コミュニケーションに関する記事

特集
2022年6月14日
2022年6月14日

ケアを拒否する場合の対応【認知症患者とのコミュニケーション】

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第11回は、清拭の前に布団を外すと殴ろうとする患者さんの行動の理由を考えます。 事例背景 80歳代、女性。以前からアルツハイマー病との診断を受け、行動障害がみられていたが暴力行為はなかった。何度も同じことを繰り返し話すが、こちらの質問には答えていた。ある日訪問して、説明後、全身清拭を始めようと布団を外すと「なんでそんなことするの、痛いでしょ!」と叫び、看護師を殴ろうとしてきた。 なぜ患者さんは殴りかかってきたのか? この患者さんは、ふだんから何度も同じことを繰り返し話しています。このことから、記憶障害が出ていることが推測できます。認知症による記憶障害のために、自分が話した内容を覚えておらず、同じ話を繰り返していると思われます。 また、「清拭のために」「布団を外す必要がある」という事柄の関連づけができていないことが推測されます。「ゼンシンセイシキ」(全身清拭)という言葉も耳慣れない表現だったのかもしれません。それらの理由から、「布団を外されて、何かされるのではないか」という恐怖心を抱いたのでしょう。 布団を外されると「痛い」と訴えていることから、痛みが恐怖につながっていると思われます。また、過去に「布団を外されると痛いことをされる」という、痛みの体験と結びつく記憶があるのかもしれません。 患者さんをどう理解する? 認知症の患者さんから拒否があった場合は、心配や苦痛などの理由があると推測し、相手の意思を尊重する姿勢を示しましょう1)。 この患者さんは、記憶を保持する時間がとても短いと思われますので、ケアをするときには、すべての行為動作における促しを、「これから○○しますね」など、あたかも実況中継をするかのように誘導するといった声掛けが必要でしょう。認知症の方は、これから何が起こるかを予測する力が低下していることがあり、こういった声掛けがより効果的です。 また、日常生活では「ゼンシンセイシキ」(全身清拭)という言葉は使わないので、意味を理解しないまま返事をしていたのかもしれません。 こんな対応はDo not! × 日常生活で使われない言葉を使用する× 認知症の患者さんの記憶障害や理解力に対する配慮不足× BPSDの出現を予測したかかわりへの配慮不足 こんな対応をしてみよう! ふだん使っている平易な言葉を使うよう心掛けることで、伝わりやすくなります。 また、認知症の特徴である記憶障害の程度に合わせた声掛けのタイミングも重要です。一つ一つの動作に合わせ、促しの言葉掛けが必要な場合もあります。 患者さんが暴力的になる背景には、過去に恐怖につながる経験があるのかもしれません。家族に聞くと、ケアのヒントが見つかるかもしれません。もし、暴力的になった場合は、感情を汲み取り「怖がらせてごめんなさい」などの声掛けをして、その場で清拭することにこだわらず、日を改めてもよいでしょう。 執筆関 千代子(せき・ちよこ)つくば国際大学医療保健学部 看護学科教授 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)中島紀恵子ほか編.『認知症高齢者の看護』東京,医歯薬出版,2007,170p.

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2022年6月14日
2022年6月14日

【セミナーレポート】調整役としても活躍する -訪問看護師によるエンゼルケア-

2022年3月17日(木)、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー『訪問看護のエンゼルケア』を開催しました。講師は「エンゼルメイク研究会」代表の小林光恵さん。エンゼルケア、エンゼルメイクの定義から、対応に当たる際に必要な知識や心構えなど教えていただいた内容を、全3回でお伝えします。本記事では、訪問看護におけるエンゼルケアの基本をご紹介します。※全90分間のセミナーのなかから一部ピックアップしてお届けします。 【講師】小林 光恵さん看護師、作家。編集者を経験後、1991年からは執筆業を中心に活躍しており、漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者としても知られる。2001年には、看護師としての経験を活かして「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表に就任。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表も務める。 目次▶ エンゼルメイク・エンゼルケアとは▶ 病院と訪問看護での看取りの違い▶ 看取り後の葬送も急激に変化している▶ エンゼルケアには「死後変化」の知識とご家族への説明が必須▶ 流れは「死後変化」を見据えて組み立てて --> ▶ エンゼルメイク・エンゼルケアとは エンゼルメイクとは、「その人らしい装い」を表現すること全般を指します。その範囲はメイクアップによって顔を整えるだけでなく、衣装や香りへの配慮など、身だしなみを含めた外見すべてに及ぶのです。また、エンゼルケアとは看取りの場面でのケアすべてを指し、エンゼルメイクも内包した言葉です。例えば残されたご家族への対応も、エンゼルケアの一環と考えてください。 ▶ 病院と訪問看護での看取りの違い 病院と訪問看護での看取りでは、その環境に大きな違いがあります。自宅での看取りとなった場合、例えば訃報を受けて来客があったり、ご家族がご遺体の元を離れてしまって居場所を把握しにくかったりといった事象が起こりえます。 少し前までは、地域によっては冠婚葬祭を近所の方々で協力して執り行う習慣がありました。看取りの場面も、主に経験の豊富な年長者が中心になって「ご家族は〇〇さんから離れないで」「順番に体を拭いてあげましょう」などと声をかけて進められていたものです。しかし、現代ではご家族や少数の親戚のみで看取るのが一般的で、エンゼルメイクの必要性を理解しているのは看護師のみであることがほとんどです。訪問看護でエンゼルケアを行う看護師はそのことを念頭に置き、「一緒にお体やお顔を整えませんか? どうぞ〇〇さまの側におかけください」などと積極的にうながしていくことが求められます。 なお、看取りの現場で看護師が調整役として対応するには、事業所でエンゼルケアの目的やスタンスを明確にし、共有しておくことが重要になるでしょう。一定のコストをいただいてサービスを提供する、看取り加算の範囲内で現場の判断で実施する……エンゼルケアのやり方やスタンスには幅があり同じではないため、各事業所の方針を職員のみなさんで共有しておくことが大切です。 関連記事:[1]エンゼルケアの基本姿勢をキーワード化して共有しよう ▶ 看取り後の葬送も急激に変化している 担当する地域の葬送の状況について、日頃から情報収集しておくこともおすすめです。新型コロナウイルス流行の影響もあり、近年は葬送のあり方が急激に変化しています。具体的には、直葬(お通夜や告別式を行わない葬送)を選ぶ方が大幅に増えるなど、簡略化の傾向が強まっています。とはいえ、葬送の形式は地域や葬儀社によって異なるので、必要に応じて看護師からご家族に助言できるように備えておきましょう。ご家族は介護などで精一杯で、なかなか葬送の情報収集まで手が回っていないことが多いですから。 ▶ エンゼルケアには「死後変化」の知識とご家族への説明が必須 エンゼルケアを実践するにあたってまず重要になるのが、「死後変化」の知識を得ることです。例えばまぶたが開いたまま亡くなったケースでは、わずか数分でもそのまま放置しておくと、眼球が外気に触れてどんどん乾燥していきます。それも単にカサカサするだけではなく、その後、色も変化してしまい、見る人にとても辛い印象をもたらすことが予想されます。そうならないようにするには、眼球に油分を塗布したり、布類でカバーしたり、エアコンの風が当たらないように配慮したりといった対応などが必要です。 加えて、「ご家族は死後変化について基本的に何も知らない」という前提に立ち、細やかに説明しながら対応を進めていくようつとめることも大切です。多少知識がある場合でも、近しい人が亡くなったとき、多くの人は混乱してしまうもの。そのお気持ちに配慮し、ご遺体が今どんな状態で、何をすべきかを丁寧にわかりやすく伝えてあげましょう。 関連記事:[2]一方的に進めない! エンゼルケアでもコミュニケーションが重要 ▶ 流れは「死後変化」を見据えて組み立てて 死後、人の体にはさまざまな変化が起こります。まず知っておきたいのが、筋の硬直、つまり死後硬直です。硬直のスピード強度は、筋肉中のアデノシン三リン酸の量などの関係により個人差がありますが、ほとんどの方に起こります。平均的には、死後1〜3時間の間に下顎が硬くなり、その後頭から足、つまり上から下方向に徐々に進行していきます。 この変化を理解しておくことで、適切なタイミング、流れでエンゼルケアを進めることが可能になるのです。例えば、亡くなった際にお口が汚れていると、そこから臭気が発生します。しかし、下顎は死後早い段階で硬くなるもの。そのため、体のケアよりも先に、速やかに口腔ケアを行ってできる範囲できれいにすることが求められます。 関連記事:[3]身体の死後変化はエンゼルケアの必須知識! 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年6月7日
2022年6月7日

