記事一覧

インタビュー
2022年3月15日
2022年3月15日

ソーシャルワーカーが地域での受け入れ体制を支援

精神科訪問看護に特化して運営しているN・フィールド。実際のサービス提供は、一般の訪問看護とどう違うのだろう。今回は同社の看護師・中村創さんと、精神保健福祉士・谷所敦史さんに、現場で感じる感覚について語っていただきました。(以下敬称略) お話中村 創 株式会社N・フィールド 看護師谷所 敦史 株式会社N・フィールド 精神保健福祉士 精神科病院ができることには限界がある [中村]精神科病院を受診する患者数は、年々増加しています。2002年には約224万人だった外来患者数は、2017年には約389万人まで増加(注1)。現在は400万人を超えているのではといわれています。 一方で、指定訪問看護ステーション数は、2021年6月現在、全国で約1万3000拠点(注2)。患者数に比べて圧倒的に少ないうえ、すべてのステーションが精神科訪問看護に対応しているわけではありません。 この圧倒的な数の不足が、訪問看護、なかでも精神科訪問看護の難しさだと思います。しかしだからこそ、これからどんどん変化が出てくるところにやりがいを感じています。 訪問看護に注力すると、病棟で看護していたときより、患者さんの変化に気づくことができるようになります。それを目の当たりにした看護師もまた変わっていきます。 精神科訪問看護はまだ試行錯誤のなかにあると思いますが、そういう相互作用の繰り返しが変革をもたらすところに、やりがいも、おもしろさもあると思っています。 [谷所]私は触法障がい者(注3)を支援する病棟で勤務していた経験があるのですが、そういう方たちの退院を支援するには、地域とのつながりが必須となります。しかし病院では、できることに限界があります。だから私は地域で活動したいと考え、N・フィールドに入社しました。 現実には、訪問看護ステーションに勤務するソーシャルワーカーはまだまだ少数です。しかしだからこそ、この先、もっと道がひらけていくと考えています。 10年、20年入院している方を病院が退院させるのが難しいなら、地域のほうで働きかけ病院から外に出ていただこうと思っていて。「私たちが地域で支えていくので退院させてください」と言えたらいいですよね。 地域の理解が社会復帰の潤滑油に [谷所]地域での受け入れ体制を整備するため、N・フィールドでは「住宅支援サービス」も行っています。 「住宅支援サービス」とは、精神疾患があるなどさまざまな理由によって、地域での住居探しが困難な人に住居を見つけ、入居後も訪問看護師と連携しながら生活をサポートしていくサービスです。 このサービスも含め、国の政策の一つでもある長期入院の解消を進めるにはどういう活動ができるかを考えていく。そこが面白いのです。社会的入院からの社会復帰は以前よりは増えてきていますが、まだ十分とはいえませんから。 [中村]そこには、地域での精神疾患のある人への理解度が大きく影響していると思います。 ある町内会では、地域の清掃活動に精神科の外来患者さんも加わり、住民と一緒に清掃をしています。清掃が終われば、住民が精神疾患のある人にもごく自然に「参加してくれてありがとう」と声を掛けてくれる。そういう地域と、人里離れた山の上に精神科病院があって精神疾患のある人と出会ったこともない地域とでは、精神疾患に対する受け止めはまったく違います。 ソーシャルワーカーがいることの意味 [谷所]地域で何か事件を起こした人に精神科受診歴があると、それによっても空気が変わります。そうした報道があると、精神疾患がある人の地域復帰のハードルは一気に高くなってしまいます。 事件に至る人は非常に特異なケースです。しかし、そうした人も地域で支える何かがあれば違っていたのではないかと感じます。その「何か」の一つが、精神科訪問看護でありたい。 そういう意味で、地域でもっと訪問看護を知ってもらいたいですし、もっとうまく活用してほしい。地域で医療につながっていない方も、私たちソーシャルワーカーが動くことでつなげていければと考えています。 実際、保健所などからの依頼で、契約していない人の家に同行訪問することもあります。そうした社会貢献も当社のソーシャルワーカーの役割です。 ソーシャルワークに出会えていない人に支援を届けていくことで、訪問看護を知ってもらえますし、地域のメンタルヘルスケアにも貢献できます。全国規模の会社ですから、そこを丁寧にやっていきたいと考えています。 [中村]精神疾患を持ち、つらい思いをした時期があってもそこから立ち直り、しっかり生活できている。それを、医師や支援者ではなく、経験した本人が語るほうが、よほど説得力があります。北欧では、先行く先輩としてそうした人たちを「経験専門家」と呼んでいます。経験を語る場の提供に、当社もかかわれたらと考えています。 注1 厚生労働省.『精神疾患を有する外来患者数の推移(疾病別内訳)』『精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築のための手引き(2020年度版)』2021,5.注2 一般社団法人全国訪問看護事業協会.『令和3年度訪問看護ステーション数調査結果』注3 触法障がい者とは、法に触れる行為をしてしまった知的障がい者・精神障がい者をいいます。 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年3月22日
2022年3月22日

