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ニャースペースのつぶやき
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特集
2024年1月30日
2024年1月30日

漫画「私のために…?」 ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

暖かいお宅だなと思っていたら実は… 今回の「訪問看護あるある」は漫画でお届け! 利用者さんやそのご家族が、訪問看護猫のためにあたたかいお気遣いをしてくださることがあるにゃ。優しさが心にしみるにゃ ニャースペース病棟看護経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

訪問看護から看多機・生活支援・定期巡回まで。人と地域をつなげるために
訪問看護から看多機・生活支援・定期巡回まで。人と地域をつなげるために
インタビュー
2024年1月30日
2024年1月30日

訪問看護から看多機・生活支援・定期巡回まで。人と地域をつなげるために

訪問看護ステーションを開設後、神奈川県川崎市で初めて看護小規模多機能型居宅介護施設(看多機・かんたき)を立ち上げた林田菜緒美さん。現在は、放課後等デイサービスや子ども食堂、生活支援、定期巡回なども行っています。前編に引き続き、看多機運営のポイントやサービス拡大への想いなどを伺いました。 >>前編はこちら 川崎市初の看多機(かんたき)立ち上げへの想い&やりがい【ゆらりん家】 「ゆらりん家」の概要神奈川県川崎市麻生区にある、通い・宿泊・訪問看護・介護の4つのサービスを24時間365日提供するサテライト型、看護小規模多機能型居宅介護施設。急な用事での送迎時間の変更や、泊まりにしたいなど迅速な対応が可能で、登録定員18名、泊まりの個室は5部屋を用意。児童発達支援や放課後等デイサービスも行う「KIDSゆらりん」が併設され、子ども食堂も運営。室内はオープンキッチンやテラスがあって明るく、檜風呂が自慢。毎週日曜日は地域に開放し、あらゆる層の人とつながれる居場所をつくっている。〇プロフィールリンデン代表取締役林田 菜緒美さん福岡県出身。RKB毎日放送で広告営業として勤務後、夫の転勤で神奈川県へ。都立の看護専門学校を卒業し、病院や訪問看護ステーションを経て、2011年にリンデンを設立。「赤ちゃんからお年寄りまでその人らしく生きていく」ためのサポートを目指し、川崎市麻生区で看護小規模多機能型居宅介護事業などを展開。高齢者への生活支援と介護予防の基盤整備を進める地域の調整機能を果たす生活支援コーディネーターとしても活動。2024年には、健やかな社会の実現と国民生活の質の向上を目指し、献身的に活動する人を表彰するヘルシー・ソサエティ賞の医療・看護・介護従事者部門を受賞。 シェアハウスのようにみんなで譲り合う —看多機の運営で心がけているポイントを教えてください。 利用者さんやご家族に「譲り合い」をお願いしている点でしょうか。看多機は介護施設というよりもシェアハウスに似ているかもしれません。利用者さん全員が一斉にいらっしゃると、たちまち定員オーバーになってしまいます。だから、「今日、Aさんの具合が悪くなってお泊まりになりそうだから、いつもこの日に泊まっているBさんに、今日だけ家で過ごしてくれないかお願いしてみる」という感じで、個室のベッドも共有スペースの椅子もみんなでシェアしています。包括料金なので、毎日利用することもできるのですが、「老人ホームではなく在宅療養を支えるサービスである」ことを契約時にご本人やご家族にしっかり説明し、ご理解いただいています。 —新たに看多機を立ち上げたいと考えている訪問看護ステーションの管理者・経営者の方などに向け、アドバイスや注意点を教えてください。 資金面でいうと、最初から黒字化は難しいので、訪問看護ステーションをしっかり黒字化にしてから、看多機に挑戦するといいかなと思います。また、医療職の方は、当然ですが自分の専門分野での働き方しか知らないので、介護職との協働ができるように意識し、互いの職種を認めて尊敬しあい、協業できる力をつけることも大事だと思います。難しい医学用語は分かりやすく介護員に伝えるといった細かい配慮も大切だと思います。 何より、求人を募っても人手不足の今、介護職の人はなかなか集まりません。先にヘルパーステーションを開設し、介護職の人員確保の目途がある程度たってから、看多機を開設する方法もあると思います。ヘルパーステーションでの訪問介護では、介護士と看護師が一緒にお家を回り、2人で人工呼吸器や胃瘻などの医療的ケアが必要なご高齢者の入浴介助を行うケースなどが増えています。そうした経験を積めば、介護士の技量を上げることができる。弊社の介護福祉士には、みんな喀痰吸引等研修の1号まで取得してもらっています。吸引ができるように介護職員を育成すれば、夜勤も看護師と1号を持っている介護福祉士が交代でできるようになります。理想は、介護職員が「この利用者さんを散歩に連れていきたい」といったケアの方法を考え、看護師はそれを支える役割になればいいと思いますね。また、少しでも看多機を立ち上げたいという思いがあるなら、行政への相談が大事です。看多機は地域密着型のサービスなので、「その地区は計画済みで、もうサービスが足りているから要らない」などと行政から言われたり、「ここのエリアならいいのでは」などとアドバイスしてもらえたりすることも。やる気があっても、「今年度は補助金が出ません」と言われたら残念なので、まず行政に相談し、自分の思いと行政の計画を一致させてから動いた方が安心です。申請も複雑なので、分からないことはどんどん聞くといいでしょう。 使える制度を増やしてあらゆる人をサポート —林田さんは共生型サービスや障害児通所施設、生活支援コーディネーターなども行われています。複数のサービスを展開していくことで、どんなメリットがありましたか。 何よりよかったなと思うのが、ずっとひとりで家の中にいるような、地域との接点がなかった方たちとつながれたことだと思います。例えば、地域包括支援センターの人が訪ねても、扉を開けずかたくなに人を入れないご高齢者もいます。でもお弁当の配達なら、扉を開けてくれてその方の顔が見えるんです。毎週、お弁当を届けて声をかければ、笑顔を見せてくれたりして。「ゆらりんさんのお弁当の配達が始まってから、あの人、笑顔が多くなったのよ」なんてご近所さんから言われるとうれしいし、楽しいです。 医師の意見書なしに介護保険にはつながらないので、要介護レベルのご高齢者が「絶対に病院には行かない!」と言うと、介護認定はおりません。でも、見守りやお弁当配達から始めてみると信頼関係ができやすく、病院に行くように促すことも可能。事前に顔見知りになることで、介護保険サービスの利用も拒否されづらくなります。 —ひとり暮らしの認知症の方も、自分から申告してサービスを受けることが難しいように思います。そうした方々とつながることもあるのでしょうか。 そうですね。認知症だと分かるきっかけは、ゴミ出しだったりします。認知症の人はゴミの日以外にゴミを出すようになって近所の人から怒られ、ゴミを出すのが怖くなってゴミ屋敷になっていくんです。代わりにゴミを出してあげるような周囲の優しさがあると、ゴミ屋敷にまでならなくて済むのに、といつも思います。 ある日、地域包括支援センターの方からの相談で、ゴミ屋敷のお家に行きました。90代の認知症が進んだおばあさんを訪ねたのですが、そこには50代の精神疾患の娘さんもいらしたんです。それまではおそらくお母さんが3食食事をつくり、娘さんの通院も付き添っていらっしゃった。でも認知症の進行でそれができなくなり、2人は完全に地域とのつながりがなくなって孤立状態になってしまいました。この狭い地域でこうした例が今まで2~3件あったので、全国的に見ると大きな社会問題ではないかと思います。 スタッフでお部屋を片づけ、お母さんには看多機を利用してもらうように手続きしました。当看多機は共生型サービス(障害福祉サービス)の申請をしていたので、50代の娘さんも利用できるように手配し、週2回の通いで入浴できるように。2人とも、1年以上お風呂に入ってなかったと思います。こうした例を見ると、制度を駆使してあらゆる年代や状況に対応できるサービスを提供できるように整備する必要性を感じます。すべてボランティアではできませんから。 最近、新しい事業として「定期巡回随時訪問看護介護」を始めました。とてもいい制度で、看護師や介護員が定期的にお家を回れて、何かあれば緊急ボタンを押せば看護師とつながることができる。泊まりが必要ないご高齢者なら、このサービスで十分なサポートを得られるのではないかと思っています。 始めたきっかけは、「最近、姿を見ない」と近所の人から地域包括センターに連絡があり、高齢夫婦の自宅を訪問したことでした。訪ねると、脚がパンパンにむくんだおじいさんがいました。すぐに認知症でインスリンが打てなくなったんだと分かり、血糖値を図ったら計測不能なほどの高数値。入院が必要な状況でしたが、ご本人は認知症の奥様がいるから絶対に入院しないとおっしゃる。協力医療機関の医師に相談し往診に入ってもらい、毎日血糖値を図りながらインスリン量を調整し対応してきました。毎月通院してかなりの量のインスリンや薬をもらっていた患者さんが外来に来なくなったとしても、病院から地域の看護師などの支援者につながらない現状があります。 このおじいさんは認知症ですが要介護1なので介護護保険の点数ではサポートしきれず、「定期巡回随時訪問看護介護」でサポートしています。365日午前に看護師が血糖値を計ってインスリンを打ち内服介助。介護員が午後に洗濯や買い物、お食事の準備などを手伝っています。定期巡回は看多機と違ってケアマネジャーの変更が不要で、他事業所の通所も利用できます。包括料金なので必要に応じて行く回数も柔軟に変更できます。ただ、人手不足なので、夜間の介護員の配置は難しいなと思います。まだ利用者さんが少ないですが、ケースによってこうした制度も上手に使っていきたいです。 テレビ局時代にはなかった人や地域に貢献できるうれしさ —なぜそこまで地域のために頑張れるのでしょうか。モチベーションの源泉を教えてください。 困っている人を見捨てられないという性格かな(笑)。テレビ局の広告営業からの看護師への転身だったので、こんなに人から感謝されて地域の役にも立ってお金がもらえるなんて、なんていい仕事なんだろうという感激が強いのかもしれません。 30歳直前で看護師になろうと思ったのも、白血病で入院していた小学生の甥っ子を看護師さんが笑顔にする姿が忘れられなくて。看護学校時代も訪問看護ステーションの実習で、人工呼吸器をつけている子どもの家を訪問したときに、こうした人たちをサポートする訪問看護の現場で働きたいと思いました。「来年、卒業したらここで雇ってもらえますか」と実習先の方に聞きましたが、あのころは「内科3年、外科3年」という時代で、「まず病院で3年働いて経験を積んでからね」と言われ、そういうものかと思い、病院勤務で経験を積むことに。当時は3歳と1歳の子どもを抱えて余裕もなかったので、訪問看護ステーションで働きたいと本気で思えたのは、子どもが小学校に入ってからでしたね。転職して訪問看護の現場で働くうちに、自分の愛着ある地域で重症度や年齢で断ることのないサポートがしたいと思い、独立したんです。 やりたいと思ったら、みなさんもチャレンジしたほうが絶対にいいと思うんですよ。私も来年60歳になりますが、人生は思うよりも案外短い。訪問看護ステーションや看多機を立ち上げる程度の借金は、やる気になれば返せないお金ではないので、怖がらなくてもいいと私は思います。ただ社長業は大変。従業員60人分の給料を生み出さなくてはいけないし、やること考えることもたくさんあります。胃が痛くなるような、一度始めたら終わりにできない苦しさもあります。それでも続けることで地域がつながり、助けが必要な人を1人でも多くサポートできる。しんどくても、モチベーションを低下させずに私が続けられている理由ではないでしょうか。 やはり地域の中に居場所をつくり続けることが大事で、ここでサポートできる内容やレベルが高まれば、町全体がもう少し認知症の高齢者などに優しくなれるのではないかとも思うんです。ボランティアでうちに通っていた人がいつの間にか認知症になって利用者さんになったけれど、ご本人は変わらずボランティアをしていると思っている。そして私たちはお金をいただいている(笑)。そんな状態になるのが理想だなと思います。 —今後の展望を教えてください。 とにかく継続することですね。始めたことに責任をもって継続するには、それをまた担ってくれる若い人たちに代替えしていかなくてはいけない。看護師はもちろん、介護員不足にとても困っている施設が多いなかで、まずは中高生や、看護や介護の実習生といった若い世代に、この仕事に興味を持ってもらうことを大事にしています。例えば、子ども食堂のボランティアには中高生も来てくれます。子どもたちが看護師や介護士、保育士が働いている姿を間近で見て、地域づくりや看護、介護などに対し、自然に興味を持ってくれるような場にもなっている。そうして次世代にバトンタッチしながら、地域にずっと残る頼れる居場所であってほしいと思います。 ※本記事は、2023 年10月時点の情報をもとに構成しています。執筆:高島 三幸取材・編集:NsPace 編集部

