」
特集
2023年5月30日
2023年5月30日

受賞作品漫画「きっかけはポーカー<前編>」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、服部 景子さん(愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう/北海道)の入賞エピソード「きっかけはポーカー」の漫画をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!【みんなの訪問看護アワード】 きっかけはポーカー<前編> >>後編は5月31日公開予定!受賞作品漫画「きっかけはポーカー<後編>」【つたえたい訪問看護の話】 漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。 エピソード投稿:服部 景子(はっとり けいこ)愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道) [no_toc]

漫画「きっかけはポーカー」
漫画「きっかけはポーカー」
特集
2023年5月31日
2023年5月31日

受賞作品漫画「きっかけはポーカー<後編>」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、服部 景子さん(愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう/北海道)の入賞エピソード「きっかけはポーカー」をもとにした漫画の後編をお届けします。 「きっかけはポーカー」前回までのあらすじ急遽、利用者の野間さんを担当することになった服部さん。なかなかお風呂介助をさせてもらえず、悩む日々。そんなとき、ふと「トランプでもしませんか」と声をかけてみたら、意外にも「いいよ」とのお返事が…? >>前編はこちら受賞作品漫画「きっかけはポーカー<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 きっかけはポーカー(後編) 漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。 エピソード投稿:服部 景子(はっとり けいこ)愛全会 訪問看護ステーションとよひら・ちゅうおう(北海道)所属事業所の主任から「応募してみない?」との声掛けがあり、軽い気持ちで投稿したエピソードでしたが、入賞したと伺って本当に驚きました。大好きな野間さんとの思い出をつづった「きっかけはポーカー」は、私にとってとても大切なエピソードです。「頭洗ってくれる?」と声をかけていただいた日は、ケアマネジャーさんや事業所の先輩看護師たちも、一緒になって喜んでくれました。野間さんとは、今でも楽しくトランプをしています。読んでくださった皆さまが、少しでも「訪問看護って楽しそうだな」「こういう看護のしかたもあるんだな」と感じていただけたら幸いです。 [no_toc]

ケースメソッドで考える管理業務
ケースメソッドで考える管理業務
特集
2023年6月6日
2023年6月6日

CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか_その3:管理者としてどのような支援ができるか

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第12回は、CASE4「クレームを受けるスタッフをどうするのか」の議論のまとめです。 はじめに 前回(「その2:桐山さんが抱えている問題は何か」参照)は、桐山さんが抱えている問題を、桐山さんの状況と、その状況から生じている課題とに分けることで、管理者として何ができるかを検討しやすくしました。今回は、訪問看護管理者として桐山さんへどのような支援ができるのかをテーマに意見交換を進めます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか 入職3ヵ月になるスタッフナースの桐山さんから、「利用者のJさんから『桐山さんには訪問に来ないでほしい』と言われた」と報告を受けた。 桐山さんは病院で3年、いくつかの介護施設で6年、他社訪問看護で1年の経験のある看護師。とても真面目な性格で、職場で冗談を言うこともなく、むしろ冗談を間に受けてしまう様子がある。何かを伝えると一語一句漏らさずに細かな字でメモをとるが、肝心なときにそのメモがどこにあるのかわからずミスをしてしまうのだ。 当ステーションは、管理者と桐山さんを除くと20歳代の看護師が2人。入職時期は2人のほうが早いが、年齢的にも看護師としての経験年数も桐山さんのほうが上である。ほかのスタッフと軽く雑談をすることも桐山さんには難しいようだ。そして他スタッフからは「桐山さんとは一緒に働きづらい」と相談を受けている。管理者として、どうすればよいだろうか? 設問もしあなたがケースに登場する管理者であれば、桐山さんやほかのスタッフに対してどのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 管理者として桐山さんにどのような支援ができるのか 講師これまでの議論から、中途採用者である桐山さんが抱えている課題が四つ出てきました。桐山さんがこの課題を解決するために、管理者としてどのような支援ができるでしょうか。 Aさん注2桐山さんが持っているスキルや知識を把握した上で、「こういうスキルや知識が必要だ」と伝えることはできると思います。ただこういったことは桐山さんだけに限らず、スタッフそれぞれの性格や技量などを把握しておかないといけませんね。 Bさん「前職で学んだ業務のやりかたではなく、この職場でのやりかたを覚えて実行してください」と言えるのは、やはり管理者だけですよね。 Cさん桐山さんに期待している役割を伝えられるのも管理者だけですよね。それにステーションの評価制度もちゃんと説明しておくべきです。どんなことをすると評価されるのかは、新入職者はわかりませんよ。 Dさん「誰に聞いていいかわからない」ような人脈に関することは、管理者だけが気をつけるだけではダメで、ほかのスタッフとのコミュニケーションも大事ですよね。 話しやすい職場の雰囲気を築くとか、そんな他スタッフへの働きかけも、管理者の役割として必要です。 「モニタリング&リフレクション」と「職場風土の構築」で桐山さんの課題解決を支援する 講師では、これまでの議論を受けて、CASE4のまとめです。 みなさんの意見から、●管理者として桐山さんの置かれている状況を把握する(モニタリング)●職場での仕事が円滑に進むように適切なフィードバックを適宜行う(リフレクション)ができそうだと見えてきました。 このモニタリングとリフレクションは、スキルや知識の獲得を促し、ステーションの評価基準や求められている役割を伝え、今の職場に合った行動を促すために以前の職場でのやりかたを修正することに有効であると思います。 しかし、管理者の直接的な介入のみでは桐山さんを真に支援することができないこともわかりました。他スタッフに働きかけてコミュニケーションをとりやすい職場風土をつくることで、桐山さんのような中途採用者がいち早くステーションに馴染み、本来の力を発揮するような支援が管理者としてできると思います。 DさんすでにSNSをステーションで運用していて、中途入職者には「疑問とかあれば、遠慮なく書き込んでいいんだよ」と伝えているのですが、そんな働きかけでは、もしかして新しい人は入ってきにくいのでしょうか? 講師そうですね、すでにいる人たちが心地よいSNSの場に、新しい人が遠慮なく書き込みをすることは、きわめて難しいと考えておいたほうがよいです。このことを念頭に、SNS上のコミュニケーションを活性化させるための取り組みをいろいろと考えて実行してみてください。 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆:鶴ケ谷 理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇中原淳.『経営学習論』東京,東京大学出版会,2012,155-184.

