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ニャースペースのつぶやき
ニャースペースのつぶやき
特集
2023年5月9日
2023年5月9日

利用者さんが一人暮らしで認知症の場合…ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

よかった、今日はセーフ! 認知症の利用者さんは、訪問したときに不在のことがあるにゃ…。無事に会えるとホッとするにゃ 訪問時に利用者さんが不在だったり、ご自宅に入れてもらえなかったりすると、焦ってしまいますよね。特に認知症の利用者さんが一人暮らしをしている場合に、よく聞かれるケースです。安否確認も必要なので、玄関前でしばらく待ったり、探しに出かけたり、ケアマネジャーさんに連絡をとったりすることも。訪問看護師さんからは、「お買い物に出かけているのかなかなかお戻りにならず、結局訪問がキャンセルになったことがある」「お出かけしようとしているタイミングで偶然出会えて、ホッとしたことがある」といった声も聞かれました。 ニャースペース病棟看護経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

家族看護総論【前編】
家族看護総論【前編】
特集
2023年5月9日
2023年5月9日

家族看護とは何か、看護職に求められることは【総論 前編】

この連載では、訪問看護ならではの家族看護について「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」を通して考えます。総論前編となる今回は、このモデルの提唱者である渡辺先生に、そもそも家族看護とは何か、ご家族をケアする上で大切なことを教えていただきます。 「家族看護」を整理しよう 訪問看護師である皆さんは、きっとこれまでにどこかで一度は「家族看護」という言葉を聞いたことがあるでしょう。ただ、「家族看護」と一口にいっても、人によってその捉え方はさまざまです。最初に、家族看護とはいったい何なのかを整理したいと思います。 家族という集団を対象に看護する 「家族看護」の「家族」とは誰のことを指すのでしょうか? 多くの方は、「介護者」を思い浮かべるかもしれません。あるいは、療養者と最も近しい関係にある妻や夫、母親や父親などを挙げる方もいらっしゃるでしょう。 これらはいずれも誰か特定の個人を指していますね。実は、家族看護における「家族」とは、特定の個人を指すのではなく「家族」というひとつの集団を指しています。家族という集団、すなわちひとつのチームを対象とした看護が、家族看護なのです。 例えば、80代の片麻痺のAさんが、夫と2人で暮らす自宅に退院してきたとしましょう。近くに暮らす長女がしばらく通って介護や家事を手伝うことになりました。Aさんと夫、長女のこの3人のチームが、最高のパフォーマンスを発揮してさまざまな困難を乗り切っていけるよう支援することが「家族看護」です。 目的は家族のパフォーマンスを上げること 「チームとしてのパフォーマンスを最大のものにする」これが家族看護の目的です。学問的には、「家族のセルフケア機能を高める」といいます。 介護や病、看取りといった課題をもつチーム(家族)が最大のパフォーマンスを発揮するためには、一人ひとりの健康と日々の生活の質がある程度良好に保持されていることが大切です。そして、メンバー間の関係性も鍵になるでしょう。 例えば、Aさんの自宅での療養を支える訪問看護師は、Aさんの健康状態や生活だけでなく、夫や長女の健康状態や日々の生活にも目配り・気配りを欠かさず、介護役割の獲得に向けた支援を行います。さらに、3人の関係性がより良好であるように、少なくとも介護をめぐる緊張や対立が起こらないようアプローチすることでひとつの家族を看護します。 多様なアプローチを組み合わせ看護する それでは、あらためて家族というチームのパフォーマンスを上げるために必要なアプローチを整理してみましょう。 一人ひとりをターゲットにしたアプローチとしては、まずは挨拶をするところから始まります。挨拶を通して、徐々に顔見知りになり、関係を築きます。次に、労をねぎらい、話に耳を傾け、健康を気遣います。そして、上手な気分転換をすすめ、介護やお世話をしながらもその人らしい生活を送れるように支援します。さらに、病気や障害の理解を促し、この先起こり得ることとそれへの対処の方法を示します。 また、ご本人と家族メンバー間の関係性に働きかけることが必要なケースもあります。その場合、中心になるのは、コミュニケーションを円滑にする支援です。ご本人の思いをご家族に投げかけたり、また逆にご家族の思いをご本人に投げかけたり、あるいは話し合いの場を設けたりすることもあるでしょう。今後の療養や治療の方針に対する合意形成の支援などが含まれます。 加えて、ご家族が、周囲の社会に用意されているサポート資源を活用できるように支援することも家族看護の重要なアプローチです。 このような多様なアプローチを組み合わせながら、ひとつのチームの力を高めていくのです。 家族看護に求められる3つのポイント 最後に、家族看護に求められる3つの大切なポイントをご紹介します。 (1)中立性を保持する 例えば、ご本人の支援に一生懸命になるがあまり、協力的とはいえないご家族に苦手意識を持つことはありませんか? 反対に、ご家族の日々の苦労に深く共感し、家族に無理難題をつきつけるご本人に複雑な思いを抱くことはありませんか?  ひとつのチームを丸ごと支援するためには、誰かだけに深く「肩入れ」するというのではなく、等しくだれにも同じように「肩入れ」することが必要になります。つまり、中立性の保持が重要です。 (2)メタ認知を働かせる もし、家族の中の誰かと関わるのが苦手だと感じたら、ご自分の家族観を振り返ってみるのも役に立つかもしれません。 例えば、「妻というものは夫が病気になったら支えるものだ」という価値観が強いと、そうではない妻に寄り添うことが難しいと感じるでしょう。また、自分の母親が長年介護を続け、その苦労を間近に見てきたとしましょう。すると、訪問先で介護を続ける妻と自分の母親が重なって、妻に深く共感し、中立ではいられなくなるかもしれません。 こうしたことに気づくのは、冷静で客観的な判断をしてくれる「もうひとりの自分」がいればこそです。「もうひとりの自分」が、自分の認知や他者の認知について、考えたり理解したりすることを「メタ認知」といいます。中立性を保持するためには、このメタ認知がひとつの鍵になります。 (3)鳥の目と虫の目を使い分ける 家族というひとつのチームを看護するためには、個々を理解するだけではなく、チーム全体が果たしてうまく機能しているのかを把握することが必要です。「全体を把握する」ためには、まるで悠々と空を飛ぶ鳥のように、一段高いところからひとつの家族を見下ろし全体を把握する、つまり俯瞰するという頭の働きが必要になります。その一方で、療養者のケアをする場合には、物事を微細に診て変化に気づく虫の目が必要です。 療養者を含め、ひとつの家族を看護するためには、この虫の目と鳥の目の両者を適切に使い分けることも大切なポイントといえるでしょう。 >>後編はこちら家族看護 渡辺式家族アセスメント/支援モデルとは【総論 後編】 執筆:渡辺 裕子NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会 理事長「渡辺式」家族看護研究会 副代表 ●プロフィール1982年千葉大学大学院看護研究科修了後、市町村保健師として勤務。その後「家族看護研究所」「家族ケア研究所」を立ち上げ、2022年から現職。長年、患者・家族、職場の人間関係に悩む看護職のサポートを行ってきた。 「NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会」では、「ケアが循環する社会の実現」を理念に掲げ、一般市民を対象とした「かぞくのがっこう」のほか、「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」に関する各種セミナーを実施している。 ▶NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会のホームページ※渡辺式シートのダウンロードも可能です。編集:株式会社照林社 【参考】〇渡辺裕子著.「家族について学ぶ」,渡辺裕子監修.『家族看護を基盤とした地域・在宅看護論 第6版』,東京,日本看護協会出版会,2022,p.42-157.〇鈴木和子著.「家族看護学とは何か」,鈴木和子,渡辺裕子,佐藤律子著『家族看護学 : 理論と実践 第5版』,東京,日本看護協会出版会,2019,p.3-25.〇鈴木和子著.「看護学における家族の理解」,鈴木和子,渡辺裕子,佐藤律子著『家族看護学 : 理論と実践 第5版』,東京,日本看護協会出版会,2019,p.27-60.