訪問看護 緊急時の対応法(窒息)
訪問看護 緊急時の対応法(窒息)
特集
2024年1月30日
2024年1月30日

訪問中に利用者さんが窒息したら【訪問看護 緊急時の対応法】

訪問先で思わぬ出来事に遭遇したとき、訪問看護師としてどう動けばよいのでしょうか。このシリーズではさまざまな緊急時に対し、具体的な臨床知をもとに何を確認・判断して、誰にどの手順で連絡・調整すればよいか分かりやすく解説します。今回のテーマは利用者さんが窒息したときの対応法です。 注意していても起こり得る誤嚥や窒息 訪問看護師は普段から訪問看護サービスを提供するなかで、利用者さんの嚥下機能を観察し、評価を行っているはずです。そして、その嚥下機能に応じて看護計画を立案し、計画に沿って口腔機能の訓練や食事形態の調整などを実施しています。嚥下機能に問題があれば、在宅で主に介助を行う家族や訪問介護員(ヘルパー)に嚥下能力の情報を共有し、安全な介助方法を指導するといった連携をもって誤嚥予防に取り組んでいることでしょう。 ところが、細心の注意を払ってケアを実施していても軽い誤嚥を起こしてしまうことがあります。アセスメントの結果、最初から嚥下に問題ありと判断できる場合、吸引器が準備できているとよいでしょう。ご家族が安心して安全に吸引できるように指導しておくことも訪問看護師の役割です。口腔ケアに吸引器を活用して誤嚥性肺炎の予防に用いることもできます。また窒息を疑うときにも吸引器が役立ちます。咳嗽が誘発され、異物が喀出されやすくなります。 訪問看護では誤嚥リスクの高い、体力の低下した高齢者や小児の利用者さんも担当します。「窒息かも!?」という場面に遭遇したときの対応について解説します。 窒息のサインを見逃さない 窒息に早急に対応するために、まずは窒息のサインを見逃さないようにします。最初の症状は咳き込みですが、重篤な場合、以下の症状がみられます。 いびきのように声を振り絞っている、または声を出すことこができない咳が弱い、または咳をすることができない両手でのどのあたりをかきむしる、わしづかみにする(チョークサイン)呼吸が徐々に弱まる顔面蒼白けいれん症状意識の低下 このような症状がみられたら気道閉塞を起こしている可能性があります。すぐに気道内の異物を取り除く必要があります。 窒息時の対応法 声かけをして反応をみます。声かけに反応があれば「咳をして!」と強い咳払いを促し、気道に詰まった異物を喀出できるまで介助します。先述のとおり、咳が弱い、呼吸が弱まるなどの様子がみられたら窒息の可能性があります。次に示す背部叩打法やハイムリッヒ法を行ってください。 背部叩打法 前傾姿勢、あるいは座位保持ができない場合や仰臥位の状態であれば側臥位の姿勢にして、その姿勢を保持したまま、左右の肩甲骨の間を手のひらの付け根あたりでかなり強く叩きます。4~5回叩いたら表情や呼吸音、呼吸状態を確認しながら、異物が出てくるまでこれを数回繰り返します。その場の状況判断にもよりますが、救急車を要請することも必要です。 ハイムリッヒ法 重度の気道閉塞では、異物を喀出させるための緊急対応としてハイムリッヒ法(腹部圧迫法、腹部突き上げ法とも呼ばれる)が推奨されています。ただし、妊産婦や乳児には行えません。寝たきりで座位保持ができない利用者さんに対しても不適切な場合があります。また、初めてハイムリッヒ法を実行しようとしても容易ではありません。実施可能な要件を熟知しておくとともに、適切に対処できるように知識・技術をしっかり習得しておくことをおすすめします。 意識が消失したら心肺蘇生、吸引も考慮 もし、意識が消失するようであれば、直ちに心肺蘇生に移ります。蘇生しながら口腔内に見えている異物を除去したり、吸引を実施したりします。 異物が取り除けたら十分な観察を 異物を取り除けたら深呼吸を促します。呼吸状態が落ち着いた後も、十分な観察が必要です。口腔内の観察では異物の残渣や傷がないか、歯に問題がないかをみます。部分入れ歯を装着していた場合、あったはずの入れ歯がなくなっていると新たなトラブルになってしまいます。また、発声したときに痛みやかすれ声(嗄声)がないか、本人の違和感といった自覚症状も確認しましょう。 異物除去後の最初の経口摂取は、とろみを付けた水分を一口からゆっくり摂取してもらい、しばらく様子を見ながら徐々に元に戻していきます。 掃除機での吸引はすすめられない 一部の通説では窒息したときには掃除機が有効といわれていますが、衛生上の問題や本来の使用目的ではないこと、ノズルの硬さなどから口腔内を傷つけるリスクのほうが高いため、決しておすすめできません。知識として頭の隅に残しておく程度がよいと思います。 誤嚥の原因は食事以外にもある 窒息事故はほんの数分でも脳に深刻なダメージを与えてしまいます。後遺症を残す可能性があるため、普段から予防に努め、急変時には今回紹介したような手順で対応できることが重要です。 また、窒息は食事中の誤嚥以外にも嘔吐物の誤嚥や痰の性状によっても起こることがあります。利用者さんの病状をよく観察し、専門家として体位の調整や痰と水分量のバランスを検討するといった事前の対処もとれるようにしておきましょう。 誤嚥の可能性ありなら最善策をとる ここで筆者がかかわった事例の一つを紹介します。今回の対象者は発話がほぼない認知症高齢者の利用者さんで、コミュニケーションもほとんどとれません。嚥下のレベルは、固形物を咀嚼できず、栄養剤を吸い飲みで口腔内に流すと何とか嚥下ができる程度です。 吸い飲みの「吸い口」が見当たらない 食事介助はヘルパーが実施しています。ある日、介助中に吸い飲みに付属しているシリコンゴム製の吸い口が見当たらないことに気がつきます。「飲み込んでしまったようだ」とヘルパーから訪問看護ステーションに連絡があり、すぐに訪問しました。 利用者さんの口腔内を確認するも吸い口は見当たりません。明らかな呼吸困難もなく、その状況からは誤飲したかどうかは見きわめられませんでした。しかし、吸い口が見当たらないのは事実です。今は問題ないと思えるものの、吸い口の形状から気管分岐部あたりに留まっているとしたら、今後問題が生じる可能性も考えられました。 本人は苦痛や違和感を訴えることができない状態です。何も問題がないという結果であったとしても、安心できる結果を得られることから、救急車を要請して受診してもらうことにしました。検査で三日ほど入院しましたが、結局、異常は見つからず無事に帰宅されました。 * * * 誤嚥は肺炎を引き起こします。肺炎を繰り返すと入退院につながり、利用者さんの負担が増えます。また、窒息事故は利用者さんやご家族との関係性に禍根を残すこともあります。担当した訪問看護師も自責の念にかられてしまうでしょう。そのような事態を防ぐためにも日ごろからのリスク対応が必要です。 在宅は病院と違い、病状変化においてすぐに医師の診察や検査を受けることはできません。窒息に限らず在宅看護では常に、今何が起きているのかということをしっかりと把握し、どう対応するかを判断する能力が求められます。看護師一人で対応するのではなく、ぜひステーション全体でリスクマネジメントに取り組むようにしていただければと思います。 執筆:阿部 智子訪問看護ステーションけせら統括所長 ●プロフィール約12年の臨床経験後、育児に専念する期間を経て、訪問看護の道に入る。自宅を訪問し、利用者との個別ケアを通して看護師としての力量の評価を得られ、利用者一人ひとりの生きざまを感じることができる訪問看護に魅力を感じる。2000年に「訪問看護ステーションけせら」を設立し、看護と介護を一体的に運営し、医療と生活の両面から在宅を支えられる実践を行ってきた。最期まで地域で暮らしたいという思いも支えられるようにホームホスピスの運営と、24時間対応できる定期巡回随時訪問介護看護事業にも携わる。 編集:株式会社照林社

ほっちのロッヂイベントレポート「私たちのWell-beingとケアと文化、現在地の語らい」
ほっちのロッヂイベントレポート「私たちのWell-beingとケアと文化、現在地の語らい」
インタビュー
2024年1月30日
2024年1月30日