ニャースペースのつぶやき
ニャースペースのつぶやき
特集
2023年6月6日
2023年6月6日

時間がないときの訪問看護昼食事情…ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

外でお昼を食べるときは、場所探しに一苦労 訪問と訪問の間でステーションに戻る時間がないときは、外でお昼ごはんを食べるしかないにゃ。お店に入る時間もないし、天気が悪いと大変にゃ… 普段はステーションに戻って昼食を食べているけれど、なんらかの事情で「時間がないから外で食べなきゃ」ということもありますよね。車で訪問している場合は車中で簡単な食事ができますが、自転車移動の場合は一苦労…。飲食店に入る時間もなく、コンビニで買ったパンやおにぎりなどを急いで食べる、なんてこともあるのではないでしょうか。訪問看護師さんからは、「コンビニの店先で食べると迷惑になるので、公園や遊歩道にあるベンチを探している」「雨風が強いと場所探しに困る」といった声も聞かれました。 ニャースペース病棟看護経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

家族看護総論【後編】
家族看護総論【後編】
特集
2023年6月6日
2023年6月6日

家族看護 渡辺式家族アセスメント/支援モデルとは【総論 後編】

この連載では、訪問看護ならではの家族看護について「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」を通して考えます。今回は、渡辺先生にこのモデルの特徴や分析プロセスを詳しく解説していただきます。モデルの思考過程をツール化したシートについてもご紹介いただきます。 >>前編はこちら家族看護とは何か、看護職に求められることは【総論 前編】 渡辺式家族アセスメント/支援モデルとは 渡辺式家族アセスメント/支援モデルとは、「援助者が対象者・家族との関わりに困った場面や時期に、いったい何が起こっていたのか、ことの全容を明らかにし、援助の方向性(方策)を導き出すための思考過程」をモデル化したものです。 例えば、「あのお母さん、何度説明しても自己流のケアのやり方を変えてくれない。どうしてなんだろう、困っちゃうな」とか、「本人と家族の思いがズレていて、にっちもさっちもいかない」といったような援助に行き詰まりを感じた場面で効力を発揮します。 モデルの前提にある考え方と特徴 このモデルの前提となっているのはシステム理論、すなわち「ある出来事は、そこに関与する人が互いに影響を及ぼし合って生じる」(循環的因果関係)という考え方です。したがって、「困った」場面を分析する際にも、相手(療養者や家族成員)のことはもちろんですが、自分たち援助者についても客観的に分析します。 家族看護においてもさまざまなモデルが開発されていますが、援助者を分析対象とするのはこのモデルをおいてほかにはなく、大きな特徴といえます。 「人間関係見える化シート®」 渡辺式家族アセスメント/支援モデルでは、その思考過程をツール化したシート(渡辺式シート)が開発されています。 このシートはⅠ:事例情報シートⅡ:人間関係見える化シート®Ⅲ:支援方法、実施、評価シートの3つのパートで構成されています。特に、「Ⅱ:人間関係見える化シート」に沿って分析していくと、複雑な問題も整理されて、支援の糸口を見出せるでしょう。このシートは思考過程を共有できるため、主にカンファレンスやコンサルテーションで活用されています。 図1に、Ⅱ:人間関係見える化シート®を抜粋し示します。 図1 Ⅱ:人間関係見える化シート® 渡辺式シートは、NPO法人 日本家族関係・人間関係サポート協会のウェブサイトからダウンロードできます。 文脈と関係性を解きほぐす(分析のプロセス) (1)登場人物と看護師の文脈(ストーリー)を考える まずは、「困りごと」「対処」「背景」という3つの視点から、個々の登場人物のストーリーを考えます。 事例として、何度説明しても自己流のやり方を変えようとしない母親と看護師との関わりを考えてみましょう。母親はいったい何に困り、どう対処しているのか、その対象の背景になっているものは何かを、母親の皮膚の内側に入ったようなつもりになって考え、シートに記入します(図2)。 看護師からすれば、望ましいとはいえないケアの方法にこだわる「困った」母親は、「看護師から再三指導されること」に困っていて(困り事)、「自分のやり方に固執する」という対処をとっているのかもしれません(対処)。その背景には、「母親としてのプライド」や「このやり方で大丈夫という自負」、あるいは「このやり方が慣れている」、「そこまで手間はかけられない」という母親なりの判断があるのかもしれません(背景)。 こうして母親になり替わったような気持ちで考えてみると、看護師にとっての「困った母親」は、実は看護師の存在に「困っている母親」でもあるという認識の転換が起こることがあります。 同様に、看護師のストーリーをあらためて考えてみると、「再三指導を繰り返す」という対処の裏側に、「療養者本人を守りたい」、「本人のために母親にはがんばって欲しい」という願いがあります。それと同時に、「あるべき母親に近づいて欲しい」といった願いもあり、母親をコントロールしたくなる気持ちが見え隠れすることもあるでしょう。 相手の、そして看護師自身のストーリーを深く推察することによって、対象を理解し、自分自身へのさまざまな気づきを得ることができます。 