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ピラティス×訪問看護
ピラティス×訪問看護
インタビュー
2023年3月22日
2023年3月22日

【ピラティス×訪問看護】病棟看護師から訪問看護師へ転職したきっかけ

全国の主要都市に100店舗以上のピラティス・ヨガスタジオを運営する株式会社ZEN PLACE。実はそのピラティスのノウハウを、在宅医療へ導入していることを皆さんはご存じでしょうか? 今回は、自身もピラティスに魅了され、ZEN PLACE訪問看護で勤めることになった看護師の日高さんに、ピラティスの魅力やZEN PLACE入職のきっかけなどを伺いました。 日高 優(ひだか ゆう)2008年より急性期病院での看護師(ICUや救急外来など)を経て、2020年よりZEN PLACE訪問看護ステーションにて勤務。病院勤務時代にピラティスのインストラクターコースを修了。カウンセリング技術を学び、SNSを通して看護師に自分と向き合うことの大切さを発信している。ZEN PLACE訪問看護心身ケアと未病のリーディングカンパニーであるZEN PLACEが運営する訪問看護ステーション。ピラティスの技術を医療や介護の場に用い、働くスタッフから利用者様すべての人が心身ともに健康で豊かな人生が歩めることを目指している。「したい看護をするのではなく利用者様とご家族が望む生活のサポートをすること」がモットー。 ピラティスを追いかけて訪問看護の道へ ―病棟勤務時代にピラティスにご興味を持たれたようですが、きっかけを教えてください。 私は元々ダンスが好きで、病棟看護師をしながらジャズダンスのインストラクターをしていました。当時、看護部長からも「素敵だからぜひ頑張って」と応援してもらえて、時間を調整しながらレッスンをしていたんです。ピラティスとの出会いは、そのダンススタジオのメンバーから「ピラティスいいよ」っておすすめされたことがきっかけですね。偶然にも家の近所にピラティススタジオがあったので、興味本位で通ってみました。 ―実際に体験されていかがでした? 実際やってみると身体が変わることを実感して、すごく面白いと感じました。私も医療従事者なので、身体に関する知識があるぶん、余計に楽しくなっちゃって。 また、ジャズダンスはバレエが基礎になっているので、体幹やコアマッスルが足りないと踊れないんですよね。ピラティスをやり始めることで、「身体の軸がしっかりしてきたな」と感じて、ピラティスへの興味が深まっていきました。 ―その後、ピラティスのインストラクターコースも受講されたとか? はい、受講しました! とても充実した時間になりました。 私は通学してセミナーを受講しましたが、最近はオンラインや通学+オンラインのハイブリッドコースなど、自身のライフスタイルに合わせて受講できるスクールが多いです。例えば、basiピラティスのマット通学コースの場合、集中した講義を合計36時間学び、100時間以上の自己実践、20時間以上のレッスン見学や30時間以上の指導練習を通し、資格取得が可能になります。資格を取得し、ようやくスタートラインに立てました! ―ZEN PLACEに転職しようと思ったのも、やはりピラティスがきっかけなのでしょうか? そうですね。どんどんピラティスへの興味が増して、「ピラティスを看護の仕事に活かせないかな」とインターネットで色々調べるうちに、ZEN PLACEを発見したんです。利用者さんに対してもそうですし、働き手である看護師に対してもピラティスを推奨している点に共感しました。 私も当初はダンスのトレーニングの一環として始めたピラティスでしたが、すごく自分の身体や心が整うのを感じて、「もっと働く看護師にピラティスが広まり、健康的な生活を手に入れて欲しい」と思うようになったんです。 特に急性期の病棟に勤めていると、「人が生きるか死ぬか」という命の瀬戸際のなかで看護をしているので、感情的になってしまいがちです。私も、ICUではやりがいや喜びを感じながら働いていましたが、改めて振り返ってみると心身ともに疲れていることが多かったように思います。「本当は運動して発散したいけど、仕事が忙しくて続かない」という悩みが多いのも看護師の実情です。もっと看護師にピラティスが広まってほしいと思います。 ―病棟から訪問看護への転職ですし、住むエリアも変わるなかで、悩まれなかったですか? 正直とても悩みました。急性期での看護も楽しい面ややりがいがありましたし、在宅の現場は、過去に派遣の仕事として訪問入浴をしたことがある程度。転職後の仕事内容のイメージもあまりできず、不安がありました。でも、最後は「自分がやりたいことをちゃんとやりたい」「やってみなきゃわからない!」と思い、転職を決めて東京へ引っ越しました。 ピラティスを活用するZEN PLACE訪問看護とは? ―入職後のことをお伺いします。ZEN PLACEでは、同一のステーションに訪問看護師や理学療法士、作業療法士等の色々な職種が在籍されていますが、職種間の連携について教えてください。 同じ利用者さんに看護師と理学療法士両方で入っていることもあるので、「今日はこういう状態だった」とステーション内で情報交換をしています。また、訪問看護のみで入っている利用者さんでもリハビリをしたほうが良いケースもありますし、逆にリハビリメインで入っている利用者さんに医療的な処置が必要になった場合は、看護師が入ったほうが良いこともあります。多職種と連携が取りやすく、意思疎通がスムーズで良い環境ですね。 ―職場の雰囲気としてはいかがでしょうか。 基本的にスタッフはみんな明るくて、職場内では笑顔や笑い声が絶えません。ピラティスが好きなメンバーばかりで、みんなで仕事後にレッスンを受けに行くこともありますし、和気あいあいとした職場でとても楽しいです。 ―皆さんにとって、本当にピラティスはリフレッシュもできる大切な時間なんですね。仕事の後にピラティスをするケースが多いのでしょうか。 そうですね。今もステーションの近くにあるスタジオで、「期間中に50日間ピラティスをしよう」というイベント(「50days challenge」)に同僚と参加しています (笑)。 こうしたイベントがないときでも、ZEN PLACEが運営するスタジオは各所にあるので、ステーションや自宅の近くにあるスタジオに寄ってから帰ることが多いですね。オンラインレッスンもあるので、家に帰ってからやることもあります。 人によっては朝ピラティスをしてから出勤しているケースもあると思いますし、ZEN PLACEでは福利厚生として、月に2回までは業務時間内でピラティスを受けに行っても良いという制度があります。訪問にキャンセルがでた時に行くこともありますね。 ―雰囲気が良くスタッフ同士も仲の良い職場のようですが、ピラティスを行っている影響もあると思われますか? もちろん、すべてがピラティスの効果だとは言い切れませんが、私は一助になっていると思っています。医療従事者は献身的に仕事をされている方が多い印象なので、自分のために何かをする時間って意識しないと取れないんですよね。でも、ピラティスをすると、その間は自分の身体と心と向き合うことになるので、「今日はあまり足が上がらないな」「仕事のことをいっぱい考えているな」など、色々と感じ取ることができます。 ピラティスは「動く瞑想」とも言われますが、自分に向き合うことで自分を大切にできるし、心身が整う効果があると思っています。自分自身が整うことで、利用者さんへの良い看護の提供や職場の雰囲気の安定につながるのかな、感じています。 心が安定すると、ネガティブな言葉も言わなくなりますね。「こういう嫌なことがあったよ」という話が出ても、愚痴になるのではなく、「そうなんだね、大変だったね」と受けとめたあと、「こうしたら改善するんじゃない?」とみんなで意見を出し合いますし、誰かがポジティブな言葉や思考に変換してくれます。 ―ありがとうございます。次回は、ZEN PLACEでのキャリアや、どのようにピラティスを訪問看護に取り入れているのかを伺います。>> 【ピラティス×訪問看護】ZEN PLACEのキャリアパス&訪問時のピラティス活用法 ※本記事は、2023年1月の取材時点の情報をもとに制作しています。 編集・執筆: 合同会社ヘルメース取材: NsPace編集部