「私たちのWell-beingとケアと文化、現在地の語らい」【イベントレポート】

2023年9月25日(月)に開催された、「軽井沢町。2023年。私たちのWell-beingとケアと文化、現在地の語らい」。長野県軽井沢町にある「診療所と大きな台所があるところ ほっちのロッヂ(医療法人社団オレンジ)」が主催し、全国からケア現場でのWell-being(ウェルビーイング)について語りたい人たちが集まりました。看護師を含め、ケアの現場で目の前の人たちのWell-beingを願いながら活動する人たちが、Well-beingについて正面から語り合う貴重な場でした。 本イベントは、ほっちのロッヂ共同代表の藤岡 聡子さんの司会のもと、大きく3つのセクションに分かれて進行。イベントの模様や参加者の方々の声をピックアップしてお届けします。 主催診療所と大きな台所があるところ ほっちのロッヂ(長野県軽井沢町)「症状や状態、年齢じゃなくって 好きなことする仲間として出会おう」をコンセプトに、大きな台所を起点とし、2019年訪問看護ステーション、2020年に在宅医療(外来・訪問診療)・共生型通所介護・医療型短期入所事業含め全事業開始。運営元:医療法人社団オレンジHP: http://hotch-l.com/Instagram: https://www.instagram.com/hotch_lodge/企画・司会・進行藤岡 聡子(ふじおか さとこ)さん「老人ホームに老人しかいないって変だと思う」と問いを立て24歳で創業メンバーとして有料老人ホームを立ち上げ、アーティスト、大学生や子どもたちとともに町に開いた居場所づくりを実践。2015年デンマークに留学し、幼児教育・高齢者住宅の視察、民主主義形成について国会議員らと意見交換を重ね帰国。「長崎二丁目家庭科室」主宰(豊島区椎名町)、2019年より長野県軽井沢町にて「診療所と大きな台所があるところ ほっちのロッヂ」を医師の紅谷と共に開業し共同代表。共著に『社会的処方(2019学芸出版社)』『ケアとまちづくり、ときどきアート(2020中外医学社)』。 「文化の再生、リ・ビルディング」 馬場 拓也さん(社会福祉法人愛川舜寿会/神奈川) 写真左:ほっちのロッヂ共同代表 紅谷氏、写真中央:社会福祉法人愛川舜寿会 馬場氏、写真右:ほっちのロッヂ共同代表 藤岡氏 一つ目のセッションは、「文化の再生、リ・ビルディング」。互いに医療や介護の資格を持たない立場で福祉法人や医療法人の運営をしている馬場さんと藤岡さんの視点から、ケアのWell-beingが語られました。実家が牧場で、アパレル業界で働いていた馬場さん。アパレル業界にいたころから、「この人のために行動したい」と思い立つとすぐに行動されてきましたが、福祉の現場でも同様とのこと。 人と人とのつながりをつくると、その地域の文化に手が届いていくこと。そして、「つながりを緩やかに作る」ことの大切さも語られました。医療福祉の現場においては、力んで頑張りすぎると疲れてしまったり、落差を感じたりしてしまうことも。「厚切りハムを出してしまいがちだが、すぐに自分がすり減ってしまう。薄切りハムで少しずつ出していく」「長距離マラソンとしてとらえる」といったわかりやすい喩えもあり、会場には笑顔が。 「今の日本は、下りのエスカレーターを上っているようなもの。だからこそ、上ったときには達成感が得られる」というお話もあり、聞き手に一体感が生まれていました。 「私たちのWell-beingとケア」 松波 龍源さん(実験寺院寳幢寺 僧院長/京都) 写真左:実験寺院寳幢寺 僧院長 松波龍源氏、写真中央:ほっちのロッヂ共同代表 藤岡氏、写真右:ほっちのロッヂ共同代表 紅谷氏 二つ目のセッションに登場したのは、「実験寺院 寳幢寺」の僧院長である松波さん。松波さんは、伝統に縛られることなく、現代のリアルな生活に基づいた仏教の進化を目指しています。仏教における「空(くう)」の考え方や、現状の日本における医療・宗教の立ち位置や課題などについて語られました。 例えば、次のような提言がありました。主に「医師は身体をみる」「宗教家は精神をみる」側面があるが、片方だけでは成り立たないのではないか。医療従事者は哲学者ではないが、生死の問題には哲学の要素が絡んでくるのではないか。病気や障害などによって痛みがあるから即座に不幸とはいえず、逆に医療行為によって痛みが取り除かれたから幸福ともいえないのではないか。 ケアの現場ではなかなか語られづらい宗教との関係性について、深く考えさせられた本セッション。人の身体と精神、両方をあわせた幸福を目指すために試行錯誤をし、医療従事者と僧侶が相互に働きかける意義や可能性について対話されました。 社会的共通資本、理論と実践のいま 占部 まりさん(内科医・宇沢国際学館代表取締役・日本メメントモリ協会代表理事/東京) 写真中央:内科医・宇沢国際学館代表取締役 占部まりさん 最後に登場したのは、日本が誇る経済学者の故 宇沢弘文氏の長女である占部まりさん。占部さんは、生命をはじめとした大切なものをお金に変えない「社会的共通資本」の理論構築を目指した宇沢氏の研究内容を世の中に伝える活動を行っています。社会的共通資本(自然環境、社会インフラ、制度資本)の考え方に加え、医療や介護も社会的資本であること、これらを国だけではなく地域で守る重要性などが語られました。 また、内科医として地域医療に携わる占部さんご自身の体験や考えも共有されました。例えば、自身が医療的ケア児と関わる中で感じた「アート」の持つ力と可能性について。医療的ケア児は医療数値からみると「弱い」と捉えられてしまいますが、医療数値は人間のほんの一部分しか見ていないのではないか。医療的ケア児が生み出すアートから感じられるエネルギーや、エネルギーをもらった人たちが生み出す活動などを踏まえた「強さ」があるのではないか、といった示唆も。 質問コーナーでは、「アートと医療・ケアの結びつきについてもっと知りたい」といった声から活発なディスカッションが生まれました。また、ご自身の経験から「変わった人と思えた人が実は重要な役割を担っていたり、そのときわからなかったものが種になっていて、数十年後に花開いたりすることもあるのでは」といった意見もあり、感嘆のため息が聴こえました。 聞き手のことば 最後に、会場にいらした聞き手の方々の感想もご紹介します。 なんとなく考えていたことが言語化されて腑に落ちた 私は現在、障がい者施設でヘルパーとして働いています。最近まで高齢者施設で在宅支援をしているなかで、利用者さんご本人だけではなくご家族を含めたつながりの大切さや、そういったつながりがケアの充実にもつながるという体験をたくさんしてきました。ほっちのロッヂの藤岡さんや舜寿会の馬場さんのお話を伺いたくて、今日ここに来ました。馬場さんの「人とつながり、関わっていくと、その地域の文化に手が届くようになる」というお話は、私が在宅支援をしてきた際に感じたことと同じだったので、とても共感しました。また、「厚切りのハム」に例えられた話も面白かったですし(笑)、本当にそのとおりだと思いました。利用者さんに充実した生き方をしてほしい、という思いがあって、どんどん厚切りになっていっちゃうんですよね。「なんとなくそうなっちゃいけないな」とは感じていたんですが、言語化していただけて腑に落ちる瞬間がありました。ケアの視点だけじゃなくて、人と人とのつながり、自分の家族や自分の地域とのつながりの中でも意識していきたいと思えるお話が聴けて、充実したときを過ごせました。 自分たちの今後の活動のヒントに 私は在宅医療の「医療と介護をつなぐ」しくみづくりの部署で働いています。ほっちのロッヂ共同代表の紅谷先生の講演やイベントにも何度か参加しています。私の仕事も地域づくりや在宅医療、意思決定支援などにつながる部分があるので、何かヒントを得られないかと思い、参加させていただきました。松波さんのお話を聴く中では、私たちも地域の宗教家の方たちを巻き込んで何かやっていけないか?と、新たなヒントをいただきました。 この空間にケアされている感覚があった 私は、福祉・介護に興味のない若者のコミュニティづくりや学びの場づくりをしています。忙しい日々を生きていると、自分自身や周りの人が次第にすり減っていくように感じることがあり、一旦落ち着いて考えたい、語り合いたいという想いもあって、今回参加しました。自分自身がこの場にいることでケアされているような感覚があったのですが、それはきっとお話の内容はもちろんのこと、ここに集まっている方々が持つ価値観・世界観などによるものではないかと思いました。 * * * なかなか面と向かって語り合うことが少ないテーマについて向き合っていた本イベントは、聞き手の心に多くの気づき、ヒントを残したようです。初めて出会う人たち同士が共感しあう瞬間も多く、終了後の聞き手の方々の前向きな笑顔が印象的でした。 取材・執筆・編集: NsPace編集部