訪問看護の褥瘡ケア
訪問看護の褥瘡ケア
特集 会員限定
2023年5月9日
2023年5月9日

写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 褥瘡の評価/セミナーレポート前編

2023年2月10日に開催されたNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「写真事例で解説!訪問看護の褥瘡ケア」。在宅創傷スキンケアステーションの代表で、皮膚・排泄ケア認定看護師でもある岡部美保さんを講師としてお迎えし、褥瘡の評価やケアのポイントについて、実際の事例を交えながら教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、「DESIGN-R2020」(※1)に基づく評価の方法や、注意すべき褥瘡の特徴とケア方法などをご紹介します。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】岡部 美保さん皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表赤十字病院や複数の訪問看護ステーションにて勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマに関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。  「DESIGN-R2020」の評価方法 「DESIGN-R2020」は、病院でも訪問看護の現場でも使用されている、褥瘡状態の評価スケールです。 ▼DESIGN-R2020(一般社団法人日本褥瘡学会)http://www.jspu.org/jpn/member/pdf/design-r2020.pdf 最初は、深さ(Depth)・滲出液(Exudate)・大きさ(Size)・炎症と感染(Inflammation/Infection)・肉芽組織(Granulation)・壊死組織(Necrotic tissue)・ポケット(Pocket)の頭文字をとった「DESIGN」という評価スケールからスタートしました。その後、評価をつけるという意味のレーティング(Rating)の頭文字をとって「DESIGN-R」に進化し、2020年には現在の「DESIGN-R2020」になっています。 「DESIGN-R2020」は、褥瘡の状態を0〜66点で採点する方式で、合計点数が大きいほど重症度が高くなります。また、各項目の文字での評価では、大文字は重症、小文字は軽症という決まりです。 ちなみに、褥瘡を黒色期・黄色期・赤色期・白色期という創面の色で分類(色調分類)する考え方もありますが、これを「DESIGN-R2020」に照らし合わせると上記のようになります。 合計点数を下げていく、そして小文字にしていくことが、「DESIGN-R2020」における基本の考え方です。具体的には壊死組織を除去し、肉芽を増殖させて、創を小さくするという流れで創部の治癒を促していきます。 「DESIGN-R2020」の変更点 「DESIGN-R2020」では、「深さ」と「炎症・感染」の項目がそれぞれ以下のように変更されました。 深部損傷褥瘡(DTI)の追加 深さの項目に、「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」が追加されました。表記は「DDTI」とし、ハイフンをつけてE(滲出液)以降の評点を続けます。(表記例)DDTI-E6s6I3G5N3P6:29点 こちらは、「DESIGN-R2020」の評価(d1~DU)と「NPIAP分類(深達度分類)」をまとめた資料です。「DESIGN-R2020」における「DDTI」は、NPIAP分類では「DTI(SDTI)疑い」にあたります。 では、DTI疑いとは具体的にどのような状態なのでしょうか。DTIは、皮下組織よりも深いところの組織の損傷が疑われる急性期褥瘡のことを指します。深さの項目では、真皮までの損傷なのか、皮下組織より深い損傷なのかを評価しますが、DTIは見ただけでは損傷があるかどうかの判断が困難です。短期間で悪化する褥瘡として注意しておきましょう。 上記のスライドはDTIの例を2つ挙げたもので、左のケースは5日間で、右のケースは10日間で状態が悪化しています。 臨界的定着(3C)の追加 炎症・感染の項目には、大文字のIのところに「臨界的定着疑い(3C)」という基準が追加されました。 3C(臨界的定着疑い)の褥瘡の特徴としては、滲出液が多く、創面がぬめっています。過剰な滲出液の影響により創周囲は浸軟し、肉芽はあるけれど、ぶよぶよとしていて非常に脆弱です。数週間や数ヵ月、何年経っても改善しないという例もあります。 臨界的定着疑いのある褥瘡の感染リスク 臨界的定着(クリティカルコロナイゼーション)の疑いがある褥瘡は、炎症兆候が見られなくても創面には細菌が付着しており、実は感染を起こす一歩手前の危険な状態。一刻も早く改善に向けた対応が必要です。 臨界的定着疑いのある創面は、滲出液が多くなります。過剰な滲出液により創周囲が浸軟すると、褥瘡はさらに治癒が遅延します。また、慢性的な圧迫や摩擦、ずれが加わると、周囲の皮膚が肥厚していきます。そして、創部の辺縁部が内側に巻き込んでしまい、いよいよ治りにくい状態になってしまいます。 創面に存在するバイオフィルム バイオフィルムとは微生物が固着して形成されるコミュニティで、白血球や消毒に対するバリアをつくって、傷を治りにくくします。健常者は細菌に対する抵抗力がありますが、全身状態が低下していたり、低栄養であったりして抵抗力が落ちている利用者さんの場合は、臨界的定着になりやすく、難治性創傷につながるのです。難治性創傷の6〜9割には、このバイオフィルムが存在するといわれています。 感染を起こしている褥瘡のコントロール 感染を起こしている褥瘡は、適切な治療が行われないと、敗血症を引き起こし、死に至る可能性があります。そのため、できるだけ早く感染を抑えることが重要です。 上のスライドの左の傷をご覧ください。このように感染を起こし、また壊死組織で覆われている傷では、皮下組織が傷んで創周囲にポケットを形成している可能性もあります。以下は局所ケアのポイントです。 ・抗菌作用のある薬を使って局所ケアを行う。・創面の密閉をせず、マイクロクライメット(※2)の管理を行う。・圧迫、摩擦、ずれを回避できる超低圧保持のエアマットを使用し、頭側挙上を行っている場合はその時間をきちんと管理をして、体圧分散・除圧を徹底する。・創部は、微温湯(水道水や生理食塩水)で十分な圧力をかけて洗浄する。・創周囲は、皮膚洗浄剤を用いて洗浄し、皮膚に付着した細菌を減少させる。 ※1 DESIGN-Rは、一般社団法人日本褥瘡学会の登録商標です。※2 マイクロクライメット:皮膚局所の温度・湿度 >>後編に続く写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 事例に学ぶ創部の見方/セミナーレポート後編 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