【短期記憶障害】認知症患者が同じ話を繰り返す原因&対応を解説

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第5回は、同じ話を繰り返し、説明したことを守ってくれない患者さんの行動の理由を考えます。 事例背景 80歳代、女性。つじつまの合わない言動がみられ、同じ話を何度も繰り返している。レビー小体型認知症があり、下肢の筋力低下もあり、歩行時にふらつきがみられる。 本人はもともと自立心高く活動的である。転倒リスクのため、移動したいときは一人で動かず、介助者を呼ぶように伝えているが、決して人を呼ばない。これまでも転倒を繰り返し、出血斑が多数ある。 なぜ患者さんは、同じ話を何度も繰り返すのか? 認知症の症状の一つに、記憶障害があります。 記憶は、▷覚える(記銘) ▷保存する(保持) ▷必要なときに思い出す(再生) ── の、三段階から成り立っています。そして記憶障害には、短期記憶障害と長期記憶障害の二種類があります。 短期記憶障害 数分前に起こったことなど、新しい事柄を覚えることができない長期記憶障害昔からしてきたこと・知っていたことを忘れる ・エピソード記憶・意味記憶・手続き記憶 認知症では、数分前に起こったことを思い出せない短期記憶障害と、自分が体験したことなどを忘れてしまうエピソード記憶障害がみられることがあります。 また、多くの情報を一度に処理できません。自分の言いたいことや頭に浮かんだことを繰り返して話をしていると思われます。 なぜ患者さんは説明を無視して一人で動くのか? 短期記憶障害のため、そもそものコミュニケーションがとりにくい状態です。「どこかに行かれる際は、手伝うので、人を呼んでくださいね」と説明していても、そのこと自体を忘れてしまっている状況だと考えましょう。また、患者さんはもともと自立心が高く、活動的な人です。「一人で動ける」と思っています。 繰り返す言動への対応 患者さんの行動の理由 患者さんは、記憶障害のために、聞いたことや言ったことを忘れてしまい、同じ話を繰り返していると考えられます。そして、繰り返し聞いてくる内容は、患者さんが気になっている・困っている・不安に思っていることなどの場合もあります。さらに、一度に多くの情報が処理できないので、自分の言いたいことだけに注意が向いてしまう場合があります。 対応の一つとして、訴えている理由や気持ちをしっかり聞いて、安心できるようにすることや、原因を推測しながら対応を重ねていくことも大切です。 同じことをあまりにも繰り返す場合は、「テレビを見ますか?」などと声を掛けて、別の物や場所へ興味・関心が向くように接してみるのもよいかもしれません。 患者さんを不安にさせない対応 患者さんと話がかみ合わず、看護師もイライラやストレスを感じることがあるかと思います。また、つい感情的になって強い口調で対応してしまったり、いい加減な対応をしてしまうかもしれません。 しかし、そんな対応をとられると、患者さんはプライドを傷つけられ、不安に感じます。看護師には、「患者さんは初めて話しているんだ」と思って対応する態度が求められます。 転倒の危険性 加齢の変化とともに、転倒や転落といった事故に遭遇するリスクは高くなりますが、認知症を患うことで危険の察知や予測、的確な判断を下す能力の低下などにより、そのリスクはさらに高くなります。 レビー小体型認知症の症状 レビー小体型認知症は、認知機能障害だけでなく、パーキンソン病のような運動機能障害があるのが特徴的で、幻視もみられます。初期には記憶量が軽度であることが多いですが、日によって認知機能も変化します。 レビー小体型認知症では、パーキンソン症状による運動機能の低下、認知機能障害、注意障害が原因となって転倒を繰り返すことがあります。さらに、自律神経障害をきたすことがあり、起立性低血圧からも転倒を起こす危険性があります。 患者さんの行動パターンから予測する 生活パターンの把握や排泄行動を観察することで、患者さんの行動を予測しながら支援することも大切です。患者さんがそわそわしたり、物音がしたり、何らかの身体的サインがみられる場合は、「何か用事はありませんか?」「そろそろ、トイレに一緒に行ってみませんか?」と、排泄パターンに合わせて声を掛けてみるのも効果的です。 一人で行動する背景には何らかの理由があると考え、その理由を、行動や発言から把握することです。 こんな対応はDo not! × 何度も聞いた話なので無視したり、いい加減な返事をする× 「この前も説明しましたよ」と指摘し、責める× 「なぜ一人で歩いたんですか!」「危ないでしょ」と叱る 執筆浅野均(あさの・ひとし)つくば国際大学医療保健学部看護学科 教授 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)松下正明ほか監.『個別性を重視した認知症患者のケア』改訂版.東京,医学芸術社,2007,166p.2)鷲見幸彦監著.『一般病棟で役立つ!はじめての認知症看護』東京,エクスナレッジ,2014,213p.3)川畑信也.『これですっきり!看護・介護スタッフのための認知症ハンドブック』東京,中外医学社,2011,128p.4)清水裕子編.『コミュニケーションからはじまる認知症ケアブック』第2版.東京,学研メディカル秀潤社,2013,173p.5)飯干紀代子.『今日から実践認知症の人々とのコミュニケーション』東京,中央法規出版,2011,142p.6)鈴木みずえ編.『急性期病院で治療を受ける認知症高齢者のケア』東京,日本看護協会出版会,2013,232p.7)日本認知症ケア学会編.『改訂・認知症ケアの実際Ⅱ:各論』東京,ワールドプランニング,2008,300p.8)日本神経学会監.『認知症疾患治療ガイドライン2010』東京,医学書院,2011,256p.9)本間昭監.『認知症のある患者さんのアセスメントとケア』ナツメ社.2018,142-3.

特集
2022年3月22日
2022年3月22日

クローン病

クローン病は、長期にわたる栄養療法が必要となる場合が多く、QOLへの影響が大きい内部障害の一つです。 病態 クローン病は、潰瘍や線維化を伴う炎症が、消化管に生じる疾患です。口腔から肛門までの消化管のあらゆる部位で起こる可能性があります。小腸と大腸、なかでも小腸末端部で好発します。特徴的なのは病変の分布で、病変部と病変部の間には正常な部分がみられます。 クローン病の原因は諸説あり、遺伝的要因に、ウイルスや細菌などの感染や腸内細菌叢の変化、食事中の成分を抗原とする反応など環境要因が複雑に絡みあった結果の、免疫系の異常反応と考えられています。 クローン病は、炎症性腸疾患(大腸や小腸の粘膜に、慢性的な潰瘍や炎症が起こる疾患)に分類されます。他には潰瘍性大腸炎も炎症性腸疾患です。どちらも難病に指定されています。 潰瘍性大腸炎は、炎症が生じる部位が大腸粘膜に限られていて、クローン病とは発症年齢や男女比なども異なります。 疫学 クローン病が好発するのは10歳代~20歳代の若年者で、男女比は約2対1と男性に多い疾患です。最多発症年齢は男性で20~24歳、女性では15~19歳です。クローン病は先進国で多い疾患で、特に北米やヨーロッパでの発症率が高く、環境衛生や食生活が大きく影響していると考えられています。動物性脂肪やたんぱく質の摂取量が多く、生活水準が高いほど発病しやすいと考えられています。喫煙も発病リスクの一つとされています。 欧米ほど発症頻度は高くありませんが、日本でも近年患者数は右肩上がりです。 2019年度末時点のクローン病での受給者証所持者数は、約4.5万人に上ります。患者数のピークは30~40歳代で、年齢が高くなるにつれ減っていきますが、75歳以上の患者もいます。 症状・予後 症状は、患者によっても、またどの部位に病変があるか(小腸型、小腸・大腸型、大腸型)によっても異なり多様です。主な症状は下痢、腹痛ですが、発熱、下血、体重減少や全身倦怠感、貧血などもよくみられ、痔瘻などの肛門病変もしばしば伴います。 狭窄や穿孔、瘻孔を合併することがあります。また、関節炎や虹彩炎、結節性紅斑などの皮膚症状、成長障害など消化管外の合併症も多く、症状には個人差があります。長期経過例では下部消化管悪性腫瘍のリスクが高まることも知られています。 治療法 薬物療法と栄養療法が基本です。消化管狭窄・穿孔、膿瘍などの合併症に対しては、手術も適応になります。各種治療を組み合わせて、活動期は疾患の活動性を制御し、栄養状態を維持しつつ、寛解期は炎症の再燃・再発を予防が治療の目標になります。 近年の薬物療法の進歩により、多くの患者で寛解状態に至ることが可能になっていて、将来は手術の必要な患者は減っていくと予想されています。ただし、症状が小康状態でも病状は進行すると考えられているため、治療の継続や定期的な検査が大切です。 薬物療法 症状がある活動期には、5-アミノサリチル酸(ASA)製剤、ステロイド、免疫調節薬などが用いられます。5-ASA製剤や免疫調節薬は、症状改善後も再燃予防の目的で継続的に使用します。これらの治療法では効果が十分でない場合は、分子標的治療薬(抗TNFα受容体拮抗薬)が用いられます。血球成分除去療法が適応になる場合もあります。 栄養療法 栄養療法の目的として、栄養状態の改善に加え、腸管の安静維持や食事からの刺激の回避などによる症状改善も重要です。栄養療法には、経腸栄養法(成分栄養)と中心静脈栄養があります。経腸栄養法は長期の管理となることから、脂肪製剤の静脈投与などが必要になります。 短腸症候群などで経腸栄養ができない場合には、中心静脈栄養の絶対的適応です。近年、TPN管理下でのセレン欠乏が報告されているため、セレン欠乏症による諸症状(心筋障害など)も知っておくとよいでしょう。 一般の食事に関しても、低脂肪・低残渣の食事が推奨されていますが、病変部位や消化吸収機能によっても異なるため、主治医や管理栄養士と相談して病態上許容可能な食品を探します。 看護の観察ポイント 経口摂取や消化吸収の不良により栄養状態が悪化しやすいため、定期的に採血データのアルブミン値やBMI値を把握し、大きな体重変動は医師と情報共有することが大切です。下痢により体液量や電解質バランスが崩れることがあるため、排泄状況などの確認も重要です。再燃・再発予防のための服薬も適切に行われているか、把握しておきましょう。経腸栄養法や中心静脈栄養を利用している患者には、栄養状態のほか、その管理方法にも目を配り、必要ならば使用法を助言します。 監修あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇難病情報センター.『診断・治療指針(医療従事者向け)』『クローン病(指定難病96)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/219〇難病情報センター.『病気の解説(一般利用者向け)』『クローン病(指定難病96)』https://www.nanbyou.or.jp/entry/81〇「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班).『大腸炎・クローン病診断基準・治療指針』厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業.令和2年度分担研究報告書.2021.〇厚生労働省.『難病・小児慢性特定疾病』令和元年度衛生行政報告例.2021-03-01.

