コミュニケーションに関する記事

新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.2 新卒者から「先輩」になって思ったこと
新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.2 新卒者から「先輩」になって思ったこと
インタビュー
2022年11月15日
2022年11月15日

新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.2 新卒者から「先輩」になって思ったこと

前回「新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.1 新人看護師が感じていること」の記事で、新卒から訪問看護の世界に飛び込んだ3名の看護師の声をお伝えしました。今回は、その3名がキャリアを積んでから感じたこと、新卒者が訪問看護に携わることに対しての思いを取り上げます。 先輩になった今、後輩にしているサポートは? 職業を問わず、最初は新人であっても年月を経るにつれて経験を積み、次第に教える立場になっていきます。では、3名の新卒者は自分が先輩の立場となり、後輩をどう支えているのでしょうか?Aさん・訪問看護歴6年「最初は分からないこと自体が分からないと思うので、自分や歴代の新卒者さんがどのような勉強をしたかを伝え、誰もが同じようにできなかったところから乗り越えていることを伝えるようにしています」 Bさん・訪問看護歴6年「まずは相手の思いや考えを聞き、一旦受け止めます。そして、できていることは些細なことでも言葉にして伝えています」 Cさん・訪問看護歴7年「相手のできていないところばかりではなく、できているところはそのまま認めて、フィードバックすることを大切にしています。また、後輩の話を聞くときは、必ず手を止めて聞きますね。そして後輩が考えている時には待つ。答えをいわないようにして、後輩が自分自身で考えられるようにしています」 まずは後輩の思いや悩みを受け止める、という点は3名に共通しています。これには理由があり、自身の経験が少なかったころに「もう少し振り返りの時間がほしかった」(Bさん)、「自信を持てるような声かけ、フィードバックがほしかった」(Cさん)と感じたからだそうです。これから新卒者を迎える管理者、先輩看護師の方は、じっくり話を聞く時間を設けると良いかもしれません。 新卒を受け入れるために必要な環境、体制、心構えは? 未経験の人が訪問看護ステーションで働き、成長していくためには、何が必要なのでしょうか。大きく分けて、「新卒を受け入れる心構え」と「技術を学ぶ場」の2点が挙がりました。 Aさん「教育担当者や所長だけでは受け入れる側の負担も大きくなってしまうため、スタッフ全員で新卒を育てる気持ちが大切だと思います」 Bさん「看護技術・手技の勉強と復習を行いやすい環境が大切だと思います。受け入れる側の心構えとして、新卒でもできる、応援しているというスタンスが必要ではないでしょうか」 Cさん「受け入れる側の心構えとして『できなくて当然。時間がかかって当然』『新卒ウェルカム!』という余裕は必要だと思います。看護技術取得ができるような体制づくりも必要だと考えます」 新卒だからこそ、いち早く技術を習得して少しでも先輩方に追いつきたいもの。技術取得のための体制については、「大きめのステーションのほうが教育・体制面が整っている傾向にありそう」(Cさん)といった声も聞かれました。 「新卒からの訪問看護」にはどんなメリット・デメリットがある? 最後に、新卒者が訪問看護に携わるメリット・デメリットを聞いてみました。Aさん メリット・さまざまな先輩看護師と同行訪問することで、多様な看護観に触れられる。・一般常識が身につく(医療・介護物品などのコスト意識、訪問先のご自宅や外部連携でのマナーなど)。 デメリット・手技の獲得やひとりだちまで時間がかかり、ある程度自信をもって訪問できるまでは不安や劣等感を感じやすい。・事業所の教育体制によっては、ひとりで訪問する重圧、不安が大きい可能性がある。 Bさん メリット・利用者さんの生活や人生の一部に入り込むことができる。加えてもらえる。・医療者や支援者の知識が必ずしも正解ではないことを、利用者さんを通して気付ける。 デメリット・病院に就職した同期と比較してしまうと、スピード感の違いに落ち込む。・新卒訪問看護師への偏見がまだある印象がある。 Cさん メリット・夜勤がないため生活リズムが整いやすいこともあり、それによって『しんどいからやめたい』という看護師は少ないように思う。・キャリアが広がる印象がある(管理者、大学・大学院の教員、ケアマネ取得など)。 デメリット・スタッフのマンパワーが必要なケースが多い。・ステーションによって教育のしかたやスタッフの関わり方・雰囲気、利用者さんの受け入れ幅などが異なるが、新卒訪問看護師向けの情報が少ない。 「新卒からの訪問看護」は、乗り越えるべき課題がありますが、今回お話していただいたかつての新卒者の方々も、現在では一人前の訪問看護師として立派に仕事をこなしています。 新卒者を募る場合、訪問看護のメリットをアピールしつつ、ステーションとして新卒者の悩みや課題に向き合う姿勢を示してみてはいかがでしょうか。 記事編集:NsPace編集部