ポータブルエコーの可能性3
ポータブルエコーの可能性3
特集
2023年5月16日
2023年5月16日

ポータブルエコー活用のための技術習得のポイントと利用者さんの利点

訪問看護の現場を支えるアセスメントツールのひとつとして注目されているポータブルエコー。しかし、使い慣れない医療機器に対して、どのように技術を習得し進めていけばよいのでしょうか。また、利用者さんにとっての利点が気になるところです。 今回は、東葛クリニック病院の皮膚・排泄ケア特定認定看護師の浦田克美先生と、臨床検査技師の佐野由美先生にお話を伺いました。 ポータブルエコー技術習得のポイント (1)ハンズオンセミナーや自主練動画を活用 訪問看護師がポータブルエコーを用いることに法律上の問題はありません。医師、看護師、准看護師、臨床検査技師、診療放射線技師が使うことができます。ポータブルエコーは、利用者さんの身体情報をリアルタイムで可視化することができ、かつ非侵襲的な検査であるため、臨床看護における有用性は高いと言われています。 技術習得の場としては、実際に体験することを目的としたハンズオンセミナーが最も習得しやすいでしょう。ポータブルエコーの専門企業が開催する訪問看護師向けセミナーでは、訪問看護師自らポータブルエコーを活用できる症例として、排尿、排便、褥瘡、嚥下、心機能、腹水、胸水、深部静脈血栓症等を挙げています。このように、アセスメントや看護ケアにつなげることを目的として、症例に関する症状の評価や病態の観察を行うセミナーが開催されています。 訪問看護師がポータブルエコーを使う領域は主に褥瘡、膀胱、便が多いと思いますが、始めから利用者さんに使用するのではなく、まずは自分やスタッフの体で練習するとよいでしょう。例えば、自分の上腕動脈を描出し、短軸像と長軸像で撮影しながら練習を重ね、その動画を共有していくことで、最低限のプローブを当てる感覚や画像を見る目が養われていきます。 (2)画像の読み方から段階的に習得する ポータブルエコーの技術習得には段階的なトレーニングが必要です。第1段階は、頭の中で臓器の位置関係や形をイメージできるように、解剖を理解します。第2段階は、エコーの基礎的な知識を学び、撮影断面像を理解する事です。第3段階は、観察したい部位にプローブをあてて、目的の臓器を描出できるように練習を繰り返します。 心電図も同様だと思いますが、平常時をまず知ること、その後に逸脱するものを疑って見てみるのが分かりやすくスムーズでしょう。 利用者さんにとっての利点 (1)利用者さんの心理的負担を軽くする 以前、泌尿器科外来で、「尿が出ない」と話す患者さんにポータブルエコーを当てると、膀胱内の残尿を確認しました。「尿がいっぱいあるので、とりあえず出してみましょう」と看護師が言うと、排尿が見られました。画像を一緒に確認することで、患者さんの気持ちが排尿に向き、看護師が誘導しやすくなる点もポータブルエコーの強みなのかなと思います。 また、便秘の利用者さんをポータブルエコーでアセスメントすることを標榜したことで、サービス契約に繋がり、利用者さんが増えたと事例もお聞きしています。利用者さんやその家族にとっては、ポータブルエコーで専門的に見てもらうことで安心し、結果的に心理的満足度が上がるのかもしれません。利用者さんも便の状態を可視化することで納得されますし、無理な排便ケアを行う必要もなくなります。正確な便秘評価をすることで、自分の便秘としっかり向き合ってくれることに対しても安心されると思います。 (2)利用者さんの生活がスムーズに ポータブルエコーを用いることで、利用者さんが在宅生活のスケジュールを組みやすくなる、という面があります。便秘が気になってしまうあまり、「リハビリに行かない」「お風呂に入らない」という利用者さんは少なくないですよね。その原因のひとつは、外出中や入浴時の失禁に怖さを抱えています。 ポータブルエコーを用いて計画的に排便を促すことができれば、利用者さんも心置きなく外出や入浴ができるのではないでしょうか。ポータブルエコーで便の貯留部位を確認し、下剤を飲む時間を調整したり、可能ならば摘便をしたりします。そうすることで、利用者さんが納得した状況で安心した生活を送ることができるのだと思います。 ポータブルエコー活用のための土台作り 訪問看護師が使用するポータブルエコーは、診断を目的としていません。あくまでもアセスメントツールのひとつであり、医師が診断のために実施するものとは異なります。例えば、在宅利用者さんに何か問題が生じた場合、訪問看護師自らポケットエコーで身体状況を観察し、その情報を素早く医師に情報共有することができると、診療の補助として医師の助けとなるのではないでしょうか。 医師に画像を提示する際にも、「ケアに活かしたい」という看護寄りの視点から提案していくことが良いでしょう。そのためには、日頃からきちんと根拠を調べ、看護ケアにあたることが重要です。医師との関係性の土台ができれば、ポータブルエコーをコミュニケーションツールにできるかと思います。 診療報酬上では、訪問看護師のポータブルエコー使用は加算対象となっていません。しかし、訪問診療では、医師がポータブルエコーを使うと400点算定されます。在宅領域で、医師のポータブルエコー使用が進めば、看護師にタスクシフトされる時代が遠からず来るだろうと予測されます。訪問診療は看護師も同行するので、まずは医師指導のもと実施し、経験を積めると良いでしょう。 取材協力・監修:浦田 克美氏 (皮膚・排泄ケア特定認定看護師)佐野 由美氏 (臨床検査技師) 編集:メディバンクス株式会社 【参考】〇令和2年度診療報酬改定についてhttps://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000590611.pdf(2023年1月現在)