[8]ぜひ活用してほしい、ご家族向けの文書(またはパンフレット)

ご家族の心配が少しでも軽減されるよう、死後の身体変化や冷却の重要性などあらかじめご家族にお伝えしたいことは多くあります。限られた時間の中でもきちんと整理してお伝えできるように文書の活用をおすすめします。連載の最終回ではご家族向けの文書についてご紹介します。 訪問看護師Aさんの経験談 訪問看護師のAさんから伺ったお話です。Aさんが担当していた80代前半の女性Bさんは、彼女の夫Cさんが中心となって世話をし、在宅療養をされていました。やがてそのときが来て、Aさんはエンゼルメイクなどを行ってその日はBさんのお宅を辞したそうです。 翌朝、Bさんの娘さんからAさんに電話があり「急いで来てほしい」という依頼がありました。Aさんが何とかスケジュールを調整してBさんのお宅を訪れると、夫のCさんがしょげ返っていました。 集まっていた娘さんたちは、まるで子供が先生に言いつけるかのように、Aさんに出来事を話したそうです。 「父が母のそばに一晩中付き添っていたのですが、母の顎の下に挟んであるタオルを外したようなんです。そしたら母の口が開いて、父がその口に食べ物を入れて、噛んでもらうように顎を何度も押して、また食べ物を口に入れて顎を押すというのを夜中に繰り返したらしいのです。父がそんなことをしていたからでしょうか、顎のところがひどく変色してしまって、大変なことになったと思いまして。」 Aさんは、Bさんの顎の部分が何か所か変色しているのを確認しました。そして、口腔ケアをした後、念のため持参しておいたエンゼルメイク用のファンデーションを使って、変色した部分をカバーしました。Cさんが妻の食事介助を、やさしく声をかけながら行っていた場面を思い出しながら……。 Cさんや娘さんたちにAさんはこう伝えました。「Bさん、おいしかったかもですね。亡くなられた後は、どなたも肌が弱くなり、圧迫すると変色しやすくなります。ファンデーションでカバーしましたので、今後、もし色が気になるようでしたら上からカバーして差し上げてください。」Cさんも娘さんたちも、安心したようにうなずいたとのことです。 ご家族への説明に文書を活用 Bさんのご家族のケースでは、担当の訪問看護師であるAさんがすぐに駆けつけることができました。でも、もし看護師が訪ねることができなかったなら、ご家族の困惑は続き、ますます不安が膨らんだかもしれません。 エンゼルケア時には、・ご家族の心理状態が平静ではない・ご家族は心身ともに疲れている場合が多い・ケアの時間には限りがあるなどの理由で、必要なことを説明しきれない場合が多くあります。たとえ適切な説明ができてご家族がうなずいていたとしても、頭に入っていないこともあります。 このように口頭でのご家族への説明には限界があるわけです。そこで、後で確認ができたり、見返すことのできる、必要な説明をまとめた文書をお渡しすることをおすすめしています。そうすれば、エンゼルケア時には、思い出などを話す余裕も生まれます。 ぜひ、各事業所で作成し活用していただきたく、文書に盛り込みたい内容についてその項目を以下に記しましたので参考にしてください。 ・ご家族への挨拶文・死後の身体変化のとらえ方(変化は自然現象であり、異常ではないことも含めてまとめる)・冷却の重要性・主な死後変化への対応(出血や漏液、死後硬直など)・身だしなみの整えやならわしへの対応・ケース別の対応(黄疸のある方、ペースメーカーが入っている方、拘縮のある方など)・グリーフワークについてなど また、そのままご家族にお渡しできる文書もご用意しました。[お役立ちツール]からダウンロードできますので、よろしければお使いいただければと思います。皆さんの事業所でオリジナルの文書を作成されるときの原案としてもご活用ください。 ワンポイントメモマニュアルは継続的に検討し、刷新を重ねていく事業所のスタッフの皆さんが、その場の状況に応じて、柔軟に判断し、安心してエンゼルケアを行えるように、基本的なケアの流れや手技などをまとめたマニュアルを作成しておくとよいでしょう。ただし、エンゼルケアは、事業所のスタンスをはじめとして検討すべきことが多いです。また、看取りの在り方や家族のありようなどの変化に応じて、対応を調整していく必要もあります。そのため、マニュアルは暫定的なものとし、継続的に検討し、少しずつ刷新を重ねていくことをおすすめします。担当看護師のグリーフワークにもつながるデスカンファレンスデスカンファレンスは、臨終時やその前後のケアを中心に振り返り、ディスカッションをとおして今後のケアの質の向上を主な目的として行います。実施の規模やタイミングは事業所の考え方に応じて決めていただくとしても、これは必ず実施していただきたいと考えています。デスカンファレンスを行うことが、担当看護師ならではのグリーフワークの助けになることと思います。また、亡くなられた方にかかわった多職種によるデスカンファレンスの実施もその後の連携にプラスに働くのではないでしょうか。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