訪問看護事業所の休廃止を防ぐ
訪問看護事業所の休廃止を防ぐ
インタビュー
2023年3月14日
2023年3月14日

訪問看護事業所の休廃止を防ぐ~利益創出の理解と組織づくりの思考は看護と同じくらい大切~

訪問看護業界での人材戦略を考える特別トークセッション。最終回は、訪問看護事業所の休廃止を回避し維持するために、何が必要かを語り合いました。管理者自身が、お金の動きを理解できる力をつけること、組織マネジメントに必要な思考を身につけること。そのために、自分で抱え込む精神を捨てるアンラーニングが重要です。 第3回「訪問看護管理者が真にやるべきこと」はこちら>> 「看護+パッション」だけでは起業はできても維持が難しい 中原: 訪問看護で事業を始めようとするなら、もちろん看護のスキルも必要なんだけど、どれだけの入るお金があって、どれだけお金が出ていくのか。そこを理解できるスキルが絶対に必要。しかも最初から2.5人で、人数分の利益を上げなきゃならないでしょう。 その次に、私だったら組織づくりを考えるかなと思います。1人いなくなったら休止だから、とにかく離職を避けなくてはならない。 乾: そうなんですよね。個人商店ではない。2.5人必要で、もともと組織化されていますから。売上をあげて、いくらコストがかかって……に始まり、人を採用して定着させるところまで。 中原: それらと同じぐらい看護が大事ではあるんだけれど、ビジネスの理解やマネジメントスキルが必要だという認識をもって、覚悟をくくっておかないと、「看護+パッション=訪問看護」だけでは起業はできても維持が難しい。 学び直しの機会がなかった 乾: 病院に勤務してきて「やりたい看護がしたい」で訪問看護に飛び込む、一般的な看護師さんのキャリアパスでは、そういった視点を得る機会ってなさそうですよね。 中原: 訪問看護のマネジャーがど・はまりしてつまずいていくパターンや、どうマネジメントしていけばいいか、そんな研究や理論はあるんでしょうか。 落合: 看護師って、思いを馳せて患者さんをずっとみて育っていて。なので、マネジメントも「後輩を思いやって」という文化で、そこにマネジメントの根拠や理論はないことが多いんです。 たとえば「フィードバックってどうやるんだ?」ってときも、「中原先生の本にある、こういうフィードバックの方法に基づいて……」のような考えかたはせずに、ひたすら「思いやりを込めて……」とか、先輩から受けてきたフィードバックを後輩に同じようにする。だから、パターナリズムなフィードバックを受けてきた人は、ちゃんとパターナリズム的なフィードバックをしてしまう。そんなことがありがちだと思っています。 一方で患者さんに対しては、たとえば緩和ケアだと患者さんに寄り添うコミュニケーション技術が構築されていて、看護のスキルであれば学べといわれるし、学ぶんです。なのに、組織運営に関する技術は学んでこないんですね。 過去の先輩の知恵を大切にしつつ、マネジメントとか経営の技術は知るべきだよな、とはすごく思います。 中原: せっかく思いを持って立ち上げるんだから、その思いが無駄にならないような学び直しの機会があったら、先ほどの休廃止に至る典型的パターンが避けられるかもしれないですよね。 マネジメントの武器は、「聞く」「しゃべる」くらいしかない 中原: 訪問看護の管理者は、ソロプレイヤーでもありながらマネジメントもやって、かつ従業員側もみなくてはならないし、利用者側もみなくてはならない。そんな状況で、何から始めて、どういうふうにステップアップしていくのか。学び直す機会をどう持つかだと思います。 この業界に合った形のマネジメントの手法をどう実現するのか、そこから、知見を積み重ねることです。皆さんの領域の研究者が、皆さんのカルチャーや状況に合ったマネジメント手法や組織開発手法を、地道に研究したほうがいいのではないでしょうか。私の本なんか読まないでいいですから(笑)。地道に地道に、皆さん自身の領域で起こっていることを「探究」するとよいと思います。 乾: いえ、中原先生の本にある1on1だとかフィードバックだとか、一般的なマネジメントのスキルも、実際現場ではすごく必要とされているし、重要だと思います。私たちの支援先の事業所さんでも、「こうしたいけど、どうすればいいんだっけ」と知らなかったり経験不足だったりが現実にあるので。それは業界の特殊性以前に、土台として必要なことだと。 中原: なるほど、そうですね。どこの世界でもマネジメントって、起こったことを傾聴していきながら振り返って、じゃあ今後はどうしようと目標を設定していく、そういったことを地道にやるしかない。マネジメントって結局、そんなにたくさん武器はないんです。聞いてしゃべるくらいしかなくて、それを愚直にやっていくのがマネジメントですから。マネジメントは「ABC」ってよく言われます、絶望しますけど。「A:あたりまえのこと」を「B:ばかにせず」「C:ちゃんとやる」、これに尽きますね。 乾: その「どんな武器があるのか」や「武器の使いかた」を知ることが、現場で必要とされているのだと思います。 落合: そういうものだと私も思います。 管理者にこそアンラーニングが必要 落合: 訪問看護師的な感覚でいうと、思いだけでやるならたぶん、中原先生がおっしゃるみたいに1人でやるのが本当にいちばんいい。だけど制度上それは無理で、すると2.5人とか3人とか、5人までのいわゆる小規模でやるのがいいんでしょう。聞く・話すの能力だけで考えても、結果的に5人ぐらいまでが、管理者1人(優しい人で)が面倒をみることができる限界の人数なんだろうと。 そこに、「聞く」や「話す」をマネジメントの技術として実践できると、10人とか15人ぐらいの人を支えられるのかなと。そのために見える化のサービスが必要なのかもしれないし、中原先生の本を読むのがいいのかもしれないし、いわゆる業界理解をすると伝えかたが変わるのかもしれないし。 それは勉強が必要ではあるんだけど、自分で抱え込む精神をまず真っ先にアンラーニングして、いち管理者の努力で解決しようとせずに、うまく外部を活用して自分のものにしていったらいいんじゃないかな。 ─ 管理者としては、病院から訪問看護に入ってきた人へ学習機会を提供して、ゲームチェンジを理解させること。そして訪問看護は病院看護の延長ではない、異なる競技に挑んでいるんだという前提で、管理者自身にもアンラーニングの必要性があることに気づかされました。どうもありがとうございました。 落合実18歳から有床診療所、大学病院、訪問看護ステーションと、働く場所を移しつつ一貫して臨床看護に携わる。現在は、福岡にUターン移住し、ウィル訪問看護ステーション福岡の経営と現場を継続しながら、医療法人や社会福祉法人、ヘルステック系企業のコンサルティングも提供。ウィル株式会社は、訪問看護ステーション事業とフランチャイズ展開のほか、記録システムの開発・販売、採用支援、eラーニング開発・支援などを手掛けている。「スイミー」で小さな魚が集まって苦境を乗り越えられたように、皆で集まることでナレッジシェアができる組織を目指している。乾文良大手ITシステム会社、商社勤務を経て、2016年に株式会社エピグノを共同創業。エピグノで開発・販売している人材マネジメントシステムは、医療・介護領域に特化している日本初の製品であり、モチベーションやエンゲージメントを測定することが特長。エンゲージメントやモチベーション状態が具体的な指標にもとづいて測定され、その見える化を通し、組織と経営両面の健全化を図ることができる。中原淳「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、組織開発について研究している。著書に、「職場学習論」「経営学習論」「人材開発研究大全」(東京大学出版会)、「組織開発の探究」(中村和彦氏との共著、ダイヤモンド社)、「研修開発入門」「『研修評価』の教科書」(ダイヤモンド社)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)、「残業学」(パーソル総合研究所との共著、光文社新書)、「フィードバック入門」「サーベイ・フィードバック入門」「話し合いの作法」(以上、PHP研究所)など多数。記事編集:株式会社メディカ出版 * * * * * ■ナースペーススタディ訪問看護スタッフ向けの完全オンライン教育サービス。専門看護師・認定看護師など、経験豊富な講師陣がスタッフ教育をサポート

利用者も看護師も幸せにする経営
利用者も看護師も幸せにする経営
インタビュー
2023年3月7日
2023年3月7日

先を見越した採用とオープン経営の重要性 【利用者も看護師も幸せにする経営】

0歳から高齢者の方まで幅広く介護保険や医療保険を利用しての訪問看護を提供する、機能強化型訪問看護ステーション、「レスピケアナース」。前編に引き続き、レスピケアナース設立者で管理者の山田真理子さんにお話を伺いました。 >>前編はこちら規模拡大への想いと理念浸透の秘訣 【利用者も看護師も幸せにする経営】 株式会社アイランドケア 常務取締役レスピケアナース 管理者 在宅看護専門看護師(2020~)山田真理子さん内分泌内科と血液内科の混合病棟に2年、呼吸器内科病棟に計5年ほど勤務。その後、人工呼吸器や患者教育に興味を持ち、在宅酸素や在宅マスク式人工呼吸器等を扱う企業で9年間訪問看護ステーションの管理者を務める。事業所設立を目指して2015年に独立。同年12月にレスピケアナース設立。 レスピケアナースの制度と戦略的採用 ─レスピケアナースでは土日祝日も安定してサービスを提供されていますが、各曜日や時間帯の人員バランスを調整するのは、大変ではありませんか? 家庭環境によっては「ほどほどに稼げればいい」という人もいますし、「たくさん働いて稼ぎたい」という人もいます。そういった希望を聞き、バランスを考えた上で採用することが大切です。「平日のみ希望」で入った方に「土曜日も働いてください」とお願いするのは、当然難しいでしょう。でも、あらかじめ「土曜日も働く前提」で採用していれば、あまり問題になりません。入職後に働き方の希望が変わることもありますが、ある程度余裕をもって人材を採用しているので、即座に人員不足にはならないようにしているんです。 一定の条件に希望が偏らないように人を集めること、先を見越した採用をしていくことで、バランス調整はしやすくなると思います。 ─レスピケアナースへの就職希望者には、どの年代が多いですか? そうですね、30代から40代が多いです。ほかに比べると、比較的若い年齢の人が集まっているかもしれません。今後は新卒の採用も増やしたいと考えており、学生向けのイベントも実施しています。 新卒採用を積極的に進めたい理由は、訪問看護に対して先入観のない人材のほうが、より効率的に教育できると思うから。私も病棟経験がありますが、病院特有の思考回路になると、それを切り崩して新たな感覚を構築するのは難しく、看護師当人が苦しむこともあります。学校で在宅看護論を習い、そのままレスピケアナースに就職してもらえば、本人もあまり苦労することなくスムーズに働けると思います。やるべきことがすっと頭のなかに入るというか。誰しも、経験を積めば積むほどそれまでの働き方を変えるのに苦労しますよね。入社してからのスキルアップが重要だと思いますので、専門知識は求めていません。 ─報酬制度については、何か意識されていることはありますか? スタッフのモチベーション維持を大事にしたいので、簡単に言うと「働いたら働いた分だけ稼げる環境」を整えています。例えば、土日祝日や夜間に働けば、当たり前ですがそのぶんの給与を支払います。土日祝や早朝夜間も働き、当番もするスタッフは、夜勤もこなす病棟看護師と同等程度はもらえるようなイメージです。 平日のみのスタッフと夜間・休日も働くスタッフが、「ちょっと給与が違う」程度ではモチベーションは維持できませんよね。目に見えて給与が上がり、「これだけ働いた甲斐がある」という実感を持てるように、と思いながら設定しています。 オープン経営で、スタッフも経営者視点に ─スタッフの皆さんへの報酬を支払うための利益確保は、どのようにされていますか? 訪問単価を上げていくために、特別管理加算がとれる利用者を確保してきました。自分自身の専門分野が呼吸ケアであり、在宅酸素療法や在宅人工呼吸療法を行っている利用者が得意だとパンフレットなどで広報したり、関連の研究会や学会で成功事例を発表したりと工夫しています。ある程度戦略的な部分になりますが、機能強化型ステーションの制度ができたとき、「これは必ず取りに行こう」と考え、まずは「機能強化型2」を、次に「機能強化型1」を取りました。 さらに言えば、「よい看護をすれば事業所が儲かる。その儲けは自分たちに戻ってくる」というところを、みんなで分かち合いたいと思っています。これは採用面接のときから伝えていることですが、レスピケアナースの賞与は完全に利益に連動しています。赤字か黒字か、というところは本来経営者の視点ですが、スタッフにもその視点を持ってもらいたい。「黒字なら自分たちに還元される」ということであれば、満足度が上がります。多忙さが目に見える報酬として戻ってくれば、納得もできるでしょう。そんなふうにして、我々経営者と働くスタッフとが、一緒になってやっていければと思っています。 ─レスピケアナースでは、基本的に残業をしない方針と伺っています。余裕のある人員採用以外に、何か工夫されていることはありますか? 効率化のために、勤怠管理やカルテ、スケジュール表等をICT化(※)しています。これは設立当初から実践すると決めていたことで、行政からの助成金もいただきました。ICT化により直行直帰が可能になるので、わざわざカルテを取りに事務所に立ち寄る必要もありません。週に一度は、ZOOMで事例検討やカンファレンスなどをしていますが、集まるのはそれで十分だと思っています。 ※ICT化= Information Communication Technologyを取り入れること。PCやスマートフォンといったデジタル機器を導入し、情報を可視化。より管理しやすくすることで、効率的に業務を行う。 ICT化によって、訪問単価、売上人件費率、常勤換算数、どこから紹介があったか、訪問件数などのデータも、グラフ化してスタッフの誰もが見られるようにしています。グラフを読む能力となるとまた別問題なのですが、情報をオープンにすることで、さきほどの「スタッフの経営者視点」にもつながっていくと思っています。 ─データの共有によって、具体的にはどんなアクションが生まれるのでしょうか。 例えば、どんな流れで利用者が増えるのかわかれば、利用者を増やすために何をすればいいのかのアイディアも浮かびます。レスピケアナース内の小児チームが「〇〇病院からの利用者紹介が減っている様子」から「病院に配るパンフレットを刷新しよう」といった動きをしていましたが、そういった具体的な動きに繋がるんです。 また、スケジュール表や常勤換算数・訪問数等を見れば、どの部分にスタッフが足りないか、余裕があるなら利用者をどれだけ増やせるか、といったこともスタッフ自身が判断できます。まずは適切な情報を見せ、それぞれが考えていい環境をつくることが大事ですね。 組織に「余裕」をつくり、学んだことを実践 ─風通しのよい職場づくりのために、スタッフの皆さんに特に伝えていることはありますか? 「失敗してもいい」「リカバリーできない失敗はない」ということでしょうか。例えば、失敗したことの報告に対して、私がそれを責めることはありません。報告さえしてくれれば、必ず何かしらの形でフォローする。リカバリーする。だから、うちのスタッフはたとえヒヤリハットの報告があっても嫌がらないんです。むしろ、「報告すると感謝されるから、どんどん報告する」と言っていますね。自分の発言が業務改善に繋がりますから、「自分はこの職場に必要とされているんだ」という気持ちにもなると思います。 ─最後に、組織をつくる上で重要視すべきことはなんだと思いますか? これからマネジメントに取り組む方々に向けてお伝えしたいことがあればお願いします。 大切なのは、余裕をつくるということかなと思っています。「忙しくて何もできない」という状況をつくらないことが大切です。レスピケアナースでは、オンとオフをきっちり分ける、長時間勤務になった翌日は勤務時間の調整を行う、年に1回はリフレッシュ休暇を取るなどのルールを設け、それが実現できるスタッフ数と利用者数のバランスを考えて、採用と新規利用者の受け入れを行っています。オンとオフをきっちり分け、しっかり休日を確保するには、チームワークが大事で、一人で担当の利用者に対峙せず、複数のスタッフが一人の利用者に訪問できることが重要です。しかし、レスピケアナースでも立ち上げ1~2年は忙しくて余裕がない時期もありました。今どうしても忙しい人は、多少無理をしてでも勉強会に参加して発想の転換をしたり、仕事を仲間と分担したりすることが大切です。 レスピケアナースでは、小児ケア、医療安全、呼吸不全のワーキングチーム、ACP看取りチームと、4つのチームがあり、それぞれ勉強会等も企画してくれます。自分自身が主体にならなくても、スタッフたちが動かしてくれるようなしくみづくりも重要でしょう。 そういったことも踏まえると、最初の話に戻りますが、やはり、ある程度の規模の大きさは必要ですね。「規模を大きくすること」そのものが目的だったわけでなく、そういった余裕のある働き方を可能にするために、立ち上げ時から規模を大きくすることを重要視し、目標としていました。SNSやブログでもその想いを発信していたから、より具体的に方向性が見えたのかもしれません。 私は別に、経営者としてオリジナリティがあるわけじゃないんです。きっと、私と同じことを誰かが言っています。私はセミナーに参加するのも好きなんですが、いいお話を聞けば「自分もやってみよう」と素直に思う。「そんなことはできない……」ではなく、たぶんやれるな、じゃあどうすればいいのかな、と前向きに考え、実践することが重要なのだと思います。「現状を打破したい」というとき、情報取集はとても大事ですからね。ぜひ、新たな情報に触れ、固定概念を持たずにチャレンジしてほしいと思います。 ─ありがとうございました。 執筆: 倉持鎮子取材: NsPace編集部