「だから」がわかると腑に落ちる精神看護 Q&A編
「だから」がわかると腑に落ちる精神看護 Q&A編
特集 会員限定
2022年11月8日
2022年11月8日

先行公開! 「だから」がわかると腑に落ちる精神看護 Q&A編【セミナーレポート】

2022年9月30日(金)、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー 『「だから」がわかると腑に落ちる精神看護』を開催いたしました。株式会社N・フィールドの中村 創さんを講師に迎え、精神看護について解説いただきました。 本記事では、セミナー時に皆さまからいただいた質問へのご回答を、セミナーレポートに先んじて公開いたします。当日、時間の都合により回答し切れなかった質問にも回答いただきました。セミナーに参加いただいた方も参加できなかった方も、ぜひご覧ください。 【講師】中村 創さん 株式会社 N・フィールド/事業管理本部 広報部 部長 精神看護専門看護師 怒りを前にしたときは、「利用者さんは自分を守ろうとしている」と考えてみて <Q1>攻撃的な言動のある利用者さんについて、生活背景に「寂しさ」があるというお話がありました。しかし、その背景は周囲からは見えないため、怖さだけが際立ちます。どのような点に気を付けて接すると、隠れた寂しさなどに気付くことができますか? 確かに「攻撃性」「怒り」「他害的な言動」は怖さが際立ってしまい、「寂しさの可能性」まで気が回りません。ここで考えたいことは、「ポジティブな感情を抱いているときに怒りを表出することはあるだろうか?」ということです。多くの方が「それはない」と考えることと思います。 「攻撃的言動」「怒り」の目的は以下の(1)~(4)であるというお話を講演の中でさせていただきました。 (1)権利擁護(2)支配(3)主導権争い(4)正義感の発揮 臨床で遭遇する怒りの目的の多くは、(1)~(3)である印象があります。それぞれ、「自身の窮地を脱するため」「相手を思い通りにするため」「自身が有利になるため」と置き換えて考えたとき、どうしてそうする必要があるのでしょうか。「窮地にいると感じているから」「相手を支配しないと自分が怖いから」「常に自分が不利だと感じているから」という答えに行きつくでしょう。利用者さんは、不安や恐怖、脅威や自尊感情の欠落を怒りで払拭しようとしている状態なのだと推察できるわけです。 いずれにせよ、利用者さんが「自身を守るため」の攻撃性であるということは共通すると考えられます。怒りを前にしたとき、「何かから自分を守ろうとしてのものなのかもしれない」と考えてみると、看護師側も少し落ち着ける場合があります。そのように、自分の感情と思考に気を付けてみることをおすすめします。 ちなみに、「この場を何とかしなければ」と思えば思うほど何とかならないことが多いでしょう。できれば「この場を何とかしなければ」という思考自体を「何とか」していただくと(これもまた難しいのですが…)、少し冷静になれる場合があります。怒りに対して怒りで返したり、焦ったりすることは状況を悪化させることが大半です。まずは一息つける工夫を検討することをおすすめします。 重要なのは関係性構築。精神科受診を促す前に、困りごとを共有しよう <Q2> がんのため、介護保険で訪問看護している利用者さんがいます。「壁から音が聞こえる」などの幻聴があり精神科の受診歴がありますが、「治らなかった」とすぐに受診をやめてしまい、その後受診していません。再受診を促したいのですが、どのようにアプローチすればよいでしょうか? 熱心に訪問すればするほど、「受診すれば状況は変わるのに!」と思うでしょう。私も「なんとか受診を」と挑戦してはうまくいかない…ということが往々にしてありました。その都度「どうすればよかったのか」と考えてきました。そして、私の経験則から出せた結論は、「受診を促す前に、困りごとを共有する」ということです。 以前、母娘二人暮らしで、お母様が介護保険で訪問看護を利用されており、言動の辻褄が合わない未受診の娘さんがいらっしゃるご家庭を訪問していたことがあります。相当前から、「親戚に家具を盗まれた」とおっしゃるなど言動に辻褄が合わない内容が増え、親戚や地域から孤立していた娘さんでした。 訪問中は、娘さんがスタッフに「親戚が物を盗むのでどうしたらいいですか?」などとお話をし続けるため、お母様のお話がほとんど聞けないという状況。対処に行き詰まりを感じたステーションからご相談を受け、私も訪問に入らせていただきました。私が徹底したことは、「娘さんとの会話に時間を使う」ということ。複数名で訪問に入り、お母様のお話はもう一人の訪問スタッフがしっかりと聞くことにしました。 娘さんと話していくうちに、身体的な不調やお金のこと、お母様との関係、書類に関する不明点など、困りごとに関する話題も増えてきました。解決できる困りごとは一緒に対応していったところ、だんだんと信用していただけるようになりました。 あるとき娘さんから、「もう少し訪問時間が増えるといいんですけど」と要望をいただきました。そこで、「私たちは精神科医から指示書を書いてもらって訪問をしています。先日お疲れで眠れないと伺いましたが、そういう相談を含め精神科を受診していただけると、私たちはさらに時間をかけられます。可能でしょうか」と伺うと、「わかりました」と案外スッと承諾いただけました。 