心肺停止時の蘇生の方針
心肺停止時の蘇生の方針
特集
2023年5月16日
2023年5月16日

「救急車は呼ばないで」と言われたら?―多職種連携で適切な対応を

この連載では、訪問看護師のみなさんが現場で遭遇しそうなケースをもとに、利用者さんからの相談内容に関連する法律や制度についてわかりやすく解説します。法律に苦手意識がある方でも自信をもって対応できるよう、役立つ知識をお届けします。今回は利用者さんからDNARの意向が示されたときの対応や、そもそもDNARとは何か、終末期医療、ACPの違いなどについても解説します。 事例 お子さんと同居する利用者Iさん(70代女性)。間質性肺炎を患っており、在宅酸素療法を導入しています。最近は呼吸が苦しそうなときが目立ってきました。 そんな中、訪問看護師のJさんは、Iさんから次のように言われました。「これ以上、みんなの世話になりながら生き続けたいと思えなくなった。そろそろ私も潮時ということだと思う。もし、明日私の呼吸が止まったとして、救急車を呼んで一命をとりとめたとしても、意識がないまま生かされ続けるようなことはごめんだ。だから、呼吸が止まっても、救急車を呼ばないでほしい。そのときが来たら無駄なあがきはせず、死を受け入れたい。」  これまで前向きに在宅での療養生活を送り、芯の強い人と思っていただけに、Iさんの言葉に動揺するJさん。「救急車を呼ばない」とは? もし、自分の目の前でIさんが心肺停止したとき、亡くなっていく様子をただ見ていなければいけないの? それって罪に問われないの? と急に不安が襲ってきました。 追い打ちをかけるように、Iさんの発した次の言葉はJさんの頭を真っ白にさせました。「家族には今の話は言わないでほしい。余計な心配をかけたくないし、このことを知ったら、きっともっと生きてほしいと説得されるだけだから。」 さて、困ったことになりました。同居のお子さんに搬送拒否の希望を知らせないとは……。いざというとき大混乱に陥ってしまうことは明白です。Jさんは一体、どのように対応すればよいでしょうか。 対応例 まずはIさんの話を傾聴し、Iさんがどうしたいのかをよく確認します。その後、ステーションの管理者や同僚に情報共有し、必要時、カンファレンスを行います。そして、IさんがDNARを希望されていることを医師に伝え、インフォームド・コンセント(IC)を行ってもらえるように調整。訪問診療のタイミングでもよいですが、Iさんご本人と医師が話をできる機会をつくります。 また、Iさんが「家族に話したくない」と言う段階では、ご家族には話しません。なぜ話したくないのかを傾聴し、リスクやデメリットを説明しつつ、医師を巻き込みながら、なるべくご本人が自発的にご家族と話すことを選べるように支援することが大切です。 DNARは心肺停止時の蘇生の方針を定めるもの みなさんは、DNARという言葉をご存知でしょうか。これは「Do Not Attempt Resuscitation」の略で、「心肺停止時に、患者本人または家族の希望により、成功する可能性が乏しい状況下での心肺蘇生を行わない」ことを意味します。 まさに今回の事例に合致する場面ですね。まずは「Iさんは、DNARを希望されているのだ」と認識しましょう。 また、Jさんが感じた「もし自分の目の前で心肺停止したとき、亡くなっていく様子をただ見ていなければいけないの? それって罪に問われないの?」という疑問については、まさにその点を関係者間で協議する必要があるわけです。 DNARの場合、基本的には心肺停止状態の利用者さんを発見したら、訪問看護師は主治医に連絡し、指示を待つことになります。その間、少しでも苦痛が取り除かれるよう手を握ったり、背中を擦ったりすることは可能です。 ただし、それを超えて心臓マッサージや人工呼吸といった心肺蘇生措置をしてしまうと、DNARに反することになってしまいます。ご本人の意思に沿った対応をとるためにも、ご本人やご家族の同意書とともに、緊急時の対応マニュアルを文章化しておくとよいでしょう。そして、いつでも誰でもが参照できるよう枕元に備えておくと安心です。 蘇生措置を行わないことが犯罪に相当するかという点については、刑法上「業務上過失致死罪」に当たる可能性はあります。しかし、ご本人の意思であることが確認できれば違法性が阻却され、罪に問われることはありません。 もっとも、最終的にその事実を確認するには、何らかの証拠となるものが必要です。そのためにも、ご本人の同意書を取ることは必須といえます。他に、医療機関を交えたカンファレンスの記録やケアマネジャーの支援経過記録なども証拠になり得ます。 まずは関係者で話し合いの場を設ける 利用者さんからDNARの意向が示されたら、訪問看護師としてどのように対応すればよいでしょうか。 日々のケアの中で、利用者さんからふと気がかりなことや願いなど、何らかの思いが表出されるときがあります。そのようなとき、まずは、ご本人の思いを聴き取る機会と捉えて、傾聴をすることが大切です。そして、対応例のとおり、ステーションの管理者や同僚に報告するとともに、ご家族とご本人、また主治医やケアマネジャー、ヘルパーなども交えて対応を協議することが必要です。 極端な話、出入りするヘルパー1人でもIさんのDNARの希望を知らなければ、そのヘルパーの訪問時に容態が急変することで救急車を呼んでしまい、Iさんの希望が叶えられない…という事態になりかねないからです。これを回避するには、すべての関係者がDNARの事実を把握し、いざというときに適切に対応できなければなりません。 そのため、すべての関係者と情報共有する必要性についてIさんに十分説明した上で、理解を得た後に本格的な協議を開始します。 ACPを行い人生の最期に向けて話し合う このように、ご本人とご家族、医療・ケアチームが、将来の医療およびケアについて、ご本人の価値観や人生の目標などをもとに話し合いを行い、ご本人の意思決定を支援するプロセスをACP、アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)といいます。ACPは別名「人生会議」とも呼ばれ、その人の人生全般について対応を検討することが目的です。 その中でも、今回の事例のように、心肺停止時に限局された場面でどう対応するのか、その方針を決定するのがDNARです。また、人生の終末期に向け、残された時間を平穏に過ごし、身体的・精神的苦痛を取り除くための措置を終末期医療(ターミナルケア)といいます。 DNARも、終末期医療も、看取りも、すべてACPで話し合うべき重要なテーマなのです。 ACPは、人生のどのステージでも始めることができます。病状や療養環境などの変化に応じて、何度も繰り返し実施することが大切です。 ACPについては厚生労働省発出の「人生の最終段階における医療・ケアの 決定プロセスに関するガイドライン」(改訂 平成30年3月)に詳しくまとめられています。在宅や介護の現場でも活用できるように作成されているので、ぜひご参照ください。 「大ごとにしたくない」と言われたら? もし、IさんがACPに対して乗り気でない場合、どうすべきでしょうか。法的な立場からいうと、現状DNARに関して法令による明確な定めはなく、ACPを経ずともDNAR対応することは可能です。 「とにかく大ごとにしたくない。紙に書いておけばいいんでしょ。あなたたちは医療のプロなんだから、なんとかして」とおっしゃった場合はどう対応すべきでしょう。 Iさんの意思尊重の観点からは判断が難しいところですが、ご家族に何も伝えずDNARを進めることは現実的に不可能です。いざとうときにご本人の意に反した結果にならないためにも、ご家族や近しい人たちと十分に話し合っておくことが大切です。 もし、Iさんとご家族の意向が異なったとしても、原理原則論としてはご本人の意向が優先されます。しかし、ご家族に何も伝えずDNARが実行されてしまうと、「これは母の意思ではなかった」と主張され、刑事告訴されてしまうかもしれません。 どうしてもIさんの望みどおりDNARを遂行したいのであれば、極論すると関わる事業所数を減らし、限られたメンバーだけで日々のケアを行っていく必要があるでしょう。いずれにせよ、救命に関することですから最低限、医師は把握する必要があります。 Iさんに対しては「在宅であってもチームケアでなければ利用者さんを支えることはできず、一事業所や一人の医師が単独で決定し、運営できるものではない」ことを繰り返し伝え、話し合いを重ねる他ないかと思います。それでも同意いただけない場合、「うちではDNARの対応はできない」とお断りせざるを得ないでしょう。 DNARを含め、ACPという概念がより世間一般に拡がることが期待されます。 家族の意向よりご本人の意思が優先される法的根拠 先ほど「刑事告訴」と言いましたが、この言葉にどきっとされた方もいらっしゃると思います。訴訟を回避する方法も知っておきたいところです。ご家族の意向よりご本人の意思が優先される法的な根拠を確認しておきましょう。 法的根拠としては、憲法第13条の幸福追求権が挙げられます。当然のことですが、ご本人の人生はご本人が主役であり、ご本人に決定権があるものです。このことは「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」にも明記されています。 ただし、ご本人の判断力が何らかの理由で著しく落ちている場合や、精神的に不安定な状況下では、冷静な判断ができないものとして、ご家族の意向が重要となってきます。先のガイドラインには「家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。」1)と記されています。 ACPの内容は必ず記録しよう いずれにせよ、最終的にものをいうのは「証拠」です。できるだけ多くの場面におけるやり取りの経過を丁寧に記録していくことが大切です。Iさんとの最初のやり取りから医療・ケアチームとの話し合い、ACPでの協議内容など、多職種間での情報共有のためにもACPのプロセスで話し合った内容は必ず記録してください。 また、「言った、言わない」にならないよう、録音することも一法です。DNARという概念はまだまだ未整備の部分が多く、平穏死までもっていくことは実は険しい道のりかもしれません。ですが、いかなる場合でも「同意」と「記録」、そして「連携」の重要性を頭に入れておきましょう。 執筆:外岡 潤介護・福祉系 弁護士法人おかげさま 代表弁護士 ●プロフィール弁護士、ホームヘルパー2級介護・福祉の業界におけるトラブル解決の専門家。介護・福祉の世界をこよなく愛し、現場の調和の空気を護ることを使命とする。著書に『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)他多数。 YouTubeにて「介護弁護士外岡潤の介護トラブル解決チャンネル」を配信中。https://www.youtube.com/user/sotooka 編集:株式会社照林社 【引用】1) 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(改訂 平成30年3月),p.2.https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197701.pdf2023/1/25閲覧 【参考】〇日本集中治療医学会倫理委員会「DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)の考え方」(日集中医誌 2017;24:210-215)〇日本老年医学会 倫理委員会「エンドオブライフに関する小委員会」編「ACP推進に関する提言」,2019.〇AMED 長寿・障害総合研究事業 長寿科学研究開発事業「アドバンス・ケア・プランニング支援ガイド 在宅療養の場で呼吸不全を有する患者さんに対応するために」,2022.