特集
2022年5月31日
2022年5月31日

排泄の失敗がある場合の対応【認知症患者とのコミュニケーション】

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第10回は、オムツを外してシーツに失禁する患者さんの行動の理由を考えます。 事例背景 80歳代男性。10年前に脳梗塞を発症、2年前に脳血管性認知症の診断を受け、行動障害もみられている。会話は通じず、意味不明の言葉を発することもある。便意・尿意が不明なため、オムツを使用している。オムツを外してシーツに失禁することを繰り返し、シーツ交換してオムツをしようとすると抵抗する。看護師が「オムツはお嫌ですか?」と尋ねると、「そんなことない」と答えるが、いつもシーツが濡れている。 なぜ患者さんはオムツを外してしまうのか? 「オムツはお嫌ですか?」と看護師が尋ねていますが、患者さんはそもそも、問われている意味がわかっていないのかもしれません。脳血管性認知症で行動障害もみられており、認知症の特徴である失行・失認が背景にあると考えられます。 オムツを外す理由は二つ考えられます。 一つは、排泄するために下着を脱ぐように、排尿前にオムツを外している可能性です。そもそもオムツをしていると思っていない患者さんにとっては、下着(オムツ)を外すことは排尿時の当然の動作であり、「排尿もできてすっきり!」という気分と思われます。 もう一つは、オムツをしていること自体に不快感があるため、不快なものは除去したい本能から無意識に外している可能性です。説明してオムツをしても、患者さんには失認があり、オムツの目的を理解していません。自分が失禁してシーツを汚してしまったことを、まったく把握していないと考えられます。 患者さんをどう理解する? 認知症の患者さんとのやりとりで、質問に対して的確なあいづちや返事が返ってくることがあります。そんなとき、話が通じていると思いがちですが、実際はまったく通じていないことも少なくありません。 この患者さんは失禁を繰り返しているため、失禁が患者さんに及ぼす影響と、排泄への援助を考えていきましょう。 失禁が患者さんに及ぼす影響 ・皮膚の汚染は、皮膚の損傷に結びつく・失禁後の不快な状況から逃れようと次の行動をとることもあるため危険防止が必要・部屋に尿臭が漂い、周囲へ不快感を与えることにもなる・排尿の量が多いこともあるため、尿失禁への対応は早いほうがよい 尿失禁に至る疾患はさまざまありますが、この患者さんは、認知症によって、膀胱内に尿が貯留したという情報が脳に伝わっても正しく判断できず、その後の指令や行動がとれない状況だと思われます。 一般的な認知症患者さんにおける排泄問題への対応 認識の低下による場合 「トイレの場所がわからない」「膀胱内に尿がたまっていることがわからない」「尿意があっても脱衣の方法がわからない」「トイレや便器の認識ができない」などの状況で排泄がうまく行えず失禁してしまいます。トイレの位置がわからない場合は、目印になるものをつけ、夜間はなるべく明るさを確保できるように照明を工夫しましょう。 尿意がある場合 じっとしていられず、うろうろしたり、独り言をつぶやきながら動き回ったり、下着を下ろそうとしたり、下着に手を伸ばしたりといった動作をとる患者さんがいます。これらの行動は、排泄をしたいサインであることが多いです。その人特有のサインもあります。サインを見逃さず、トイレへ誘導しましょう。 尿意がない場合 患者さんの一日の水分・食事摂取量を観察し、一定の時間間隔をあけてトイレに誘導しましょう。 失禁後の対応 失禁後には、寝衣やシーツの交換など、介助者が慌ただしく動きます。患者さんは、その状況から、自分の存在が歓迎されていないと感じ取ります。失禁に対し迅速な対応は必要ですが、患者さんが存在を否定された気分にならないようなかかわりが必要です。言葉の意味はわからなくても、介助者の表情や口調から感じ取れるため、穏やかな口調で、目を合わせ、にこやかに接しましょう。 脳血管性認知症 脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害がもとになって発症する認知症です。急激に認知症が発症することもありますし、小さな脳血管障害を繰り返し少しずつ認知症が進むこともあります。出現する症状は、脳の障害部位によって異なります。 脳血管性認知症の特徴は、次の六つです。・脳血管が障害を受けた部位の働きは悪くなるが、障害を受けていない部位の機能は保持されていることが多い。・脳の障害によって、症状の変動や悪化がある。・注意力の低下よりも、意欲の低下(アパシー)が目立つ場合が多い。・感情のコントロールが困難で、急に泣いたり怒ったり、感情の起伏が激しくなる。・手足の麻痺、歩行障害、言語障害、排尿障害(頻尿、尿失禁など)など、日常生活に支障が起きる。・脳血管障害による高次脳機能障害がある(失行、失語、失認、注意障害など)。 こんな対応はDo not! × 患者さんを問い詰める× 寝衣交換をせかす× 患者さんの目の前で慌ただしくシーツ交換をする こんな対応をしてみよう! シーツや寝衣類の交換時には、必ず声を掛け、患者さんの意識が向けられるように行いましょう。「濡れていて気持ち悪いですね。大丈夫ですよ。すぐに交換しましょうね」と目を合わせ肩などに手を触れ、穏やかに話し掛けましょう。 オムツの使用が必要な場合には、患者さんの体型や体質、オムツの肌触りなどを考慮して、個々人に合わせて、できるだけ快適なものを選択することが大切です。また、夜間に心地良い睡眠がとれるような身体的準備や、環境を整えましょう。 執筆茨城県立つくば看護専門学校佐藤圭子 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)厚生労働省.『認知症施策』https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html