この経験から、私は「この人が言うのであれば受診もいいかな」と思っていただけるような関係の構築が重要ということを実感しました。これは受診に限らず、さまざまな生活範囲の拡大を促す場合にも言えることと考えています。「困っていることを確認して対応する」→「お互いが困りごとを解消できた実感を持つ」という流れを繰り返すことで、こちらの提案を受けていただきやすくなるということです。受診も提案の一つと捉えて臨んでいます。 利用者さんの主体性を伸ばすためには、「今ある主体性に気づく」ことから始めよう <Q3> 洗濯機を回せない利用者さんに対し、洗濯機にデコレーションをして解決に至ったエピソード、すごいと思いました。利用者さんの主体性を伸ばすアイデアの思考法や、考えるプロセスなどはあるでしょうか? お褒めにあずかり光栄です。「デコレーションをする」というアイデアは、ステーションで働く作業療法士の発案でした。「何とかしよう!」ではなく、「さらに良くするには?」という視点の変更がポイントになったと思います。 精神疾患に罹患した利用者さんは、ご自身が「自己決定」「主体性の発揮」から離れようとする場面が多いように感じられます。これは、自己決定を否定されてきた不全体験や、自身で決定をする前に周囲に決定されてきてしまった生活習慣などが影響していると考えられます。 自己決定ができずに生活していく過程で、自分の思考そのものが分からなくなったという方もいらっしゃいます。「あなたはどうしたいですか?」の問いに、「わからないです」と回答される方は案外多いと感じます。 私の経験則ですが、例えば入院が長かった方は病院で指示される、自身の言葉よりも周囲の言葉が優先されるという経験が長かったこともあり自身の判断に自信が持てない方が多いです。入院に限らず、幼少からの家庭環境の影響で自信を失った方もいらっしゃいます。 そういった方々の主体性を伸ばしていくには、現在ある自主性に私たちが気づくことから始めることが重要だと思っています。 そして、その気づいた自主性と行動に対して最大限労うことで、患者さんが「自主性とはこういうことなのか」と振り返ることができると、最終的に主体性を伸ばす支援になるでしょう。生活することは決断の連続ですから、まずは私たちがその決断の場面に気づくことから始めることが重要と考えています。 暴力に対しては、事業所としての方向性確認&安全確保の枠組み設定を優先 <Q4> 統合失調症、暴力行為のある方の訪問をしています。複数名でいくと恐怖を与えてしまうようで、単独訪問しています。しかし、毎回どこかしらを殴られてしまいます。訪問を止めることはできず、正しい対処法がわかりません。 大変な思いをしながら訪問をされているとのこと、ストレスも相当なものではないかと思います。 CVPPP(包括的暴力防止プログラム)やKYT(危険予知トレーニング)など、対応策・予防策はさまざまありますが、念頭に置いていただきたいのは、「ご自分が被害者にならない=患者さんを加害者にしない」ということです。 私がこれまでお会いした暴力被害に遭遇したことのある看護師さんは、その場を「何とかしよう」と考える、根が真面目な方が多いように思います。報告書などを読むと、不測の事態というよりも、徐々に緊張感が高まっていくなかで諫めようと尽力した結果、被害に遭ってしまったという経過を辿ったケースが多いことに気が付きます。「玄関に入って1分で被害に遭う」というよりは、徐々に段階を経ることが多いようです。 日本臨床救急医学会は、暴言・暴力の予兆として・時間を気にし始める・落ち着きがなくなる・語気が粗くなる・早口になる・急に言葉が少なくなる・目つきが変わる(鋭くなる)という兆候を上げています。 日本臨床救急医学会は、予兆を感じ取ったら積極的に傾聴する姿勢を示し、「自分の主張を理解してもらえる」と相手に感じてもらうように働きかけることをすすめています。できない要求まで理解して飲むということではなく、あくまで相手の背景を理解しようとする姿勢が大切です。 利用者さんの背景が詳細に分からないため、疑問にお答えできていないかもしれませんが、まずは「聴く」という姿勢を持つこと、予兆が出た場合も聴き続けること。「これ以上は無理」と思う2歩手前で引くということが大事だと思います。できれば、ご本人が落ち着いてお話ができるときに「これ以上は留まれない」という線を一緒に設定できるとよいでしょう。 また、「殴ることでコミュニケーションが成立する」という誤った学習は、将来ご本人の不利になります。そういったコミュニケーションをしているうちは引き、「また来ます」と言う。落ち着いて話ができたときは、「本当にうれしい」とご本人にお伝えすることも大切でしょう。しかし、これは本当に難しい対応で、なによりストレスフルです。事業所としての方向性と、対象となる方との安全を確保できる枠組みの設定を優先的にされることが重要だと考えます。 短時間の施設見学&リモート講義で精神科実習を行っている学校も <Q5> コロナ禍で精神科実習ができていません。学内実習で代替できることはないでしょうか? この大変な世情のなか、実習含めカリキュラムを組み立てるご苦労は相当なものと推察いたします。私がご依頼をいただく専門学校や大学では、「短時間の施設見学」+「現場のスタッフが講義」という形式をとっていました。私も現場のスタッフとして講義をしており、リモートと対面、どちらも対応しております。そのような事例があるということをお伝えさせていただきます。 