「冷え性なのに・・・」【つたえたい訪問看護の話】
「冷え性なのに・・・」【つたえたい訪問看護の話】
特集
2023年5月16日
2023年5月16日

受賞作品漫画化!「冷え性なのに…」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード2023」で審査員特別賞を受賞したエピソード「冷え性なのに…」の漫画をお届けします。今回は、受賞者ご本人である川上 加奈子さん(よつば訪問看護リハビリステーション/神奈川県)直筆の8コマ漫画です。 >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!【みんなの訪問看護アワード】 「冷え性なのに…」 漫画&エピソード投稿: 川上 加奈子(かわかみ かなこ)看護師/臨床検査技師。よつば訪問看護リハビリステーション(神奈川県) 看護主任。「エキスパートナース」(照林社)、「ナース専科」(エス・エム・エス)、「日経メディカルワークス」(日経BP)、「いつでも元気」(保健医療研究所)等でエッセイ・漫画を連載。Instagramで訪問看護にまつわる漫画を公開中(″grace255474″で検索)2022年に101歳でお亡くなりになられたKさんとは、6年のお付き合いでした。Kさんは「誰にも迷惑をかけずにポックリ逝きたいんです。私があの世に逝くまではどうかよろしくお願いします」と繰り返しおっしゃっていたため、ある日「じゃあポックリ逝けた日にはお仏壇の前で、『良かったですね』と手を合わせますね」と私が返すと、「あら本当に?そうして下さい。約束ね!」と2人で大笑い。その後、約束通り私がKさんを看取り、「良かったですね」と手を合わせたのは言うまでもないことですが、今回素晴らしい賞をいただきましたので、トロフィーを持って改めてご挨拶に行きたいと思っています。在宅の現場ではまだまだ訪問看護師の数が足りません。訪問看護のエピソードが、1人でも多くの皆さまに伝わることを願い、感謝の言葉とさせていただきます。