図2 文脈(ストーリー)と相互関係 (2)登場人物間の関係性を考える 登場人物と看護師のストーリーを分析した後、次は登場人物間の関係性を考えます。先の例でいえば、母親と看護師の関係性です。 この場合、看護師が再三指導することにより、母親は抵抗し、ますます自分のやり方に固執するという悪循環が生じているといえるでしょう。また、看護師が何とか母親に分かってもらいたいと思うがあまり、母親に向けるパワーが高くなり、母親もそれに負けじとパワーを高めている状態です。両者の心理的な距離は、知らず知らずのうちに近づきすぎており、両者ともに居心地の悪い関係になっていると考えられます。 シートでは、こういったパワーバランスや心理的距離を三角形の高さや楕円の位置によって表します。具体的には、図3に示したとおり、看護師、母親双方のパワーを示す三角形の高さは、適正ラインよりも高くなっていると考えられます。そして、看護師は母親との距離を近づけようと、矢印が示すように母親にパワーを向けています。一方母親は、看護師にこれ以上距離を詰められないように、看護師に対し、負けじとパワーを向けていると考えられます。 図3 パワーバランスと両者の心理的距離 看護師自身の変化も含め支援の方策を考える さて、登場人物と看護師のストーリー、および関係性を考えた後は、支援方策を検討します。すなわち、どうしたらパワーバランスや心理的距離を改善し、悪循環を是正できるのか、そのためには、看護師自身がどう変化すればよいのか、どのように相手に働きかけたらよいのかを考えます。 先の事例であれば、看護師の「再三指導を繰り返す」という対処から、「母親のやり方を(一旦は)認める」という方向に変化するという道が見えてきました。そうすれば、母親の抵抗のパワーは低くなり、母親と話し合える道が開きそうです。母親のプライドや自負を尊重し、安心感を届けることを意識することも大切でしょう。母親と目標を再度共有し、看護師としての判断も示すこと。そして、ともに目標達成のために望ましく、実現可能な方法を試行錯誤しながら見つけていくことが重要だといえます。表1に「支援の方策」をまとめましたのでご参照ください。 表1 支援の方策 ・母親のやり方を一旦は認め、母親のパワーを下げる・母親のプライドや自負を尊重し、安心感を届ける・母親と話し合って目標を共有する・ともに目標達成のために望ましく、実現可能な方法を見つけていく(考える) このように、分析をひとつの仮説とし、支援方策を考えて実施し、その結果を評価し、さらにアセスメントを繰り返していきます。 * 以上が渡辺式家族アセスメント/支援モデルの概要です。次回からは事例編です。実際に援助に行き詰まりを感じた場面を取り上げ、渡辺式家族アセスメント/支援モデルを使って支援の方策を考えていきます。 また、私が理事長を務める「日本家族関係・人間関係サポート協会」では、「渡辺式」家族看護に関する入門から認定インストラクターの養成にいたるまで、各種セミナーを開催しております。 ▼NPO法人 日本家族関係・人間関係サポート協会 各種セミナーのご案内https://famirela.com/seminar お問い合わせは、当協会までお寄せください。 執筆:渡辺 裕子NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会 理事長「渡辺式」家族看護研究会 副代表 ●プロフィール1982年千葉大学大学院看護研究科修了後、市町村保健師として勤務。その後「家族看護研究所」「家族ケア研究所」を立ち上げ、2022年から現職。長年、患者・家族、職場の人間関係に悩む看護職のサポートを行ってきた。 「NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会」では、「ケアが循環する社会の実現」を理念に掲げ、一般市民を対象とした「かぞくのがっこう」のほか、「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」に関する各種セミナーを実施している。 ▶NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会のホームページ※渡辺式シートのダウンロードも可能です。編集:株式会社照林社 【参考】〇渡辺裕子著.「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」,渡辺裕子監修.『家族看護を基盤とした地域・在宅看護論 第6版』,東京,日本看護協会出版会,2022,p.107-119.〇渡辺裕子著,鈴木和子著.「家族看護過程」,鈴木和子,渡辺裕子,佐藤律子著『家族看護学 : 理論と実践 第5版』東京,日本看護協会出版会,2019,p.98-107.〇渡辺裕子著.「人間関係見える化シートのご紹介」コミュニティケア.21(11),2019,p.38-46.〇垣見留美子,株﨑雅子著.「行き詰まりを打開する、渡辺式家族アセスメント/支援モデル」訪問看護と介護.28(2),2023,p.102-108.〇富岡里江著.「療養者への医療提供を拒む家族」訪問看護と介護,28(2),2023,p.110-117.〇茶谷妙子著.「子の障害に戸惑う家族」訪問看護と介護,28(2),2023,p.118-128.〇堤 真紀著.「療養者に対して指示的な家族」訪問看護と介護,28(2),2023,p.130-138.