うつ病の利用者さんには焦って安易な手段をとらず、回復を「一緒に待つ」姿勢で <Q6> うつ病の利用者さんとの接し方を教えてください。 うつ病で私が心がけていることは大きく「自殺防止」と「自然体でいること」の二つです。 質問者様がどのような場面でうつ病の方との関係性にお困りなのか、想像の域を出ませんが、これまでお会いしてきたうつ病と診断された方からは、「普通でいてくれた方がありがたい」という声が多く聞かれました。うつ病を発症する方は、「他者が気を遣っている」という感覚を必要以上に取り込んでしまう傾向にあるようです。「自分が迷惑をかけている」という意識が強くなるのだそうです。妙に明るい口調では疲れるようですし、かといって相手のトーンに合わせて自分が普段しないような落としすぎたトーンで接すると、それこそ「気を遣われている」と感じるようです。 まずは、あくまで自然体であることをおすすめします。その上で、無理に相手を動かそうとしないということを私は心がけています。 不思議なもので、それまで仕事一筋であった方が療養期間中にピアノを始めたり、同じような経緯の方がそれまで観たことのない映画にはまったり、空手を始めてみたり、という具合に回復の過程において、新しいものに興味を抱く方が一定数いらっしゃいました。共通しているのは、「活動とセット」ということでした。私は「興味の引き出しがどのくらいあるか」ということを、回復の目安にしています。 また、近年言われているうつ病の脳内炎症モデルを知ると、「抑うつはむしろ回復過程」と私は励まされる気持ちになります。なれなれしい自然体を嫌う患者さんも多いので、あくまでご自身の良識の範囲で関わっていくことがコツです。また、私は「うつ病は休息を身体が欲している」という状態であるということを念頭に入れ、回復を一緒に待つことを心がけています。間違っても「こうすれば改善する」といった安易な手段を取らず、忍耐をもってお話を伺うことが重要と考えています。 恋愛感情をもたれたら、「これ以上接近するといい関係を保てない」と伝えることも大切 <Q7> 3年以上担当していた統合失調症の男性に恋愛感情を持たれてしまいました。担当を外れても私にこだわってしまい、1ヵ月ほどで別の訪問看護事業所にお願いすることになりました。距離感を意識していたはずですが、難しいなと感じました。このようなご経験はありますか? 恋愛感情を持たれたとき、「自分の接し方に問題があったのではないか」と感じてしまう方もいらっしゃるでしょう。私も恋愛感情を持たれたことはあります。そのときも、「自分が最初にきちんと線引きをしていなかったからだ」と行動を戒めようしましたが、距離をとりすぎて、かえってよそよそしくなってしまいました。この辺りの線引きはとても難しいと思いますが、考えてみれば人間関係はそういった微妙なバランス感覚の上に成立していることが多いでしょう。 ところが精神科の臨床では、うまい距離感を保ち関係を維持する体験が少なく、「相手との距離感をとることが苦手」という方が一定数いらっしゃいます。そういう方の人間関係は、「大好きか大嫌いか」の二択に限定されてしまっています。生育環境において安定した人間関係を構築できなかった代償とも言えるでしょう。成育歴は、そういう観点から非常に大事であると思っています。 被虐待児にそういう傾向が顕著であることは有名でしょう。しかし、療育環境に問題がなさそうと思えても、塾や習い事をいくつも掛け持ちし、対等な人間関係を育まずに成長してきた患者さんがいらっしゃいました。 「看護とは対人関係のプロセスである」と知ってからの私は、「自身を媒体としてどういった関係が心地よいかを患者さんと一緒に考えることが看護師の役割の一つ」と認識を改めるようになりました。以来、「あなたとは良好な支援関係を崩したくない。これ以上接近してしまうと、いい関係を保つことは難しくなる」とはっきりお伝えするようにしています。また、「あなたが望むほど緊密ではないけれど、私はあなたとの関係は切らない」ということを、言葉でも態度でも表現するよう心掛けています。 もちろん、そうお伝えした上で「それならもういい」と言われたこともなかったわけではありませんが、案外その後も支援を継続できる方もいらっしゃいます。細くても切れない、支える糸の一本であるという気持ちで臨まれてはいかがでしょう。 ** 中村さんの豊富な経験に基づくご回答をお届けしました。明日からの精神訪問看護に生かせるヒントが、たくさん見つかったのではないでしょうか。 オンラインセミナー 『「だから」がわかると腑に落ちる精神看護』の講義内容をダイジェストにしたレポート記事も公開しております。ぜひそちらもご覧ください。 【参考】〇岩井俊憲,宮本秀明,永藤かおる『アンガーマネジメント―怒りの感情をコントロールしよう』https://hrd.php.co.jp/hr-strategy/hrm/post-578.php(2015.1.13)2022/10/31閲覧〇Adler.A 著,岸見一郎 翻訳.『人生の意味の心理学(上)-アドラー・セレクション』p.49,アルテ,2010.〇Williams.E,Barlow.R 著.壁屋康洋,下里誠二,黒田治 翻訳.『軽装版 アンガーコントロールトレーニング』.p.34,星和書店,2012.〇衛藤暢明 著.日本臨床救急医学会 監修.『救急医療における精神症状評価と初期診療 PEECガイドブック』.p.77,へるす出版,2012. 記事編集:NsPace(ナースペース)