訪問看護の褥瘡ケア
訪問看護の褥瘡ケア
特集 会員限定
2023年5月16日
2023年5月16日

写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 事例に学ぶ創部の見方/セミナーレポート後編

2023年2月10日に開催されたNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「写真事例で解説!訪問看護の褥瘡ケア」。在宅創傷スキンケアステーションの代表で、皮膚・排泄ケア認定看護師でもある岡部美保さんを講師としてお迎えし、褥瘡の評価やケアのポイントについて、実際の事例を交えながら教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、褥瘡評価スケール「DESIGN-R2020」(※1)を使って実際の褥瘡を評価する、ケーススタディの様子をご紹介します。 >>前編はこちら写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 褥瘡の評価/セミナーレポート前編 【講師】岡部 美保さん皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表赤十字病院や複数の訪問看護ステーションにて勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマに関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。 「DESIGN-R2020」で褥瘡評価 「DESIGN-R2020」での評価方法について学んできたところで、ここからは実際の褥瘡の写真を見ながら、「DESIGN-R2020」を用いて評価してみましょう。 事例1:壊死組織で創底が見えない場合 こちらは、1ケース目の褥瘡です。「DESIGN-R2020」での評価は「DU-e3s8i1G6N6p0:24点」となります。 <基本情報>・褥瘡のサイズは6cm×5.8cmで、ポケットはありません。・褥瘡のケアとしては、1日1回ガーゼの交換を行っています。・ガーゼの約半分が汚染される程度の滲出液が見られます。 褥瘡を見てみると、創部は色が黒くなっており、創周囲の皮膚は赤くなっているので、「DTI(深部損傷褥瘡)ではないか?」と思われるかもしれません。しかし、この褥瘡は壊死組織(黒色部分)が全面を覆っていて、創底が見えない。つまり、壊死組織によって深さの評価ができない褥瘡です。また、創面が壊死組織で覆われていることから、肉芽も上がっていません。 創周囲の皮膚は、先にも触れたとおり赤くなり、炎症を起こしています。現段階では炎症で済んでいますが、今後感染に移行してしまう可能性も十分にあります。こういう場合は、創周囲の皮膚にポケットができていないか、膿が溜まっていないかを必ず確認しましょう。 また、速やかに壊死組織を除去することが重要なポイントです。このケースでは、スルファジアジン銀クリームを使って、壊死組織の自己融解を進めています。そのため、壊死組織の外縁から中心に柔らかい組織に変化していっていることがわかるかと思います。 事例2:DTI(深部損傷褥瘡)疑いの場合 続いて2ケース目の褥瘡。「DESIGN-R2020」での評価は「DDTI-e1S15i1g0n0p0:17点」となります。 <基本情報>・サイズは18.5cm× 10cmで、ポケットはありません。・褥瘡ケアは、1日に1回行われています。・滲出液は少なく、ガーゼにわずかに付着する程度です。 こちらはDTI疑いの褥瘡です。「DESIGN-R2020」では、深さの表記は「DDTI」とします。 DTI疑いの場合の評価のポイントのひとつが、肉芽組織(Granulation)の項目。DTIのときの肉芽組織は、0点(g0と表記)で評価するという決まりです。みなさんが訪問看護の現場でDTIの褥瘡の評価に当たる際、「このあたりはいい肉芽が育っているかもしれない」と感じられることもあるかもしれませんが、「肉芽はまったくできていない」と判定しましょう。 事例3:複数の深刻な褥瘡がある場合 3ケース目は、仙骨部と右坐骨結節部、左坐骨結節部の3ヵ所に褥瘡がある方です。「DESIGN-R2020」での評価は、順番に「D4-E6s9I3cG6n0P6:30点(※2)」「D4-E6s6I3cG6n0P6:27点」「D3-E6s6I3cG6n0P12:33点」となります。 ※2 Dは従来通り合計点数には含まれません。また臨界的定着疑い(「訪問看護の褥瘡ケア 褥瘡の評価 /前編」参照)は3cと記載し点数は3点とします。 <基本情報>・仙骨部にはぬめりがあり、淡黄色の滲出液が多く分泌されています。・右坐骨結節部にはぬめりがあり、淡黄緑色の滲出液が多く分泌されています。・左坐骨結節部にはぬめりがあり、淡黄色〜淡黄緑色の滲出液が多く分泌されています。・栄養状態が低下しており、脱水も確認できます。・頭側挙上をしており、食事にも時間がかかるため、長時間にわたって座位姿勢をとっています。・自力での体位変換はできません。 今回のケースでは、以下のような評価ができるでしょう。 1. 肉芽の状態創面は赤くなっているように見えますが、浮腫性の不良肉芽で覆われています。すべての褥瘡において「良性肉芽が育っていない」と評価します。 2. 肉芽の剥離、段差の有無仙骨部の褥瘡には、肉芽の剥離と段差が見られます。これには、頭側挙上をしていること、座位姿勢をとっている時間が長いことが関係していると考えられるでしょう。ギャッジアップをした際、ずれと圧迫が加わって肉芽が剥がれてしまっています。 さらに、左右の坐骨結節部にも肉芽の剥離がありますね。長時間の座位姿勢をとっているために圧迫され、さらに慢性的な体位のずれも加わって、肉芽が剥離しています。とくに左坐骨結節部は、左側への体幹の傾きを生じているためより強い外力が加わることにより、肉芽は深くまで剥離しています。 3. 滲出液の量3カ所ともぬめりが見られ、多量の滲出液があります。黄緑色の滲出液が出ている部位も確認できました(緑膿菌感染の疑い)。さらに、3ヵ所とも創周囲の皮膚は浸軟しています。これはつまり、臨界的定着疑いの褥瘡であると考えられるでしょう。 4. 巻き込み(エピロール)の有無臨界的定着の疑いがある上に、座位姿勢の時間が長かったり、自身で体位変換ができなかったりして、局所には慢性的に圧迫やずれが加わります。さらに、マイクロクライメット管理も不十分であることから表皮の巻き込みという現象が起こります。これは褥瘡治癒を遅延させるリスクの高い状態といえます。 5. ポケットの有無褥瘡にはポケットも確認できます。体位変換をするときに左右にずれることから、ポケットも左右に広がっています。さらに、ギャッジアップをすることで縦方向にもずれが加わりますから、上部にもポケットが残っています。 複数の褥瘡がある場合も、評価の方法は変わりません。一つひとつの創面を指で触ってぬめりや感触(創周囲がぶよぶよしていないか、膿がたまっていないかなど)を確かめたり、段差や肉芽の剥離がないかをチェックしたり、生活の中で生じている外力(圧迫、摩擦やずれ)がないかを検討したりして、各褥瘡に何が起こっているかを評価してください。 * 褥瘡ケアでは、なにより重要なのは「予防」。一方、すでにできてしまっている褥瘡に対しては「DESIGN-R2020」を使って褥瘡評価を行うことが大切です。創面と創周囲の皮膚に何が起こっているのか、その要因は何なのかについて、局所ケアの状況や生活などから多面的に見極める必要があります。 そして、ご本人や家族と一緒に実践できるケアを考えることが大事です。褥瘡の状態や利用者さんのライフスタイルをふまえ、継続できる最善のケア方法を考えましょう。 ※1 DESIGN-Rは、一般社団法人日本褥瘡学会の登録商標です。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