インタビュー
2022年3月22日
2022年3月22日

精神科訪問看護師は利用者を孤立させない

精神科訪問看護に特化するN・フィールド。今回は精神科訪問看護で求められていることについて、取締役の郷田泰宏さん、看護師の中村創さん、精神保健福祉士の谷所敦史さんに語っていただきました。(以下敬称略) お話郷田泰宏 株式会社N・フィールド 取締役中村創 株式会社N・フィールド 精神看護専門看護師谷所敦史 株式会社N・フィールド 精神保健福祉士 精神病床でも在院期間が年々短縮化 [郷田]精神疾患も含め、病気の治療は基本的には病院で行われるものです。しかし入院治療をみると、医療費適正化政策によって入院期間は年々短縮化が進められています。 2010年には18.2日だった一般病床の平均在院(入院)日数は2019年には16.0日に。精神病床においても、2010年に301.0日だった在院期間が2019年には265.8日に短縮されています。 一般診療科も精神科も、病院での治療が終わったら、リハビリテーションなども含めたフォローは在宅で。今、日本の医療はそうした方針で動いているのです。 治療継続と孤立防止 [郷田]そこで、私たち精神科訪問看護が担うのは、治療の継続です。 精神疾患は、病院での治療が終わればそれで完治というものではありません。慢性疾患に近い側面があり、病院で集中的な治療を受けた後の継続的な治療において、当社のような訪問看護の役割があると考えています。 一方で、精神科訪問看護では、利用者さんを「疾患や障がいのある人」としてみるだけでなく、「地域で暮らす生活者」としてみる視点も必要です。 社会資源と結びつけることで終わらずに [郷田]精神の疾患や障がいを持つ人は、いろいろな症状の影響で、どうしても孤立しがちです。そこを、私たち訪問看護師が、デイサービスや就労移行支援事業所など、地域の社会資源との間に入って調整する、孤立させないようにする。 疾患や障がいがある人も、自分たちの居場所を求めています。そういう人々に、居場所や役割を提供していくこと。そして、単に社会資源と結びつけるだけでなく、利用者さんが今どういう状態にあるかという情報提供をすることも、訪問看護師の大事な役割だと考えています。 何かあったときに、利用者さんがすぐに相談できる存在として、私たち訪問看護師がいる。 訪問看護師は、在宅医療の一つのパーツにすぎません。利用者さんを中心に、地域のサポート資源全体で支えていく。そのために、私たち精神科訪問看護を上手に使ってもらえればと考えています。 生活を自分で成り立たせるサポート [中村]当社の利用者さんは、約4割が統合失調症系の疾患のある人です。次いで、依存症系、うつなどの感情障害系、パーソナリティ障害系の人が多い傾向にあります。実際に訪問すると、案外、自分で生活できている人が多い印象です。そこで私たちが果たす役割は、生活をご自分で成り立たせることへのサポートだと考えています。 実際に在宅で利用者さんを支援していると、精神科訪問看護に対する医師からの要望は、主に二つあります。一つは、利用者さんが在宅で安定して生活できているかどうかの確認。もう一つは内服状況の確認です。 精神疾患のある人は、ある程度生活ができていても、ちょっとしたことでつまずき、そこから生活がガタガタと崩れてしまうことがあります。私たちはそうならないよう、対処法を一緒に考えたり、部分的に手をお貸ししたりするわけですが、かといってできないことを肩代わりしてもいけない。この調整が、実はいちばん難しいと考えています。 看護師とは異なる側面からの支援 [谷所]当社では、看護師だけでなく、ソーシャルワーカーや作業療法士も参画し、多職種チームで利用者さんをサポートしています。私はソーシャルワーカーとして、看護師とは異なる側面から、在宅生活を円滑に送れるよう支援しています。 利用者さんには、偏食や過食がある、生活リズムが一定しない、金銭管理ができないなど、生活障害を抱える人も多くいらっしゃいます。経済的支援や地域サービスによる支援が必要でも、それをご自分で見つけるのが苦手な人もいらっしゃいます。そうした人と、支援制度や支援機関などの社会資源とをつないでいくのが、私たちソーシャルワーカーの役割です。 最近は、外来患者のソーシャルワーク担当制を採用していない病院が少なからずあり、そうした病院から「外来患者の障害年金の申請を手伝ってほしい」といった依頼が来ることもあります。 病院と連携して、病院では手が回らないところを請け負い、調整しながら利用者さんの生活を支えていく。地域でそうした役割を担うことも増えてきました。 医療だけでは支えきれない部分を、ソーシャルワーカーがカバーしていく。さらには、ゴミの出しかたや洗濯機の使いかたがわからないなど、小さいようで本人にとっては大きな悩みに、作業療法士が対応し生活の底上げを図っていく。 各職種が強みを生かし、多角的な支援を行うことによって、精神疾患のある人の在宅生活を支えているのです。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)厚生労働省.「平均在院日数」『平成22年(2010)医療施設(動態)調査・病院報告の概況』2010,22.2)厚生労働省.「平均在院日数」『令和元年(2019)医療施設(動態)調査・病院報告の概況』2019,21.