不眠への対応【精神症状の緩和ケア】
不眠への対応【精神症状の緩和ケア】
特集
2024年2月6日
2024年2月6日

不眠への対応【精神症状の緩和ケア】

身体疾患を抱える患者さんの中には、不安や抑うつ、不眠といった症状を呈し、ケアが必要な方がいます。このシリーズでは主にがん患者さんの事例を中心に、患者さんが訴える精神症状の問題にどう向き合えばよいかを考えていきます。今回のテーマは「不眠」です。 不眠とは睡眠の開始と維持に関する問題があり、日中に倦怠感や思考低下、意欲低下、食欲低下といった不調が出現している状態。不眠は、入眠困難(寝つきが悪い)、中途覚醒(何度も目が覚める)、早期覚醒(早朝に目が覚める)などに分類される。 がん患者さんにみられる不眠 睡眠は疲れた心身を回復させ、体調を整えるために大切です。しかし、がん患者さんの30~50%が不眠を経験するといわれており1)、がんと診断された直後や治療中、治療終了後、緩和期などに不眠で悩む人は少なくありません。 事例:Cさん(80代、女性、独居) 肝臓がんの診断で手術を受け、経過に問題なく半年前に退院。近隣に住む息子夫婦が連れ添い、定期的に外来通院し検査を継続。薬剤管理や体調確認目的で訪問看護を利用しています。 退院直後は気が張っている様子で元気そうだったCさん。ところが、近頃あまり元気がありません。訪問看護師が問いかけてみると、「何だか夜眠れなくて。昼間にうとうとしてしまい、結局1日何もできない。こんな生活だと張り合いもないし、食欲もない」との返事がありました。 訪問時、がん患者さんから「以前に比べて疲れやすくなった」「よく眠れない」「眠りが浅い」という悩みを訴えられることが少なくありません。Cさんの場合、眠れないことに加えて、そのことが日中の生活に影響している様子もうかがえました。 不眠の状態を評価する DSM-5では、不眠の診断基準として入眠困難、中途覚醒、早期覚醒のうち1つ以上を伴い、日中の社会的、行動上などの生活機能障害が週3回以上あり、3ヵ月以上持続すると定義しています2)。 Cさんにどのように眠れていないのか詳しく聞くと、「寝ようと思って11時には布団に入るけれど1時過ぎまで眠れない。寝る時間は遅いのに朝5時には目が覚める」と話されました。これは入眠困難と早期覚醒に該当します。また、家にいるときだけでなく、デイサービスの間も眠気があり、こうした状態が3ヵ月以上も続いているとのことでした。 訪問看護師は、Cさんの不眠の原因を探ると同時に、まずは薬物療法以外の方法で、生活の中に取り入れやすい工夫を紹介することにしました。 睡眠を妨げる原因を把握する 不眠の原因には、がんの進行や治療による痛み、入退院による環境の変化、服用している薬剤の影響などがあります。さまざまな精神疾患の前駆症状や随伴症状である可能性もあります。患者さんの不眠の原因を見きわめ、適切な対応につなげることが大切です。 Cさんは、現段階では痛みや発熱など身体的な苦痛は感じていません。退院後の生活にも大きな変化はないため、それらが不眠の原因とは考えにくい状況です。そこで、不安や適応障害などの心理的な原因がないか確認してみることにしました。 すると、Cさんは「家に一人でいると、これから先どうなるのか、再発したらどうすればよいのかと、とりとめもなく考えてしまう」と話されました。Cさんの病状は一段落しており、子どもたちが家に来る機会もすっかり減っています。日々の困りごとは医師や看護師、家族に相談できているので、何も手につかないくらい不安な状況ではないそうですが、一人で過ごす時間が長くなり、そうしたことを考えてしまうようです。 睡眠習慣の見直しを中心に対応 不眠への対応のポイントは原因を取り除き、症状を緩和することです。訪問看護師はCさんの訴えから、不安の緩和、現在服用している薬剤の調整と睡眠に関する療養相談を行うことにしました。 不安の緩和 Cさんは漠然とした将来への不安を抱え、ストレスを感じているようです。まずはCさんの不安を緩和するために、十分な時間をとって話を聞くようにしました。 薬剤の調整 Cさんは通院している大学病院の肝胆膵科以外にも、内科や整形外科、泌尿器科、眼科、耳鼻科など多くのクリニックを受診し、さまざまな薬剤を処方してもらっています。そこで、かかりつけ薬局に相談し、薬剤調整と不眠の原因になる薬剤がないか確認してもらうことにしました。 また、医師にも相談し、不眠時の内服薬が開始されることに。Cさんは「薬に頼ると中毒みたいになってやめられないのでは」と心配されましたが、訪問看護師が医師の指示通り適切に服用することで依存状態にはならないと説明することで服用に納得されました。 なお、痛みや息苦しさといった苦痛症状が睡眠に影響している場合は、その症状を緩和する方法を医師や薬剤師に相談しましょう。 睡眠薬を使用する際は、非がん患者さんで呼吸不全症状があると、薬剤の呼吸抑制作用が強く出る場合があるため注意が必要です。また、肝不全や腎不全などの患者さんの場合、薬剤の代謝・排泄に影響するため、肝機能や腎機能の状態を確認しながら使用します。睡眠薬については医師や薬剤師と十分相談するようにしてください。 睡眠に関連する療養相談(非薬物療法) 非薬物療法として、夜間の睡眠のみに注目するのではなく、日々の生活リズムの見直しも大切です。またCさんからは「決まった時間に寝て、決まった時間に起きなければならない」との思いが強くあるような印象も受けました。そのため、これまでの睡眠習慣に固執せず、今の自分自身にあった睡眠習慣を身につけてもらえるようなサポートを行うことにしました。 具体的な対応は以下のとおりです。 [1]生活リズムの見直しをすすめる<具体策> 何時に寝て、何時に起きているかを確認し、希望する睡眠時間が年齢相応か確認する。加齢に伴い実際に眠れる時間は短くなる。「寝なくては」と必要以上にベッドで横にならず、患者さんの年齢に応じた睡眠時間を把握し、その時間、眠れるように工夫する。就寝時間をコントロールするのではなく、起床時間をコントロールする。寝る時間が短くなっても熟眠感が得られるような睡眠パターンに目を向けることが大切。日中に適度な運動を行い、朝食をしっかりと摂るようにする。眠たくなってからベッドに入るようにし、環境と入眠開始の関連づけを行う。午睡はしないほうがよいが、日中どうしても眠いときは、15時までに20~30分程度の短い午睡をとるようにする。 [2]眠れないときの対応を伝える<具体策> ベッドに入っても寝付けないときは、いったんベッドを離れ、眠たくなったら再びベッドに入るようにする。 [3]眠る前の注意事項を伝える<具体策> カフェインを摂取しないようにする。就寝前にリラックスできる習慣があれば取り入れる。 非がん患者さんにみられる不眠への対応 心不全や呼吸不全のような非がん疾患の場合は、上記の内容に加え、睡眠を障害する症状の緩和ケアが必要です。例えば、終末期心不全では、60~88%に呼吸困難、69~82%に全身倦怠感、35~78%に疼痛、70%前後に抑うつ症状があるといわれています3-5)。これらの症状に対応することが睡眠障害の改善につながります。がん患者さんとは異なり、「寝てしまうと、もう起きられないのではないか」というような漠然とした不安を訴える方も多い印象があるため、強い不安を認めた場合には不安に対する支援が大切です。 * * * 不眠は身体疾患や精神疾患と相互的な因果関係があるといわれています。不眠の原因への対応を念頭に置きつつも、不眠そのものに積極的な介入が推奨されています。このため、眠れないという訴えをおろそかにせず、しっかりと受け止め支援してほしいと思います。 執筆:熊谷 靖代野村訪問看護ステーションがん看護専門看護師 ●プロフィール聖路加国際病院勤務後、千葉大学大学院博士前期課程修了。国立がん研究センター中央病院などでの勤務を経て、2016年より現職。2007年にがん看護専門看護師の資格を取得。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)谷向 仁著.「不眠」,森田達也,木澤義之監修,西 智弘,松本禎久,森 雅紀,ほか編.『緩和ケアレジデントマニュアル第2版』.東京,医学書院,2022,p.311.2)American Psychiatric Association. 『Diagnostic and statistical manual of mental disorders(DSM-5®)』. Washington, DC, American Psychiatric Pub, 2013.3)Krumholz HM, et al. Resuscitation preferences among patients with severe congestive heart failure: results from the SUPPORT project. Study to Understand Prognoses and Preferences for Outcomes and Risks of Treatments. Circulation 1998; 98: 648–655.4)Levenson JW, et al. The last six months of life for patients with congestive heart failure. J Am Geriatr Soc 2000; 48: S101–109.5)Solano JP, et al. A comparison of symptom prevalence in far advanced cancer, AIDS, heart disease, chronic obstructive pulmonary disease and renal disease. J Pain Symptom Manage 2006; 31: 58–69. 【参考文献】〇 厚生労働省.健康づくりのための睡眠指針2014(平成26年 3月).https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf(2023/10/20閲覧)〇 国立がん研究センター.がん情報サービス「眠れない・不眠 もっと詳しく」.https://ganjoho.jp/public/support/condition/insomnia/ld01.html(2023/10/20閲覧)

糖尿病【訪問看護師の疾患学び直し】
糖尿病【訪問看護師の疾患学び直し】
特集
2024年2月6日
2024年2月6日

「糖尿病」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は糖尿病について、訪問看護師に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 この記事で学ぶこと 糖尿病患者の在宅療養では、脳卒中や心筋梗塞、低血糖症などの救急搬送を要する疾患の発症予防や、■高血糖 ■低血糖 ■シックデイ ── などへの留意が必要です。そのためには、外来受診や訪問診療での医師の診察に加え、ケアマネジャーを中心とした地域の訪問薬剤管理指導や訪問看護、訪問栄養指導、訪問リハビリテーション、訪問介護等のサポートと、何よりご家族の協力が不可欠です。シームレスかつタイムリーな地域連携のために、ハイセキュリティな医療用SNSをはじめとしたICT利用や、日本看護協会が推奨する特定行為研修修了看護師の地域配置が、一助になると考えられます。 在宅医療での糖尿病患者の特徴 在宅医療で介入が必要な糖尿病患者は、高齢や認知症だけでなく、廃用症候群や摂食嚥下障害の合併があり、高血糖、低血糖、シックデイ、自己管理困難、介護力不足など、複数の療養阻害要因を抱えるケースが散見されます。これらに対して安全性を担保するために、以下の対応が必要です。 治療方針 在宅での高齢者糖尿病患者では、身体機能や認知機能、心理状態、社会的環境を勘案し、個別的かつ総合的に目標を設定することが求められます。具体的には、認知機能やADL、そして重症低血糖リスクが危惧される薬剤の使用有無によって、血糖コントロール目標値を設定します。詳細は「高齢者糖尿病診療ガイドライン」1)を参照してください。 糖尿病を持つ患者への訪問看護 訪問看護では、患者の協力体制を得ることが不可欠です。血糖自己測定(SMBG)の値推移、日々のバイタルサイン、身体状況からアセスメントして推測される状況を、医師へ報告する必要があります。 患者ごとの血糖コントロール方針が立てられる 高齢患者では、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」2)に沿って、年齢や認知機能などをもとに、カテゴリー分類が判断されます。高齢者では、健康状態や治療内容によって、血糖コントロールの方針が異なります。必ずしもHbA1c値を下げるのがよいわけではなく、カテゴリーによってはHbA1c値を緩徐に上げる場合もあります。そのため、連携先の医師と、患者の情報を共有することが重要です。 患者のADLや年齢、薬剤、残存疾患といった情報から、患者にとって最適な血糖コントロールが判断されます。患者に接する機会が多い医療職である訪問看護師が、患者との人間関係を構築し、日常生活の情報を聞き取り、医師へ情報提供できる体制が望ましいでしょう。また、患者に対し、日々の治療に対するモチベーションが低下しないよう、血糖測定や内服を忘れず実施できていることへの労りの声掛けも大切です。 過去に低血糖を起こした既往がないか 低血糖は生命リスクを高めます。過去に低血糖を起こしていればリスクが高いと判断し、対応することが必要です。シックデイの際にはどのような対策をとればよいか主治医に相談の上で、患者へ指導します。 また、低血糖を頻発している人は、交感神経症状である発汗や頻脈、手指振戦が出ないこともありますので、中枢神経症状である頭痛や集中力低下がないかを注視することも必要です。 薬剤の服薬状況 過去に処方されて余っている薬などがないかを、確認する必要があります。過去処方されていたスルホニル尿素薬(SU薬)など、低血糖を惹起する血糖降下薬が出てきたから「今の薬とあわせて飲んでしまった」というケースもありえ、場合によっては救急搬送や致命的な状態に至る場合もあります。現在処方されている薬だけではなく、過去処方の残薬がないかを初回介入時に調べることが重要です。 訪問看護師に求められる対応とそのポイント 低血糖 低血糖で現れる自律神経症状(発汗、動悸、手の震えなど)が高齢者では現れにくく、高齢者は低血糖となっても無自覚となりやすい特徴があります。高齢者の低血糖は、転倒や骨折、うつ状態の誘因になるともに、認知症発症の危険因子でもあります。QOLの低下にもつながるため、注意を要します。 経口摂取が可能な場合は、ブドウ糖10gまたはブドウ糖を含む飲料200mLを摂取し、15分後に血糖を再測定します(ブドウ糖以外の糖類では効果発現が遅れます)。 経口摂取が不可能な場合は、ブドウ糖や砂糖を口唇と歯肉の間に塗りつけ、グルカゴンがあれば1mgを注射し、医療機関に搬送となります。応急処置で意識レベルが一時回復しても低血糖の再発や遷延があり、注意を要します。 シックデイ 急性疾患の併発等によって、血糖コントロール悪化、食事摂取量低下があれば、対策が必要です。可能であれば血糖値を頻回に測定しながら、家庭ではできるだけ経口的に、水分・炭水化物・塩分を摂取させます。お粥やスープ、お茶、ジュース、アイスクリームなどが摂取しやすいとされています。 薬剤コンプライアンスとアドヒアランス 独居や老老介護生活の患者の場合、在宅医療の開始となった早期に、残薬整理の介入を実施することは、過量服用や薬剤不適切使用の防止に有用な手段です。 また、訪問薬剤管理指導により、薬剤師が定期的に生活状況を確認することで、食前食後薬の用法統一、腎機能・血糖値・食事量を考慮した減薬、認知機能や運動機能を考慮した注射剤デバイス変更など、処方への提案が可能です。薬剤師による電話フォローも、コンプライアンス、アドヒアランス両方の向上に寄与すると考えられます。 自己血糖測定や自己注射の援助 自己管理が必要にもかかわらず、それが困難な患者では、 ■家族や訪問看護による他者管理■訪問薬剤管理指導、訪問介護等による見守りのもとでの自己管理を検討します。 独居や経済的問題等でコメディカルの介入が困難な場合には、スマートフォンのビデオ通話機能を利用し、遠隔で看護師見守りで実施するケースもあります。 制度面の知識 ■身体障害者手帳申請:肢体不自由、視覚障害、じん臓機能障害(eGFR20未満)等■自治体ごとの医療福祉費支給制度の利用で、自己負担の費用を軽減できる場合があります。しかし、独居高齢患者等では、申請準備が困難なケースも少なくありません。ケアマネジャーが中心となり、本人の意思に寄り添いながら、主治医や多職種、福祉や行政等の間に立ち、申請援助をすることも重要です。 特定行為研修修了看護師の活躍 秋田県由利本荘市は、全国的にも高齢化率が高く、訪問診療医が少ない地域です。そのような地域において、在宅にかかわる看護師の特定行為研修を進める動きが活発に行なわれています。これは、秋田大学大学院医学系研究科 安藤秀明教授のご協力のもと、訪問診療医が実習を担当し、働きながら地域で特定行為研修を受講できる体制が構築されました。2022年には第1期生として4法人6名の看護師が研修を受けました。 特定行為研修修了者の活動により、医師数が限られた地域であっても、望まれるケアの充足につながります。たとえば、特定の範囲内であれば基礎インスリン量の変更も、医師の指示を待たずに看護師が変更することができます。専門的な医学教育を受けた看護師が訪問することで、地域で、病院に近い質の高い糖尿病療養を実施できる一助になると期待されています。 訪問看護師による遠隔指導 由利本荘市のごてんまり訪問看護ステーションでは、訪問看護師による遠隔指導を行なっています。在宅患者にタブレットを貸与し、SMBG指導や超速効型スケール指導、インスリン注射指導を遠隔で実施しています。高齢になるほどインスリン単位数間違いの危険性が高くなりますが、つど遠隔で指導を実施することで、指導効果は上がり、単位数間違いによる低血糖リスクを予防することができます。 遠隔指導のよさは、通常は入院しなければ困難な強化インスリン療法の指導でも、在宅で実施できることです。指導のために入院となると、筋力や認知力の低下が避けられませんが、それらを防ぐこともできます。何よりも入院費の削減に大きな効果を発揮します。 2023年12月現在は、D to P(Doctor to Patient)による遠隔診療に対する診療報酬算定は要件があるものの認められていますが、N to P(Nurse to Patient)またはD to P with Nについては診療報酬上の評価がありません。しかし、きたるべき超超高齢社会と限界集落の増加に備えてN to Pを実施していかなければならない地域として、このような取り組みを行なっています。 執筆:谷合 久憲  たにあい糖尿病・在宅クリニック院長藤沢 武秀ごてんまり訪問看護ステーション看護師血糖コントロールに係る薬剤投与関連特定行為研修修了者八鍬 紘治日本調剤東北支店在宅医療部薬剤師糖尿病薬物療法履修薬剤師秋田県糖尿病療養指導士長堀 孝子SOMPOケア由利本荘介護支援専門員木村 有紀ごてんまり訪問看護ステーション作業療法士齋藤 瑠衣子たにあい糖尿病・在宅クリニック管理栄養士 編集:株式会社メディカ出版 【参考文献】1)日本老年医学会ほか編著.『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』.東京,南江堂,2023,264p.2)日本老年医学会ほか編著.「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標・治療方針」.『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』.東京,南江堂,2023,34.3)週刊日本医事新報  NO.5198 2023