運営指導(実地指導)体験談
運営指導(実地指導)体験談
特集
2023年5月23日
2023年5月23日

運営指導(実地指導)体験談 大切なのは日々の業務を基本に忠実に行うこと

「運営指導で準備することは何?」「当日はどんなふうに進行するの?」運営指導に関してこんな疑問を抱いている管理者は多いのではないでしょうか。今回は、大阪市住吉区にある医療法人ハートフリーやすらぎの訪問看護ステーション管理者の田端さんに、2022年に受けたばかりという運営指導の体験談を教えていただきました。事前準備のノウハウはもちろん、運営指導を受けて再認識したことなど、盛りだくさんの内容でお届けします。 約2週間前に運営指導の実施通知が届く 介護事業を行っていれば、いつかは必ずやってくる運営指導。わかってはいるものの、いざ実施通知が届くとびっくりするものです。 通知には、「介護保険サービスの質の確保および保険給付の適正化を図ることを目的に、実地指導を実施します」の文言とともに、実施日時や当日訪問予定の大阪市福祉局の担当職員2名の名前に加え、膨大な数の準備書類が記載されていました。 当事業所で実施通知を受け取ったのは、実施日の約2週間前。介護給付費に関する書類も準備しなければなりません。これは大変なことになったぞと思い、急いで準備に取り掛かりました。 書類は独自リストを活用し効率よく準備 運営指導では、介護サービスの実施状況と運営体制の構築について必要書類に基づき確認されます。必要な書類や確認内容はサービス種別によって変わってきます。具体的には、「介護保険施設等運営指導マニュアル(令和4年3月)」の別添資料「確認項目及び確認文書」にまとめられているので、ぜひご覧になってみてください。 今回、準備書類で苦労したのは、サービス提供実施記録や居宅サービス計画書、サービス担当者会議の記録など、サービスに関する書類です。当事業所には約300名の利用者さんがいらっしゃいます。管理者だけでは手に負える数ではないため、主任やスタッフにも協力してもらい、事業所全体で準備を進めました。 運営指導の実施時間は3時間。その時間で全利用者さんの書類が確認されるわけではありませんが、どの書類が選ばれるかは当日にならないとわかりません。どの利用者さんのどの書類が選ばれても問題ないように、全員分のすべての書類をそろえておく必要があります。 スタッフには、確認の抜けや漏れがないように、必要な書類とそれぞれのチェックポイントをまとめたリストを配布しました。例えば、「訪問看護計画書」のチェックポイントは以下のとおりです。 訪問看護計画書 ・利用者さんの氏名、生年月日、要介護度、住所等の基本情報が記入できているか。・目標に、利用者さん、ご家族の希望を取り入れているか。・主治医の指示と相違がないか。・ケアマネジャーが作成するケアプラン(居宅サービス計画書)と相違がないか。・「利用者の状態に変化があった時」、「指示書に変更点があった場合」、「ケアプランに変更があった場合」は、必ず利用者さん、ご家族に説明し、サインをもらっているか。・変更がなくても、最低6ヵ月に1回のタイミングで、利用者さんに説明し、サインをもらっているか。・「衛生材料等が必要な処置の有無」「処置の内容」「衛生材料等」「必要量」の欄について⇒衛生材料等が必要になる処置の有無について○を付けているか。また、衛生材料等が必要になる処置がある場合、「処置の内容」と「衛生材料等」について具体的に記入し、「必要量」については1ヵ月間に必要となる量を記入しているか。・「訪問予定の職種」の欄について、訪問予定の職種とその訪問日について、利用者さんに分かるように記載しているか。・内容がずっと一緒のコピーになっていないか。状態の変化やプラン変更の記載ができているか。・複数名訪問加算を算定している利用者さんの場合、計画書にその理由が記載できているか。・目標の達成状況が記録されているか、その状況に基づき計画を変更修正しているか。 この内容に沿って、受け持ちの利用者さんのカルテを確認してもらいました。 特に注意したのは、介護保険証の有効期間と、サービス担当者会議の記録、居宅サービス計画書、看護計画書がきちんと連動しているかということです。オリジナルの連動チェック表を作成し、各書類を横断的に確認できるようにしました。 報酬請求状況は必ず確認されます! 介護サービスの実施状況と運営体制の確認以外にも、運営指導には大切な目的があります。それは、報酬請求状況の確認です。特に各種加算に関してきちんと算定要件を満たし、適正に介護報酬の請求が行われているかどうかが重点的に確認されます。 そこで、請求状況についても当事業所で算定している加算をリスト化し、それぞれの算定基準から必要な項目を整理しました。このリストに沿って、スタッフに利用者さんのカルテを見直してもらい、準備を進めました。例えば、「ターミナルケア加算」では以下の項目を洗い出してまとめました。 ターミナルケア加算 ・主治医との連携のもと、ターミナルケアに係る計画、支援体制について利用者さん、ご家族に説明を行い、同意を得てターミナルケアを行っているか。・24時間連絡が取れる体制を確保・整備しているか。・ターミナルケアの提供について、利用者さんの身体状況の変化等、必要な事項が適切に記録されているか。・療養や死別に関する利用者さん、ご家族の精神的な状態やその変化、それに対するケアの記録があるか。・利用者さん、ご家族の意向に基づく、アセスメントや対応の記録があるか。 運営指導では請求書を見てカルテを選定 当日は事前通知どおり2名の担当職員が訪問されました。こちらは管理者の私と事務員の2名で対応しました。 簡単な挨拶の後、最初に「請求書を見せてください」と言われました。請求書の確認後、数名の利用者さんの名前がピックアップされ、カルテを見せてほしいと依頼されました。その後、事前に準備した書類とカルテの確認に入られました。 書類確認中はずっと立ち会うわけではなく、通常業務をしていても問題はありませんでしたが、たまに「この書類はどこにありますか?」と聞かれ、対応しました。なお、書類は、一覧表の順番通りに並べ、一覧表と同じ番号を記載した付箋を貼っておきました。担当職員から「〇〇の書類を見せてください」と急に言われても、さっと取り出せたので、これはやってよかった工夫のひとつです。 「口頭指導」を受けました 運営指導の指導方法には、文書指導、口頭指導、助言の3つがあります。今回、当事業所が受けたのは、口頭指導でした。口頭指導は、法令や通知等で規定された事項に違反しているものの、その程度が軽微な場合、または文書指導を行わなくても改善が見込まれる場合に行われます。改善報告が必要なレベルの重大な違反がなくて、本当に安心しました。口頭指導で、いくつか指摘された中から、みなさんの事業所でも参考になりそうなものを紹介します。 運営規定と重要事項説明書との整合性 運営規定と重要事項説明書との記載内容は、同じである必要があります。当事業所では、夏季休暇について運営規程では「8月14日、15日」、重要事項説明書では「盆休み」と記載していたため、この記載を合わせるように指摘を受けました。 勤務表の管理 職種(訪問看護師/理学療法士/作業療法士等)や勤務形態(常勤/非常勤)がわかるように項目を追加し、管理するように指摘を受けました。 加算の算定要件の詳細を再確認 当事業所では、サービス提供体制強化加算を取得しています。この加算では、職員の一定の勤続年数や研修計画に基づく研修の開催、利用者さんに関する留意事項の伝達や技術指導を目的とした会議を実施するといったことが主な算定要件です。 要件はクリアしているものの、スタッフごとに研修を計画し目標がわかるようにしておくことや、職種や勤務形態を問わず、すべてのスタッフが研修を受けられるように計画するよう指摘を受けました。 日々の業務管理こそ運営指導対策の王道 必要書類の準備から当日の指摘事項を振り返ってみて、あらためて感じたのは「基本に忠実に」日々の業務を遂行することの大切さです。法令や条例、規則等を遵守しながら、利用者さんへのサービスの質を確保し、日々着実に仕事をすること、これに勝る運営指導対策はないと思います。 利用者さんの介護保険証の有効期間を確認する、利用者さんの状態が変わったら必ずサービス担当者会議を行って記録を残す、看護計画を更新したら利用者さんにきちんと説明し同意を得てサインをもらう、等々。これらはどれも当たり前のことです。 ただし、どんな仕事でも必ずイレギュラーが発生します。例えば、利用者さんのサインがもらえなかったときにどうするか。重要なのは、そのままで済ませない、イレギュラーのままで終わらせないことです。運営指導の通知が届いてから準備していては、必ず何かが抜けてしまいます。常日頃から、スタッフ一人ひとりが各書類の目的を理解し、きちんと整備できる意識の醸成、しくみづくりが不可欠と感じました。 最後にもう1点、事業所の郵便受けは毎日必ず見るようにしてください。実施通知は郵送で届きます。しかも、いつ届くかわかりません。ポストを確認する習慣がなく、実施当日に通知に気づいた…という笑えない話を聞いたことがあります。みなさん、ぜひご注意ください。 執筆:田端 支普医療法人ハートフリーやすらぎ 訪問看護ステーション 管理者●プロフィール1997年看護学校卒業後、総合病院に8年間勤務。小児科・産婦人科病棟を含む混合病棟を経て、2006年訪問看護ステーション ハートフリーやすらぎに入職。2020年より現職。2012年訪問看護認定看護師資格取得。2019年特定行為研修終了。2021年在宅ケア認定看護師へ移行手続き終了。

ニャースペースのつぶやき
ニャースペースのつぶやき
特集
2023年5月23日
2023年5月23日

アルコール依存症の利用者さんが…ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

いつの間にか増えているお酒たち アルコール依存症の利用者さん。医師から止められているのに、いつの間にか宅配でお酒を注文していることも…。どうしたらいいのかにゃ… インターネットや電話などで、簡単にお酒が注文できてしまう現代。アルコール依存症の利用者さんの場合、禁酒しなければいけないのに、いつの間にかお酒がキッチンのシンク下に…なんてことも。訪問看護師さんからは、「一人暮らしの方でもすぐに自宅から注文できてしまうので、なかなか禁酒できない」「アルコール依存症の方のお酒に限らず、認知症・精神疾患の方もいつの間にかたくさんの買い物をしてしまっていることがある」といった声が聞かれました。 ニャースペース病棟看護経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