特集
2022年3月22日
2022年3月22日

訪問看護あるある座談会 vol.11 オンコール編

訪問看護では付き物のオンコール。いつ電話が鳴るかドキドキ…という体験があるのではないでしょうか。今回は訪問看護師さん3名にお集まりいただき、訪問看護でのオンコールのあるあるトークをしていただきました。 ■座談会に参加してくれた看護師さんプロフィール かずもともとヘルパーとして働いていたが、訪問介護先で出会った訪問看護師の仕事に魅力を感じて看護師になる。現在は訪問看護師2年目。 けん家族の在宅看取りの経験から訪問看護師を志す。急性期病院で2年働いたのち、地方の訪問看護ステーションに就職。訪問看護師4年目。 みほ訪問看護の実習で暮らしが見える面白さを感じ、新卒から訪問看護師になる。オンコールやプリセプターもしている中堅ナース。訪問看護師6年目。 ドキドキだけどやりがいもあるオンコール担当 空耳だけど聞こえてくる着信音 かず:オンコールは3ヶ月くらい前から始めたばかりです。 みほ:オンコールは初めての経験かと思うのですが、電話持っていてドキドキしませんか? かず:いや、もうそれはドキドキしますよ。夜はいつかかってくるか分からないので、お風呂もいつ入ろうかタイミングが分からなくて。 けん:あるある! かず:やっぱりあるあるなんですね。(笑)持って最初に鳴った電話が、なんと間違い電話だったんですよ。訪問している方やよく電話が来る方ならまだいいのですが、あまり知らない利用者さんからの電話が来たらどうしようと思いますね。 みほ:何の疾患で何のお薬飲んでいるかとかの基本情報から確認が必要なこと、あるあるですね。 けん:ちなみに、夜中に起きては携帯をパカパカ開いちゃうんですけど、ありますか? かず:それはもちろんあります。中途覚醒がすごくて…。 けん:そうそう。寝落ちした時に「やばい!」って起きてパッと電話開いて、着信来てないとホッとします。病院の心電図モニターみたいに「あれ、電話鳴ってる?」ってなります。 かず:僕はまだ大丈夫なんですけど、他の先輩はよく空耳があるって言っていますね。 けん:僕は始めたばかりのころは週2〜3回くらいオンコールを持っていたので慣れるのも早かったんですけど、週1回だと慣れるのが大変そうですね。 かず:まだ慣れないですね。新規の利用者さんも来ますし、ある程度は情報収集しているんですけど、1週間で状態も変わりますし。先輩の緊急訪問の記録を見て、これが自分だったらどんな対応ができていたかな、って考えることもありますね。 みほ:救急搬送とかも最初は焦りますよね。 かず:そうですね。私はまだ1人で決めることはないのですが、でも緊急性が高くて迅速な対応をしなくてはならない場合に、もちろん先輩や医師に相談するし、でも現場に向かわなきゃならないし、一人前になるのは本当に大変です。それはもう繰り返しやるしかないんだろうな、と思います。 けん:一人前ってよく言われますけど、僕もまだわからないこともあるし、その時は所長に電話して聞いちゃいますし、訪問の独り立ちって定義が難しいなと思いますね。 みほ:独り立ちとは言われているけれど、私も全然聞いていますね。相談できる環境があるのがベストだと思っていて、一人で訪問はするけど、一人で抱え込まなくていいのかなと。 ドラマよりドラマティックな体験も けん:かずさんはオンコール持ち始めて、緊急訪問はしましたか? かず:今まで3回は訪問しましたね。1回は「もう息をしてない」って連絡があって、着いたらもう心音も停止していて、息もしていなくて。それが最初の緊急訪問でしたね。 けん:最初からお看取りだったんですね。 かず:そうなんです。その方はがんのターミナル期だったんですが、あと1週間とか1ヶ月とかそういう状況ではなくて、ゆくゆくは自宅でお看取りという話だったんです。私が担当していた利用者さんで、その前の週も訪問して「また来週も来ますね」って話していたところだったんです。奥様が起きたら亡くなっていたそうで、急変した、というか、安らかに息を引き取られましたね。 みほ:かずさんが担当していた利用者さんだったからこそ、かずさんのオンコールのタイミングのご逝去だったのかもしれないですね。 かず:同行した先輩も同じようにおっしゃっていました。先輩も契約の時に一緒に訪問してくれていたので、そういうタイミングだったのかもしれません。奥様が後悔はなくやり切ったとおっしゃっていて、そのときに自分が看護師になって本当によかったなって思いました。緊急電話を持たないとできない体験だったかもしれません。 みほ:突然のご逝去ってオンコールを持っていないと立ち会えない場合が多くて、運命的な何かがあるのではないかと思います。けんさんは同じような経験とかありますか? けん:そうですね。僕が訪問していた利用者さんで、結構お元気な方だったんですけど、週末に「最近寝ている時間が増えた」って奥さんからコールがあったんです。大きく体調は変わりなかったので経過観察になっていたんです。週明けに僕が訪問して挨拶したら、「ああ」って言って手を挙げてくれたんですが、そのタイミングで息が止まっちゃって。僕もびっくりして「〇〇さん!」って大きい声で呼んだり、奥さんにも「急なことだけど大丈夫ですか」って声かけたりして。何度もご逝去時の訪問はしていたので慣れているつもりだったんですけど、呼吸が止まる瞬間に立ち会うのはその時が初めてで、今思うと相当テンパっていましたね。自宅にいたいと話していたので、最後まで家で過ごせたのは良かったんじゃないかと思います。それが最近あった、びっくりしたお看取りでしたね。 みほ:待っていたんですかね。 けん:みんなにそう言われます。長く担当していた利用者さんで、今は奥さんのところに訪問させてもらっています。ドラマよりドラマティックですよね。人生の少しだけしか関わってないけど、人生を見せていただくありがたみとか、やりがいや幸せを分けてもらっているところもありますよね。記事編集:NsPace