規模拡大への想いと理念浸透の秘訣 【利用者も看護師も幸せにする経営】
規模拡大への想いと理念浸透の秘訣 【利用者も看護師も幸せにする経営】
インタビュー
2023年2月28日
2023年2月28日

規模拡大への想いと理念浸透の秘訣 【利用者も看護師も幸せにする経営】

福岡市の「レスピケアナース」は、0歳児から高齢者の方まで幅広く介護保険や医療保険を利用しての訪問看護を提供する、機能強化型訪問看護ステーション。医療依存度の高い方向けの看護を得意としています。設立者で管理者の山田真理子さんに、ご自身が目指してきた訪問看護ステーションの在り方や、順調に規模を拡大してきた秘訣を伺いました。 株式会社アイランドケア 常務取締役レスピケアナース 管理者 在宅看護専門看護師(2020~)山田真理子さん内分泌内科と血液内科の混合病棟に2年、呼吸器内科病棟に計5年ほど勤務。その後、人工呼吸器や患者教育に興味を持ち、在宅酸素や在宅マスク式人工呼吸器等を扱う企業で9年間訪問看護ステーションの管理者を務める。事業所設立を目指して2015年に独立。同年12月にレスピケアナース設立。 前職での違和感と、成し遂げたかった想い ─早速ですが、レスピケアナース設立のコンセプトから教えてください。 「看護職」というと技術や経験が注視されがちですが、私は物事の受け止め方、看護観・ケア観、ビリーフ(思い・信条)に共感できるスタッフであることを重視しています。仕事から学び、学ぶことが仕事だという考えに共感してくれる方々と働くために、レスピケアナースを設立しました。看護師2.5人と、事務・アルバイトさんのみの小さな事業所からのスタートでしたが、現在は順調に人員と売上の規模を拡大しており、多くの方々に訪問看護をご提供しています。 ─訪問看護ステーション設立以前の働き方について教えてください。現在の山田さんの指針に繋がっているご経験などもお伺いしたいです。 前職では、大企業が運営する訪問看護ステーションで9年間、管理者を務めていました。そこで感じたのは、大きな組織のなかで自分ができることの限界です。例えば、人員を増やすにしても、欠員補充しかできず、マッチする人材を選ぶことができませんでした。 訪問看護ステーションは、当然ながら看護師がいなければ何もできませんから、「不足してから補う」という方法は合いませんし、現場が疲弊してしまいます。また、ミスマッチな人材が加わると現場が混乱し、お互いに不幸なのです。次第に「私に人事裁量権をもらえたら、もっとうまく運営できるのに、成果が出せるのに」という気持ちが強くなっていきました。 それから、自由に発言できないというのも組織にいるからこその制限ですね。自分自身が強い想いを持っていても、あくまでも会社の方針と齟齬がない形でしか語れません。「私自身」がどんなことから影響を受けどうしたいか、といったことも言えない。そこから飛び出したいと思いましたし、愚痴や文句を言う前に、自分で理想の事業所をつくるべきだと思いました。 現在は余裕のあるうちに人材を採用する体制を作っているので、予期なく欠員が出ても残された従業員が疲弊しづらくなっています。また、SNSやブログで自分の想いを発信できるので、共感してくれた方がレスピケアナースに来てくれるケースも多くありますね。 ─山田さんの経営思想は、ナイチンゲールからも影響を受けていると伺っています。 はい。20年ほど前ですが、ナイチンゲール思想を研究されている金井一薫先生の「KOMI(Kanai Original Modern Innovation)理論」を知り、勉強会にも参加するようになりました。それまで私はナイチンゲールに対しとにかく献身的なイメージを持っていたのですが、彼女はイギリス初の統計学者であり、レーダーチャート開発や病院経営などでも手腕を奮っていました。「戦争で死ぬよりも感染症で死ぬ人の方が多い、だから衛生環境を整えるべきだ」といったことを、数字を用いて根拠を示し、政府の意思も動かしているんです。 つまり、彼女はただ「患者さんのためになると思う」という気持ちだけで献身的に働くのではなく、根拠を示して他人を納得させることのできる人間でした。それまで私が抱いていた印象とはまるで違う。とてもかっこいいと思ったんです。私もナイチンゲールのようにデータを駆使し、広い視野を持って経営したいと考えるようになりました。 また、この思想は看護の現場にも生かせます。例えば医師と話す場面で、「この患者さんは痛がるからレントゲンを撮ってほしい」ではなかなかうまくいきません。「この患者さんはこのような動作をすると痛がるため圧迫骨折の可能性がある、だからレントゲンを撮るべきでは」と、根拠をもとにアセスメントをしたほうがいいでしょう。 視野を広げて「みんなが幸せになる看護」へ ─ナイチンゲールは「情報」を重要視したのですね。それが冷静な判断を産み出す材料になると知っていた。現代に近い理論的な考え方だと思います。 そうです。もっと正確に言うと「客観的な情報」です。利用者さんの言葉だけを重視すると、その方の主観的な考え、いわゆる「S情報」だけに振り回されてしまいます。なぜ、このような「S情報」が出てきたのか、発言の背景にあることに目を向けなければ、利用者さんの困りごとの解消や軽減に至りません。また、「よかれ」と思って、利用者さんの「S情報」のみを元に現行の制度の域を超えたサービスをチームに黙って一人のスタッフが提供してしまったり、スタッフ自身が「利用者さんの希望を叶えられない」と無力感を感じたり、「こんなことは看護じゃない!」と不満に思うスタッフがいたりして、スタッフの方向性が揃わない。そのようなサービスを続ければ現場に無理が出て、訪問看護事業所が潰れてしまう恐れもあります。 訪問看護事業所が潰れても利用者さんは地域にいますので、次の訪問看護事業所を利用した時、制度の域を超えたサービスを受けられて当然と思ってしまい、次の事業所に不満を感じることになるでしょう。事業者の数が減れば、サービス自体も受けられなくなる。これでは、利用者さんも看護師も、誰も幸せにはなれません。 ─「よかれ」と思って対応している看護師さんに対して、理解を促す難易度は高いのではないかと想像します。どういった対応をしていますか? 看護の「意味付け」をし、レスピケアナースらしさを浸透させるために、月に2回、必ず「事例検討」をしています。この事例検討の目的は、いわゆる「SECI(セキ)モデル」(一橋大学大学院教授の野中郁次郎氏らが提唱するフレームワーク)を回すことです。これはそれぞれが持つ知恵を言語化して共有し、暗黙知を形式知に変える。これにより、さらに上の知恵を発見したり、作り出したりしていくモデルです。それぞれが個別で持っている「暗黙知」が「形式知」となり、客観的な情報になります。討論を通じてマニュアルに書いてあっても読めない「行間」までを読み合い、浸透させる。私はこれを「文化を作る」と表現しています。 事例検討時に自身の看護を評価するために利用してもらっているのが、ICFの情報整理シートや臨床判断モデルです。ICFの情報整理シートは、看護利用者の環境についての情報を整え、客観的に把握するためのもの。臨床判断モデルは、利用者さんのニーズや関心、健康問題などを総合的に捉え、必要とされる具体的な看護行為を導き出すための思考モデルです。このどちらかを使って担当者に発表してもらい、私がファシリテーションしています。 中堅のスタッフには成功事例も出してもらうようにしています。様式に落とし込むだけで、「暗黙知」が言語化されるんです。そして、ディスカッションすることによって、参加したスタッフがハッと気づきを得る体験をし、事例提供者は自身が行ったケアを客観的に見返すことができます。このように共有できる形にすることが、「形式知」になることであり、これを繰り返して「文化を作る」ということを実践しています。 そのほかの日々の記録や報告書や計画書もできるだけ確認し、適宜フィードバックしています。こうした成果物をみれば、「行き詰まっているのかな」「悩んでいるのかな」と気づくこともできるので、とても大事なことだと思っています。 繰り返し丁寧に理念や意図を説明する ─事例検討について、スタッフの皆さんの反応はいかがですか? みんな精力的に取り組んでくれています。ただ、慣れない新人さんには複雑で難しい作業に見えるようで、焦ってしまうこともあるようです。そういうときに私は、「『筋トレ』のように考えてくれればいい」と伝えています。決してプレッシャーを与えるために事例検討をしているわけではなく、「レスピケアナースらしさ」を身につけていくためのトレーニング手法なのです。スタッフの反応を見ながら、こういった意図も丁寧に繰り返し説明するようにしています。 ─クリニカルラダー(※)も活用されていらっしゃるんですよね。 はい。基本的には日本看護協会のものをベースにしています。クリニカルラダーは、活動の場を問わず、看護師ひとり一人が力を発揮できるようにという考えのもとで開発されたものです。看護師の評価の項目に、意思決定を支える力、ニーズを捉える力、協働する力、ケアをする力の4つがあり、バランスがよいと思って採用しました。年に1回、12月から1月にチェックしてもらうようにしています。 ※クリニカルラダー: はしご(=ラダー)を上るように段階的にキャリアアップするしくみ。段階ごとに課題は異なり、それぞれの段階で明確な目標設定が可能 特に「意思決定を支える力」「協働する力」については、病棟看護師も含めて足りないケースが多いと思います。クリニカルラダーでチェックすることにより、今は持っていないが将来には獲得しなければならない能力についても理解できるようになり、「これは自分の仕事ではない」と人任せになるケースが減りました。一緒に仕事をする者同士、連携することができるようになるんです。スタッフたちには具体的なエピソードも書いてもらい、私はそれらに対してフィードバックをしています。 仕事に来てくれれば9割満足 ─自分が得るべき技術が明確になると、やる気に繋がりますよね。それぞれが持つ看護についての考え方もしっかりするのでは。 そうです。レスピケアナースとしての考えが浸透します。ただそれでも、「素晴らしいことをするのが看護だ」とは考えないでほしいんです。利用者さんにとっては「看護してくれる人が来てくれた」というだけで、基本的には十分。私はいつも、スタッフに「仕事に来てくれれば私は9割満足」と伝えています。 例えば、事例検討の担当になることが重荷になってしまう心境なら、また別の時にすればいい。無理をせず働いてほしいと考えています。シフトについてもそうです。週に3回休みが欲しいなら、そういう働き方をすればいい。バーンアウトして訪問看護ができなくなったら、誰の幸せにもならないからです。それができる職場にするためにも、規模を拡大してきたんです。 当たり前のことですが、人によってできることとできないことがあり、考え方が違い、「でこぼこ」しています。私は、「でこぼこしているメンバーがたくさんいるが、関係性はフラットで、チームになると力を発揮する」組織を作りたいんです。パーフェクトなスペシャリストになってほしいわけではありません。自分の考えを押し付けたり、自分には技術がないと卑下したりするのは、ノーマライゼーションではありません。お互いを受け入れ、誰しも自分の可能性や能力を高められる状況でこそ、さまざまな意見や知恵が生まれてくると考えています。 ─ありがとうございました。後編では、採用や経営についてさらにお話を伺います。>>後編はこちら先を見越した採用とオープン経営の重要性 【利用者も看護師も幸せにする経営】 執筆: 倉持鎮子取材: NsPace編集部