訪問看護でポータブルエコー活用
訪問看護でポータブルエコー活用
特集
2023年6月13日
2023年6月13日

ケースレポート「訪問看護でポータブルエコー活用し変化したこと」

近年、訪問看護でも活用されるようになったポータブルエコー。直ちに体内を可視化できることで、医師との情報共有がスムーズになり、早期発見や重症化予防も期待されています。また、導尿や摘便など、侵襲性の高い処置を不必要に行うことが減り、適切なケアが提供できると言われています。 今回は、2017年からポータブルエコーを採り入れ、排尿ケアを中心に実践を重ねているLIC訪問看護リハビリステーション所長の黒沢勝彦氏に、導入の経緯や活用の実際について、お話を伺いました。 判断や思考プロセスを助けるポータブルエコー もともと私自身、病院では救急・集中ケアの分野で勤務していたので、日常的に医師がポータブルエコーを使っていました。腹水の有無や心機能など、画像を間近で見ていたので、馴染みの深い医療機器の一つです。また、素早い医療連携につながっていたため、いずれは訪問看護師がポータブルエコーを使えるようになるだろうと、願望のようなものがありました。さまざまな検査や機器が備わっている病院に比べ、在宅では、適切なアセスメントや臨床判断の材料を得られにくい場合があります。しかし、ポータブルエコーによって誰でも簡便に判断でき、思考プロセスを助ける情報を得られないだろうか、という思いから、その必要性を感じるようになりました。 しかし、初期投資や維持費がかかる上、診療報酬や看護ケア制度で報酬が得られないという、コスト面のネックがあり、導入しても使わなければ無駄になってしまう、という葛藤もありました。訪問看護でどう活かすのか、活用方法を明確にした上で1台購入しました。 当ステーションでは、神経難病や、ターミナル期の利用者さんに挿入されている膀胱留置カテーテル閉塞の有無や乏尿・尿閉の判断などでポータブルエコーを活用しています。 ポータブルエコーは訪問看護師の判断を支える 訪問看護のマネジメントでは、訪問看護師の心理的負担への配慮も重要だといわれます。とくに経験の浅い訪問看護師は、1人で判断する怖さがあります。例えば、カテーテル交換や点滴の必要性などの判断、医師への報告、連絡といった部分は確信を持って行えない不安があると思います。従来は経験豊富な先輩看護師が指導・助言するスタイルでした。現在はそれに加え、画像をビジネスチャットツールでほかのスタッフと共有するようになりました。対応の助言を請うようになれば、限定的ではありますが、判断に悩む訪問看護師を孤独にさせない状況が作り出せると思います。 また、サービス資源の多い都市部と、少ない過疎地では、訪問看護師の役割が異なってきます。過疎地は、次の訪問先まで30分~1時間かかり、救急車が入ることすら難しい地域もあり、医療サービス資源が満足に行き届かないという課題があります。過疎地の訪問看護師がエコーを利用することで、遠隔にいる医師やスタッフに画像を共有することができるので、迅速な医療介入が可能に。ICT(情報通信技術)活用が促進されれば、こうした課題の解決にもつながるでしょう。 「エコーは役立つ」という組織風土を創る 当ステーションでは、実施に伴う所要時間や難易度が低いとされる膀胱エコーの習得から始めました。まずはハードルとなるとっつきにくさを払拭し、「ポータブルエコーは役立つ」という文化を創ることを目指しています。そのためには、自分のほかにヘビーユーザーを作り、さらにそのスタッフが違うヘビーユーザーを作っていく流れにすることが大切だと思います。聴診器のように、ポータブルエコーを目的ありきで使えるようになってきたのは大きな変化です。きっかけのひとつとしては、ポータブルエコーの導入研修をしていただいたことが大きいと思います。 しかし、導入研修だけでは使えるようになりません。どうやって実際の利用者さんに使うかを考え、知識を得たり、触れたりすることが重要です。1人で使えるまではOJT(On the Job Training)を丁寧に繰り返し、ポータブルエコーを使用する利用者さんの同行訪問を行いました。ポータブルエコーの使用や画像を一緒に確認し、日々の介入の中で声かけしています。とにかく回数を重ね、エラーも経験しながら習得していく必要があるので、すべてのスタッフが継続して使えるような組織の教育体制が求められます(写真1)。 写真1:定期的にスタッフ間で勉強会。慣れる・使う・共有を繰り返すことが重要(提供:黒沢勝彦氏) エコー導入は組織の目的・理念を踏まえて 機種選びは価格メインではなく、解像度が高いものが推奨されています。解像度の高さは重要ですが、訪問看護ステーション経営の観点からは、低価格のものでないと普及が難しくなると言わざるを得ません。選び方以前に、組織の目的や理念などと照らし合わせ、導入の必要性を吟味することが大事です。例えば、月に1、2回の使用回数の場合、経営上不要だという判断を考えていく必要があるでしょう。私たちももう1台導入を考えていますが、それで本当に役立てられるかと、購入に二の足を踏んでいます。 ほかのスタッフが「もう1台あったらいいよね」と言い始めたり、エコーの明確な使用目的が新たに提案されたりすれば、購入を検討することになります。「とりあえずデバイスがあるから、何かしよう」で、始めると継続が難しくなります。 訪問看護師によるポータブルエコーの使用は、よりよいケアにつなげるためのアセスメントツールであることを伝えていきたいと思います(図1)。 図1:「導入後の3つのポイント」(提供:黒沢勝彦氏) 取材協力・監修:黒沢 勝彦氏(LIC訪問看護リハビリステーション 所長)編集:メディバンクス株式会社