メンバーを褒めるときやってはいけないこと
メンバーを褒めるときやってはいけないこと
コラム
2022年11月8日
2022年11月8日

メンバーを褒めるときやってはいけないこと

この連載は、訪問看護ステーションで活躍するみなさまに役立つコミュニケーションのテーマを中心にお届けします。第7回は、管理者として、メンバーを褒めるときに注意したいことをお伝えします。 うわべだけの「褒める」は失敗する 「褒めて育てる」とは、よくいわれる言葉です。私も基本的に「褒めて育てる」は大賛成です。でも「褒めて育てる」をテクニックとして使っていると、失敗することがあります。 「メンバーの話を聞いても、何が言いたいのかよくわからない」なんてことありませんか。いったい何が言いたのだろう? つじつまが合っていないのではないか? どこまでわかって話をしているのだろう? ……なんて具合に。 私は、マネジャーになりたてのころ、そんな思いを抱きながらメンバーの話を聞くことがよくありました。最後には「結局、何が言いたいの?」とイライラをこらえきれず言ってしまう始末。見かねた上司がアドバイスをくれました。 「話を聞くときは『相手の言っていることはすべて正しい』と思って聞いてみなさい。理解できないのは自分の聞く力が足りないと思いなさい」。 つまり、相手を理解しようと思えば、まずは全部丸ごと受け入れようとする。「ある部分だけは受け入れて、ある部分は受け入れない」と評価するように聞くのではなく、すべてを受け入れることで、相手の言っていること全体が理解できるのだ、と。 部下の良いところをノート見開きいっぱいに書く もう一つ、新任マネジャー時代の話です。私は年上の部下(Aさん)を持つことになり、その対応に苦慮していました。そのときにまた上司からアドバイスをもらいました。「部下だからといって頭ごなしにものを言わないように。まずはAさんの良いとこを見つけてノートの見開きいっぱいに箇条書きで書く。それができるまでAさんには注意したいことがあっても言わないようにしてみては」と。 私はそのとおりに、Aさんの良いところを見つけてメモしました。そして気になることがあっても注意することはしませんでした。 Aさんにとって私は年下の上司ですから、何か注意されて面白いはずがありません。最初、Aさんからは「何も言うなよ」オーラが満ち溢れていました。ノートの見開きいっぱいにメモが埋まるころ、私は、本人がいないところでほかのメンバーにAさんの良いところを伝えて「Aさんに教えてもらうといいよ」と言うようになりました。すると、しばらくしてAさんから私に話しかけてくるようになりました。 ここでのポイントは「相手の良いところをノートいっぱい見つけるまで注意しなかった」ことです。少し時間はかかりますが、良い関係をつくるには「急がば回れ」です。 「受け入れるふり」は通用しない マネジャー経験を積んだ後でも失敗談があります。どこの部署でも周囲との関係をうまくつくれなかったメンバー(Bさん)が、私の部署に配属されました。理屈っぽくてプライドが高く、自分にも他人にも厳しい人でした。 私はゆっくりBさんを観察して良いところを探しました。よく話を聞くと、Bさんの言っていることは筋が通っています。それと同時に、融通が利かず多少自己中心的なところがあり、他人の立場を軽んじるところがありました。 そこで面談時に私はBさんの良いところをフィードバックしました。Bさんはそれを受け入れ納得してくれました。でも正直なところ、私はBさんに気持ちよく話を聞いてもらうために、少し『盛り気味』にしました。そしてBさんがいい気持ちになっているところに「でもね、一つだけ気を付けてほしいのはBさんのこういう欠点は直してほしい」と付け加えたのです。 するとBさんの態度は一転硬直し、関係の構築は見事に失敗して、一からやりなおしになりました。いや、一からどころかゼロからです。私のやっていたことは「相手を受け入れるふり」で、じつは相手を受け入れていなかったのです。それがBさんにもばれてしまったのです。テクニックで相手を丸めこもうとしていたのが伝わったのです。 傾聴の三原則 「カウンセリングの神様」ともいわれるカール・ロジャーズは、傾聴の三原則に▷無条件の肯定的配慮 ▷共感的理解 ▷自己一致 ── を上げています。「相手の良いところを見つける」というのは、この三原則と重なります。テクニックではなく、本気で良いところを見つける過程で、相手を尊重し、理解することができるようになる。つまり、相手ではなく自分を変えることで、相手を理解できる。それが「自己一致」でもあります。話を盛っている時点で自己一致していないのです。 褒めることに集中する 人を褒めるときにやってはいけないこと。それは、相手を褒める同じタイミングで、相手を責めたり否定したりしないことです。褒めるときは褒めることだけに集中するほうが、相手にとっても心に響くものになります。注意すべきことと褒めるべきことが同時にあった場合も、よほどのことがないかぎり先に褒めるほうが良い結果につながります。そして注意をすることがあれば改めて場を変えて行うのがよいでしょう。 執筆松井貴彦・まついたかひこ ライフキャリアコンサルタントNPO法人いきいきライフ協会 理事、一般社団法人看護職キャリア開発協会 所属。1962年生まれ。同志社大学文学部心理学専攻卒(現心理学部)卒。出版社にて求人広告制作(コピーライター、ディレクター)、就職情報誌編集者、編集マネジャー。その後、医療・看護系出版社、関連会社の代表取締役など歴任。国家資格キャリアコンサルタント、GCDF-Japanキャリアカウンセラー(米国CCE, Inc.認定のキャリアカウンセラー資格)。自分史アドバイザー。YouTubeは「松井貴彦 まっチャンネル」で検索。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇諸富祥彦.『カール・ロジャーズ入門:自分が“自分”になるということ』東京,コスモス・ライブラリー,1997,362p.

新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.1 新人看護師が感じていること
新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.1 新人看護師が感じていること
インタビュー
2022年11月1日
2022年11月1日