訪問看護管理者が真にやるべきこと
訪問看護管理者が真にやるべきこと
インタビュー
2023年2月28日
2023年2月28日

訪問看護管理者が真にやるべきこと~スタッフ支援としくみづくりに注力する~

訪問看護業界での人材戦略を考える特別トークセッション。訪問看護事業所運営が厳しい要因の一つに、管理者が何もかも担っている現状があります。第3回は、本当に管理者が注力すべき業務へ集中するための方策と、その一手である大規模化がなぜ進まないのかを考えます。 第2回「学び直しの機会を提供することが重要」はこちら>> ひとりが全部の機能を持っていることは望ましい姿ではない ─ これまでの話を振り返ると、人材採用難や看護師の学び直し機会の必要性、閉鎖リスクなど課題が多く、マネジャーや単体の組織では解決できないことも多いようです。管理者は、まず何を押さえるとよいでしょうか。 中原: まずは「顧客」を確保することでしょうね。顧客がいないと、ビジネスは回りません。訪問看護事業を始めるとき、利用者はある程度確保した段階から始まるんですか? ─ これもそれぞれです。地域の病院やケアマネジャーとのつながりがあって、最初から何人か獲得している場合もありますし、立ち上げ初期は顧客ゼロで、利用者開拓からの事業所もありますね。 中原: そこそこ顧客を持っていて、かつ、人が突然辞めて連鎖退職が起こることがないように、うまく回していく。やはりこれに尽きるのでは。でも、かなりの「無理ゲー(クリアが無理なゲーム)」だと私には思えます。そのことを覚悟して、始めることでしょうね。 乾: 「管理者がひとりで全部の機能を持っている」という話題もありましたが(第1回「人材採用難に立ち向かうために」参照)、私も他の業界にいた経験から、まさにそのとおりに見えています。一般の企業だと、稼ぐのは営業部が、金勘定は経理部が、採用は人事部がやる。それを、小規模の訪問看護事業所だと、管理者さんが基本やらなくてはいけない。そこが厳しいなと。 中原: おっしゃるとおりですね。本当にそうだと思います。 管理者はスタッフ支援としくみづくりに注力すべき 乾: ウィルさんもされているような、たとえば外部が提供する教育のツール利用や、大きなところに人事部門を引き受けてもらうなど、なるべく管理者の仕事を剥がすことが重要だと思います。そこがまた小規模では金銭的にも余裕がないとは思うんですが。 中原: そういうことでしょうね。全部やるのは難しい。落合さんはどうですか? 管理者にできることとは何でしょうか。 落合: そうですね、すべてをひとりがやるのは難しいなかで、やはり、スタッフに能動的に働いてもらうための心理的安全性の獲得。いちばん管理者が注力すべきところは、そこだと思います。 小規模事業所が多い理由は、直接管理をしているからだと私は思っているんです。ひとりが面倒をみることができる範囲はせいぜい5~6人だという、いわゆる「スパン・オブ・コントロール」を脱すると管理不能になって、結局5人ぐらいに落ち着いているのが実情なんじゃないかと。つまりは、管理者がすべて抱え込むマネジメントをやっている表れなんだと思っています。 聞いた話ですが、看護師は、教育・臨床を経ていくなかで、恥を感じがちで、自分で抱え込む人間が育つ傾向なのだそうです。加えて、自分から学ぶのではなく、「教育は受けるものである」という感覚も育ちがち。 先ほど出た話題(第2回「学び直しの機会を提供することが重要」参照)の、病院看護から訪問看護へのゲームチェンジを理解させる教育のなかで、そんな視点での支援をしないといけないんだなと思いました。教育は「与えられるもの」ではなくて自分から学習機会を活用していく、そのように行動が変わる支援です。管理者のマイクロマネジメントで動かすんじゃなく、能動的に動くことへのサポートですね。 スタッフが能動的に動けるように支えるマネジメントと、管理者だけで抱えずシステマチックにしくみを整えること。いちばん管理者が注力すべきはそこだと思っています。 中原: ありがとうございます。おっしゃるとおりだなと思いますね。 今後、訪問看護事業所の大規模化は進むか ─ 大規模化の推進が、訪問看護業界の喫緊の課題として上がっています。 中原: それはうなずけます。スケールを生かすのは一手ですね。 ─ ただ、非常にローカルなビジネスですので、直営だと狭い地域でしか成り立たない。落合さんが共同設立されたウィルさんのように、フランチャイズ化していろんな地域で運営できるモデルを構築されようとしている事業者もありますが、今はまだ大規模化の道筋はみえていないのが現状です。 乾: 私も落合さんに聞きたいのですが、訪問看護は、医療事業では特例的に営利法人が運営でき、資本力のある株式会社の参入もある。これから、たとえば買収が進んでどんどん成長するような存在が出てくるでしょうか。それともまだ今のような、小規模が大半の時代が続くと思いますか。 落合: 事業統合が増えるとは思いますが、医療・福祉の世界では、これまで市場統合がされていないんです。良い事例がいくつもあっても「それは○○市の○○事業所だから可能な事例でしかない」で終わっていて、それが繰り返されている状況なので、今後も大きく統合が進むとはあまり思えない。他業界のようには市場統合は起こらないのではと予想しています。 市場統合よりも「仲良くつながろう」がフィットする 落合: 統合というよりは、「仲良くつながろう」がフィットするのではと思っています。社会保障事業なので、どこで働いたって給料が大きく変わるわけでもないから、皆で仲良くやって、研修なんかも皆で作って一緒にやれば、それが業界全体の貢献にもなるよね、と。 中原: その「仲良く」とは、たとえば「今日うち人が足りてないんだけれど、貸してくれる?」もできるんでしょうか。 落合: それは難しいですね。登録しないといけないので。 中原: そうすると一つやりうる方法が、共通化できるもの、たとえば教育のコンテンツを「一緒にやりません?」的なことですね。 落合: そうです。ちょうど今、ウィルのグループでやりたいと思っていることがそれです。 診療報酬や介護報酬が改定されると、まず料金表が変わるんですが、料金表を1万3000の事業所で作るなんて本当に意味がない。誰かひとりが作って皆で仲良く使おうよと。 それから、5人以下の事業所が大半ということは、一つの職場の中には同期がほぼゼロなんです。それなら、エリアで同期の勉強会をしようよとか。 中原: いいですね。 落合: 隣の事業所をライバルと思わないほうがいいよねと思っているんですが、実際には人の奪い合いもあります。社会保障ですから、「うちこそは」と差別化して市場で競争するなんて、本来はそぐわないはず。そこに無理やり特徴をつくるとか、社会の形としてもビジネスの形としても有意義ではないことが実際には行なわれていて、自滅につながるんじゃないかと気になります。 大規模化とは業務を破綻させないしくみをつくること 乾: 訪問看護では大規模化のメリットがかなりあると思うんですけどね。 落合: はい、あります。大きく成長することを嫌う文化が根強い業界でもあり、大きな統合は難しいだろうなという感触ですが。 乾: 確かに医療・介護の領域だと、規模拡大イコール利己的な金儲けと誤解されるのか、資本主義的なものを嫌う風潮は確かにありますが。規模を大きくすることで、機能を本部でまとめて管理するですとか、できることが出てくるので、実用面ではすごく有意義だと思います。 中原: 金儲けというより、回るしくみを作ることなんですけどね。「最低ここまではみんなでやりましょう」のしくみにするほうが、建設的だと思います。 >>次回「訪問看護事業所の休廃止を防ぐ」はこちら 落合実18歳から有床診療所、大学病院、訪問看護ステーションと、働く場所を移しつつ一貫して臨床看護に携わる。現在は、福岡にUターン移住し、ウィル訪問看護ステーション福岡の経営と現場を継続しながら、医療法人や社会福祉法人、ヘルステック系企業のコンサルティングも提供。ウィル株式会社は、訪問看護ステーション事業とフランチャイズ展開のほか、記録システムの開発・販売、採用支援、eラーニング開発・支援などを手掛けている。「スイミー」で小さな魚が集まって苦境を乗り越えられたように、皆で集まることでナレッジシェアができる組織を目指している。乾文良大手ITシステム会社、商社勤務を経て、2016年に株式会社エピグノを共同創業。エピグノで開発・販売している人材マネジメントシステムは、医療・介護領域に特化している日本初の製品であり、モチベーションやエンゲージメントを測定することが特長。エンゲージメントやモチベーション状態が具体的な指標にもとづいて測定され、その見える化を通し、組織と経営両面の健全化を図ることができる。中原淳「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、組織開発について研究している。著書に、「職場学習論」「経営学習論」「人材開発研究大全」(東京大学出版会)、「組織開発の探究」(中村和彦氏との共著、ダイヤモンド社)、「研修開発入門」「『研修評価』の教科書」(ダイヤモンド社)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)、「残業学」(パーソル総合研究所との共著、光文社新書)、「フィードバック入門」「サーベイ・フィードバック入門」「話し合いの作法」(以上、PHP研究所)など多数。記事編集:株式会社メディカ出版 * * * * * ■ナースペーススタディ訪問看護スタッフ向けの完全オンライン教育サービス。専門看護師・認定看護師など、経験豊富な講師陣がスタッフ教育をサポート