コラム
2022年3月29日
2022年3月29日

父親の背中

ALSを発症して6年、40歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は、梶浦さんの「いちばんの治療薬」のお話。 将来はお医者さんになる 私の家には、私が講義をしている大学の看護学部の学生たちが、何人もヘルパーとして働きに来ています。その学生たちに、なぜ看護師になろうと思ったのか聞いてみたら、「キッザニアの職業体験で興味を持ったから」「助産師になりたかったから」「災害看護に興味があったから」などさまざまな意見がありました。いちばん多かったのは、「親が看護師や医師などの医療職だったので、その影響を受けた」というものでした。 実は私も、父親が医師(外科医)です。祖父も医師で叔父たちも医師という、医師家系で育ちました。周りに医師以外の職業がいなかったので、物心ついたころから、自分も将来医師になるんだろうと思っていました。 今でも覚えていますが、小学校受験のときのことです。 面接官に「将来何になりたいですか?」と聞かれ、「お医者さんになりたいです」。「なぜお医者さんになりたいんですか?」と聞かれて、「お腹を切りたいからです」と答えました。その小学校には落ちたらしい……(笑)。 カッコよかった父親の姿 そんな感じで、何となく、幼稚園児のころから医師という職業に興味を持っていましたが、小学校低学年でそれが確信に変わりました。 小学校1年生のある日、それまで元気いっぱいだったのに、急に血尿を出して倒れました。急いで父親の勤務先の病院に行って検査すると急性糸球体腎炎という病気で、そのまま一か月間入院しました。 そこで初めて父親の白衣姿を見ました。 ふだん家では、お酒を飲みながらテレビを見てぐーたらしている父親が、いろいろな人に「先生」と呼ばれて慕われていました。その姿が、とてもカッコ良く、誇らしかった。 そのときに、自分も将来お医者さんになろうと強く思いました。 「いいなあ、パパは」 自分にも息子ができて一人の父親になりました。私は息子が2歳のときにALSになったので、息子は病気になってからの私しか覚えていません。 もし病気になっていなかったら、たくさん一緒に遊んで、休みの日はサーフィンやバスケ(私は小学校から大学までずっとバスケ部だったので)を教えたり、勉強を教えたり、とにかく大好きな息子と一緒にいろいろなことをしたかった。そしてバリバリ働く父親の背中を見せてあげたかった。 今の息子には父親はどう映っているのだろうか。そんなことを何となく考えていたある日、息子にこんなことを言われました。 「いいなぁパパは、毎日寝ながらテレビを見てて楽しそうで。宿題もないしさー」 息子には寝ながらテレビを見ている父親として映っているのか!?と思いつつ、楽しそうに映ってくれているのであればいいかと思い、少し安堵しました。 いちばんの治療薬だ 息子も今では8歳になります。 息子には「パパはALSっていう、全身の筋肉がだんだん動かせなくなっていく病気なんだよ」と、小さいころから、病名や症状を包み隠さず伝えています。そのため、息子も幼いながら私の病気を何となく理解してくれています。そして、毎年七夕やお正月などの行事のたびに「パパの病気が早く治りますように」とお願いごとをしてくれます。 そんな息子の気持ちに後押しされて、「どんな状態になっても今できることを最大限頑張ろう。そしていつまでも息子にとって尊敬できるカッコいい父親でいたい」という前向きな気持ちになれます。どんな治療薬よりも、息子の存在がいちばんの治療薬だ! 息子よ、いつもありがとう!! 宇宙一のお医者さん そんな息子が最近、「将来は宇宙一のお医者さんになる!」と言いはじめました。 宇宙に医師はいるのか!?と心の中でツッコミつつ、スケールの大きい夢をキラキラした目で語ってくれる息子を微笑ましく見ていました。 私の家は医師家系ですが、親に「医師になりなさい」と言われたことは一度もありません。私も息子には好きな仕事についてほしいと思っています。 ただ、ベッドにへばり付いているこんな父親の背中が、少しでも息子に影響を与えられているのであれば、素直に嬉しいなぁと思うのです。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣 記事編集:株式会社メディカ出版

インタビュー
2022年3月29日
2022年3月29日

専門性を押しつけない支援で利用者を支える

精神科訪問看護に特化して運営しているN・フィールド。今回は訪問先での主要な仕事の一つでもある服薬について、取締役の郷田泰宏さん、精神看護専門看護師の中村創さんにお話をうかがいました。(以下敬称略) お話郷田泰宏 株式会社N・フィールド 取締役中村創 株式会社N・フィールド 精神看護専門看護師 服薬中断という現実 [郷田]私たちは、精神疾患のある人を、病院から地域へと定着させる役割を担っています。サービスに入らせていただき徐々に利用者さんの地域での生活が落ち着いてきたと思っていたら、デイサービスなどへの通所が滞りがちになることがあります。その背景には、多くの場合、服薬の中断という現実があります。 調子が悪くなったとき、その変化を訪問看護師がいち早くキャッチし、医療との橋渡しをすることが大切です。薬の調整ですむ場合もありますし、入院になったとしても重症化する前に入院できれば、早期退院につながります。 早期対応によって調子を取り戻し、早く元の生活に戻っていただけるよう支援する役割を、訪問看護師は担っていると思います。 [中村]実際に訪問していても、病院で薬を処方されても、症状が治まるとつい服用を忘れてしまう。あるいは自己判断でやめてしまう利用者さんは、実は多いです。一般診療科でも、服薬の継続はしばしば課題になりますよね。高齢者や認知症の人も同様です。 向精神薬には副反応が強く出たり、期待する効果が出るまでの服薬継続に努力を要したりするものもあり、どうしても在宅ではご自身で管理しきれず、服薬の中断が起こりがちなのです。 「吐き気が出るから飲みたくない」ケース [中村]利用者さんに、「この薬は飲みたくない」と言われたことがありました。吐き気が強く出る抗うつ薬でした。 まず利用者さんに、その薬の作用を聞いているかお尋ねしました。「セロトニンをためておく作用があると聞いた」と答えてくださいました。そこで、「セロトニンは、たくさんたまると嘔吐中枢のスイッチを押す場合もあるんです」と伝えました。「それは知らなかった。医者から言われたかもしれないけれど、忘れていた」ともおっしゃいました。 専門性を引き出しに備えておく [中村]それから、脳の機能について説明しました。薬で増えたセロトニンの量を、脳が『これぐらいが一定なのか、じゃあ、もう吐かなくてもいいや』と学習するのに、2~4週間かかるんですよ、という説明です。その利用者さんは、飲みはじめて1週間でした。 さらに、「あまり吐き気がつらいようなら吐き気止めを処方してもらえるよう主治医に連絡しましょうか」と提案しました。制吐薬の処方により、実際吐き気が治まったことで、利用者さんは納得し、服用を継続することができました。 セロトニンについての情報提供のような、医療職としての専門性は、いつも引き出しには用意しておきます。でもいつも出すわけじゃない。あなたの必要に応じて発揮しますよ、というスタンスがいいのではないかと考えています。 「大丈夫かと思って飲まなかった」ケース [中村]もう一つは、利用者さんが「死ね」「消えろ」という声がしてとてもつらい、と訴えてきたケースです。そのとき私は、「それはいつからなのでしょうか。お薬も飲めているのにおかしいなぁ……」と、あえて独り言のように返しました。 すると、その利用者さんは「実は、大丈夫かなと思って、薬を飲まなかったんだよね」とポツリ。このような場合、服薬中断をとがめたり責めたりは絶対にしません。 私は「薬を飲んでいたときと、やめてみたときで何が変わりましたか」と尋ねました。「症状がなくなったから大丈夫と思って薬をやめたら、また症状が出てきた」と答える利用者さんに、「なるほど。ご自分では、そのことについてどう思いますか?」と問いかけました。 「症状が出たのは薬を飲まなかったからでしょ」というのは、こちらの考えの押しつけです。そうではなく、ご自分でそこに気づいてほしいわけです。 利用者自身が気づき、腑に落ちることが大切 [中村]この方は「じゃあ、ちょっと飲んだほうがいいかな」とおっしゃいました。そこで、服薬を続けるほうが症状は落ち着くし、自己判断で薬をやめて入院になる人も多いかな、という『一般論』を伝えます。ご本人が腑に落ちることが大切なのです。 自分の生活がうまくいっていることと、薬の効果が、実は関係がある。利用者さん自身がそう実感できて初めて、服薬は継続できるものです。その説明を抜きにして「ただ処方されているから飲んでください」ではうまくいかないですね。 重要なのは、薬を飲むか飲まないかではなく、利用者さん自身の生活の充足が実現されること。「生活の充足」というゴールに、薬を使ってたどり着く選択をするかどうかは、その人しだいです。私はそう考えて、「利用者さん自身が自分で気づき、選択するための支援」を行っています。 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年3月29日
2022年3月29日