新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.1 新人看護師が感じていること

訪問看護師の中には、新卒ですぐに訪問看護ステーションで働く人もいます。こうした新卒の訪問看護師のみなさんは、どんな思いで働き始め、何に悩んでいるのでしょうか? NsPaceでは、新卒から訪問看護師になった3名の方々にお話を伺いました。 新卒で訪問看護を選んだ理由は? まず、なぜ新卒で訪問看護師の道を選んだのか、聞きました。すると、次のような三者三様の答えが返ってきました。 Aさん・訪問看護歴6年「自分の祖父母が在宅医療という選択肢をもてるようにしたいと思っていたことや、大学のサークル活動で神経難病を患っている方がご家族と穏やかに自宅で過ごしている場面に出会い、素敵だと思ったからです」 Bさん・訪問看護歴6年「利用者さんとゆっくり関わることができるからです。在宅看護学実習で、テキパキと処置をしながら、利用者さんに適切な情報を伝える・聞き出す訪問看護師に憧れを抱きました。誰もやったことがないことだから、おもしろそうと思い、飛び込みました」 Cさん・訪問看護歴7年「訪問看護に興味を持ったきっかけは、大学での領域実習でした。在宅では、 利用者さんと向き合う時間的な余白があり、利用者さんと看護師が対等の立場であるように感じました。その人がその人らしく生活できて、それを支援できる訪問看護がすごく魅力的に感じたので、訪問看護師になろうと思いました」 ご家族に訪問看護師という選択肢を加えたい、実際の訪問看護師の姿に憧れた、在宅医療・訪問看護に医療の理想の形を見た、というのが訪問看護師になった直接的な理由でした。一方、共通点として看護学生時代の経験を踏まえて、最終的に訪問看護師となる決心をしたことが見て取れます。 ひとりだちするまでの過程で困難に感じたことは? では、実際に新卒から訪問看護師となって感じた壁は何でしょうか。こちらの質問も、さまざまな悩みをもったという答えが返ってきました。 Aさん「一つひとつの判断が正しいか、症状を見落としていないかという不安がありました。先輩への報告でも、簡潔に必要な情報と自分のアセスメントをまとめることが難しかったです。状況や体調に変化があった場合に臨機応変に報告をしたり、手順を変更したりすることも困難に感じました。また、時間がかかりすぎて、訪問時間内に必要なケアを行うことも難しかったです」 Bさん「できなかったことに注目して落ち込み、自信がなくなるというループから抜け出せなくなることがありました。自分の『できるであろう』の基準を高く設定してしまい、落ち込みやすくなっていました」 Cさん「看護技術、特に点滴などの経験が積みにくく、技術の習得は大変苦労しました。コミュニケーションが元々苦手で、人見知りも激しかったため、利用者さんとの会話に壁を感じることもありました。また、次の訪問まで待てるのか?今すぐ対応すべきなのか?と、緊急度合いの判断がつきづらいときも困難さを感じました」 技術的な悩みもさることながら、判断に間違いがないか、との不安を抱きやすいようです。そして、「週1回2時間ほどの振り返り面談をしていただきました」「オンコールは管理者の許可を得てから訪問し、実際に報告すると『合っているよ、いいよ』と声掛けをしてもらえて、認めてくれるようなサポートをされていました」(どちらもCさん)というように、その都度のフィードバックがあると新卒者は安心感をもつようです。 先輩・利用者さん・ご家族からの言葉で印象に残っていることは? このように技術を身に着けていく間で、看護師のモチベーションとなるのが利用者さんや先輩看護師からの言葉です。また、直接的な感謝や励ましでなくても、先輩が自分を思ってくれているのがわかると、嬉しさを感じるとの声もありました。 Bさん「利用者さん・ご家族からの『いつもありがとうね』『助かるわ』『待ってたよ』という言葉です。また、しばらく訪問していなかった利用者さんが『元気にしとるんか?』と気にかけていたよ、と先輩から聞いたときも嬉しかったです」 Cさん「利用者さんからの言葉では、何度もクレームをいただいた方に『Cさんだったら、任せられるわ』と声をかけてもらえたことが印象に残っています。先輩からの言葉では、『どうしたらCさんにとって良いのか分からない』といわれたとき、私のことを考えてくれていることが伝わって嬉しかったですね。ほかにも『訪問するときに何が一番大切か分かる?毎回訪問時、同じテンション、声のトーンで訪問すること』と教えられたなど、数え切れないほどあります」 利用者さんからストレートにかけられる感謝や信頼の言葉は、新卒者に限らずベテランの訪問看護師でも嬉しさを感じることは変わらないでしょう。一方、前述の「困難に感じたこと」と同様に、先輩からのアドバイスは具体的に、どこを良くすれば改善されるかまで言及すると、新卒者や若い看護師自身の成長にもつながります。 続きの記事もありますので併せてご覧ください。次回「新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.2 新卒者から「先輩」になって思ったこと」 記事編集:NsPace編集部