「ほっちのロッヂ」藤岡聡子氏インタビュー
「ほっちのロッヂ」藤岡聡子氏インタビュー
インタビュー
2024年2月6日
2024年2月6日

多様な人たちが集まり「心地よい」と思える空間をつくる【藤岡聡子氏インタビュー】

長野県軽井沢町の「ほっちのロッヂ」は、「ケアの文化拠点」を掲げ、「症状や状態、年齢じゃなくって 好きなことする仲間として出会おう」を合言葉に、枠にとらわれない活動をしています。「診療所」「訪問看護ステーション」「デイサービス」などを行っていますが、一般的に想起するイメージとは異なります。大きな台所やアトリエがあり、医療資格の有無や年齢、病状等に関わらず、さまざまな人たちが出入りします。医師の紅谷浩之氏とともに、ほっちのロッヂの共同代表を務めるのは、福祉環境設計士の藤岡聡子さん。今回は、藤岡さんのこれまでのキャリアについてや、ほっちのロッヂが生まれた背景などを伺いました。 藤岡 聡子(ふじおか さとこ)さん「老人ホームに老人しかいないって変だと思う」と問いを立て24歳で創業メンバーとして有料老人ホームを立ち上げ、アーティスト、大学生や子どもたちとともに町に開いた居場所づくりを実践。2015年デンマークに留学し、幼児教育・高齢者住宅の視察、民主主義形成について国会議員らと意見交換を重ね帰国。「長崎二丁目家庭科室」主宰(豊島区椎名町)、2019年より長野県軽井沢町にて「診療所と大きな台所があるところ ほっちのロッヂ」を医師の紅谷と共に開業し共同代表。共著に『社会的処方(2019学芸出版社)』『ケアとまちづくり、ときどきアート(2020中外医学社)』。 診療所と大きな台所があるところ ほっちのロッヂ(長野県軽井沢町)「症状や状態、年齢じゃなくって 好きなことする仲間として出会おう」をコンセプトに、大きな台所を起点とし、2019年訪問看護ステーション、2020年に在宅医療(外来・訪問診療)・共生型通所介護・医療型短期入所事業含め全事業開始。運営元:医療法人社団オレンジHP: http://hotch-l.com/Instagram: https://www.instagram.com/hotch_lodge/ 定時制高校での出会いが歪みを直してくれた ―まずは、藤岡さんのこれまでのご経験、キャリアについて教えてください。 私は元々、人材教育会社でキャリアをスタートさせたんですが、働き始めて1年を過ぎたあたりで、たまたま友人から「老人ホームを作ろう」と言われたんですよ。そして、私自身、思い当たることもあり、気づいたら「いいじゃん!つくろう!」って言っていたんですよね(笑)。「人の暮らしのど真ん中に入っていく」きっかけは、この老人ホームの立ち上げでした。まったく違う業界から、いきなり24時間対応の50人程度の規模の老人ホーム運営に携わることになったんです。 少し幼少期のことにさかのぼりますが、私は小6のときに医師だった父を亡くしています。当時弱っていく父を子どもながらに「怖い」と感じ、きちんと父の死に向き合えなかったという心残りがある。そして人が生きることや死ぬことをどう捉えていいかわからなくなり、母親と話すことや学校に行くこともしんどくなり、いわゆる不登校と言われる時期を過ごしていました。人からは不良というレッテルを貼られることも珍しくなかったですね。世間から自分のことを見た目や境遇でそのように扱われることも、とても苦しかった。 進学を機に私の考えは大きく変わったと思います。唯一受験して合格できた先は夜間定時制高校。そこに通い始めたら、学校やアルバイト先で年齢もバックグラウンドも多様な人たちとの出会いがありました。その出会いが私の「歪み」を直してくれたんです。そういった経験を通じて、全く違う属性の人と混ざり合うことの大切さを実感していたので、「老人ホームに老人しかいない」という状況は、そもそも自分の中に引っかかってくるわけですよね。 ―そうなのですね。では、どういった老人ホームになるのがよいと思われますか? 目の前の方がどんな症状・状態であっても、その人が「ああ、本当に今日生きていてよかった」と思える空間を作りたいという気持ちがあるんです。人が「心地いいな」とか「今日はいい出会いがあったな」とか、地味かもしれませんが「お茶が美味しかったな」とか。そういった日常の嬉しさに気付ける空間が、どんな人にもきっと必要だろうと思うんです。 だから、例えば「85歳で要介護2だから、あなたはここね」と振り分けてしまうことに違和感があります。また、介護や医療の専門性ももちろん大事なのですが、今の私のような「そうじゃない専門性」もあっていいよなっていう思いをずっと持っています。 ジブリの映画『崖の上のポニョ』でデイサービスと保育園が併設されているのもいいなと思って。決して制度や機能面から入ったわけではなく、あらゆる状況の方たちが町が洪水になったとしても、「誰かの(恋路を)猛烈に応援する!」と、生ききっているわけですよね。その横顔や描写にとても感動したのです。 ですから、友人に声をかけられた時に思っていたのは、有料老人ホームの中にカフェをつくって、カフェの2階は近所の小学校に通う子どもたちが放課後に立ち寄れる学童保育のようなことをして、あらゆる世代が出会える場にしたいと思っていました。 世代・属性が異なる人たちが集う場をつくりたい ―当時、そのプランに対してのまわりの皆さんの反応はいかがでしたか。 介護職の人たちには、私の考えはまったく理解してもらえませんでしたね。あえて言ってしまうと、「何の専門性もない人間が老人ホームを作っている」という状況ですから。「老人ホームに老人しかいないのは当たり前で、それを変だと疑う人のほうが変」「老人ホームに子どもたちが入ってきたら危ない」とも言われました。私物を隠されてしまうなど、いじわるをされてしまったこともあります。私も当時は若かったので(笑)、「あんまり専門職の子たちと私は合わないのかな」という気持ちにもなってしまいました。 そういった経緯があったのと子育てや母の看病の都合もあって、老人ホームから離れて、大阪から東京に引っ越しました。東京ではさまざまな職業の人と仲良くなって、地域の方々との出会いもたくさんありました。やっぱり私は人が心地よく暮らしていく環境をつくること、整えていくことにすごくフィーリングが合うんですよね。 でも、同時にいわゆる「ケアの現場」の近くにいない方たちっていうのは、町ゆくおじいさん・おばあさんたちとの関係がちょっとぎこちなくなってしまうんだな、ということも感じました。例えば、「あのおじいさん、腰が曲がってて、スリッパ履いてるし、変わった歩き方だけど大丈夫かな」と思っても、声をかけづらい。声をかけて「何かあったらどうしよう」と思うみたいですね。 やっぱり私は、年齢や状況に関わらず、ともに心地よいと思える環境を作りたいと思っていましたし、ケアの現場と距離がある人たちにはできなくて、私だからこそできることがあるなと思いました。だから、世代や属性が離れているような人たちが出会う場所を作ってみたんですよね。ほっちのロッヂを立ち上げる前につくったのが「長崎二丁目家庭科室」です。元々空き家をリノベーションしてゲストハウスを作っているチームと話をしているうちに、「この取り組みを地元の方がなかなか理解してくれない」と。一方で地域の方々とコミュニケーションをとっていると、手仕事・暮らしに関する特技をお持ちの方が多い場所だなと思って。これをもっと日常的に地域の方同士が会えるような環境を作ることができたら面白いと考えて、そのゲストハウス1階を間借りし、「長崎二丁目にある、家庭科室」を名乗ったわけです。 長崎二丁目家庭科室 東京都豊島区にて2018年まで運営されていた福祉・多世代交流の場。 「ようこそ、長崎二丁目家庭科室へ。」(https://nagasaki2-baseforeveryone.tumblr.com/ ) 長崎二丁目家庭科室には、なんとなく町の人たちが集まってきて、編み物とかをして、本来は出会わなかった他者が出会う環境を作ることができて。「ああ、これいいな」と思いました。誰かが何かを教えてると思ったら、逆に教わる側に行っていることもあったりして、関係性が容易に逆転する空間でもありました。 紅谷医師と意気投合し、ほっちのロッヂ誕生 ―その後、ほっちのロッヂを立ち上げられていますが、きっかけはなんだったんでしょうか。 軽井沢町のある教育機関の方針に共感して、代表者に会いにいったことがあるんですが、それがきっかけですね。私はその教育機関に、教育と地域をからめて何かできないかと提案したんです。結果的には制度の壁もあって叶わなかったのですが、実は同時期に時間差で紅谷(※)も同じ方に会いにいっていました。紅谷もその教育機関へ子どもたちを真ん中にするまちづくりがしたい!と提案を持っていくほど熱意があったので、代表者の方が「藤岡さんと紅谷さんが会ってみたらどうか」と紹介してくれたんです。まったくの初対面なので、「誰!?」と思いながら、ちょっと緊張しつつ顔を合わせました(笑)。 ※紅谷 浩之(べにや ひろゆき)氏:医師/医療法人社団オレンジ理事長/ほっちのロッヂ共同代表 でも、すぐに気が合いましたね。私が地域で「教える側・教えられる側の関係性が逆転する空間」っていいな、と思ったのと同様に、紅谷はケアの対象だと思っていた医療的ケア児とのコミュニケーションを通じて、「医師として変われた」「学べた」ということを、とても大事な経験として持っていました。そして、あらゆる状態にある子どもたちが学んだり、遊べたりする子ども中心の町・地域を作りたいという想いを持っていたんですよね。医療的ケア児のコミュニティを全国に広げて、「軽井沢で1ヵ月空き家を借りたからキャンプしよう!」なんてこともできちゃう行動的な人だったんです。 参考: オレンジキッズケアラボ「軽井沢キッズケアラボ」 私が「老人ホームに老人しかいないのは変だと思う」って言ったことに対しても、紅谷は「ワハハ! さとちゃん(※藤岡さんのこと)、面白い!」って言ったんですよ。そんな反応をされたことがなかったので、「え?こんな人初めて!」と驚きながらも「そうだよね!」と意気投合して。 こんな風にたまたま在宅医療をやっていた紅谷と、そうじゃない人間である私が出会って始めたのが「ほっちのロッヂ」なんです。 得意なことがたまたま「在宅医療」だった ―藤岡さんの意見を受け入れてくれる紅谷先生との出会いがあったからこそ、「ほっちのロッヂ」があるんですね。 そうですね。こういう始まり方なので、私にとっては紅谷が医師であろうがなかろうが、いい意味で関係がなかったのです。自分の価値観に共感してもらえた経験がないまま数年過ごしてきた中で、たまたま紅谷が共感してくれて、たまたま医師で、在宅医療をやっている人だった。そこまで知っちゃったら、そういう人に対して一緒に「ケーキ屋さんやりませんか」とか、「宿をやりませんか」とか言えないですよね(笑)。 「じゃあ診療所だ」って思って。その中でも、医師も看護師も医療的な専門性のない人も含めた、いろんな人からできたチームをつくろうと思ったんです。作り手側がお互いやってみたいと思うことの実現のために、「在宅医療」っていう得意技を使ったということですね。やるからには本気で取り組んでいますし、医師も看護師も必要です。それに加えて、私は人がここにいて「気持ちいいな」「嬉しいな」「いい一日だったな」と思える空間をつくりたいという願いがあるので、それを実現していくために少しずつ動いたという感じですね。 ―「訪問看護ステーションをつくりたい」「診療所をつくりたい」という箱や枠の部分から考えるのではなく、「こういう場をつくりたい」が先に来ていたんですね。 次回は、ほっちのロッヂで訪問看護師として働く方々も交えてお話を伺います。>>後編はこちら医療と福祉と、エトセトラ。枠にとらわれない『ケアの文化拠点』とは 取材・執筆・編集: NsPace編集部