特集
2022年5月24日
2022年5月24日

[7]ここだけは押さえたい お顔のエンゼルメイク3つのポイント

亡くなった人のお顔が穏やかかどうか、お顔がその人らしいかどうかは、ご家族の心持ちを大きく左右します。お顔の印象を整えるケアはとても大切ですね。今回は、エンゼルメイクにおいてぜひ押さえてほしい3つのポイントについてご紹介します。 顔の印象を構成する3つのポイント 例えば、ご遺体の表情に穏やかさを感じなければ「つらいのだろうか、苦しいのだろうか」、「もっとできることがあったのではないか」といったネガティブな思いが膨らみます。一方、穏やかな表情であれば、悲しいながらも「安らかな顔だ」、「楽になったんだね」、「あっ、おばあちゃんのやさしい顔に戻った!」といった言葉が聞かれたりします。 ですから、できるだけ早く、穏やかにその人らしくお顔を整えて差し上げたいですね。しかし、時間に限りのある中、何をどこまで行うか迷う部分があるのではないでしょうか。 今回は、顔のエンゼルメイクで最優先したいプロセスについて、顔の印象を構成する「質感」「色」「形」の観点からご紹介します。使用する化粧品類はドラッグストアなどで調達できるもので十分です。 エンゼルメイクの一通りの基本手順をまとめた手順書もご用意しています。[お役立ちツール]からダウンロードできますので、よろしければご参照ください。 最も重要な乾燥対策 ご遺体の皮膚は乾燥が進みやすく、特に露出している頭部は乾燥が強いことをこの連載の[3]でお伝えしました。 顔面の乾燥が進むと図1に示したとおり「質感」「色」「形」ともに、穏やかさとは逆の印象をもたらす可能性が高くなります。 図1 乾燥がもたらす影響 このような乾燥は不可逆的に進行し、変化してしまったら元の状態に戻すことができないため、早い段階で次のような乾燥対策が求められます。 ポイント①顔、耳、首など露出している部分に、クリーム、乳液など油分をたっぷり塗布します。特に唇にはリップクリームやワセリンなどを多めに塗布しましょう。 時間がとれない場合は、清拭の後にポイント①を行うといいでしょう。 エンゼルケアに十分な時間がとれる場合は、皮膚の角質や汚れを取り除いてからポイント①を行います。手順書で詳しくご紹介していますが、まず、クレンジング・マッサージクリームを使って、お顔のマッサージを行います。マッサージ後、油分を拭き取り(ティッシュなどで押さえる程度)、蒸しタオルをあてて肌をやわらかくします。 その後にポイント①を行うことで、清拭や入浴ではとれなかった汚れを落とすことができ、すっきりとした質感が得られます。同時に、マッサージ効果によって「質感」「形」(この場合は表情)、ともに大幅にアップします。このプロセスは、男女ともに強くおすすめします。 また、クレンジング・マッサージや蒸しタオルのプロセスは、そばでご覧になるご家族が「気持ちよさ」「すっきり感」を想像できる貴重な場面にもなり得ます。 次のポイントは血色 「色」で重要なのは血色です。穏やかさと血色は直結しています。 まずは、連載の[3]でご紹介した蒼白化についてあらためて説明します。死後、体液の一部が重力の影響を受けて下方に移動します。特に血色を構成している比重の重い赤血球は下方に溜まるように移動するため、仰臥位の場合、顔面や身体の前面から血色が失われます(図2)。 エンゼルメイクでは、この蒼白化によって失われた血色を補うという考え方でメイクを行うことが、その人らしい穏やかな表情につながります。 図2 蒼白化が起こるしくみ 伊藤茂(2009)『“死後の処置に活かす”ご遺体の変化と管理』(照林社)、10ページより引用 ポイント②チークか口紅を手の甲にとり、それを指先で、あるいは太目のブラシで血色の補充として皮膚の各部(額、まぶた、頬、顎先、耳)になじませます(図3)。使う色は自然な血色に近い色で、また耳には油分の入ったクリームタイプ(練りチーク)がおすすめです。なければ、プレストパウダータイプでもよいです。 図3 血色を入れる部位額、まぶた、頬、顎先、耳になじませるように血色を補充する。 時間が十分にとれる場合は、まずはクリームファンデーションを塗布し、パウダーで整えます。このプロセスは、乾燥を抑える・顔色を整える目的で行います。そして、その上から血色を入れます。 あまり時間がとれない場合は、保湿用のクリームを塗布し乾燥対策をした皮膚の上に行います。さらに、時間がないけれども、少しでも穏やかな印象にして差し上げたいという場合は耳だけでもおすすめです。状況によってはご家族に耳に血色を入れていただくとよいでしょう。 また、指先なども蒼白化によって白さが目立つ場合は、血色を入れて差し上げます。若い女性が亡くなった際、彼女のお母様が「指先が白い」とつらそうにされているため、担当看護師は指先に口紅で血色を入れたケースがあります。その方の血色を補うという考え方で行うと、その場に応じた判断ができます。 そして、眉の「形」を整える 眉の様子は、穏やかさとその人らしさを同時に表します。 ポイント③眉に付着するクリームなどの油分を綿棒で拭い、眉ブラシで眉をとかし整えます。毛が足りないと思われる部分は、アイブロウペンシルでうっすらと描き足します。そして、その人らしさはご家族の記憶の中にあるので、ご家族に確認を取りながら眉の形を調整します。 部分的に眉が抜けてしまっている場合、細めのブラシにグレーやブラウンなど、眉に馴染みやすいパウダーカラー(アイシャドウでも可)をとり、その部位を埋めるように塗布すると自然に整います。 また、眉がほとんど抜けてしまっている方は、ブラシにパウダーカラーをとり、うっすらと形を描いてみて、その上にアイブロウペンシルで眉を一本一本植えるような感覚で描くとよいでしょう。 ワンポイントメモ準備した化粧品類は、必ず事前に性質をチェックするクリームやクレンジング・マッサージクリーム、カラーパウダー、チークなど、準備した化粧品類は、必ず事前に伸び方やつき方、つけた後の乾燥のしかた、発色の具合などを確認しておきましょう。試してみないとわからない場合が多いので、大切なポイントです。 看護師の皆さんにもおすすめの「耳に血色」実は私は、どなたかに会う場合は、必ず耳に血色を入れるようにしています。クリームチーク(ローズ系のにごったような色のもの)を指で、です。これを行うようになってから、俄然、元気そうだと言われることが多くなりました。この血色は、こちらから言わなければ誰も気づきません。自然に元気な印象をつくる方法としておすすめです。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