緩和ケア がん疼痛
緩和ケア がん疼痛
特集
2023年6月13日
2023年6月13日

WHOの三段階除痛ラダーと鎮痛薬使用の4原則とは【がん身体症状の緩和ケア】

退院後、痛みがうまくコントロールできていない様子のAさん。処方されている鎮痛薬の種類や量は適切なのでしょうか。また、ほかにできることはないのでしょうか。今回は、鎮痛薬の選択と使用に関する基礎知識を中心に解説していきます。 >>前回の記事はこちらがん疼痛マネジメントの原則-WHOがん疼痛治療ガイドラインとは【がん身体症状の緩和ケア】 WHOの「三段階除痛ラダー」(図1) 「三段階除痛ラダー」とは、軽度の痛みにはオピオイド以外の鎮痛薬を使用し、軽度から中等度の痛みには弱いオピオイドを併用、そして中等度から高度の痛みには強いオピオイドの追加を段階的に行う方法です。つまり、強い痛みには強い薬を使用し、弱い痛みには弱い薬を使用するという考え方です。 2018年に改訂された「WHOがん疼痛治療ガイドライン」からはなくなりましたが、がん疼痛の緩和においてとても重要な考え方だと思いますので解説します。 しばしば、副作用のある強いオピオイドは最後の手段と捉えられ、その前段階の軽い薬で痛みを解決しようとすることが少なくありません。しかし、がん緩和ケアでは、強い痛みであると判断したならば、はじめから強いオピオイドを投与してもよいとされています。むしろ、弱い薬でいつまでも痛みがコントロールできない状態は、患者さんの生活の質(quality of life:QOL)を大きく妨げてしまうと考えられているのです。もちろんNSAIDs(非ステロイド性鎮痛薬)や鎮痛補助薬は併用しても問題ありません。 ラダーそのものが弱い薬からの使用を推奨しているようにも見えるために、ラダーの考えは削除されました。しかし、「強い痛みには強いオピオイドを使用する」という本質はまったく変わっていません。 図1 WHOの三段階除痛ラダー World Health Organization. 『WHO guidelines for the pharmacological and radiotherapeutic management of cancer pain in adults and adolescents』. 2018.を参考に作成 鎮痛薬使用の4原則 「WHOがん疼痛治療ガイドライン」のがん疼痛マネジメントの1つ、「鎮痛薬使用の4原則」も重要ですので確認しておきましょう。 (1)「経口で」 オピオイドには注射を含めてさまざまな投与経路があるなかで、最も簡便で多くの国、多くの場面で利用できる経口投与が推奨されています。例えば消化管閉塞の合併等の事情で経口的にオピオイドが服用できない場合には、経皮投与や持続注射など別の方法を検討します。 (2)「時間を決めて」 時間を決めて鎮痛薬を使用します。WHO方式のがん疼痛治療法が登場する前は、原則として痛みが出てから鎮痛薬を使用していました。ところが、予防的に鎮痛薬を使用すれば、より効果的に痛みを緩和できることが発見されました。痛みが出る前に時間を決めて鎮痛薬を使用する、これは非常に画期的で大変重要な要素です。 (3)「患者ごとに」 患者さんの痛みに応じて、鎮痛薬の投与量や投薬内容を調整します。同じがんといっても病態はさまさまで、治療方法も変わってきます。痛みの感じ方も異なり、副作用の出方もそれぞれです。患者さんごとに評価を行い、投与量や投薬内容を調整します。 (4)「その上で細かい配慮を」 配慮とは、オピオイドの副作用や患者さんの症状や状態に合わせて、オピオイド以外の薬剤の投薬内容を調整することです。例えば、便秘や嘔気の症状があれば、オピオイド誘発性便秘症治療薬や制吐薬などを使用します。骨転移による強い痛みがあれば、ジクロフェナクナトリウムやメフェナム酸などNSAIDsの併用も有効です。時には、ステロイドが症状緩和に役立つケースもあります。一人ひとりの患者さんに応じて、その人が少しでも生活しやすくなるように、投薬内容を細かく調整していきます。 もちろん患者さんとご家族の不安を軽減するために、薬物療法のレジメンについて理解できるよう十分な説明も必要です。 