「朝、起きたら左足だけが腫れていた」場合【訪問看護のアセスメント】

高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第7回は、朝起きたら片足だけが腫れていた患者さんです。さて訪問看護師はどのようなアセスメントをしますか? 事例 83歳女性。「朝起きたら左足だけが腫れていて、もったりとして気になる。昨日は何ともなかったのに……」と言っています。   あなたはどう考えますか? アセスメントの方向性 足が腫れているという訴えであるため、まずは、足の皮膚や皮下組織、筋肉や骨に炎症が生じ、腫脹が起こっていることが考えられます。 また、リンパや静脈系の循環障害による浮腫の疑いがあります。 リンパ浮腫とは、リンパ管の狭窄や閉塞のためにリンパ液が滲み出して浮腫となったものです。手術侵襲や、がんの浸潤により起こることが多いです。 静脈系の循環障害による浮腫は、静脈の閉塞や狭窄により静脈圧が上昇することで血漿成分が滲み出して起こります。深部静脈血栓症の場合、脳梗塞や肺梗塞など生命にかかわる疾患を引き起こす場合があり、発見したら速やかに医療につなげる必要があります。 ここに注目! ● 足が腫れているという訴えは、浮腫によるものか、局所の炎症による腫脹か?● 局所性の浮腫が考えられる場合、静脈系の循環障害か、リンパの還流障害か? まずは、炎症による可能性を念頭に置いてアセスメントします。そのうえで浮腫による可能性が高いと考えられる場合は、浮腫が静脈性なのかリンパ性なのかをアセスメントします。 局所炎症のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・炎症の症状(痛み、しびれ、熱感、腫脹)・原因・誘因となったこと(転倒や転落、打撲、外傷、虫刺され、など)・ADLへの影響 局所炎症のアセスメント②客観的情報の収集 体温測定 炎症が起きている場合、免疫反応として、発熱が起こる可能性があります。高体温になっていないかどうかを確認します。 浮腫の確認 浮腫の部位と程度を確認します。 外傷などによって起こる局所の炎症による浮腫は、脚全体ではなく障害のある部位にみられますので、左右差を比べながら確認します。 痛みに注意しながら触れ、圧痕がみられるかどうかを確認し、レベルを判定します。圧迫時間は5~20秒、指が沈み終わったら離し、その深さで判定します。 炎症徴候の確認 皮膚の傷や、骨折を思わせる症状がないかを確認します。骨折がある場合は、関節が不自然に曲がっていたり、発赤や強い腫脹がみられ、圧痛と熱感があります。 炎症の徴候を確認するために、発赤と熱感を確認します。熱感については、熱に敏感な手背を使って確認します。人の皮膚温はさまざまなので、症状を訴えている側だけでなく、左右同時に触れてその差を確認します。 関節可動域 関節を動かせるかどうかを確認します。炎症がある場合は、動かすことで痛みが生じる可能性が高いので、確認しながら行います。どの程度の可動域制限があるかを、左右比較して観察します。 静脈系・リンパ系の循環障害のアセスメント①主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと) ・静脈系末梢循環障害の症状(張るような痛み、重苦しさ、浮腫の日内変動、動かしにくさ、など)・リンパ系循環障害の原因・誘因(がんや手術の既往、など)・静脈系末梢循環障害の原因・誘因(急な臥床安静、歩行制限、下肢運動量の減少、下肢の圧迫、など)・ADLへの影響 静脈系・リンパ系の循環障害のアセスメント②客観的情報の収集 浮腫の確認 浮腫の部位と程度を確認します。 循環障害による浮腫は、血管の閉塞・狭窄の位置より下部に生じますが、皮下組織への水分の貯留が進むと足全体に生じることも多いです。 圧痕がみられるかどうかを確認し、レベルを判定します。圧痕がみられない腫脹の場合は、周囲径を計測することで、客観的な観察ができます。周囲径を計測する際は、体位および測定部位の関節からの距離を記録しておきましょう。 末梢循環の確認 静脈系の末梢循環障害では、皮膚色の変化はみられないことが多く、静脈瘤や慢性の炎症がある場合は赤茶色の変色がみられることがあります。動脈系の障害ではないので、皮膚温は保たれ、足背動脈などの末梢の脈も触知できます。 皮膚の視診・触診 リンパ浮腫では蜂窩織炎となっている場合もあります。蜂窩織炎では広範囲に発赤があり、腫脹し、熱感や痛みがあります。放置すると組織の壊死をきたしますので、速やかな治療が必要です。 報告のポイント ・浮腫の部位と程度、左右差がみられること、全身性の浮腫ではないこと・外傷や骨折などの筋骨格系の障害によるものか、その判断理由・静脈・リンパ系の循環障害によるものか、その判断理由 執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年3月29日
2022年3月29日