特集
2022年5月17日
2022年5月17日

意欲障害がある場合の対応【認知症患者とのコミュニケーション】

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第9回は、日常生活に対する意欲が低下した患者さんの行動の理由を考えます。 事例背景 70歳代女性、アルツハイマー型認知症の患者さん。もともと身だしなみに気を使う人であった。1か月前から日常生活に対する意欲低下がみられ、ベッドから離れることが少なくなった。身だしなみや歯磨きなど、自分でできそうなことを本人からは行わず、勧めても「そうですね……」とわずかに反応はあるが、ほとんど行動化されない。 なぜ患者さんは、自分でできそうな行動をしないのか? アルツハイマー型認知症では、見当識障害、遂行機能障害、視空間障害のほか、アパシーや抑うつ症状、取り繕い反応などがみられます。 アパシー(意欲障害)とは、「自発的な行動の欠如で特徴づけられ、刺激に対する反応の減弱した状態」です1)。自分の身の回りのことにも無頓着になり、行動ができません。アルツハイマー型認知症ではアパシーが約60%に認められ、頻度の高い症状です。 この患者さんには、看護師の話す内容は伝わっています。自分の身の回りのことを自分でするほうがよいとわかってもいます。しかし、歯磨きや身支度などをすすめられても、しようという気持ちが湧きません。自発性が欠如しているので、行動に移すこともできません。そして、できないことが苦にならない状態です。 アパシー(意欲障害)とうつ アパシーは、うつとは別の症候群です。活動性低下や活気のなさは共通していますが、アパシーでは、自責感・希死念慮などはありません。気分の落ち込みや絶望・苦痛が明らかなうつとは異なり、本人の苦悩が希薄です。 アパシーに対して誤って抗うつ薬などが投与されると、ふらつきや転倒などを起こし、さらに活動低下が進み、認知症の悪化にもつながります。抑うつとアパシーの違いを考慮した対応が必要です。 それまでの生活習慣が乱れ、あらゆる物事に対して無気力・無頓着になり、行動しなくなるのがアパシーです。それまでしっかりと身だしなみを整えることを習慣としていた人が、事例の患者さんのように、促されても整容をしなくなります。治療として、抗うつ薬の効果は乏しく、抗認知症薬で改善することもあります。 こんな対応はDo not! × 「今までは自分でできていたのに、なぜできないんですか」と相手を責める× 「やればできるはずですから、やりましょう」と無理強いしたり、脅かしたりする×  医療者のペースで物事を進める こんな対応をしてみよう! 「快」の刺激を与える(患者さんの好むこと・得意なことを取り入れる) アパシーを放置すると、「動かなくなる」「話さなくなる」状態になります。廃用症候群が進み、さらに認知機能低下が進み認知症も進行していき、悪循環となります。 患者さんが行動をしなくても、行動するきっかけや機会をつくることが必要です。 まず、刺激に反応できるように、患者さんが「心地良い」「楽しい」と感じる「快」の刺激を与えていくことが大切です。 患者さんにとって「快」の刺激となるものは何かを考えていきます。家族や多職種からの情報をもとに、何を楽しみとして生活していたかを探し、試します。 「快」の刺激は、患者さんの気持ちを安定させ、穏やかにします。反応がなくても、日常生活で繰り返し「快」の刺激を与えつづけながら、患者さんの反応や変化を待つことが大切です。 患者さんのペースに合わせながらかかわる 患者さんの視界に入る位置から体に触れ、笑顔で声を掛け、こちらを向いたら顔を見て目を合わせて話をします。 見当識が不十分なこともありますので、生活リズムに合わせて、活動の促しや提案をします(洗面や歯磨き、身だしなみを整えることなど)。そして、患者さんの意欲に合わせて援助内容と方法を選択します。 患者さんの行動がなく、歯磨きや洗面などすべて介助者が援助したときでも、「きれいになりましたね。すっきりしましたね」などと肯定的な表現を返し、やったことが患者さんにとって心地良い感覚であることを伝えていきます。 患者さんに行動する意欲がみられてきたら、「一緒に○○してみませんか?」「○○するのはどうですか?」と提案していきます。焦らず、見守りながら、行動する機会をつくっていきます。 執筆茨城県立つくば看護専門学校佐藤圭子 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)山口修平.「アパシーとは:神経内科の立場から」『脳疾患によるアパシー(意欲障害)の臨床』改訂版.東京,新興医学出版社,2016,11-8.2)加藤元一郎.「アパシーとは:精神科の立場から」『脳疾患によるアパシー(意欲障害)の臨床』改訂版.東京,新興医学出版社,2016,19-26.3)新保太樹ほか.「アルツハイマー型認知症におけるアパシーの治療」『脳疾患によるアパシー(意欲障害)の臨床』改訂版.東京,新興医学出版社,2016,166-73.4)小畔美弥子ほか.「アルツハイマー型認知症におけるアパシー」『脳疾患によるアパシー(意欲障害)の臨床』改訂版.東京,新興医学出版社,2016,83-90.5)藤瀬昇ほか.「うつ病と認知症との関連について」『精神神経』114(3),2012,276-82.6)鈴木みずえ監.『認知症の人の気持ちがよくわかる聞き方・話し方』東京,池田書店,2018,176-8.7)中島健二ほか.『アルツハイマー病による認知症の新しい診断基準と鑑別診断』最新医学68(4),2013,789-93.8)鈴木みずえ監.『認知症の看護・介護に役立つよくわかるパーソン・センタード・ケア』東京,池田書店,2020,140-2.9)服部英幸.「BPSDの治療と介護」『認知症の予防と治療』長寿科学振興財団平成18年度業績集,2006,191-9.10)厚生労働省.「認知症」『みんなのメンタルヘルス総合サイト』https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_recog.html

特集
2022年5月10日
2022年5月10日

[6]どうされていますか? エンゼルケア時のならわしへの対応

お顔に白い布をかけたり、着物を左前で着付けるなど、亡くなった人に対して従来より行われてきたならわし。エンゼルケアの場面では、こうしたならわしについてどう考えればよいでしょうか。今回は、そもそもならわしとは何かをご紹介するとともに対応について考えます。 ならわしについて検討する際のポイント ならわしは、人々の思いと時代や地域の文化などがかかわってできあがったもので、時とともに移ろいながら私たちの暮らしの中にさまざまに存在しています。 医療の現場ではどうでしょう。例えば、病棟の病室に4号室や9号室を設置するかどうか。「死」をイメージする4、「苦」をイメージする9を避ける人がいるため、設置していなかった病院が少なくなく、増築や改築の際に議論になることがあります。 また、霊安室のありようもさまざまです。仏教をイメージするような設えやマリア像のあるお部屋、逆に宗教色のない控室的なつくりなどがあります。霊安室はならわしによる雰囲気づくりがなされたエリアといってよいでしょう。検討の結果、霊安室をなくした病院もあります。 看護時に長らく行われてきたならわしは、亡くなった人の整え方のいくつかです。それをどうとらえて、どうすればよいのか。ならわしを行うこと、行わないことに善し悪しはなく、考え方次第です。いずれにしても大事なのは、事業所としての考え方を整理し、スタッフ間で共有しておき、必要なときに説明できることです。 見えてきた、ならわしの背景 死後処置では、主にa~dのならわしが行われてきました。a手を組ませるb胴紐を縦結びにするc顔に四角い白い布をかけるd和服を逆さあわせにする(いわゆる左前) 葬儀文化に詳しい方への取材や関係書を読み検討を重ねる中で、これらのならわしが死や遺体に対するおそれの感覚や生きている人と区別するための印づけとしての必要性があったのだろうと考えるようになりました。 ①ご遺体へのおそれの感覚 昔は埋葬するまでご遺体を身近に置いていたこともあり、ご遺体の鼻や口から悪い存在が入り、荒ぶれて動き出したりしないかといったおそれの感覚が生じたようです。そのために、動かないように縛ったり、鼻や口の穴を塞いだりして封印をするようになったのではないか、そして、その名残がaの手を組ませる行為やcの顔に四角い白い布をかける行為なのではないか、と考えられていることが多いとわかりました。 ②「あの世の人」になったことの印づけ また、昔は死んだら「この世」から「あの世」(この世とは逆さの世界になっていると考えられている世界)へ行くと信じる感覚がありました。かつては看取りから葬儀まで自宅で執り行われることが多く、近所の人や親戚の人たちが自宅にたくさん集まりました。その中でご遺体が布団の上に横たわっているわけです。こうした状況において「この人はあの世の人になったのだ」と周囲に表明する、生きている人と区別する必要があったと思われます。 医師による死亡診断と告知があるわけではない時代には、亡くなったと決めたことを表明する必要もあったのではないかと想像します。その表明のしかたとして「逆さの世界の人」として、普段とは逆の方法にする逆さ事が行われてきたのでしょう。 逆さ事には、例えば「逆さ屏風」や「逆さ水」があります。「逆さ屏風」は、ご遺体の枕もとに屏風があれば、絵柄を逆さにして立てることを言います。「逆さ水」とは、ご遺体を拭くときに使用するお湯のつくり方を言います。通常、お湯に水を足して温度を調整しますが、その逆、水にお湯を足して温度を調整します。 先ほどご紹介したbの胴紐を縦結びにしたり、dの和服を左前にあわせることも逆さ事のひとつとして行われたのでしょう。胴紐は通常、横に結びますが、その逆として縦に結んだと考えられます。なお、縦結びは解けにくい結び方であり、「もう、あの世から戻れないですよ」という本人へのメッセージだと考えるむきもあります。 エンゼルケア時に、ならわしは基本的に行わなくてよい エンゼルケアは、ご家族が心豊かに看取りの場面を過ごしていただくことが目的のケアです。その段階において「ご遺体へのおそれの感覚が由来したならわし」は必要ない、また、周囲に亡くなった人であることを表明するための「印づけ」も必要ない、と考えています。 連載[2]のコミュニケーションの回で述べたとおり、生きているときのようにご遺体を気遣うご家族が多いのですから、死者らしくするならわしは行わない方針がご家族の感覚にもフィットします。 また、ならわしは後になってからいつでも行うことができますから、わざわざエンゼルケアの時点であわてて行う必要はありません。ただ、ご家族の希望があればそれに添う対応を検討してください。 社会状況の変化をキャッチしておきましょう 全体に死という出来事やご遺体を目立たないようにしたいという人々の思いが、死を取り巻く状況に反映されている印象です。例えば、以前は派手な装飾で目立つ存在だった霊柩車は、現在は目立たないものにとって変わり、葬儀も簡略化が急激に進んでいます。看取りや、葬儀の担い手となる子供の人数が少なくなり、その負担も増えている現在、簡略化は自然な方向性かもしれません。 そのような状況であることを含み、エンゼルケアではできるだけ、連載の[4]で述べた「でも」と思える場面づくりを意識するといったことが必要なのかもしれません。 ならわしはとなりの町でも流儀が異なる場合もあり、考え方や行い方に地域差が見られることも少なくありません。担当地域の自治体や葬儀社などから葬送の現状について情報を得ておくことも、エンゼルケアの内容を考えるうえで参考になると思います。 ワンポイントメモ宮家準氏が執筆された『日本の民俗宗教』(講談社学術文庫)中に掲載されていた次の図を知り、その内容にたいへん感動しました(図1)。 図1 生と死の儀礼の構造宮家準(1994)『日本の民俗宗教』(講談社)、124ページより引用 図の上半分にこの世の儀礼が並んでおり、下半分にあの世の儀礼が並んでいます。このように儀礼を対比すると、この世とあの世で儀礼の類似性があり、結婚式と三十三周忌までは儀礼のペースがほぼ同様です。先人らは、あの世に行った霊に対しても節目節目で儀礼を行い、この世で生きている人と同じくらい大切に思いながら過ごしたわけです。図では、あの世の儀礼にある「十三周忌」に対応するこの世の儀礼がありませんが、私の出身地である茨城県の一部では13歳のときに十三参りという儀礼を行います。 また、この図を縦半分にして左右を見てみると、右半分は神社、左半分はお寺で儀礼が行われます。他にも感動ポイントがいろいろとあるのですが、ここでは割愛します。昔の人たちは、このように一つひとつの儀礼を進めていくことがグリーフワークになっていただろうことを読み取ることができます。最近では、初七日は葬儀と一緒に済ませるなど、儀礼が省略されることも少なくありません。今後の社会では、これらを簡略化した分の穴埋めについて考えなければならないのではないかと思うのです。 皆さんの担当地区に伝わるならわしや、担当している利用者さんの出身地のならわしを聴取し、民俗学や文化人類学の書物を参考に、ぜひ検討してみてほしいです。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