オンライン同行訪問の活用ポイント 基本研修にプラスすることで安心感アップ
オンライン同行訪問の活用ポイント 基本研修にプラスすることで安心感アップ
インタビュー
2023年2月21日
2023年2月21日

オンライン同行訪問の活用ポイント 基本研修にプラスすることで安心感アップ

「NsPace With(ナースペースウィズ)」は、多忙な訪問看護ステーションの新人教育をサポートするサービスです。現場経験やスタッフ指導経験のある看護師が、新任訪問看護師の訪問にオンライン同行するほか、訪問前の準備や訪問後のフィードバック、定期的な管理者への評価結果報告なども行います。 実際にオンライン同行訪問サービス(以下「オンライン同行」)を利用した「しもふり訪問看護ステーション」の経営者 木和田さんと、所長・管理者の木下さんにお話を伺いました。後編では、オンライン同行利用後の所感と活用方法についてお話しいただきます。 >>前編はこちら試行錯誤の末に生み出した教育体制。オンライン同行訪問を活用した理由 >>オンライン同行を体験した文屋さんの記事はこちら「一人訪問」の不安が軽減 訪問看護師1年目のオンライン同行サービス体験記 株式会社 ユニメコム 代表取締役木和田 俊治郎さん調剤薬局の運営会社での取締役時代、訪問看護ステーションの立ち上げ責任者に。企業買収に伴い2015年に独立し、訪問看護ステーション運営会社である株式会社ユニメコムを設立。 しもふり訪問看護ステーション 所長・管理者木下 亜矢子 さん銭湯の番台や外来勤務の准看護師を経て、正看護師になるタイミングで訪問看護の道へ。 しもふり訪問看護ステーション看護師 8名、理学療法士 3名、作業療法士 4名、言語聴覚士 1名、事務 1名が所属(2023年1月時点)。 オンライン同行がスタッフの精神的サポートに ―2022年に、当時入職したばかりだった訪問看護師の文屋さんがオンライン同行を利用されています。実際にオンライン同行を利用してみて、いかがでしたか? 木下さん(以下敬称略): 本人もそう言っていますが、最初はオンライン同行の看護師さんとのコミュニケーションにかなり緊張している様子でした。慣れない職場でひとりだけ外部の人とオンラインミーティングをしている、という状況も発生するので、気を遣うことも多かったと思います。でも、回を追うごとにどんどんオンライン同行の看護師さんとも仲良くなって、慣れていきましたね。 人によって向き不向きがあると思いますが、文屋の場合は利用してよかったです。私にとって一番うれしいのは、サービスを利用した文屋が笑顔で「安心した」「心強かった」と言っていることですね。訪問看護師なりたての一人訪問は誰しも緊張しますし、初めて訪問看護の世界に飛び込むわけですから、普通は不安になったり、病棟とのギャップで苦しんだりします。 文屋が抱える不安は十分わかっていても、時間の制約があって私や他のメンバーが常に寄り添い続けることはできません。オンライン同行が精神的なサポートをしてくれて、よかったと思います。 右から木下さん、木和田さん、オンライン同行を利用した訪問看護師の文屋さん 管理者の方針が明確なら、意見の相違も「良い気づき」に ―サービス利用前は、木下さんの方針とオンライン同行の看護師の指導内容に差異が生じるのでは、というご懸念もあったと伺いました。実際に方針や意見の相違はあったのでしょうか。 木下: ありました。「オンライン同行の看護師さんの言うこともわかるが、しもふりではこうしてほしい」「この利用者さんの過去の経緯や背景を踏まえると、AではなくBにしたほうがいい」などと思ったことがあります。その際は、「私は管理者としてこう思うよ。あなたはどう思う?」と、文屋自身に考えてもらうことを意識しながら議論して、そこで出た結論を文屋から伝えてもらいました。 実際にやってみると、管理者としての方針をきちんと伝えられれば、意見が食い違っても特に困ることはないと思いました。オンライン同行の看護師さんの指摘が「そのとおりだな」と思った案件もありますし、第三者が入ることで、気づきや考えるきっかけが生まれてよかったです。 ただ、私と同行訪問の看護師さんとの間で文屋が板挟みにならないように、という点は意識していましたね。文屋と話し合って決めた結論がオンライン同行の看護師さんの意見と違っていた場合にも、「じゃあ〇〇のほうがいいね。そう言っておいて~」くらいの軽いトーンで伝えていました。管理者も同行する看護師さんも、どちらもあなたの味方なんだよ、というスタンスが伝わるように気を付けました。 木和田さん(以下敬称略): このように、木下が管理者として「自分の軸がちゃんとしていれば大丈夫」という考えで対応してくれたことは、経営者として本当にうれしいことですし、大きな成果だと考えています。オンライン同行を利用する前にイメージしていた「レベルアップ」はしっかり達成できたと思います。 オープンマインドな姿勢で臨むと学びが増える ―しもふり訪問看護ステーションでは、スタッフの方の意向も確認しながらオンライン同行の利用有無を決めていらっしゃいますが、人によって向き不向きはあると思われますか? 木和田: 本当に、プラスになるかマイナスになるかは「その人次第」という側面があると思います。例えば、過去のやり方を「絶対的基準」として捉えている人の場合、コンフリクト(対立)が起こりやすいですし、学びにつながりにくい。オンライン同行を使う方には、オープンマインドな姿勢が求められると思います。 木下: そうですね。オンライン同行の看護師さんに対して、自分の意見や考えをきちんと言えることも大事だと思います。なかには、何か意見を聞かれたときに「特にありません」という回答ばかりになる方もいらっしゃると思うのですが、そういう方は向いていないというか、「まだ早い」かもしれないですね。アセスメントができない看護師さんに対しては、オンライン同行を始めるより先に教えることがあると思います。 教育の土台があってこそ「あと一押し」として活用できる ―最後に、他の訪問看護ステーションがオンライン同行を利用する際のアドバイスをお願いします。 木和田: 当ステーションにはオンライン同行がマッチしましたし、今後も使っていこうと考えています。ただ、「オンライン同行だけ」を研修とするのはあまりよくないと思いますし、教育体制をきちんと構築してからの利用がいいのではないでしょうか。所属しているステーションの方針が不明確なまま突き進んでしまうと、目指す方向を見失いやすいでしょう。 まずは訪問看護ステーションとして数ヵ月単位の研修プログラムを組んだうえで、プラスαとしてオンライン同行を使うのがいいんじゃないかなと思います。不安な部分をあと一押ししてもらう、というイメージですね。 ―ありがとうございました。 編集・執筆: NsPace編集部 ※本記事は、2022年12月の取材時点の情報をもとに制作しています。 *  *  *  *   ■ナースペースウィズ訪問看護スタッフ向けオンライン同行訪問サービス。訪問看護の現場景観と新任看護スタッフ指導経験のある看護師が同行訪問OJTをオンラインで支援

試行錯誤の末に生み出した教育体制。オンライン同行訪問を活用した理由
試行錯誤の末に生み出した教育体制。オンライン同行訪問を活用した理由
インタビュー
2023年2月14日
2023年2月14日