コラム
2022年10月25日
2022年10月25日

「セルフイメージ」を置き換える

この連載は、訪問看護ステーションで活躍するみなさまに役立つコミュニケーションのテーマを中心にお届けします。第6回は、自己効力感を高める要因となる、代理体験のお話です。 自己効力感を高める代理体験 前回、自己効力感をつくりだす五つの要因のうち、四つを説明しました。自己効力感を高める最後の一つは「代理体験」です。これは「モデリング」とも呼ばれます。 自分の目標とする人やあこがれの人を見て、その人の活躍や成果を自分に重ね合わせることです。自分の目標とする人・あこがれる人が努力を重ねて成果を上げる姿を見て、自分も「やればできる」と思える。これが代理体験です。 活躍を自分に投影させる 今、日本の野球少年のヒーローは、ロサンゼルス・エンゼルスで活躍している大谷翔平選手でしょう。ピッチャーとしてもバッターとしても彼の活躍に野球選手としての夢が大きく広がります。いえ野球少年だけではありません。老若男女が彼の姿を追っています。 何しろ、大リーグという世界の舞台に立ち、しかも「二刀流」という、大リーグ選手でもやったことのないことをニコニコ笑顔でやってみせる。 活躍する舞台は違えども、進学や就職で新しい世界に飛び込んだ若者、異動や昇進、転職、独立など仕事でさまざまな課題や困難と向き合う人たちにとって、大谷選手がどれだけのプレッシャーと向かい合っているのかは想像に難くありません。そのなかで彼がどんな言動をして、どんな成果を上げていくのか。そこに自分を投影させている人も多いのではないでしょうか。 モデルに重ね合わせて考える もちろん順調なときばかりではありません。打てないとき、勝てないときもあります。 そのとき彼はどうするのか? そしてどう乗り越えるのか? 自分ならどうするのか? 重ね合わせながら考えます。このときに「視座」が変わるのです。今までの自分とは違う立場や視点からモノを見ることができるかもしれません。「そうなんだ! こうすればいいんだ!」という勇気やアイデアが自分のなかに生まれます。 「学ぶ」は「まねぶ(真似ぶ)」から転じた言葉だという説があります。大谷選手の活躍を見た子どもたちのなかには、今後「二刀流」を目指す人も増えるでしょう。これまで、高校野球までは「エースで4番」はいても、大学、社会人、プロ野球では「ピッチャーかバッターか」を選ぶのが普通でした。でも大谷選手の活躍は新しい常識が生まれるきっかけになりました。 真似ることでセルフイメージが変わる 好きなモデルさんのファッションコーディネートを真似したり、同じブランドのバッグやアクセサリー、服を選んだり、髪型を似せたりする人も多いですね。それをすることによって、何となく自信がついたり、「私にもこんな見せかたができるかも」と思えたりします。 着ている服や髪型、持っているバッグで何が変わると思いますか? 頭の中のセルフイメージが変わるのです。 前回の話のように、人は、頭に描いたイメージになるように体が動きます。だから、ファッションが変わると、それを身に着けている自分のイメージが変わり、それに合わせて歩き方や立ち居振る舞いも変わります。話す内容も変わっていくかもしれません。 「なりたい自分」が具体的であればあるほど、その自分に近づきやすくなります。そうなるように自分が変わっていくのです。これが「セルフイメージの置き換え」です。 うまくいかないときや苦しいときがあっても、「こんなときあの人だったらどうするだろう。どんな言葉を発するだろう、どんな行動をとるだろう」と考えることで、自分の振舞にもヒントが見つかります。これが自己効力感をアップすることにつながります。 モデルとした人の逆境 しかし、この代理経験、モデリングには一つ注意しなければならないことがあります。自分がモデルとした人が努力したにもかかわらず失敗をしたときに、一緒に自己効力感を失ってしまうことがあるのです。 モデルとした人が歴史上の人物なら、その成功も失敗もすでにわかっていますが、現在活躍中の人だと、未来がどうなるかは誰にもわかりません。成功ばかりの人生はありえません。人生には必ず、順風、無風のときも、逆風のときもあります。だから逆風のときも、モデルとした人がそこからどう対処していくのかを見守りながら、今度はその人を応援していくことが自分の自己効力感を高めることにつながります。 セルフイメージをふまえたコミュニケーション コミュニケーションの視点でいえば、メンバーのセルフイメージの置き換えを支援するようなかかわりができるのが望ましいです。つまり、その人が「どうなりたいのか」に、本人が具体的に気づくようなサポートです。日ごろから「どんな人になりたいか」を聞いておくのもよいでしょう。それがまだぼんやりとしているうちは、セルフイメージができていないということです。 「具体的に」とは、言葉にできるようにすることです。対話をしながら「それはたとえばどんなふうに?」「もう少し聞かせて」と声掛けをすることで、本人によって「なりたい自分」の輪郭をはっきりさせていくことができます。 執筆松井貴彦・まついたかひこ ライフキャリアコンサルタントNPO法人いきいきライフ協会理事、一般社団法人看護職キャリア開発協会所属。1962年生まれ。同志社大学文学部心理学専攻卒(現心理学部)卒。出版社にて求人広告制作(コピーライター、ディレクター)、就職情報誌編集者、編集マネジャー。その後、医療・看護系出版社、関連会社の代表取締役など歴任。国家資格キャリアコンサルタント、GCDF-Japanキャリアカウンセラー(米国CCE, Inc.認定のキャリアカウンセラー資格)。自分史アドバイザー。YouTubeは「松井貴彦まっチャンネル」で検索。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇Albert Bandura.本明寛ほか翻訳.『激動社会の中の自己効力』東京,金子書房,1997,368p.