特集
2022年5月2日
2022年5月2日

物盗られ妄想がある場合の対応【認知症患者とのコミュニケーション】

療養者の言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第8回は、物を盗まれたと訴える療養者の行動の理由を考えます。 事例背景 80歳代女性。訪問看護と訪問介護サービスも利用している。以前から物忘れの症状はみられたが、周囲に気遣いができるなど日常生活に大きな問題はなく、家族や介護者との関係も良好であった。ある日、看護師が訪問すると「しまっておいた10万円がなくなった」「誰かに盗まれた」「あのヘルパーじゃないか」と訴えがあり、「本当にしまわれていましたか」「勘違いではないですか」となだめようとすると、「あんたが盗ったんだね」と騒ぎ出した。 なぜ「盗られた」と思い込んだのか? 物盗られ妄想 物盗られ妄想とは、根拠が薄弱であるにもかかわらず、誰かが自分の物を盗んだと非常に強く誤った思い込みをしてしまうことです。認知症との関連は深く、認知機能が比較的保たれている時期に生じることもあります。 さまざまな要因が考えられ、五感の低下や記憶障害、せん妄もその一因と考えられています。 この物盗られ妄想では、「盗まれた」という怒りから、他人への攻撃性がみられ、その矛先が、身近にいる家族や看護者・介助者に向かってしまうケースが多いです。そのことによる対人関係の悪化から、信頼関係の崩れにつながってしまうこともあるので注意が必要です。 物盗られ妄想への対応 対応としては、盗まれたことを頭から否定せず、まず訴えをよく聞き、「盗られた物」を一緒に探すなど、共感を態度で示すことが大事です。そうすることで、自分の訴えが聞き入れられたと安心し、落ち着く場合もありますので、たとえその場しのぎの対応だとしても、本人なりの納得が得られればよしとし、その時をやり過ごしましょう。 逆に、訴えを否定した場合、「どうしてわかってくれないんだ。やっぱり、この人が盗ったんだ」などと思い込み、症状の悪化を引き起こす危険性があります。説得しようと自分の意見ばかり伝えるなど、相手の話を聞こうとしない姿勢はとってはいけません。 療養者の気持ちが落ち着いたら、興味を別の話題に向け、「盗られた物」から気持ちをそらすようにするのもよいでしょう。 こうした症状は繰り返す傾向もあるため、症状のないときに本人とともに、身の回りを整理し探しやすい環境にしておきましょう。 また、妄想が特定の対象へ生じている場合は、本人を保護することも必要です。特に症状が激しいときは、薬物投与の検討も必要となります。 身近で援助している看護師も、攻撃を受けることは多くあります。そういった場合、むしろ、看護師を身近な存在と思っているために起こる行動といえます。自分の立場や状況をある程度判断する力が残っているからと考えて、それは看護者自身の責任と思わないようにしましょう。 こんな対応はDo not! × 訴えを聞かない× 言い分を頭から否定する× 無理に説得しようとする× 話を聞こうとせず、無視する こんな対応をしてみよう! まずは落ち着いたトーンで話し掛け、療養者の訴えをうなずきながら聞きましょう。 そして、なくなった物を一緒に探します。そのときは必ず、本人が探している場所と同じところを探すようにします。違うところを探すと「隠した」と疑われる場合があるためです。 探しながらどこに何があるかを確認し、種類別にわかりやすく整理をしていきましょう。 その際「○○さん、ここには何を置きますか?」「○○さん、ここには△△を置いておきましょうか」などと、物が混在しないよう促しながら作業を進めます。そして「○○さんはきれいに片づけるんですね。これは何ですか」などと、本人が探している物と違う話をするなど、療養者の気持ちが「盗られた物」に注意が向かなくなるように働きかけましょう。 執筆上原朋子(うえはら・ともこ)土浦協同病院附属看護専門学校教務副部長 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1)上島国利ほか編.『全科に必要な精神的ケアQ&A:これでトラブル解決!』東京,総合医学社,2006,260p.2)遠藤英俊監.『痴呆性高齢者のクリニカルパス』愛知,日総研出版,2004,152p.3)服部英幸編.『BPSD初期対応ガイドライン』東京,ライフ・サイエンス,2012,171p.4)清水裕子編著.『コミュニケーションからはじまる認知症ケアブック』第2版.東京,学研メディカル秀潤社,2013,173p.5)金川克子ほか監.『個別性を重視した痴呆性高齢者のケア:痴呆の基礎知識と痴呆性高齢者の日常生活・周辺症状への具体的な援助方法』東京,医学芸術社,2002,127p.