訪問看護関連の「ここがポイント!」/令和4年度 診療報酬改定・決定版 前編

令和4年度診療報酬改定の具体的な内容が確定しました。このシリーズでは、訪問看護関連の改定項目のうち、主に訪問看護ステーションの運営や収益に関わるポイントを解説します。(2022年3月15日現在) 【目次】[ポイント1]  訪問看護ステーションに、新たに業務継続計画(BCP)の策定と職員の研修・訓練の実施が義務づけられた[ポイント2]  複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制加算で、地域の連携体制に参画していることが必要になった[ポイント3]  機能強化型訪問看護ステーションで、地域で暮らす利用者をバックアップする役割が強化―訪問看護人材の育成や住民への情報提供・相談対応などの追加[ポイント4]  訪問看護ステーションと自治体・学校等との連携の強化-訪問看護情報提供療養費の見直し 【関連URL】・令和4年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000920430.pdf・令和4年度診療報酬改定についてhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00037.html 【告示・通知】・厚生労働省令第32号「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準の一部を改正する省令」・保発0304号 令和4年3月4日 「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準について」の一部改正について・保発0304第3号 令和4年3月4日 「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」・保医発0304第4号 令和4年3月4日 「訪問看護ステーションの基準に係る届出に関する手続きの取扱いについて」・厚生労働省告示第59号「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部を改正する件」 令和4年3月4日 ・厚生労働省告示第60号「訪問看護療養費に係る訪問看護ステーションの基準等の一部を改正する件」 令和4年3月4日 [ポイント1] 訪問看護ステーションに、新たに業務継続計画(BCP)の策定と職員の研修・訓練の実施が義務づけられた 訪問看護ステーションに業務継続計画(Business Continuity Plan:BCP)の策定が義務づけられました。感染症や非常災害が発生した場合でも必要な訪問看護サービスを継続的に提供するため、そして非常時の体制で早期の業務再開を図るためです。業務継続計画の定期的な見直し、必要に応じた変更も義務化されました。さらに、業務継続計画は職員(看護師等)にしっかりと周知し、必要な研修・訓練を定期的に実施しなければなりません。ただし、令和6年3月31日までは努力義務とされる経過措置がとられています。 業務継続に向けた取組強化の推進 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p20より引用 ○業務継続計画の具体的な項目1)感染症に係る業務継続計画①平時からの備え(体制構築・整備、感染症防止に向けた取り組みの実施、備蓄品の確保等) ②初動対応 ③感染拡大防止体制の確立(保健所との連携、濃厚接触者への対応、関係者との情報共有等)2)災害に係る業務継続計画①平常時の対応(建物・設備の安全対策、電気・水道等のライフラインが停止した場合の対策、必要品の備蓄等) ②緊急時の対応(業務継続計画発動基準、対応体制等) ③他施設及び地域との連携○研修・訓練1)研修:平常時の対応の必要性や緊急時の対応に係る理解の励行。定期的(年1回以上)教育を開催し、研修の実施内容を記録する2)訓練(シミュレーション):感染症・災害発生時に迅速に行動できるよう、事業所内の役割分担の確認、実践するケアの演習等を定期的(年1回以上)実施 保発0304号 令和4年3月4日 「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準について」の一部改正について.4-(17)-②イ,ロより引用 [ポイント2] 複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制加算で、地域の連携体制に参画していることが必要になった 複数の訪問看護ステーションが24時間対応体制加算を取るためには、業務継続計画(BCP)を策定したうえで自然災害等の発生に備えた地域の相互支援ネットワークに参画することが追加されました。 24時間対応体制加算は、必要時に緊急時訪問看護を行うことに加えて営業時間外の利用者・家族等との電話連絡や指導等の対応を評価するものです。複数の訪問看護ステーションが連携して24時間対応できる場合の算定要件として、従来は①離島・山間部などに所在する訪問看護ステーション、②医療を提供しているが医療資源の少ない地域に所在する訪問看護ステーションであることが要件でしたが、今回新たに相互支援ネットワークの参画の要件が加わりました。相互支援ネットワークは、以下のように公的なネットワークであることがポイントです。 複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制の見直し https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p20より引用 [ポイント3] 機能強化型訪問看護ステーションで、地域で暮らす利用者をバックアップする役割が強化―訪問看護人材の育成や住民への情報提供・相談対応などの追加 「機能強化型1」「機能強化型2」では、地域の保険医療機関や他の訪問看護ステーション、または地域住民に対する研修や相談への対応実績があることが必須条件とされました。機能強化型訪問看護ステーションは「機能強化型1」「機能強化型2」「機能強化型3」の3型があり、それぞれ看護職員数、受け入れる重症度の高い利用者数、ターミナルケアや重症児の受け入れ等で違いがあります。 また、評価の見直しも行われ、算定額は「機能強化型訪問看護管理療養費1」が12,830円、「機能強化型訪問看護管理療養費2」が9,800円となりました。 さらに、専門の研修を受けた看護師が配置されていることが望ましいという項目が追加されました。そして、この看護師が専門的な知識および技術に応じて、質の高い在宅医療や訪問看護の提供の推進に資する研修等を実施していることが望ましい、とされました。 機能強化型訪問看護療養費の見直し https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p21より引用 機能強化型訪問看護管理療養費1から3までについて、専門の研修を受けた看護師が配置されていることが望ましいこととして、要件に追加する。 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p21より引用 機能強化型訪問看護ステーションの要件等 ※変更点を【赤字】で示したhttps://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p22から抜粋 [ポイント4] 訪問看護ステーションと自治体・学校等との連携の強化-訪問看護情報提供療養費の見直し 訪問看護にかかわる関係機関との連携強化として、情報提供先の範囲が広がりました。訪問看護情報提供療養費1は、訪問看護ステーションと市町村・都道府県の実施する保健福祉サービスとの連携を図るものですが、情報提供先に指定特定相談支援事業者と指定障害児相談支援事業者が追加され、対象が15歳未満の小児から18歳未満の児童となりました。 訪問看護情報提供療養費2は、訪問看護ステーションの利用者が通園・通学するにあたって、訪問看護ステーションと学校等の連携を推進するものです。今回その情報提供先に高等学校が追加され、対象年齢が15歳未満から18歳未満になりました。これによって、医療的ケア児に対する訪問看護が強化されたといえます。 訪問看護情報提供療養費1の変更点 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p23より引用 訪問看護情報提供療養費2の変更点 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p21より引用 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年3月29日
2022年3月29日

[3]身体の死後変化はエンゼルケアの必須知識!