がん身体症状の緩和ケア
がん身体症状の緩和ケア
特集
2023年5月23日
2023年5月23日

がん疼痛マネジメントの原則-WHOがん疼痛治療ガイドラインとは【がん身体症状の緩和ケア】

がん患者さんにどのように寄り添い、症状を緩和していくか。痛みの種類について理解したら、次はその痛みをどう緩和していくのか。今回は疼痛緩和法を学ぶ際に必ず必要となる知識を解説していきます。 >>前回の記事はこちらがん疼痛の種類を知ろう【がん身体症状の緩和ケア】 Aさんのこれまでの経緯 膵臓がんのAさん、病院を退院して自宅に帰ってから痛みが強くなってきました。初回訪問時、痛みをアセスメントして、Aさんの痛みには内臓痛、体性痛、神経障害性疼痛が混合している可能性が高いと考えられました。 がん疼痛がコントロールできていないAさんについて>>がん疼痛の種類を知ろう【がん身体症状の緩和ケア】参照 ここでもう一度、Aさんが退院時に処方された薬剤を図1に示します。どのような薬剤がどのくらい処方されているのか、詳しく見ていきましょう。 図1 退院時に処方された薬剤 Aさんにはどのような薬がどのくらい投与されている? Aさんには、オキシコドンというオピオイド(医療用麻薬)が投与されています。問題は、オキシコドンの投与量です。1日量10mg(5mg錠を1日2回服用)という投与量は、投与できる範囲で最小量です。Aさんからは痛みの訴えがあるので、この投与量を増やしていく必要性があるとアセスメントできると思います 緩和ケアに携わる医療者にとって、オピオイドの投与量が多い、少ないというのは、経口モルヒネ量に換算して考えることが多いです。さまざまな医療用麻薬が使えるようになったためです。オピオイドの換算にはある程度の目安が存在します(図2)。この目安をもとにオピオイドの投与量を計算してみると、オキシコドン10mgは経口モルヒネの15mgに相当します。 図2 オピオイド換算の目安 さらに、セレコキシブというNSAIDs(非ステロイド性消炎・鎮痛薬)も処方されています。これは、胃粘膜障害の出現頻度が少ないことが特徴です。さらに、便秘対策として酸化マグネシウムとセンノシドが投与されていますが、Aさんは「この5日ほど排便がない」と話していました。実際、酸化マグネシウムとセンノシドを服用していても便秘になってしまうことは少なくありません。何か対策が必要かもしれません。 また、ラベプラゾールナトリウムという胃酸を抑えて胃粘膜を守る薬も処方されていますが、Aさんに食欲はあまりなく、一日数口程度の摂取量です。Aさんは腹水も指摘されているので、これも食欲不振の原因になり得ます。 以上のことから、投薬内容について医師、薬剤師、ほかの専門職と相談し、痛みや不快な症状がコントロールできるよう、より適切な方法を考えることが必要でしょう。カンファレンスの開催を急いだほうがよさそうですが、その前に、ケアチーム全体でがん疼痛コントロールに取り組むときに必ず知っておいてほしいWHOがん疼痛治療ガイドラインについて最新の知識を交えて説明します。 WHOがん疼痛治療ガイドラインとは 「WHOがん疼痛治療ガイドライン」(WHO Guidelines for the pharmacological and radiotherapeutic management of cancer pain in adults and adolescents)は、世界保健機関(World Health Organization:WHO)から1906年に公表されました。世界各国でがん疼痛治療の基本となっている指針です。 ここで、WHOがん疼痛治療ガイドラインにまとめられている、7つのがん疼痛マネジメントの基本方針を紹介します1)。2018年に改訂されたので、最新の内容を反映させて解説も記載しました。もしかすると、以前勉強された方は少し変わっていると感じるかもしれません。 がん疼痛マネジメント基本方針1) (1)痛みの最適なマネジメントの目標は、許容できるレベルまで痛みを軽減し、生活の質(quality of life:QOL)を維持できるようにすること ■解説当初、がん疼痛は患者の痛みがゼロになるところを目標にするべきであるとの考え方が主流でした。しかし、実際には痛みが完全になくなる人は一部で、多少の痛みが残存するケースが多かったのです。この残存する痛みを取り去ろうとすると、眠気といったオピオイドの副作用が患者さんを逆に苦しめることも少なくありませんでした。このため、今回のような表現となったのです。 (2)患者の全体的な評価が治療の指針となるべきであり、人によって痛みの感じ方や表現のしかたが違うことを理解する ■解説日本人のオピオイド使用量が他の国に比べて少ないことが長らく問題となっていました。しかし、日本人は比較的少ない量で痛みのマネジメントができるケースが多いと感じています。その一方で、痛みに対してトラウマをもち痛みをより感じやすくなってしまう方もいます。痛みの感じ方は人それぞれです。このことを踏まえて痛みのマネジメントを行っていくことが大切です。 (3)患者、介護者、医療従事者、地域社会、社会の安全を確保する ■解説患者に対して使用したオピオイドがほかに流通し、ほかの目的で使用されることや、意図せず子どもが服用してしまうようなリスクをできるだけ避けるべきです。これは処方を行う医師のみならず、薬剤師を含めた地域社会全体で確立すべきことでしょう。 (4)がん疼痛のマネジメント計画には薬物療法が含まれ、心理社会的およびスピリチュアルなケアが含まれることもある ■解説全人的な痛みのマネジメントが必要です。時には福祉との連携が必要になることもあります。スピリチュアルペインへの対応も必須であると考えられますし、心理的な抑うつや病的な不安への対応も重要になると考えられます。 (5)オピオイドを含む鎮痛薬は入手可能かつ安価でなければならない ■解説世界の中では、オピオイドの入手が困難な国がまだまだたくさんあります。そのことを踏まえた上での項目です。 (6)鎮痛薬の投与は「経口で」「時間を決めて」「患者ごとに」「その上で細かい配慮を」 ■解説今回の改訂で除痛ラダーという有名な考え方がガイドラインから外されました。このため、以前は5つの原則と呼ばれていたものが、「ラダーに沿って」という項目がなくなり、4つになっています。痛みが生じる前に定期的にオピオイドを経口服薬し、痛みをできるだけ抑えることが大切です。なお、今までは症状が出てから薬を使うことが一般的でしたので、痛みが出る前に薬を使う考え方は当時革新的でした。 (7)がん疼痛マネジメントはがん治療の一部として統合されるべきである ■解説今でも緩和ケアはがん治療が終了したときに行われるものという理解が日本でもあるように感じることがあります。そうではなく、がん疼痛マネジメントはがん治療の一部として、がんと診断された後、いつでも提供できるものと指摘しています。 >>次回の記事はこちらWHOの三段階除痛ラダーと鎮痛薬使用の4原則とは【がん身体症状の緩和ケア】 執筆:鈴木 央鈴木内科医院 院長 ●プロフィール1987年 昭和大学医学部卒業1999年 鈴木内科医院 副院長2015年 鈴木内科医院 院長 鈴木内科医院前院長 鈴木荘一が日本に紹介したホスピス・ケアの概念を引き継ぎ、在宅ケアを行っている。 編集:株式会社照林社 【 1),(1)~(7)の引用】○World Health Organization. 『WHO guidelines for the pharmacological and radiotherapeutic management of cancer pain in adults and adolescents』. 2018, p.21-24.(筆者翻訳)

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