試行錯誤の末に生み出した教育体制。オンライン同行訪問を活用した理由

「NsPace With(ナースペースウィズ)」は、多忙な訪問看護ステーションの新人教育をサポートするサービスです。現場経験やスタッフ指導経験のある看護師が、新任訪問看護師の訪問にオンラインで同行するほか、訪問前の準備や訪問後のフィードバック、定期的な管理者への評価結果報告なども行います。 しかし、こうしたオンライン同行訪問サービス(以下「オンライン同行」)は誕生したばかりのサービスのため、なかなか利用イメージが湧かない方も多いでしょう。実際にNsPace Withを利用した「しもふり訪問看護ステーション」の経営者 木和田さんと、所長・管理者の木下さんにお話を伺いました。前編である今回は、オンライン同行を利用した経緯についてお話しいただきます。 >>オンライン同行を体験した文屋さんの記事はこちら「一人訪問」の不安が軽減 訪問看護師1年目のオンライン同行サービス体験記 株式会社 ユニメコム 代表取締役木和田 俊治郎さん調剤薬局の運営会社での取締役時代、訪問看護ステーションの立ち上げ責任者に。企業買収に伴い2015年に独立し、訪問看護ステーション運営会社である株式会社ユニメコムを設立。 しもふり訪問看護ステーション 所長・管理者木下 亜矢子 さん銭湯の番台や外来勤務の准看護師を経て、正看護師になるタイミングで訪問看護の道へ。 しもふり訪問看護ステーション看護師 8名、理学療法士 3名、作業療法士 4名、言語聴覚士 1名、事務 1名が所属(2023年1月時点)。 リハビリスタッフとの連携で医療依存度の高い利用者をケア ―まずは、しもふり訪問看護ステーションの特徴を教えてください。 木下さん(以下敬称略): 当ステーションは、看護師とリハビリスタッフとの連携による質の高いケアの提供を得意としています。東京の町屋と駒込に事業所がありますが、二拠点は自転車移動が可能です。ケースによっては所属拠点に関わらずチームを組み、ステーション一丸となって利用者様のケアにあたっています。また、最近は人員面でも技術面でも看護スタッフが充実してきたこともあり、医療依存度の高い利用者様が増加傾向にあります。 ―しもふり訪問看護ステーションの運営会社は、途中で変更になったと伺っています。経緯を教えていただけますか。 木和田さん(以下敬称略): もともと、しもふり訪問看護ステーションは調剤薬局会社の新規事業として立ち上げました。当時、私はその会社の取締役で、新規事業として訪問看護ステーションを立ち上げる際、責任者を任されたんです。しかし、立ち上げ後に会社がバイアウト(買収)されることになり、ステーションは取り残されることになってしまいました。そこで、私が会社から独立して新たに「ユニメコム」という法人を立ち上げ、訪問看護ステーションの運営を引き継ぐことにした、という経緯ですね。 人材が定着せず、悩み抜いた結果生まれた教育体制 ―訪問看護ステーションの運営は、当初から軌道に乗っていたのでしょうか。 木和田: いえ、訪問看護ステーションの立ち上げ当初から2020年ごろまでは、人材がなかなか定着せず困っていました。ユニメコム本部で採用したら、研修は現場にお任せ、という流れでやっていましたが、どんどんスタッフが辞めてしまったんです。 ―どういった理由で退職される方が多かったのでしょうか。 木和田: 辞める方が本音で退職理由を言ってくれるケースはあまりありません。でも、おそらく「会社が自分のがんばりを評価してくれない」と感じていたスタッフが多かったのだろうと分析しています。 私は、仕事は何らかの「課題解決」「価値創出」に意味があると教えられ、自分自身もそう思って邁進してきました。「がんばっていることそのもの」が評価されなくても気に留めていなかったので、他者のがんばりへの承認にも重きを置いていなかったんですね。そこに従業員と私との間にズレが生じる要因があったんだと思います。従業員のことは以前も今も大切に思っていますが、気持ちが伝わらず、当時はかなり「ドライで冷たい経営者」だと思われていたようです。 ―そういったお話からは想像がつかないほど、現在のしもふり訪問看護ステーションは経営者・管理者からスタッフまで和気あいあいとした雰囲気に見えます。どういった改善策を講じられたのでしょうか? 木和田: 今は本当に雰囲気が良くなっていますが、当時はかなり悩みました。試行錯誤を重ねて学び直しをした結果、やっぱり「エンゲージメント」(従業員との確固たる信頼関係)と「オンボーディング」(採用した人材を定着させ、戦力化するための教育施策)が大事だという結論に至ったんです。「採用したらあとは現場にお任せ」という状況を打破して、きちんと教育プログラムを構築することにしました。 2021年からは座学の初期研修や計画的なOJTを行うようになり、そこで一旦教育体制の土台が作れました。現場のみんなの努力はもちろんのこと、こうした教育体制の構築も人材定着につながっていると思います。 ―教育プログラムについて、具体的な内容を教えてください。 木和田: 座学では、ユニメコムの理念をはじめ、訪問看護を取り巻く社会的な制度の概要や課題、従業員に期待していることなどを伝えています。OJTについては、3ヵ月目のひとり立ちに向けて必要な要素や計画を木下に練ってもらいました。通常業務の流れのなかでOJTをして、「時期が来たら一人で訪問に行ってね」ではなく、何がどこまでできているかをきちんと振り返って記録に残し、管理・指導するようにしています。 オンライン同行を利用したきっかけとは ―2022年に、当時入職したばかりだった訪問看護師の文屋さんがオンライン同行を利用されています。サービス利用のきっかけや理由について教えてください。 木和田: オンラインで外部の看護師が訪問に同行するサービスがあると紹介されて、「ぜひやってみたい」と思いました。教育体制がより充実することはもちろん、全国的に訪問看護師の数が足りていないなかで、こうしたサービスが普及していくことは、社会的にもプラスになると考えたんです。ただ、実は現場からは当初反対意見もありました。 木下: そうですね。最初は反対しました。私は訪問看護の現場を大切にしてきましたし、現場では五感をフルに使う必要があると考えています。対面で接することで積み上げてきた利用者さんとの信頼関係もあります。「オンラインで何がわかるんだろうか」と思ったのが正直なところです。 また、管理者としての方針や誇りをもってステーションを運営しているなかで、ステーション外の看護師さんにスタッフの育成を任せることに対する抵抗感もありました。自分のいないところで、私の方針とズレた指導をされてしまうと困ると思いましたし、どんな方に同行してもらうのかわからない本当の初期段階は、「大事なスタッフが困る事態になったらどうしよう」という思いもありました。実務面では、導入にあたって利用者様の許可をいただくなどの事前準備もありますし、工数面での負担感も心配でしたね。 ―そうした不安や懸念があるなかでも、オンライン同行をはじめた理由は何だったのでしょうか。 木下: 木和田の「導入する」という意志が固いことはわかっていましたし(笑)、気持ちとしては新しいスタッフに全力で寄り添いたくても、多忙で時間が足りず、なかなかそばにいてあげられない現状があります。 また、結局のところは実際にサービスを受けるスタッフが「やりたいかどうか」が一番重要だと思ったんです。文屋の場合は本人が「やりたい」と言いましたし、訪問時の安心感が上がるなら、やってみてもいいのでは、と思いました。もちろん、やってみてもしも本人の負担感が強そうなら、見守るだけではなく口を出そうと思っていました。 木和田: 最終的に木下がそのように受け入れてくれて嬉しかったですね。うちだけに限らず、訪問看護ステーションは管理者のカラーで方向性が決まってくる側面が大きく、「これが正解」というスタンダードがまだない状態だと思うんです。だから、第三者の目を入れれば、コンフリクト(対立)が起こりやすいですし、木下が反対した理由もよくわかる。でも、あえてそういう状況をつくることで、一段階レベルアップできるという想いもありました。 ―ありがとうございます。後編では、実際にオンライン同行を利用してみた所感や活用方法についてお伺いします。 >>後編はこちらオンライン同行訪問の活用ポイント 基本研修にプラスすることで安心感アップ 編集・執筆: NsPace編集部 ※本記事は、2022年12月の取材時点の情報をもとに制作しています。 *  *  *  *   ■ナースペースウィズ訪問看護スタッフ向けオンライン同行訪問サービス。訪問看護の現場景観と新任看護スタッフ指導経験のある看護師が同行訪問OJTをオンラインで支援

学び直しの機会を提供することが重要~看護の対象は目の前の一人だけではない~
学び直しの機会を提供することが重要~看護の対象は目の前の一人だけではない~
インタビュー
2023年2月14日
2023年2月14日

学び直しの機会を提供することが重要~看護の対象は目の前の一人だけではない~

訪問看護業界での人材戦略を考える特別トークセッション。第2回は、採用時の教育の重要性を考えます。「旧型の病院看護師を育てることに最適化された教育」をアンラーニングする機会を提供することが、望ましくない早期離職回避につながります。 第1回「人材採用難に立ち向かうために」はこちら>> 訪問看護に迎えるときにはルール変更の教育が必要 中原: 病院看護から訪問看護に移ることは「ゲームチェンジ」ですよね。その意識が必要だと思います。例えるなら、「将棋に熟達していた人」が突然、「チェス」を始めるようなもの。駒を使うところは同じなんだけれど、ルールが何もかも違う別の競技だよって話ですね。それぐらい異なるものだと、採用時に説明しなくてはならないでしょうね。 落合: そのとおりだと思います。やはり教育からチェンジが必要だと。 公的な訪問看護サービスは社会資源の一部であって、「目の前の人だけに最高の看護を」ではなく、「すべからく多くの人に、最低限度健康で文化的な生活が送れるための看護を」提供することが本来のはずです。ですが、看護教育で私たちが教わってくることは、「目の前の患者さんをどうやって幸せにできるか」に重きが置かれていて、そこでかなりギャップがある。 そういうわけで、社会保障のあるべき姿から逆行する発想をする傾向もある。「私がいいと思う看護を後輩ができないんだったら、そんな後輩はいらない」というような。そのときに「後輩を辞めさせた結果、ケアが届かなくなる患者さんはどうなるんだ」といった思考は持ち合わせていない。 看護の対象は「個人、家族、コミュニティ、地域」だと定められているんです。病気があるから対象になるわけではなく。ですが、旧型の病院看護師を育てるのに最適化された教育では、病気があり入院治療している個人をみることに焦点が当てられてきた。 そういう教育をされてきた過去はしょうがないので、訪問看護に迎えるときには、きちんと学び直しの機会を提供する。そんなオンボーディング注1が大切なのだろうと思います。 注1:新しく職場に入ってきた仲間が職場になじめるように迎え入れ、適応を支援する取り組み全般をいう。新しい職場で必要な知識やスキルの習得を教育・支援することも含まれる。 仲間を増やすことは看護と同じくらい大事だ 中原: 名前は同じ「看護」がついていて、似ていると思われやすいけれど、必要な資格が同じだけであって、私には「違う世界」に見えますね。その資格を持っているからといって、あるところでうまくいってる人が、次の世界に入ったときに必ずしもうまくいくとは感じないです。病院看護から訪問看護に移るときは、異国に行くイメージでいるといいのではないでしょうか。郷に入れば郷に従えといいますが、「前いた世界の自分」のまま「異国」に行って、自分を変えようとしないなら、確実に詰むでしょうね。 落合: うちでは、「この人を採用するかどうか」をみんなで決めるんです。面白いのは、経営で考えると採ったほうがいい状況で、「採らない」となりがち。「こんなに忙しいんだし採ったほうが絶対いいじゃん」って思うんですけど、なぜかそうならないんですよね。 私はよく「採用って看護と同じぐらい大事だよ」って言うんです。「自分1人では100件しか回れない、同僚と力を合わせたら200件回れる。同僚が増えると『すべからく多くの人に』適切な看護をに一歩近づく」ってことなんですけど、理解までかなり時間がかかります。 組織の成熟度が高まってくると、この考えが受け入れられるんだろうと思うんです。教育や学びが必要だなと思います。 離職者ゼロはベストではない 乾: 小さい規模で、いったん人間関係が悪くなってしまうと、もう厳しいですよね。病院だと配置転換で何とかなりますが、訪問看護のような小さい職場では、いちど嫌悪感を持ってしまうとギスギスが消えない。そして、ギスギスから距離を置くことができずに辞めるしかない。私も訪問看護で短期間働かせてもらったんですが、訪問看護の職場には逃げ場がないと強く感じました。 落合: おっしゃるとおりで、辞めない人を採るのが前提ではあるんですが、私がよく言うのは、「流動性を保たないといけない」。というのは、ある程度の離職率は保たないと組織の水が濁るので。 そのために、ちゃんとインしていきつつ、ちゃんと辞めてもらう。そうしながら組織は拡大していくのが理想だと。 ただ、訪問看護の採用担当者はだいたいが、いわゆる人材のプール、タレントプール(将来の採用候補者情報をためておくしくみ)を持っていないんです。採用が必要なそのタイミングで「今すぐ働きたい」人と運良く出会うことにかける、という狩猟みたいな採用だけで。「1年後働いてくれるかも」みたいな人がいないから、辞めさせられない面もあると思いますね。 中原: そう。「離職者ゼロ」は決して望ましいものではないんですよ。正しく貢献できない人には辞めてもらうことで止血するのも大事。本当は、異動ができれば退職に至らずにすむこともあるんですが、このサイズだとそれも難しいですね。 乾: 複数ステーションをお持ちとかで、配置転換ができるような事業者は多くないですからね。 だんだんと舵がとれなくなって縮小していくケースが目立つ 中原: 私のような業界外の立場から見たら、どうしてこのサイズなのかが不思議でしょうがないんです。「2.5人? マジ?!」って思う。1人抜けたらアウトで、また採用しなきゃならない、採用費100万円の借金を負わないといけない、ゼロから教えなきゃならない。2.5人よりは、逆に小さくするほうがうまくいきそうですが、1人ではできないんですか。 ─ 常勤換算で2.5人必要な決まりです。管理者ともう1人が常勤、パートで月半分、が開始時の一つのモデルです。 中原: 1人はダメなんですね。売上や顧客が決まってないのに人を雇わないといけない、相当なリスクですね。 落合: 訪問看護あるあるがありまして、思いを持って、仲の良い友だち2人を誘って立ち上げます。意気揚々と「○○病院にいました」「○○ができます」「こういう思いがあって独立しました」と営業をがんばる。そうすると御祝儀なのか、始めは依頼が結構来るんですよ。気心知れた仲間どうしだからトラブルも少ないし、そのころがいちばん儲かっています。それが、4~5人と人員が増えたあたりから、マネジメントロスが生じるとか、いろんな波が起こりはじめて、対処方法がわからず、乗り越えられずに縮小化するイメージが、すごくあります。 「立ち上げてすぐ閉鎖」よりも、仲間だけでやって、スタートはうまくいくが、組織が拡大するにつれて、だんだんと舵がとれなくなっていく。そんな例が多い印象です。 >>次回「訪問看護管理者が真にやるべきこと」はこちら 落合実18歳から有床診療所、大学病院、訪問看護ステーションと、働く場所を移しつつ一貫して臨床看護に携わる。現在は、福岡にUターン移住し、ウィル訪問看護ステーション福岡の経営と現場を継続しながら、医療法人や社会福祉法人、ヘルステック系企業のコンサルティングも提供。ウィル株式会社は、訪問看護ステーション事業とフランチャイズ展開のほか、記録システムの開発・販売、採用支援、eラーニング開発・支援などを手掛けている。「スイミー」で小さな魚が集まって苦境を乗り越えられたように、皆で集まることでナレッジシェアができる組織を目指している。乾文良大手ITシステム会社、商社勤務を経て、2016年に株式会社エピグノを共同創業。エピグノで開発・販売している人材マネジメントシステムは、医療・介護領域に特化している日本初の製品であり、モチベーションやエンゲージメントを測定することが特長。エンゲージメントやモチベーション状態が具体的な指標にもとづいて測定され、その見える化を通し、組織と経営両面の健全化を図ることができる。中原淳「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、組織開発について研究している。著書に、「職場学習論」「経営学習論」「人材開発研究大全」(東京大学出版会)、「組織開発の探究」(中村和彦氏との共著、ダイヤモンド社)、「研修開発入門」「『研修評価』の教科書」(ダイヤモンド社)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)、「残業学」(パーソル総合研究所との共著、光文社新書)、「フィードバック入門」「サーベイ・フィードバック入門」「話し合いの作法」(以上、PHP研究所)など多数。記事編集:株式会社メディカ出版 * * * * * ■ナースペーススタディ訪問看護スタッフ向けの完全オンライン教育サービス。専門看護師・認定看護師など、経験豊富な講師陣がスタッフ教育をサポート