死後のご遺体の変化に驚かれるご家族が少なくありません。ご家族にきちんと説明できるためにも、死後の身体変化に関する情報をしっかりと押さえておきましょう。また、どういった変化が生じるのか把握しておくことで、変化を最小限に抑える対処が可能ですし、さまざまな身体変化に遭遇しても冷静に対応することができます。 亡くなった高齢女性Aさんのご家族から困惑した声音で、担当だった看護師に電話がありました。 「おばあちゃんの口のまわりに灰色の輪がくっきりと浮き出てきたんです。不吉なことなんじゃないかって言う人もいて・・・・・・。一体、何なんでしょう、これ」 Aさんは黄疸が出ていたために、その死後変化として皮膚に変色が起こったのです。黄疸をもたらしているビリルビン色素の酸化亢進などによって時間とともに変色が起こります。毛根部が変色の生じやすい部位で、髪の生え際や眉、ひげ(あるいは口まわり、女性も口周囲にうぶ毛があるため)などに注意が必要です。 Aさんのご家族はそれを知らなかったため驚かれたのですね。看護師は異常事態ではないことを伝え、対処法などを次のように説明し安心していただきます。 「黄疸が出ていた方は、お口のまわりがくすんで輪のように見えることもあります。自然な変化ですから、ご心配はいりません。気になるようでしたら、その部分をファンデーションでカバーしていただいて問題ありません」 そして、必要に応じてファンデーションを使用したカバー方法なども説明します。 望ましいのは、黄疸のある肌は時間の経過とともに皮膚に変色が生じると思われることを、あらかじめエンゼルケアのときに説明できることです。さらに、最も望ましいのは、そのことを含めて死後変化のことなどが書いてある文書をお渡しすることです。文書については、連載の最終回でふれる予定ですので参考になさってください。 身体の死後変化の知識を得ておくことは、エンゼルケアを行ううえで必須です。亡くなった人のそれまでの身体の状態を把握している看護師は、例えば前出の黄疸の出ている方のように、変化についてのさまざまな配慮・対応が可能なためです。 知っておきたい身体の死後変化の特徴 では、ここで「身体の主な死後変化」を図1に示します。 図1 身体の主な死後変化 ( )内は、変化が始まる目安の時間を示す。変化の強度や速度には個人差がある。各項目の詳細については以下を参照。筋の硬直(死後硬直)(1時間~)筋弛緩後、下顎(1~3時間)、全身(3~6時間)へと硬直が進む。循環停止により酸素供給が停止することなどによる。死後半日から1日の間に硬直のピークを迎え、その後、解けはじめる。死の直前まで筋肉を使用していたり(急死)、高齢ではない場合などは硬直が強く表れる。体表面の乾燥(3時間~)循環停止によって内部から体表面への水分補給がなくなり、自力で保湿できなくなり乾燥する。特に外気にふれている頭部(その中でも口唇)は乾燥が急激に進む。表皮が失われている箇所や開放性の創部も乾燥しやすい。また、乾燥とともに皮膚の脆弱化も進む。水分量の多い乳児・小児は、成人よりも乾燥傾向が強い。顔の扁平化(直後~)重力の影響による。蒼白化(30分~)重力の影響を受け、比重の重い赤血球が沈下することで、皮膚の血色が失われる。全身の上面に生じるが、露出している顔面が特に目立つ。顔のうっ血(3時間~)急性の心疾患で亡くなった方に生じることが多い。腐敗(6時間~)恒常性の消失で細菌バランスが崩壊し、細菌群(中温菌)が異常繁殖することによって生じる。腹腔内からはじまり胸腔内、そして全身に広がる。身体の状態(水分が多い、栄養が多い、温かいなど)によって腐敗の進行度が変わる。体温低下(直後~)恒常性の消失で、気温の影響をまともに受ける。上下肢の末端部や外気にふれる顔面などから低下する。体幹部は下がりにくい。止血しづらくなる血液の凝固因子が大量に消費されることなどから、止血しづらい状態になる。黄疸の方の皮膚色の変化(24時間~)黄疸をもたらしている色素の酸化亢進などによって生じる。黄色→淡緑色→淡緑灰色に変化する。 さまざまな変化を図1で把握するとともに、全体的な変化の特徴として次の4点も押さえておくとよいでしょう。各タイミングでの判断に役立ちます。 ①死後の身体は「不可逆的に変化する」 図1に示した変化をはじめとして、死後変化のすべては不可逆的に進行します。つまり、変化する一方で、元の状態に戻ることはありません。生きているときのように、維持しよう、回復しようと身体は機能しません。 例えば、口唇は粘膜のため特に乾燥しやすい部分です。時間とともに乾燥が進み、表面が茶褐色に変色してしまったり、口唇全体の厚みが減ってしまったりし、それらが元の状態に戻ることはありません。ですから、早い段階で油分を塗布するなど、乾燥防止を行う必要があるのです。 ちなみに、葬儀社の方から看護師に対して「とにかく唇だけでも早めに油分を付けておいてほしい」と言われることがあります。葬儀社の方が担当する段には、すでに口唇の乾燥が極まってしまっていることがあるからのようです。 エンゼルメイクを含むエンゼルケアの時点で何をしておくべきなのかを判断し、実施することがポイントになってきます。 ②死後の身体変化は「予測しきれない面がある」 どんな死後変化がどの程度、どんな速さで起こるのか、エンゼルケアの時点ではその後を予測しきれない面があります。その大きな理由として、次の2点が挙げられます。 ・個体差を厳密には予測できない死後の身体変化は、死に至ったときの身体状態により個体差があります。例えば、体内の水分量が多く、さらに亡くなるまで高熱が続いていた場合は腐敗が早く強く出るかもしれないというようにおよその予想はできますが、厳密な予想はできません。 ・管理状況に左右されるご遺体は、身体の状態を一定に保つ機能は働いていないので、気温、湿度など身体を取り巻く環境の影響をまともに受けます。皆さんの手が離れた後、例えば暑い日などに適切な冷却がなされなければ急激に腐敗が進み、体液が漏れ出たりします。 身体の変化に困惑したご家族から問い合わせや相談の連絡があったなら、まず「お身体はいろいろな変化が出るのが自然のことです。異常事態ではないので心配はいりませんよ」と応対し、具体的な対応方法を説明するとよいでしょう。 ③死後の身体は「傷みやすい」 死後の身体変化が生じているイメージをつかんでほしいと思い、あえて「傷む」という表現を使います。 例えはあまりよくありませんが、釣ってきた魚を暖かい日に冷却もせず、ラップもかけずにテーブルの上に放置してしまうと、魚は急激に傷んでいきますね。人の身体も何もしなければ同じように傷んでいきます。 冷却や乾燥防止対策を行い、なるべく変化を抑えますが、抑えきれないケースも少なくありません。ただ現在は、亡くなった人との対面時には、衣類や花などでカバーされて目にふれないような配慮がされており、私たちは「傷む」という自然現象を忘れがちです。このことを含んでおいて、必要なときに「ご遺体は傷みやすいですよ」とご家族に説明します。 ④死後の身体は「重力の影響を受ける」 図1に示した「蒼白化」や「顔の扁平化」は重力に抗えなくなった結果、起こる変化です。他にも、身体の後面に開放性の創部(褥瘡など)がある場合は滲出液が漏れ出やすいので、あらかじめ対応をしておくといった判断ができます。 また、図1に示したように血液は止血しづらい状態になるため、鼻出血などがあると長く出続けることがあります。その場合は枕の高さを変えたり顔の向きを変えるなどし、重力の働く方向を変えることで、体外への出血量を減らせることがあります。 ご家族がご遺体を「起立させてほしい」と希望した例では、担当の看護師は便漏れなどがないように、重力の影響を考えながら希望に応じたとのことでした。 ワンポイントメモ臭気の話死後の早い段階で、気になる臭いが発生しやすい場所は、口腔内と瞼内です。 下顎が、早ければ死後1時間程度で硬くなるため、臭気防止のために口腔内だけは早めにケアを行います。マウスケア用のスポンジやガーゼなどで汚れを拭ったり、可能であれば歯磨きもします。瞼内のケアでは、眼脂に注意します。眼脂などの分泌物からも臭気発生の恐れがあるため、綿棒で拭うなど可能な範囲で除去しておきます。 腐敗による臭気もその後発生します。エンゼルケアの段階で行う臭気対策は、第4回で解説する冷却が有効です。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

あなたにオススメの記事

× 会員登録する(無料) ログインはこちら