Aさんの投薬内容をどう調整するか ここまで除痛ラダーや鎮痛薬使用の原則について説明してきました。その内容を踏まえて、Aさんの投薬内容の調整について考えてみたいと思います。 ある日、あなたの訪問看護中にAさんは背中の強い痛みを訴えました。指示されていたロキソプロフェンナトリウムを服用してもらいましたが、あまり効果がないようです。10分経ってもAさんはベッドの上でうめき声をあげています。 20分ほど背中をさすっていたら、少し痛みが落ち着いたので、あなたはステーションに戻りました。戻ってすぐに、まずは在宅主治医に今日のAさんの様子を連絡。すると、主治医からすぐにカンファレンス開催の提案がありました。 翌日、訪問看護師であるあなた、薬剤師、ケアマネジャー、在宅主治医がAさんの家に集まりました。 画像素材:PIXTA あなた: 膵臓がんのAさん、痛みが退院したときより強まっているようです。お薬の調整をした方がよいと考え、みなさんにご相談します。ご意見を聞かせてください。 在宅主治医: 膵臓の真ん中に4cmの腫瘍を認め、肝臓に多数の転移が見られます。腹水も少し増えているように思います。痛みが出るのは当然かもしれませんね。オキシコドン徐放性製剤を増量した方がよいと思います。 Aさん: 薬を増やすのは副作用や体に悪い影響があるのではないか心配です。今飲んでいる薬は麻薬と聞いていますので…。大丈夫でしょうか? あなた: Aさん、確かに心配ですよね。お気持ち、よく分かります。今使用している薬は確かに医療用麻薬と呼ばれていますが、この薬は、慢性的な痛みを感じている人が痛みを和らげるために使用する場合、依存症や精神障害にならないことがわかっています。なぜなら、体の中で痛みを感じているときと、感じていないときに使用する場合では別の効き方をするためです(参照:ワンポイントメモ)。そうですよね、先生。 在宅主治医: そのとおりです。今こうして痛みを感じているAさんが服用する量を増やしたとしても、依存症状のご心配はいりませんよ。医療用麻薬には吐き気や便秘などの副作用がありますが、きちんと対策を立てておけば乗り越えることが可能です。その上でAさんが生活しやすいように、痛みや呼吸困難などのつらい症状を最小限度に抑えましょう。少し薬の量を増やしてみるとよりよいと思いますよ。 Aさん: そうなんですね、やめられなくなるのではないかと心配していました。痛みの治療に使用していれば依存症にはならないのですね。 在宅主治医: まずは現在のオキシコドン10mgの量を20mgに増やしてみましょう。30~40mgが目標です。痛みが残るのであれば、また少しずつ増やしていきます。 薬剤師: Aさん、便秘気味ではないですか? Aさん: そういえば、退院してからまだ一度も便が出ていません。 薬剤師: それならオピオイド誘発性便秘症治療薬であるナルデメジンを併用するのはいかがでしょう。 在宅主治医: 確かにそれはよいアイデアですね。オピオイドを服用していると便秘は必ず発生しますので、ぜひ使用しましょう。それと、吐き気止めもあった方がよいと思います。 * カンファレンスはまだ続きます。この続きは次回に。 >>次回の記事はこちらオピオイドスイッチングとタイトレーションとは【がん身体症状の緩和ケア】 【ワンポイントメモ】 なぜ医療用麻薬は依存症にならない?痛みのない人が医療用麻薬を服用すると、脳からはドーパミンと呼ばれる物質が放出され、興奮状態となり快楽を感じます。このドーパミンが放出されている状態が繰り返されると、依存症になるといわれています。しかし、痛みのある人が医療用麻薬を服用しても、すでに脳内には疼痛を抑制する物質、すなわち内因性オピオイドが放出されており、ドーパミンの放出は起こりません。このため、がん性疼痛を訴える人が医療用麻薬を服用しても依存症にはならないのです。 執筆:鈴木 央鈴木内科医院 院長 ●プロフィール1987年 昭和大学医学部卒業1999年 鈴木内科医院 副院長2015年 鈴木内科医院 院長 鈴木内科医院前院長 鈴木荘一が日本に紹介したホスピス・ケアの概念を引き継ぎ在宅ケアを行っている。 編集:株式会社照林社