百日咳の症状・原因・治療法について解説
百日咳の症状・原因・治療法について解説
特集
2024年2月13日
2024年2月13日

百日咳の症状・原因・治療法・ワクチンについて解説。咳で骨折することも?

百日咳は、世界と比較すると日本での発症率は低いものの、発症すると激しい咳によって生活に支障をきたす可能性がある疾患。ワクチンを接種した上で、適切に感染対策を行うことが大切です。この記事では、百日咳の症状や原因、治療法、ワクチンなどについて改めて解説します。訪問看護師さんご自身や家族の健康管理はもちろん、利用者さんのアセスメントに役立てるためにも、基礎知識をおさらいしておきましょう。 百日咳とは 百日咳は、けいれん性の咳が現れる感染症です。多くの場合は軽症で済むものの、免疫が不十分な乳児期には重症化することがあります。日本をはじめ、世界中でDPT三種混合ワクチンやDPT-IPV四種混合ワクチン接種が普及したことで、百日咳は激減しています。しかし、ワクチンの未接種や免疫機能の低下などの要因により、世界でしばしば流行しているのが現状です。 百日咳の症状 百日咳の経過は、以下の3つに分類されます。 カタル期2週間程度続き、少しずつ咳が強くなっていきます。痙咳期(けいがいき)2~3週間にわたりけいれん性の咳が続きます。短い咳が続いたり、「ヒューヒュー」という呼吸音がみられたりすることもあります。回復期回復期では2~3週間かけて症状が和らいでいきます。 多くの場合は、発症から2~3ヵ月程度で完治します。微熱程度で済むほか、乳児の場合は目立った症状がみられないことも少なくありません。無呼吸発作をきっかけに受診したところ、百日咳が判明するケースもあります。 また、大人が百日咳に感染した場合は、乳幼児と違い、重症化することは少ないですが、原因不明の発熱を伴わない発作的な咳が2週間以上続きます。 百日咳の原因 百日咳の原因は、百日咳菌の感染です。ただし、パラ百日咳菌によって発症する場合もあります。感染経路は飛沫感染と接触感染です。 百日咳の治療法 生後6ヵ月以上の場合、マクロライド系抗菌薬を使用します。特にカタル期に治療を始めることが有効です。ただし、新生児の場合はマクロライド系抗菌薬の使用による肥厚性幽門狭窄症(ゆうもんきょうさくしょう/IHPS)の発症リスクが上昇することがあるため、アジスロマイシンによる治療が推奨されています。また、咳に対しては鎮咳去痰剤を使用し、必要に応じて気管支拡張剤の使用も検討します。 百日咳の自宅での対応方法 症状が軽い場合、自宅療養で問題ありません。ただし、症状が軽いかどうかの判断が難しいため、けいれん性の咳が出た際は医療機関を受診し、薬物療法を受けることが大切です。 自宅では静かに過ごし、咳が激しいときは水分や食事の摂取を複数回に分けましょう。また、咳が激しい、呼吸困難になっている、嘔吐が続いて水分を十分に摂取できないといった場合は、速やかに医師に相談する必要があります。 百日咳の出勤・出席停止の扱いについて 百日咳は第2種感染症に定められており、症状がなくなるか5日間におよぶ抗菌薬による治療が終了するまでは学校は出席停止です。ただし、学校医やその他の医師の判断のもと、出席停止期間は変更できます。 職場への出勤については、明確な規定は定められていません。まずは医療機関を受診し、医師の判断を仰ぐことが大切です。その上で勤務先に連絡し、欠勤するかどうか話し合って決めましょう。 百日咳のワクチンは? 世界中でDPT三種混合ワクチンが普及しています。日本では、DPT三種混合ワクチンだけでなく、不活化ポリオワクチンを含むDPT-IPV四種混合ワクチンが定期接種となっています。接種スケジュールは生後3ヵ月以上90ヵ月(7歳6ヵ月)未満で4回接種です。最初の3回の初回免疫と最後の1回の追加免疫に分類されており、初回免疫は20~56日の間隔で3回、追加免疫は3回目の接種から6ヵ月以上の間隔で1回行います。 ただし、ワクチンの効果は4~12年かけて次第に弱まっていくため、ワクチンを接種していても百日咳にかかる可能性があります。特に乳児への感染はリスクが高いため、妊娠後期にDPT三種混合ワクチンを接種し、母体の感染を防ぐとともに、赤ちゃんが抗体を持って生まれてくるようにすることで、生後1ヵ月未満の新生児期の感染を防ぐことが推奨されています。 百日咳の咳がひどいと骨折することもある? 百日咳は激しい発作的な咳が特徴で、これが繰り返されることで肋骨骨折が発生する可能性も。激しい咳の衝撃によって肋骨に負担がかかり、繰り返しの咳によって疲労骨折が引き起こされます。特に高齢者や骨粗しょう症の方など骨がもろく弱い人は、骨折のリスクが高まります。 もし、胸部に痛みを感じるときは速やかに医療機関を受診し、骨折に関する診断と適切な治療を受けましょう。 百日咳に一度かかると二度とかからない? 百日咳は終生免疫を得られる感染症ではありません。一度感染しても、再びかかる可能性があります。6ヵ月未満の乳児は特に注意が必要であり、予防接種を受けて感染と重症化のリスクを抑えることが重要です。 * * * 百日咳は、けいれん性の咳を特徴とする感染症で、終生免疫を獲得できないことから生涯に複数回かかる可能性があります。乳児は重症化しやすいため、家族が百日咳にかかった際は家庭内でなるべく接触しないよう注意が必要です。今回、解説した内容を自身の健康管理や利用者さんからの質問対応に活かしてください。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】〇国立感染症研究所「百日咳とは」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/4772023/11/20閲覧〇一般社団法人日本プライマリ・ケア連合学会「ワクチンと病気について」https://www.vaccine4all.jp/topics_I-detail.php?tid=452023/11/20閲覧

「ほっちのロッヂインタビュー」枠にとらわれない『ケアの文化拠点』とは
「ほっちのロッヂインタビュー」枠にとらわれない『ケアの文化拠点』とは
インタビュー
2024年2月13日
2024年2月13日