「一人訪問」の不安が軽減 訪問看護師1年目のオンライン同行サービス体験記
「一人訪問」の不安が軽減 訪問看護師1年目のオンライン同行サービス体験記
インタビュー
2023年2月7日
2023年2月7日

「一人訪問」の不安が軽減 訪問看護師1年目のオンライン同行サービス体験記

訪問看護師は、基本的に一人で利用者さんの自宅に訪問します。新任訪問看護師に対しては、同行訪問でのOJT(On the Job Training)を行う訪問看護ステーションが多いでしょう。しかし、多忙でなかなか同行訪問に時間をさけないケースも多く、不安を抱えながら一人での訪問をスタートする新任訪問看護師も少なくありません。 「NsPace With(ナースペースウィズ)」は、そうした現場をサポートするオンライン同行訪問サービスです。今回は、実際にNsPace Withを使用したしもふり訪問看護ステーションの文屋佐都美さんに、体験談を伺いました。 しもふり訪問看護ステーション文屋 佐都美さん2018年に新卒で病院に入職。3年間勤務後、1年間介護事業所でホームヘルパーとして勤務。2022年4月より、しもふり訪問看護ステーションへ。利用者さん・ご家族との対話を大事にしている。一人ひとりの状況に応じた看護、「楽しく生きる」ことをサポートする看護を目指して邁進中。 利用者さんとの対話・関係性を大事にしたいという想いから訪問看護師へ ―文屋さんは病棟看護師やホームヘルパーとしてのご経歴がありますが、訪問看護師になったきっかけをおしえてください。 親が介護事業所を経営していて、幼いころから在宅ケアが身近だったこともあるかもしれませんが、ずっと「患者さん・利用者さんとの関わりを大切にしたい」「病気や障害等があっても楽しみながら生きていくためのお手伝いをしたい」という想いを持っていました。でも、病棟看護師時代は日々のルーティン業務に追われて、なかなか患者さんと関わる時間が持てない現実があったんです。次第に在宅の道のほうが合っているのではないかと考えるようになり、病院を退職しました。 退職後は、親の介護事業所でホームヘルパーとして1年間働きました。実際に在宅ケアに携わってみたら、利用者さん・ご家族との対話や、日常生活のなかに入らせていただくことが、本当に楽しかったんです。私には、やっぱり在宅の道が合っていると確信しましたし、看護師として働きたいという想いもあったので、訪問看護師に転職することを決めました。 ―多くのステーションがあるなかで、しもふり訪問看護ステーション様に入職された理由を教えてください。 スタッフ同士とても仲が良く、楽しい雰囲気に惹かれました。また、入職前に同行訪問をさせてもらったのですが、利用者さんとの関わり方が自分の理想どおりだったんです。仲が良いことはもちろん、信頼されて利用者さんの日常生活に溶け込んでいるように感じました。「私もこういう看護がしたい」と思って、しもふり訪問看護ステーションに入りました。 ―初めて訪問看護ステーションで働くにあたって、不安はありませんでしたか? ありました。なんといっても、「一人で訪問する」ことへの不安が大きかったです。病院であれば、何かあっても同じ建物内ですぐに質問をしたり助けを呼びに行ったりできますが、訪問時はそうはいきません。一人で訪問して、きちんと利用者さんと信頼関係を築けるかどうかも不安でしたね。 オンライン同行では、音声や映像を通じて訪問の見守り。質問・相談も可能 ―実際に入職した後の初期研修の内容や、オンライン同行訪問サービスを始めたきっかけについて教えてください。 2022年の4月に入職し、最初は本部での座学研修と先輩訪問看護師の同行訪問研修がありました。同行訪問時に先輩に確認してもらいながら徐々にできることを増やし、OKが出たら一人で訪問する、という流れです。 オンライン同行訪問サービスについては、所長から「使ってみるか」という話がありました。そういったサービスがあることも初耳でしたが、興味があったので「やってみたい」と言いました。 ―オンライン同行訪問サービス利用時の流れについて教えてください。【オンライン同行訪問 当日の流れ】 最初にオンラインで同行していただく看護師さんとの顔合わせ面談があり、自己紹介や目指す看護師像の共有などをしました。 実際に同行訪問する際は、事前に情報共有のためのミーティングがあります。訪問時には、オンライン同行の看護師さんはイヤホンを通じて会話内容を聞いています。基本的にオンライン同行の看護師さんからこちらに話しかけることはありませんが、聞きたいことがある場合にはこちらから声をかけ、その場で相談することもできます。 訪問終了後は、10分~30分程度の振り返りミーティングがあります。一緒にアセスメントを振り返ってもらうほか、次回までに学んでおいたほうがよいこと、調べておいたほうがよいことなどもアドバイスいただきました。 ―オンライン同行訪問サービスを使用するとき、緊張しませんでしたか? 顔が見えない状態ですべての会話を聞かれているので、結構緊張しました(笑)。でも、それは最初だけでしたね。ミーティングを重ねていくうちに同行していただく看護師さんとの関係性ができていきますし、途中からはイヤホンがあっても意識せず、自然体で訪問できるようになりました。 ―ミーティングでは、文屋さんからはどういった質問・相談をされていたのでしょうか。 医療的な質問はもちろんのこと、私は利用者さんやそのご家族を深く理解した上でケアをしたいという想いが強いので、コミュニケーションの取り方や利用者さんに合わせた対応についての相談もしていました。 例えば、「利用者さんに確認したいことがあるけれど、デリケートな話題なのでご家族の前では聞きづらい」と悩んだときには、「シャワー時に確認してみたらどうですか?」とアドバイスをもらいました。また、「教科書通りなら杖を使うほうがいいかもしれないけれど、Aさんの場合は配偶者の方と寄り添って歩くほうが幸せなのでは」といった相談をしたこともあります。 安心感や自信、スタッフ間の連携につながった ―オンライン同行訪問サービスについて、訪問時に感じたメリットを教えてください。 なんといっても、安心感が一番大きいですね。例えば訪問時にサチュレーション(SPo2)が低い利用者さんがいたとき、入職したての時期だったので、普段とは違う様子に焦ってしまいました。でも、オンライン同行訪問サービスの看護師さんにイヤホン越しに報告できたので、その場ですぐに対応方法に間違いがないことを確認でき、その後の報告に関する指示までもらえて、ホッとしたことを覚えています。オンライン同行のおかげで「一人訪問」の不安が軽減しました。 また、自分の看護に対しての自信もつきます。振り返りミーティングで、「この判断がよかったです」「このコミュニケーションの取り方がよかったです」という前向きなフィードバックも毎回いただけたので、「このまま前に進んでいっていいんだな」と思えました。不安軽減や自信につながるので、新任訪問看護師さんたちにはおすすめです。 ―事業所内のスタッフ同士が連携するきっかけにもなったと伺っています。 はい。もともと事業所内は相談しやすい環境なのですが、オンライン同行の看護師さんから確認されたことをきっかけに、「しもふり訪問看護ステーションとしてどういう対応をすべきか」を所長に確認する機会が複数ありました。事業所の方針・ルールの理解につながり、よかったと思っています。 右からしもふり訪問看護ステーション 所長/管理者の木下さん、運営会社ユニメコム代表取締役の木和田さん、文屋さん また、しもふり訪問看護ステーションにはリハビリスタッフもいるのですが、「〇〇についてはリハビリスタッフさんに聞いてみては」といったアドバイスをいただき、リハビリスタッフと連携する際のヒントになりました。しっかりした連携により、排便コントロールがうまくいった利用者さんがいらして、スタッフみんなで喜んだこともあります。 ―文屋さんはまもなく訪問看護師2年目を迎えますが、最後に今後の目標や取り組んでいきたいことを教えてください。 オンライン同行訪問サービスでのアドバイスを通じて初めて知ったことも多く、勉強すべきことがたくさんあると思っています。例えば、家族看護についてもっと理解していきたいですし、排便・排泄コントロールも奥が深いので、もっと知識や経験を積みたいですね。これからも利用者さんやご家族との関係性を大事にしながら、看護師として成長していきたいと思っています。 ―ありがとうございました。 編集・執筆:NsPace編集部 ※本記事は、2022年12月の取材時点の情報をもとに制作しています。 *  *  *  *  ■ナースペースウィズ訪問看護スタッフ向けオンライン同行訪問サービス。訪問看護の現場景観と新任看護スタッフ指導経験のある看護師が同行訪問OJTをオンラインで支援