うつ病の学び直し
うつ病の学び直し
特集
2023年6月20日
2023年6月20日

【在宅医が解説】「うつ病」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を解説します。今回はうつ病とうつ症状について、在宅でよくみられる症状を中心に、訪問看護師が知っておきたいことを在宅医療の視点で紹介します。 はじめに 「うつ病」という病名を聞いたことがない方は、まずいないと思います。どんな症状が出るかというと、 一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめないといった精神症状とともに、眠れない、食欲がない、疲れやすいなどの身体症状が現れる厚生労働省「みんなのメンタルヘルス総合サイト」1) と厚生労働省のウェブサイトに記載されています。ですが、仕事や私生活でつらいことがあったり、あまりに忙しかったりすると、多くの人はこんな気分や体調を経験するのではないでしょうか。その線引きは非常に難しく、精神科の専門医でも診断がつくまで年単位を要することがあります。 私たちが在宅の現場で出会うのは、「大うつ病」と呼ばれるいわば正真正銘のうつ病よりも、内科的疾患に合併するうつ症状や、薬の副作用、心理的な原因があっての抑うつ気分のほうが圧倒的に多いと思います。ここでは、主に後者について解説します。 うつ症状を生じうる疾患がたくさんある 癌、慢性疼痛を伴う疾患、内分泌疾患、冠動脈疾患、糖尿病、脳梗塞後遺症、パーキンソン病等々、うつ症状を呈しうる疾患はたくさんあります。すべてを書ききれませんので、ここでは癌を取り上げたいと思います。 癌患者はうつ病や抑うつ状態になりやすい 癌の患者さんでは、15~40%と高率にうつ病を合併する2)とされています。 癌患者さんは、将来の計画を失ってしまう絶望感、死の恐怖、身体的苦痛への不安、経済的不安等々、非常に強いストレスにさらされますから、抑うつ状態になるのはむしろ通常の反応といえます。さらにわれわれが在宅で出会うのは、積極的治療の適応がなく「死を待つばかり」の患者さんが多いわけですから、身体的にも精神的にもかなり深刻な状況です。 患者さんとご家族に、「抑うつ的になりやすい状況に置かれていること」を理解していただき、共感をもってお付き合いしていきましょう。 信頼できる人に思いを打ち明けることで、気持ちが整理され、落ち着いてくることがあります。家族でも親友でも、主治医でも看護師でも構いません。患者さんが思いの丈を打ち明けられる環境づくりを工夫してください。 「病気についてよくわからない」「これからどうなっていくのかわからないのが不安」という場合は、主治医が病気と予後について丁寧に説明することで、少しずつ気持ちが整理されていきます。 癌終末期のうつ症状への対応 終末期においては、心身に苦痛を与えている症状の緩和(いわゆる緩和ケア)で、うつ症状が軽減することもありますが、難しければ、比較的副作用が軽い抗うつ薬を投与することもあります。 人生最期の大事な時間です。身体症状はもちろんのこと、精神的問題についても極力緩和し、本来のその人らしい時間を過ごしていただくために全力を尽くさなければなりません。看護師の皆さんは、患者さんとご家族のお気持ちを丁寧に拝聴し、主治医につないでください。 高齢者のうつ病の特徴と治療 高齢化が急速に進んでいる現在、高齢者のうつ病には特に注意を払いましょう。さまざまな病気を抱えている上に、加齢による心身の衰えが加わると、うつ病発症リスクは高くなります。さらに、配偶者との死別、経済的不安などの環境要因で、気持ちが落ち込みがちになります。 