医療と福祉と、エトセトラ。枠にとらわれない『ケアの文化拠点』とは

長野県軽井沢町のほっちのロッヂに足を踏み入れると、いわゆる「診療所」「訪問看護ステーション」から連想するイメージとは異なり、まるで別荘のような雰囲気。ほっちのロッヂでは、訪問看護ステーションを「家に訪問し医療のサポートをしたり、町全体の健康を考える活動のこと」と定義。訪問看護をする人たちのことは、「訪問もしますが、町のあちらこちらで働きながら、この町全体が健康な状態であるためにどんなことができるだろう?と考えているチーム」としています。 実際にほっちのロッヂで訪問看護をしている人たちは、どのような想いで、どんな働き方をしているのでしょうか。今回は前編でお話を伺った藤岡さんに加え、看護師の小宮さんと今井さんにもお話を伺いました。 >>前編はこちら多様な人たちが集まり「心地よい」と思える空間をつくる【藤岡聡子氏インタビュー】 藤岡 聡子(ふじおか さとこ)さん「老人ホームに老人しかいないって変だと思う」と問いを立て24歳で創業メンバーとして有料老人ホームを立ち上げ、アーティスト、大学生や子どもたちとともに町に開いた居場所づくりを実践。2015年デンマークに留学し、幼児教育・高齢者住宅の視察、民主主義形成について国会議員らと意見交換を重ね帰国。「長崎二丁目家庭科室」主宰(豊島区椎名町)、2019年より長野県軽井沢町にて「診療所と大きな台所があるところ ほっちのロッヂ」を医師の紅谷と共に開業し共同代表。共著に『社会的処方(2019学芸出版社)』『ケアとまちづくり、ときどきアート(2020中外医学社)』。今井 麻菜美(いまい まなみ)さんほっちのロッヂ 訪問看護ステーション 地域看護師急性期病棟、離島の病院、老人ホーム等を経て、「診療所と大きな台所のあるところ」に関心を持ち、ほっちのロッヂへ 小宮 彩加(こみや あやか)さんほっちのロッヂ 訪問看護ステーション 地域看護師病棟での勤務を経て、「医療福祉のクリエイティブ職」という言葉に惹かれ、ほっちのロッヂへ診療所と大きな台所があるところ ほっちのロッヂ(長野県軽井沢町)「症状や状態、年齢じゃなくって 好きなことする仲間として出会おう」をコンセプトに、大きな台所を起点とし、2019年訪問看護ステーション、2020年に在宅医療(外来・訪問診療)・共生型通所介護・医療型短期入所事業含め全事業開始。運営元:医療法人社団オレンジHP: http://hotch-l.com/Instagram: https://www.instagram.com/hotch_lodge/ 「クリエイティブ職」という言葉に惹かれて ―訪問看護師の小宮さん、今井さんのお二人は、ほっちのロッヂで初めて訪問看護をされているんですよね。まず、小宮さんはどういった経緯・想いでほっちのロッヂで働くことになったんですか? 小宮: 私は、病院に半年勤めたあと、「ほっちのロッヂ」にきました。きっかけは、自分の想いと病棟での仕事とのギャップですね。 自分の想いについては、看護大学院時代にさかのぼるのですが、私は病院の実習が大好きでした。お食事をあまり召し上がらない方がいたのですが、一対一でやり取りする中で、はしからフォークに変えたり、うどんを切るなどの工夫で、随分召し上がるようになった、という経験をしたんです。実習中はしんどいこともありましたが、そういったやりとりを通じて「こういう看護をしたいな」と思って、病院に就職しました。 病院が悪いと言っているわけでは決してないのですが、実際に働いてみると回転数についてや、延命の実際などについて目の当たりにし、「私がやりたいことってこれだったかな?」と心に引っかかる部分がありました。 そんなとき、この募集をみかけて「これだ!」と思ったんです。 ―ほっちのロッヂの求人ですね。どういった部分が心にささりましたか? 小宮: 私の場合は、点数とか入院日数とか回転率とかよりも、看護は「創り出すからこそ面白い」っていう感覚があったんです。誰がやっても同じではなくて、人とその時、その場の空気感とか目線とか、いろいろな要素があって、全部が組み合わさって、創り出していけるものが看護かなと思っていて。そこを追求していきたいと思っていたところに「クリエイティブ」という言葉が目に入って、「これだ!」と(笑)。 藤岡: ここに書かれている文言は、紅谷(※)が言ったことをベースに私が料理して生まれたものですが、天気とか季節とか気温とか、気分とか…。本当に不確実な要素がある中で人を相手にするわけですから、「クリエイティブのほかに何があるの?」って思っています。クリエイティブっていう言葉からはデザインとかを連想しがちですけれど、こんなに無形のクリエイティブさはないよな、と。 ※紅谷 浩之(べにや ひろゆき)氏:医師/医療法人社団オレンジ理事長/ほっちのロッヂ共同代表 小宮: 日によっても全く違うので、その瞬間、その場で創り上げていくものという感覚です。それが、しんどいけど面白いところですね。ほっちのロッヂでは、患者さんがいらしたときに「今回は外がいいな」って思ったら、本当に青空診療になります(笑)。 このお日様があって、この緑があって、この体調で外にいられるなら、外かなって。その時々で組み合わせ具合が全然違っていて、そこを逃さずキャッチできたぶんだけ、面白いケアになるって思います。 ―空間も含めて、つくっているんですね。 藤岡: そうですね。ただ、こちらだけがつくっているということではなく、互いに関係し合ってつくりあげている。そして、あくまで癒しは結果である。そんなイメージです。 森の中に佇むほっちのロッヂ3周年祭での記念撮影スタッフ勉強会の様子ほっちのロッヂ内のライブラリー いつの間にか訪問看護をしていた ―今井さんがほっちのロッヂで働くことになった経緯も教えてください。 今井: 私は急性期病棟で数年働いていたんですが、「やりたい看護はもっと別の場所にあるのでは」と考えて、離島に行ったんです。離島では退院した方々の笑顔にたくさん出会い、お家やご家族が持つ力をすごく感じました。「ここでの看護、好きだな」と思って、それ以来「住まいに近いところにいたい」という思いがあります。 結婚を機に関東に戻ることになった際も、島にいたころの看護ができる場所を探したんですが…なかなか見つかりませんでした。当時は訪問看護をする勇気はまだなくて、在宅サービスや老人ホームで働きました。 でも、あるとき同僚が体調を崩し、ケアすることもケアされることもできず、ただただ崩れていく…みたいな状況になってしまいました。そしてその後、私自身も近い状況になってしまったんです。「これは違うな」と思い、私はもう看護師という役割にこだわらなくてもいいと思いました。また、食生活の乱れを整えたら健康を取り戻したという経緯もあって、そのころから健康的に働くことや、健康を支える食事が自分の中のテーマになりました。 そんなとき、たまたま雑誌を開いたらほっちのロッヂの記事が出てきて、「診療所と大きな台所のあるところ」という副題に目を奪われました。「これはなんだ?」と(笑)。働く場所を探したというよりも、「診療所の台所って、どういう役割があるんだろう」とか、「どうやって健康を支えるんだろう」というところに興味がありました。 藤岡がやっていた「長崎二丁目家庭科室」のことも知っていたんですが、行こうと思ったらもう閉じていたっていう経緯もあって。藤岡と話をしてみたくて軽井沢に行って、気づいたらいつの間にか訪問看護をしていました(笑)。 看護師がたくさん関わる=「幸せ」ではない ―ほっちのロッヂでは、訪問看護ステーションのことを、「家に訪問し医療のサポートをしたり、町全体の健康を考える活動のこと」と定義されています。いわゆる「訪問看護師」という職種から想起される定義・枠を取り払おうとされているように思いますが、普段どのような活動をされているのでしょうか。 小宮: 「看護師としてこういうことをしています!」と決めつけてしまうこと自体がちょっと違うのかなと思っていて、何か特別な活動をしているという感じではないんです。 でも、地域の方々のことをよく見ようとしているというのはありますね。例えば、訪問先のひとつにご夫婦とも認知症で二人暮らしをされているご家庭があって、私たちは普段の買い物をどうしているのか、ずっと気になっていたんです。そうしたらたまたまあるメンバーが、奥様がコンビニに入るところを見かけたんですね。 そのまま様子を見続けると、コンビニの店員さんがカゴを積んでカートのようにして、買い物ができるようにサポートしていたんです。想像以上にご自身と生活圏内の方々の力で生活されていることに感銘を受けました。こういうときにすぐさま「私が助けなきゃ」と入っていく方もいらっしゃると思うのですが、私たちは「様子を見て把握しておこう」というスタンスでいます。 藤岡: 見守り続けるためにあえてお声をかけずに、少し付いて行ってますからね(笑)。でも、本当にメンバーのみんなは町の方々のことをよく見ているんです。地番を言えばどなたの家なのか全部言えますし、人間関係もめちゃめちゃ把握してる。地域の方々の生活圏内で起きているお話はしっかり聞かせてもらうし、見届けているんです。 私たちと全然関係のないところでどんな生活をされているのか、しっかり見ることはすごく大事。一方で、私たちが代わりにカゴでカートを作ることももちろんできるけれど、すぐに直接関わろうとしないことも大事だと思っています。このケースでは、コンビニの店員さんが、お客様だからということもあるんでしょうが、ある種の「ケア」をしているんですよね。 小宮: そうなんです。ステーションとしてほかの職種の方も交えて勉強会をやろうというときも、そこにコンビニの店員やバスの運転手さんがいないほうががおかしいんじゃないか、って思っているくらい、チームの皆がシームレスに考えているんですよね。 また、私たちがべったり週5日関われば、その方が幸せになれるとは思っていないんですよ。地域に住む方々には、それぞれに歴史やつながりがあります。例えば、かつて嫁姑問題に苦労されて、「雑巾の水をかけられていたけれど頑張ってきたんだ」といったお話もたくさん伺うんです。その方にとっては、同じタイミングで軽井沢に嫁いできて、近いタイミングでご主人を亡くされたご友人が心のよりどころで、すごく大切な存在だったりします。そのことを、我々が知っておくことは大事ですよね。 利用者さんがご主人を亡くされて悲しんでいるとわかったら、私たちも全力を尽くします。でも、「私たちがずっと一緒にいますね」ではなくて、「ご友人とお会いしたらどうですか」という風につなげていく場合もあります。そのご友人が、公民館で手仕事の活動をされているとわかると、「じゃあそこに参加するにはどうしたらいいか」と考えていくんです。 肩ひじ張らないからこそ「使われる」存在に 藤岡: 私たちは、「これをやります」という明確な区切りを設けていないので、つかみどころがなくてわかりづらいと思うんですが、肩ひじを張らないところがむしろ大事だと思ってます。だからこそ、地域の方が私たちをうまく使ってくださるんですよね。 例えば、いわゆるACP(人生会議/アドバンス・ケア・プランニング)ってありますよね。「人生最後の時をどう迎えていくか」っていう対話。2022年9月からほっちのロッヂでも月1回のペースで「生き方交換会」という言葉を作ってやっているんですが、実は我々から「ぜひ人生会議しましょう!」と言ったわけじゃないんです。地域の方から「人生会議みたいなことを私のカフェでやりなよ」っていうお話があって。それに対してチームの一人が「ああ、じゃあ、やりましょうか」みたいな風にして始めたんです(笑)。 今井: 生き方交換会では、形式は決めずその時自分たちが話したいことを話していきます。例えば、最近の嬉しかったこと、今心に引っかかっていることなどです。集まる人は年齢も経験もさまざまなのですが、「実は最近お看取りをして、その人の思い出をたどりたい」という方が「こんな風に最期を過ごせてよかった」と教えてくれて、そういう過ごし方あるんだな、と知ることができます。 話す内容に関する思い出が蘇って、それが嬉しいときもあれば少し辛いときもあると思うんですが、語り手は「絶対聞いて」「そのとおりに受け止めて」って押し付けることはしません。また、聞き手が決めつけたり否定したりすることもなく、それぞれがテーブルに自分の想いを置いていく感覚というか。受け取りたい人が想いを受け取って、またそこからまた新しい想いが生まれて、まわっていく…というイメージですね。生き方交換会という言葉にも繋がりますが、自然と「想いを交換」しています。 いきなり登場人物になろうとしない 藤岡: 生き方交換会の場では、私たちは輪の中には入っているんですが、やっぱり「看護」を振りかざすことなく、ただそこにいて、見ているという感じですね。決して傍観者ではないんですが、「〇〇さん」という方がいたときに、〇〇さんの人生の登場人物の中に、いきなり自分たちを持ってこないというイメージです。私たちは「〇〇さんの隣」というよりは、「ふたつ隣」くらいの距離感がちょうどいいかなと。 私たちの活動に目立つ要素や派手さみたいなものは必要ないと思っていて、「私たち訪問看護ステーションです!」とグイグイいくのも違うと思っているんですよね。〇〇さんの目の前にいる「登場人物」の方々に、当たり前ですができることを最後までやって欲しいんですよ。 必要に応じて、もちろん私たちが出るべきところは出るんですが、それはギリギリまで待つ。ご本人あるいは医療者じゃないご本人の周りにいる方たちに、いかに登場して活躍していただくかというのが大事だと思っています。 制限がある中でも、挑戦する仲間がいる ―訪問看護師として働く中で、事業所の利益・報酬単価との兼ね合いや「〇〇は看護師の仕事ではない」といった線引きがあって、なかなか決められた枠を超えた動きが難しいと思う方もいらっしゃると思います。そういった方々に対してメッセージをいただけないでしょうか。 藤岡: 難しいですよね…。目の前のケアに集中すれば、当然単価の話は出てきますよね。さきほど出てきたお話は、インフォーマルなケアなので。でもやっぱり、目の前の人のことを「自分一人で全部やろう」と思わないこと、家族や隣近所の方々に登場人物として出てきてもらうことが大事だと思います。 小宮: 今のお話、看護学部時代に学んだナイチンゲールの「看護覚え書」の言葉を思い出しました。 藤岡: えっ、なになに?ナイチンゲールはなんて言ってるの? 小宮: 看護師がいない時に、どう回るかを考えてマネジメントすることが重要だということですね。 「責任者たちは往々にして、『自分がいなくなると皆が困る』ことに、つまり自分以外には仕事の予定や手順や帳簿や会計などがわかるひとも扱えるひともいないことに誇りを覚えたりするらしい。私に言わせれば、仕事の手順や備品や戸棚や帳簿や会計なども誰もが理解し扱いこなせるように──すなわち、自分が病気で休んだときなどにも、すべてを他人に譲り渡して、それですべてが平常どおりに行われ、自分がいなくて困るようなことが絶対にないように──方式を整えまた整理しておくことにこそ、誇りを覚えるべきである。」ナイチンゲール,フロレンス著、湯槇 ます/薄井 坦子/小玉 香津子/田村 眞/小南 吉彦 訳 『看護覚え書―看護であること看護でないこと (改訳第7版)』より引用(2011、現代社)より引用 私たちが関われるのは24時間の中で1時間程度というわずかな時間ですし、その方の暮らし全体も視野に入れないといけないですよね。 今井: そうですね。あとは、「枠を超えた働きができない」と葛藤している看護師さんには、「やりたいけどできない」っていう気持ちがあると思うんですよね。そう思っている方々に、「ここにやっている仲間がいるよ」って伝えたいです。 藤岡: いいこと言う! 一同: (笑) 藤岡: 実際に息苦しく働いている方もいらっしゃると思いますし、人によっては死活問題だと思います。でも、私たちのように実践している現場もありますから。もちろん、私たちもやりたいことを完全に自由にやっているわけではなくて、他の職種の方々との連携とか、地域や事業者独自のやり方などに苦しむことはありますよね。制限がないわけはないんですが、その中でもやっている人はいるよ、ということが誰かの勇気につながると嬉しいですね。 ―ありがとうございました! 取材・執筆・編集: NsPace編集部