人材採用難に立ち向かうために~訪問看護と病院看護の決定的な違いとは~
人材採用難に立ち向かうために~訪問看護と病院看護の決定的な違いとは~
インタビュー
2023年1月31日
2023年1月31日

人材採用難に立ち向かうために~訪問看護と病院看護の決定的な違いとは~

エキスパート三者が訪問看護業界での人材戦略を考える特別トークセッションを、今回から4回シリーズでお届けします。第1回の論点は、厳しい状況が続く早期離職・人材採用難に、訪問看護管理者はいかに立ち向かえるのか。解決への手がかりを探ります。 落合実ウィル訪問看護ステーション相談支援チーム、2016年緩和ケア認定看護師教育課程修了。ウィル株式会社を有志と共同設立。現在はウィル株式会社の取締役とあわせ、同社のフランチャイズ事業所の経営者でもある。乾文良株式会社エピグノ代表取締役CEO。医療介護分野に特化した人材マネジメントシステムを、開発・販売・運用している。MBA。中原淳 立教大学経営学部教授。専門は人材開および組織開発。立教大学大学院経営学研究科経営学専攻リーダーシップ開発コース主査。立教大学経営学部リーダーシップ研究所副所長。 訪問看護業界は人員確保が大きな課題 ─ 訪問看護ステーションの休廃止数は2020年で781事業所1)。休廃止の理由として過去の調査2)では、利用者獲得に関する要因に次いで、従業者確保や管理者不足といった人的要因が上位にあがっています。また、5人以下の小規模事業所が62.9%3)と、規模がきわめて小さい事業所が大半を占めることも訪問看護業界の特徴です。 乾さんは、医療・介護といったヘルスケア領域に向けて、エンゲージメント評価のシステムを提供されていますね。訪問看護の世界はどのように見えていますか。 乾: エピグノは、病院や在宅医療、訪問看護、介護の領域で支援を提供していますが、ヘルスケア領域のなかでもそれぞれ業界の特徴があります。訪問看護師さんは、心理的な安全性が担保されにくい職場環境なのかなと感じます。病院や介護施設と比べても、訪問看護はたとえば退職率の高さがかなり深刻です。 退職と採用のループは組織を疲弊させる 中原: 採用しては辞めて……が続くと、組織がどんどん傷んで、疲弊してしまう。そんな状況になってくると、「採用してはすぐ辞める」のループで、採用費だけが膨らんでいきますね。 ─ そうですね。1人の採用費を回収するのに1年かかるのに、早期退職が続いてしまう。そんなことを繰り返されている事業所さんも多いのかなと思いますが、落合さん、いかがですか? 落合: そのとおりだと思います。実はもっと深刻な状況も多くて、だんだんと辞めていくのではなく、1人辞めると「もう危ない」と、一斉退職が起こる。 中原: 退職は「伝染」します。一斉退職、どこの世界でも、あるあるですね。 訪問看護の職場環境は早期離職につながりやすい側面がある 乾: 私たちは、個々人のエンゲージメントやモチベーションの状態を細部にわたって測定していまして、訪問看護業界は特に「自信の高さ」が低い傾向があります。 訪問看護師さんは、病院で研鑽を積まれてから訪問看護に移られるのが一般的ですから、病院と訪問看護とのギャップが大きな要因ではないかと思っています。病院であれば他職種ふくめて周りに多くの同僚がいるけれど、訪問看護師さんはひとりで利用者さんのもとに行く。さらに、訪問看護は小規模事業所が大半で、教育の余裕もなく、入ったらほぼすぐに「ひとりで行ってこい」になる。 訪問看護に飛び込んだ人は、病院とは当然違う環境で、ひとりで利用者さんに対峙しなくてはいけません。そんななかで「本当にこのやりかたでいいんだっけ」「この意思決定でいいんだっけ」という悩みや不安感が、訪問看護師さんには多いなと感じます。 中原: ひとりで仕事をする環境では、フィードバックが働かないし、顧客との関係が悪化すればブラックボックス化する。見える化してうまくマネジメントでケアしないと、あっという間に早期離職にもなりえますね。 営業から人事までを担う、管理者にかかる負荷の大きさ 落合: 訪問看護事業所は、常勤換算で2.5人を満たせないと休止しないといけない。経営者が2.5人を集めることに必死になりがちな構造です。そうなると、定着どころではない。「採用費をどーんと使って3人にしたけれど、3人とも辞めることが決まっている」とか、「いついつには1人辞めてしまって2人になるから何が何でも人を入れないといけない」とか、ずっとそんな状況に追い立てられている印象がすごくあります。 中原: ここまで聞いて真っ先に思ったんですが、これは外の世界からみたら「無理ゲー(クリアが無理なゲーム)」に見えると思いますよ。いわゆる採用―育成―職場改善―離職防止を、経営者や管理者がひとりで実践するのは「無理ゲー」じゃないですか? いや、皆さんとても頑張っておられるのだと思いますが、外の世界からみたら、不思議です。なぜ、ひとりで取り組む「しくみ」になっているのか。分担するしくみや仕掛けはつくられないのか、と。 やるべきことが、本当に、たくさんありますね。採用でプール(将来の採用候補者をためておく)を増やすことと、育成のしくみを整えること。それと、ブラックボックスになりやすい職場・働きかたを、見える化していきながら、エンゲージメントがど・低くならないように何とかマネジメントすることかな。……とは思いましたけど、そもそもの枠組みがすごく厳しいですね。1.顧客(利用者)開拓2.顧客(利用者)へのサービス提供3.従業員採用4.離職防止(育成)を管理者が全部やる。そしておそらく、管理者はプレイヤーのひとりとして訪問もやっているんですよね。 ─ はい、そのとおりです。管理者はマネージングプレイヤーの典型例といえると思います。 中原: これはかなりビジネス的に厳しい状況ですね。一つでも落とすと危うくて、二つ落とせば確実に詰む。 厳しいなかでも、まずはどういうところが最も深刻な障壁になっているのか。そこから解決の道が見えるかもしれませんね。「こうなると事業が回らなくなる、人が回らなくなる」の典型的なパターンがありそうに思えますが、落合さんどうですか。 訪問看護と病院看護とは根幹のルールが大きく異なっている 落合: 病院看護と訪問看護とでは、売上に対して看護師がどう貢献するかが完全に異なるんです。にもかかわらず、そのようにルールが変わっていることを、マネジャーが説明できているかというと、やや怪しい。 少し語弊があるかもしれませんが、病院での看護師は、おもに直接の売上を上げる職種ではない、いわゆる間接部門なんです。売上に直接関与できるのは医師であって、医師の働きで病院にお金が入り、看護師は医師の稼ぎを支えるという収益構造です。ですから病院だと、経営面でみれば、看護師は若いほうがいい。人件費が安いからです。 一方、訪問看護での収益構造では、看護師の働きがそのまま売上です。目的は治療ではなく療養であるところも違いますが、どうやって報酬を得るかの点でも、病院看護の延長線上には訪問看護はない。 大きくゲームチェンジが起こっているんですが、病院から訪問看護にやってきた人に、そんなルール変更の説明もせず(できず)、目の前のOJTだけに終止しているように見えます。それが失敗の原因なんではないかなと。 中原: なるほど、興味深いですね。病院看護をやってきて訪問看護に来る人が多いから、そのキャリア上の連続性と、仕事の連続性を同一視してしまうのが、つまずきの大元。その間には断絶があり、もう完全に違う仕事をやる覚悟を持てるぐらいのアンラーニング注1が必要だということですね。 注1:通用しなくなった知識や常識を捨てて、新たに学び直すこと 「訪問看護は未開の地」は、事実と一致しない神話である 落合: それに加えて、かなり誤解もあると思っています。 乾さんのはじめの言葉は間違いではなくて、訪問看護はひとりで訪問する。でも、病棟看護もひとりなんです。ベッドサイドに行くのはひとりで、何かあったら相談する。エマージェンシーが起こったら応援を呼ぶ。病院でも在宅でも、ベッドサイドにいるのはひとりであって、それは一緒なんですよ。 もっと言うと、在宅には家に帰っていい人か、家で亡くなる覚悟を持った人しかいないんです。なのになぜか、高度医療を24時間365日支えている大学病院の看護師は、新卒も多くて年齢は若い。家に帰っていい人か、家に帰ると覚悟を決めた人しかいない在宅看護は、新卒には務まらなくて40歳代のベテランじゃないと支えられないと思われている。これも結構な勘違いだと。 中原: うん、なるほど。 落合: 病院看護がすごく完成された場所で、訪問看護は未開の地のような、事実ではない価値観もあるなと思います。 中原: おそらく長い間かけて作られてきた「神話」みたいなものですね。そう伝えられてきて、多くの人が信じてしまっているけれど、今のリアルと必ずしも一致しない。そういったものは解除する必要がありますね。 >>次回「学び直しの機会を提供することが重要」はこちら 落合実18歳から有床診療所、大学病院、訪問看護ステーションと、働く場所を移しつつ一貫して臨床看護に携わる。現在は、福岡にUターン移住し、ウィル訪問看護ステーション福岡の経営と現場を継続しながら、医療法人や社会福祉法人、ヘルステック系企業のコンサルティングも提供。ウィル株式会社は、訪問看護ステーション事業とフランチャイズ展開のほか、記録システムの開発・販売、採用支援、eラーニング開発・支援などを手掛けている。「スイミー」で小さな魚が集まって苦境を乗り越えられたように、皆で集まることでナレッジシェアができる組織を目指している。乾文良大手ITシステム会社、商社勤務を経て、2016年に株式会社エピグノを共同創業。エピグノで開発・販売している人材マネジメントシステムは、医療・介護領域に特化している日本初の製品であり、モチベーションやエンゲージメントを測定することが特長。エンゲージメントやモチベーション状態が具体的な指標にもとづいて測定され、その見える化を通し、組織と経営両面の健全化を図ることができる。中原淳「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、組織開発について研究している。著書に、「職場学習論」「経営学習論」「人材開発研究大全」(東京大学出版会)、「組織開発の探究」(中村和彦氏との共著、ダイヤモンド社)、「研修開発入門」「『研修評価』の教科書」(ダイヤモンド社)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)、「残業学」(パーソル総合研究所との共著、光文社新書)、「フィードバック入門」「サーベイ・フィードバック入門」「話し合いの作法」(以上、PHP研究所)など多数。記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)全国訪問看護事業協会訪問看護ステーション数調査2)全国訪問看護事業協会.「訪問看護ステーションのサービス提供の在り方に関する調査研究事業」2004.3)「第13回8次医療計画等に関する検討会」資料2.厚生労働省,2022.https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000979702.pdf2022/12/15閲覧 * * * * * ■ナースペーススタディ訪問看護スタッフ向けの完全オンライン教育サービス。専門看護師・認定看護師など、経験豊富な講師陣がスタッフ教育をサポート

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