特集
2022年4月26日
2022年4月26日

[5]身だしなみの整え――看取りの手段としてのエンゼルメイク

手浴や足浴、爪切りなど、エンゼルメイクではさまざまな方法でご遺体の身だしなみの整えを行います。これら一つひとつの場面が貴重な看取りの手段やグリーフワークの一助となります。できるだけご家族に実施していただけるよう、看護師がサポートできるとよいでしょう。 エンゼルメイクとグリーフワーク グリーフワーク。それは文字どおり、悲嘆の作業、心の大仕事ですね。喪失して間もない方や少し時間が経った方、年数を経た方などにお話しを伺うと、皆さんさまざまに、ドイツの哲学者アルフォンス・デーケン氏が示した「悲嘆のプロセス12段階」のいずれかの段階にあります(図1)。氏が記したとおり、順調に段階を踏んでおらず、ある段階を行きつ戻りつされている方もいらっしゃいました。 図1 悲嘆のプロセス12段階 アルフォンス・デーケン(1986)『死を看取る〈叢書〉死への準備教育第2巻』(メヂカルフレンド社)、261-265ページをもとに作成 また、後悔の念を口にする方も少なくありません。 「あのとき、もっとやさしい言葉を返せばよかった」、「あのとき、もっと話を聞けばよかった」、「あのとき、足をさすってやればよかった」などです。 ある人は「さまざまな後悔が湯水のように湧いてきて尽きないのよ」とお話しされました。後悔の念もグリーフワークとともに生じやすいようです。 これら心の作業を行っていくうえでポイントになるのが「でも」だと考えています。「でも、〇〇をやってあげることができた」という記憶、特に自身の手で行った実感の伴う記憶はグリーフワークにプラスに働くようです。さまざまなケースをとおしてそのことが見えてきました。その「でも」につながった可能性のあるエンゼルメイクの場面をいくつかご紹介します。 爪切りを行いながら 高齢の男性Aさんが息を引き取り、娘さんらは彼の顔のそばで悲しみを表しました。そんな中、ご長男だけは少し離れたところで棒立ちのままその様子を眺めていました。 「お父様の足の爪切りをお願いできませんか?」と、担当看護師が彼に声をかけました。「えー? 人の爪なんて切ったことないから」「私は女性のみなさまとお顔の整えを進めたいと思いますので、ぜひお願いします」「うーん。じゃあ」 彼は慣れない手つきでAさんの爪を切り始めました。やがてゆっくりとAさんの脛を撫で、何かしら話しかけながら爪切りを行いました。 手浴の思い出 高齢の男性Bさんが亡くなり、エンゼルメイクのときに娘さんがBさんの手浴を行いました。娘さんは、担当だった訪問看護師に会うたびに、何年経っても「あのとき、父の手を洗ってあげることができてよかった」と話します。 手浴の際にお湯に入浴剤を入れたことを「お風呂に入れてあげたみたいに思ったあの香りを嗅ぐと今も手を洗ってやれてよかったって思うんです」と。 ネクタイをきっかけに 高齢の男性Cさんのエンゼルメイクのとき、ご長男はCさんの足元のほうに立ち、腕組みをして笑顔で冗談を飛ばすなどしていました。Cさんに背広を着付けている途中で担当看護師は彼に声をかけました。ネクタイを差し出しながらです。 「よろしかったら、お父様にネクタイを付けていただけませんか?」「え? あー、ネクタイね。じゃあひとつ長男のオレがやってやるかぁ、どれどれ」 彼は、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)といったふうにネクタイを受け取り、それを首元にかけるためにCさんに近づき、Cさんの顔を見ました。すると、両手でネクタイを持ったまま、身体が固まったように動かなくなりました。そして、その場で号泣。彼は泣きながらCさんにネクタイを締めてあげていました。 シャンプーをとおして 高齢の男性Dさんのエンゼルメイクで、ベッド上シャンプーを行ったときの場面です。担当看護師がDさんの首と後頭部を支え、娘さんがDさんの頭頂部や側頭部を洗います。洗髪しながら娘さんがこう言いました。 「まさか、最期に父の頭をこの手でこの指で洗ってあげられるなんて思っていなかったです」そして、次のように続けました。 「父の髪は白くはなりましたけど、量はずっと豊富なままで、本人はそれがちょっとした自慢でした。近所の方から、文豪の川端康成に似ている、なんて言われたこともあって。お風呂に入れていただく機会を逃してしまったところだったから、髪の汚れが気になっていたんです。父さん、かゆいところ、ないかしら」 実施した記憶がグリーフワークの一助となり得る エンゼルメイクを実施するのは息子さんや娘さんだけではありません。お孫さんが行う場合もあります。 例えば、次のようなケースです。・亡くなった高齢女性のマニキュアをお孫さんが片手ずつ担当して塗った。・お孫さんが靴下や足袋を履かせた。・お孫さんが交替でワイシャツのボタンをひとつずつ留めた。 上記のようなケースも含め、今回ご紹介したケースで共通するのは、行ったご家族から「やってよかった」という言葉が聞かれたり、そう伺える表情が見られたことです。また、これらの場面は看護師の声かけがきっかけとなっています。看護師の声かけがなければ、例えばAさんのご長男は遠巻きにお父様を眺めているだけで過ごし、Cさんのご長男は悲しみを表出するタイミングを得ることができなかったかもしれません。 もちろん無理強いは禁物ですが、ご家族の看取りの手段になり得ることを意識することがエンゼルメイクのポイントの1つです。手は出さずとも、間近でご覧いただくことで、その記憶がグリーフワークの一助になり得るととらえ、配慮することもよいのではないではしょうか。 *ご紹介したケースは個人を特定できないように編集したうえで掲載いたしました。 ワンポイントメモ衣類準備の声かけのタイミングについてエンゼルメイク時には、基本的に全身の保清後に着替えを行います。ご家族は落ち着いているように見えても、亡くなったときの衣類の準備までは気が回らない場合が少なくありません。そのため、あらかじめご家族に着替え用の衣類の準備をお願いし用意しておく必要があります。医師が、ご家族に間もなくかもしれないことを告げた際に、看護師から「つきましては、万が一のときにお召しになる衣類をご準備なさるとよいかもしれませんね」、あるいは「万が一のときのために、ご本人がご準備されている衣類はございますか?」などと声をかけるとよいでしょう。 着衣について例えば、ご家族が「これを着せてほしい」と和服一式を差し出されたとき、襦袢には袖を通していただき、着物や帯、帯締めなどは着付けずに、ふわりと上からかけておくだけにします。そして、「しっかりとした着付けをご希望の場合は、葬儀社の方にご相談なさってください」というふうに説明します。 衣類の着付けもしっかりと行うことが方針であれば別ですが、時間には限りがあるため着付けばかりに時間を割いてしまうと、保清などほかのエンゼルメイクを行う時間が足りなくなってしまいます。おすすめの「抱きうつし」(図2)エンゼルメイクの後、施設からご自宅など別の場所へ向かう場合に、ベッドからストレッチャーにご遺体を移すことをご家族に行っていただきます。在宅での看取りの場合では、ベッドから別のお布団へ、あるいはベッド上で身体の位置を整えるときに、ご家族にご遺体を抱いてもらい移していただきます。「抱きうつし」は、ご遺体を抱き抱えることで、その重さやぬくもりなどをご家族に実感していただくために行います。 図2 ご家族による抱きうつし 「抱きうつし」は鳥取県の「野の花診療所」で始まりました。エンゼルケアの一環としてご家族にご提案してみるのはいかがでしょうか。 執筆 小林 光恵看護師、作家 ●プロフィール看護師、編集者を経験後、1991年より執筆業を中心に活躍。2001年に「エンゼルメイク研究会」を発足し、代表を務める。2015年より「ケアリング美容研究会(旧名・看護に美容ケアをいかす会)」代表。漫画「おたんこナース」、ドラマ「ナースマン」の原案者。記事編集:株式会社照林社