心不全の地域連携&心臓リハビリの重要性
心不全の地域連携&心臓リハビリの重要性
インタビュー
2024年2月13日
2024年2月13日

心不全の地域連携&心臓リハビリの重要性/クリニック医師×訪問診療医師 対談

心不全診療の質の向上を目指した体制づくりとして「心臓いきいき推進事業」が行われている広島県。その土地で連携を視野に交流をしているのが、広島大学医学部同期の医師であるお二人。循環器専門の開業医である上田健太郎先生と、循環器のバックグラウンドをもつ訪問診療医の伊達修先生です。今はまだ数が多くないものの、今後はより一般的になっていくであろう心不全の在宅療養。訪問看護師が知っておきたい心不全の地域診療について、前後編に分けてお伝えします。 前編の今回は、地域医療における医師同士の連携や、心臓リハビリの重要性、ACP(アドバンス・ケア・プランニング/人生会議)などをテーマにお話しいただきました。 ▼プロフィール上田 健太郎(うえだ・けんたろう)先生上田循環器八丁堀クリニック 院長1994年広島大学医学部卒業後、同大附属病院内科研修医、公立三次中央病院循環器科、広島市立安佐市民病院循環器内科副部長、JA尾道総合病院循環器科部長等を経て2015年より現職。循環器内科専門のクリニックとして、心臓リハビリテーションにも力を入れている。日本循環器学会認定循環器専門医、心臓リハビリテーション指導士、日本高血圧学会指導医。伊達 修(だて・おさむ)先生コールメディカルクリニック広島 副院長1994年広島大学医学部卒業後、県立広島病院、倉敷中央病院、北斗循環器病院、北海道循環器病院等で心臓血管外科医としてキャリアを積んだ後、2016年から地元の広島に戻り内科に転向。広島みなとクリニックを経て2020年より現職。訪問診療医として地域の患者さんに寄り添っている。日本循環器学会認定循環器専門医、日本脈管学会認定脈管専門医、日本外科学会外科専門医。※文中敬称略 広島大学の同期が再会して地域を支える ーお二人は、大学の同期とのこと。まず、現在も含めて先生方のご関係について教えてください。 上田:大学時代はお互いに顔を知っている程度の関係でした。その後、伊達先生が心臓外科に進み、北海道で長く働いていたところから、広島に帰ってこられた。研究会で精力的にほかの先生と連携なさっている姿を見て、ぜひ自分も地域診療の未来を見据え、交流を深めていきたいと思ったんです。現在はまだ、飲み会での交流が中心ですが(笑)。 伊達:この前も交流しましたね(笑)。循環器内科の領域でいうと、上田先生は私の大先輩。外来の進め方や薬の使い方を教えてもらったり、地元の先生方を紹介していただいたり、とても心強い存在です。 ー伊達先生が、訪問診療へ軸足を移されたきっかけについても教えていただけますか? 伊達:札幌で心臓血管外科医として手術をする傍ら、地方の循環器系の医師がいないエリアの病院へ診療応援にも行っていたんです。そのとき、心不全の患者さんが家に帰れるようにするためには、循環器訪問診療が重要だと感じました。それで広島に戻り、手術室を離れて患者さんを診るようになったんです。 訪問診療車に乗る伊達先生 上田:通院メインのクリニックで診療を行っている私と、訪問診療を専門に行っている伊達先生とで、心不全の在宅診療推進に向けて連携をはかっていきたいと考えているところです。広島県全域でも、地域医療で心不全を診ていこうという動きがあります。 心不全の地域医療連携を広島市から ー広島県・広島市の地域全体でも、地域連携の機運が高まっているのでしょうか? 伊達:広島大学病院が中心となって、「地域連携・心臓いきいき推進事業」を行っています。講習会には訪問看護師さんや薬剤師さん、ケアマネジャーさん、訪問リハビリのセラピストさんなども積極的に参加なさっています。その影響もあって心不全の基本的な知識について興味をもっている人が多い印象ですね。心不全の地域医療を推進していく素地は整ってきているのではないでしょうか。 上田:それに加えて広島市はコンパクトな街ですので、住宅街から都市部への距離はそれほどありません。地理面からも連携をとりやすいと感じています。さらに県内の医学部は広島大学だけなので、広島市内でいえば医師同士、非常に連携しやすい。他大学出身の先生も広島大学の医局に入れば顔見知りになりますから。 理想は、クリニックと訪問診療の並走 ー上田先生が、訪問診療との連携を始めたいと考えるようになったきっかけについて教えてください。上田:私がクリニックを開業して8年が経ち(2023年11月現在)、患者さんも年齢を重ねてきています。なかには自力での通院が難しくなっている方や、コロナ禍を経て通院が途絶えている方もいらっしゃる。そうなるとADLも下がってくるし、心臓のコントロールもしにくくなってしまいます。 上田循環器八丁堀クリニック 当院は通院がメインのクリニックなので、今後はよりしっかりと往診専門の先生に連携をお願いする必要があると思っている段階ですね。伊達先生にもお願いができればと考えているところです。 ただ、いつも迷うのは「患者さんがどのような状態・タイミングのときに紹介するのが良いのか」という点。訪問診療医の視点から、どのように考えていますか? 伊達:ご配慮をいただいてありがとうございます。私としてはぜひ、早い段階から患者さんの情報を共有してもらえるといいなと感じています。もしかすると、専門クリニックから訪問診療医に「バトンタッチする」イメージかもしれないんですが、しばらくの間は「並走」できるのが理想ではないかと考えています。基本的な疾病管理は専門クリニックでしていただいて、日々の変化は私たちで診る、と役割分担できれば、患者さんの小さな変化にも気づきやすくなって、結果的に再入院の回避にもつながるのではないでしょうか。こんなふうに専門医もチームに引き入れて在宅診療を進めていきたいと思っています。 上田:なるほど。それなら、早々に連携をスタートした方が良いですね。あとで具体的な相談をさせてください。 伊達:ぜひお願いします。ところで、上田先生のクリニックでは開業時から心臓リハビリにもかなり力を入れておられますよね。強い想いがあって始められたのではと思っているのですが。 救命だけでなく、心臓リハビリも重要 上田:卒後5~6年目のとき、冠動脈2枝同時閉塞で夜間運ばれてきた30代の患者さんをなんとか救命しました。良かった、これで治った……と、思っていたのですが、1年後くらいに心不全で再来院なさった。そのとき「ステントを入れるだけでは駄目なんだ」ということを強烈に思い知らされたのが原点です。いくら救命しても、患者さん自身に「心筋梗塞はこんな病気です、薬は大切です、こんなことに気をつけましょう」というポイントを理解してもらわないと、心臓はもたないんだと痛感しましたね。 尾道総合病院時代の上田先生(左) その後、心臓リハビリに力を入れている総合病院に勤務することになり、患者さん同士がコミュニティを作ってオリエンテーションで交流をはかったり、勉強会を開いて自己研鑽なさったりしているのに驚きました。 伊達:そんなコミュニティがあるんですね。素晴らしい。 上田:そうなんですよ、驚きました。その経験があったので、自分が開業するときには心臓リハビリもできるクリニックにしたいと考えたんです。患者さん同士で「つらいのは自分一人じゃない」と共感し合えればいいなと思って始めました。 ー訪問診療に切り替える場合、心臓リハビリはどのようになさっていますか? 上田:過去に訪問診療に移行した患者さんのケースでは、訪問リハビリと情報連携して切り替えを行いました。運動療法はやめてしまうと効果ががくんと落ちるので、継続してもらえるやり方を模索していきたいですね。 伊達:心臓リハビリについても、私たちの連携によって叶えられることがありそうですね。 ACP(人生会議)の重要性を感じる機会が増えた 上田:私が伊達先生に聞きたいなと思っていたことのひとつが、ACPについてです。 伊達:訪問診療への移行とACPは切っても切り離せないテーマですね。 上田:私のクリニックでも高齢の患者さんが増えてきて、ACPの重要性を感じる機会が多くなりました。悪くなることを想定すると患者さんはなかなか頑張れない、でも心臓が限界を迎えるときは必ず来る。エンディングノートがメディアで取り上げられることも増えているので「自分はこうしたい」とはっきりおっしゃる患者さんもいて、そういう方は非常に助かります。でも、認知症が始まるとそれも難しいですよね。伊達先生はどんなタイミングでACPに必要な情報をヒアリングしておられますか? 伊達:在宅診療に移行するタイミングで私たちが介入するケースが多いので、初回、顔を合わせたときにお話をうかがうことが多いですね。できるだけ診療時間をとって、会話のなかで患者さんの価値観に触れられるよう対話を心がけています。それから、訪問看護師さんや訪問リハビリのセラピストさんたちに日常的な会話を通してさりげなくヒアリングしてもらい、フィードバックをお願いしています。看護師さんやセラピストさんは一定時間患者さんと一対一で話をしながらケアを行うので、患者さんも心を開きやすくACPにかかわる情報をたくさん開示してくれますね。 上田:ああ、とてもよくわかります。当院の心臓リハビリは看護師が担当しているんですが、短い診療時間では到底聞けないような話を患者さんから引き出してくれるんです。ACPを考える上で、本当に助かっていますね。 伊達:そうなんです。看護師さんやセラピストさんなしでは成り立たないと感じることが本当に多い。看護師さんやセラピストのみなさんが集めてきてくれた情報から患者さんの価値観・人生観が見えてきて、ACPを形作っていくイメージでしょうか。ただ、きちんとしたフォーマットで第三者が一目見てパッとわかる形にまとめるところまではできていないので、それは今後の課題だと思っています。 >>後編はこちら心不全の在宅移行と緩和ケアの課題&展望/クリニック医師×訪問診療医師 対談 ※本記事は、2023年11月の取材時点の情報をもとに構成しています。 取材・執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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