治療の基本は、高齢者以外でも同様ですが、柱となるのは支持的精神療法です。患者さんの訴えを丁寧に拝聴し、悩みに共感すること。それだけで「癒される」患者さんは少なくありません。看護師の皆さんにはぜひその役割を果たしていただきたいと思います。 不眠、食欲不振などに対して薬物治療を行なうこともありますが、若い方に比べると、高齢者では抗うつ薬の副作用が出やすく、効果も出にくいです。持病の治療薬との組み合わせが悪いと抗うつ薬が使えないこともあります。高齢者では、単一の抗うつ薬をごく少量から使用して様子をみることになります。 薬剤惹起性うつ病を疑うケース うつ症状を起こしやすい薬剤として、古典的にはインターフェロン、ステロイド、レセルピンをはじめとする降圧薬などが知られています。ほかにも、鎮痛薬、抗ヒスタミン薬、高脂血症治療薬など一般的に使われる薬剤でも、頻度は低いですが「抑うつを誘発する可能性」が指摘されているものがたくさんあります。 新しい薬の処方後に患者さんが抑うつ的になった場合、まずは副作用の可能性を疑います。早期発見して薬を中止すれば、抑うつは速やかに改善します。 高齢者の多剤併用には特に注意を 高齢者では特に、薬の副作用について注意が必要です。 高齢者は複数の持病を持ち、そのぶん処方される薬が多くなります。処方が6つ以上に増えると副作用を起こす頻度が増えるといわれていますが、6つどころではなく、特に病気ごとに複数の医療機関に通院している方だと、合計10種類以上の薬を飲んでいる、というケースも少なくありません。 高齢になると薬を分解・代謝する力が低下するため、薬が効きすぎたり副作用が出やすくなったりします。たくさんの薬を服用していると、そのぶん副作用のリスクが高まり、重症化しやすいです。特に起こりやすい副作用として、認知症、せん妄と並んで、うつ症状が挙げられています。 特に、鎮痛薬や睡眠薬、抗不安薬などは、体に蓄積されやすいので注意が必要です。 執筆:佐藤 志津子医療法人社団緑の森 理事長さくらクリニック練馬 院長編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)厚生労働省「みんなのメンタルヘルス総合サイト」https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_depressive.html2023/03/20閲覧2)明智龍男.『がん患者のうつ病・うつ状態』現代医学.69(2),2022,30-5.

漫画「利用者さんは私の先生」
漫画「利用者さんは私の先生」
特集
2023年6月20日
2023年6月20日

受賞作品漫画「利用者さんは私の先生<前編>」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、中島 絵理子さん(一般財団法人同友会 藤沢訪問看護ステーション/神奈川県)の審査員特別賞エピソード「利用者さんは私の先生」の漫画をお届けします。 >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!【みんなの訪問看護アワード】 利用者さんは私の先生<前編> >>後編はこちら受賞作品漫画「利用者さんは私の先生<後編>」【つたえたい訪問看護の話】 漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。 エピソード投稿:中島 絵理子(なかじま えりこ)一般財団法人同友会 藤沢訪問看護ステーション(神奈川県) [no_toc]

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