特集
2022年4月19日
2022年4月19日

性的行動がある場合の対応【認知症患者とのコミュニケーション】

患者さんの言動の背景には何があるのか? 訪問看護師はどうかかわるとよいのか? 認知症を持つ人の行動・心理症状(BPSD)をふまえた対応法を解説します。第7回は、ひわいな言動がみられるようになった患者さんの行動の理由を考えます。 事例背景 70歳代男性。パーキンソン病と認知症があり、訪問看護を利用している。 先日、誤嚥性肺炎を発症し、入院となった。入院加療で肺炎は軽快したため、自宅へ戻り、訪問看護を再開。入院加療中から、ひわいな言動が目立つようになっており、訪問を再開した訪問看護師が、体を触られた。 なぜ患者さんは、ひわいな言動を繰り返すようになったのか? 認知症と性的脱抑制 認知症の患者さんは、ときに社会的な規範を脱して性的な行動を示すことがあります。ひわいなことを言ったり、異性の体を触ったり、性行為を迫るなどの行動がみられます(性的脱抑制)。 しかし、性的な言動は、性的な快楽だけを目的としたものとは限りません。人とのつながりやスキンシップを求め安心したい、自尊心を傷つけられたくないといった思いも背景にあります。 体調悪化や環境変化からくる不安やストレス、焦燥感などが、こういった言動としてあらわれる場合があります。 パーキンソン病と誤嚥性肺炎 パーキンソン病は、進行すると、嚥下障害を起こすリスクが高まります。パーキンソン病の症状、上肢の振戦・強剛、舌運動や咀嚼運動の障害、顎の強剛、流涎、口渇、嚥下反射の遅延、喉頭挙上の減弱、喉頭蓋谷や梨状窩への食物貯留、食道蠕動運動の減弱などが要因です。さらに、パーキンソン病のある高齢者は、誤嚥性肺炎を繰り返しやすくなります。食物が気道に誤って入り、あるいは、知らない間に細菌が唾液とともに肺に流れ込み、細菌が増殖しやすいためです。誤嚥性肺炎は、発熱、咳、喀痰、息苦しさなどの症状を呈します。しかし、特に高齢者の誤嚥性肺炎は、症状の訴えはなく、何となく元気がないなどのこともあります。 高齢者は予備力が低下しているため、容易に肺炎などによる低酸素状態に陥りやすく、身体的変化に不安を感じることがあります。 環境変化の影響 高齢者の生理的な変化として、環境などへの適応力が低下します。生活リズムや環境・人間関係が変化することで、不安な気持ちなどが心身に大きな変化をもたらすこともあります。この患者さんは慣れない入院生活を経験し、不安や不満が生じたとしても無理はないと思われます。 性的な行動の理由は患者さんによってさまざまです。この患者さんのように、相手の体に触ろうとする行為は、寂しさや不安、不満などから起こったと考えられます。 患者さんをどう理解する? 患者さんの言動に対して、看護師が強い口調で「いやらしい」「やめてください」などと言ってしまうと、本人のプライドを傷つけ、より言動が悪化する可能性があります。話題の方向を変えるなどプライドを傷つけないような配慮が必要です。看護師が騒いでしまうと、かえって本人を面白がらせる結果になりえます。 ただ、体を触るなどの行為がエスカレートする可能性がある場合は、あいまいな態度をとったり、聞き流したりせず、毅然とした態度で注意することが必要なときもあります。さりげなく短い言葉で注意することが効果的です。また、2名以上の職員でかかわり、個室内にて1人で対応することを避ける、男性看護師がケアにあたるのもよい対応です。 リラックスした雰囲気で、本人の昔の思い出、楽しかったことやつらかったことなどを聴くのもよいでしょう。時間を使ってじっくり話を聴くことは、大変なようですが、結果として本人の精神的安定にもつながり、性的な行動をとる原因が見つかる手がかりになることがあります。 そのほかの対策として、日中の運動量を増やして夜間ぐっすり眠れるようにする、趣味などの別の物事に打ち込ませることで性的欲求不満をそらすなども有効と思われます。 たとえば、今回の場合は「タッチして合図しなくても大丈夫ですよ、ご用があったら名前で呼んでくださいね」といったように、さりげなく話題の方向を変えて、プライドを傷つけないように配慮します。 執筆浅野均(あさの・ひとし)つくば国際大学医療保健学部看護学科 教授 監修堀内ふき(ほりうち・ふき)佐久大学 学長 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)松下正明ほか監.『個別性を重視した認知症患者のケア』改訂版.東京,医学芸術社,2007,166p.2)鷲見幸彦監著.『一般病棟で役立つ!はじめての認知症看護』東京,エクスナレッジ,2014,213p.3)川畑信也.『これですっきり!看護・介護スタッフのための認知症ハンドブック』東京,中外医学社,2011,128p.4)清水裕子編著.『コミュニケーションからはじまる認知症ケアブック』第2版.東京,学研メディカル秀潤社,2013,173p.5)日本認知症ケア学会編.『改訂・認知症ケアの実際Ⅱ:各論』東京,ワールドプランニング,2008,300p.6)三好春樹.『目からウロコ!間違いだらけの認知症ケア』東京,主婦の友社,2008,191p.7)服部英幸編.『BPSD初期対応ガイドライン』東京,ライフ・サイエンス,2012,171p.8)日本神経学会監.『認知症疾患治療ガイドライン2010』東京,医学書院,2011,256p.

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