コラム
2022年10月11日
2022年10月11日

「自己効力感」は育てられる

この連載は、訪問看護ステーションで活躍するみなさまに役立つコミュニケーションのテーマを中心にお届けします。第5回は、自己効力感を育てる方法をお話しします。 頭のイメージに合わせて体は動く 前回、「自己効力感」とは「自分には何かを成し遂げる能力がある」と信じられる力であることを紹介しました。 この力があると、未来に向けて挑戦する、行動する、学習する、成長する、といったことが、成功しやすくなります。これをチームのみんなが持っているならば、きっと雰囲気が良く、お互いに良い影響を与えあうことは想像に難くありません。 人間は、頭でイメージしたことが実現するように体が動きます。失敗をイメージすれば失敗するように、成功をイメージすれば成功するように、体が動き、言葉が出てきます。 ですから、まず日常でできることは、できるだけネガティブなことを考えないことです。こう書くと「出たよ、またポジティブ信仰か」と思う人がいるかもしれませんが、それもすでにネガティブな発想かもしれません(笑)。 ネガティブなことが思い浮かんだら、頭の中でポジティブなことに置き換える習慣をつけるのです。どうしたらよいのかって? ポジティブに変換する 漫才のぺこぱさんっていますよね。彼らの漫才にもそのヒントがあります。 「もうだめだ!」⇒「もうだめだと思ったところがスタートだ!」「大変だ!」⇒「大したことじゃない、まだできることがあるはずだ」「もうヘトヘトだよ」⇒「よくがんばった。今夜はぐっすり眠れるだろう」 ……みたいな変換を彼らはしていますよね。無理やり感もありますが、逆にギアを入れる感じが面白いです。このギアチェンジにフッとした笑いが入るのも、実は気分転換になっていいのです。 私にはいつでも上機嫌の友人がいます。彼はたとえば仕事で理不尽な場面にあって「なめてんのかー!」と思ったら、すかさず「なめられたろかー!」って変換をするそうです。「しばいたろか!」と思ったときは「しばかれたろうか!」って変換する。子どもがイタズラしたときは「怒るよ!」じゃなくて「踊るよ!」って言うそうです。意味がわからないですよね。でも笑えてきます。 これって自分の「怒り」の感情を「笑い」に変換しているのです。「怒り」はネガティブですが「笑い」はポジティブです。自分の感情をコントロールすることって大事です。 自己効力感をつくる要因 自己効力感を唱えたアルバート・バンデューラは、自己効力感をつくりだす要因として、①成功体験 ②代理体験 ③言語的説得 ④生理的情緒的高揚 ⑤想像的体験 ── の5つを挙げています。 成功体験 何といっても「成功体験」が、いちばん自己効力感を育てます。大切なのは、その「成功の質」です。たやすい成功体験を重ねても、失敗するとすぐ落胆してしまいます。忍耐強い努力を重ね、打ち克った体験を持つと、逆境にも負けない自己効力感が育ちます。この積み重ねが大切なのです。 この粘り強さには、ぺこぱさんのような切り替えの発想が大事。「この失敗が次の成功のもとになるだろう」と切り替えて粘り強く成功体験につなげることです。 言語的説得 もしあなたのメンバーが努力や成長の姿を見せたときは、そこにきちんと着目して「あなたは〇〇を乗り越えましたね」「〇〇できたのはあなたの実力ですよ」「あのときあきらめずに〇〇しつづけたことが成功につながりましたね」と、言葉にして伝えてあげてください。これが、③の「言語的説得」になります。人に言われて初めて自分の能力に気がつくことがあるからです。 生理的情緒的高揚 そういう上司がいるチームで「私には上司の△△さんがいるからきっと大丈夫!」と思いはじめたら、しめたものです。メンバー自身が「だんだんいい方向になってきた。あともう少し頑張ろう」と思えたら自己効力感が芽生えはじめています。こういうドキドキワクワクの高揚感が、④の「生理的情緒的高揚」です。 自己効力感のある上司はこうしてメンバーを見守り、声を掛けながら、自己効力感も育てていくのです。そのときに大切なのは、言葉や表情やジェスチャーを使ったコミュニケーションです。 想像的体験 ポジティブな表情・言葉・ジェスチャーは、成功をイメージさせます。そのイメージができると、心と体が成功するように動き出します。うつむかず胸を張って前を向きます。するとますます成功に近づきます。 だから、自己効力感の強いチームはムードが明るいです。メンバーは自分の成功や成長を実感しながら、ほかのメンバーの成功や成長にも関心を持ち、見守ったり励ましたりすることができるような、相互作用も生まれていきます。 そして、自分やメンバーたちの成功がイメージできるようになる。「このチームで自分も頑張ればきっとうまくいく」と思えるようになれば、それが⑤の「想像的体験」です。 残る②「代理体験」については次回お話しします。 松井貴彦・まついたかひこ ライフキャリアコンサルタントNPO法人いきいきライフ協会理事、一般社団法人看護職キャリア開発協会所属。1962年生まれ。同志社大学文学部心理学専攻卒(現心理学部)卒。出版社にて求人広告制作(コピーライター、ディレクター)、就職情報誌編集者、編集マネジャー。その後、医療・看護系出版社、関連会社の代表取締役など歴任。国家資格キャリアコンサルタント、GCDF-Japanキャリアカウンセラー(米国CCE, Inc.認定のキャリアカウンセラー資格)。自分史アドバイザー。YouTubeは「松井貴彦まっチャンネル」で検索。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇Albert Bandura.本明寛ほか翻訳.『激動社会の中の自己効力』東京,金子書房,1997,368p.

インタビュー
2022年10月4日
2022年10月4日

引きこもる大人にどう手をさしのべるべきか

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第5回は、全国に100万人以上いるといわれる「大人の引きこもり」、いわゆる8050問題を追いつづけるジャーナリストと、問題解決の方法などについて話し合った。(内容は2019年11月当時のものです。) ゲスト:池上正樹フリージャーナリスト。ひきこもり問題、東日本大震災などのテーマを追う。NPO法人KHJ全国ひきこもり家族会連合会理事、日本文藝家協会会員。おもな著書に「ルポ「8050問題」~高齢親子“ひきこもり死”の現場から」(河出書房新社)、「ルポひきこもり未満」(集英社新書)などがある。 世間に隠された引きこもりという存在 川越●最近、高齢の親と引きこもりの子という8050問題がクローズアップされています。池上さんは引きこもりに関する著書も多く、実際に家族会の運営などにもかかわっていますね。 池上●社会保障的な支援の対象から外れる、中高年の引きこもる人が100万人以上いることがわかりました。行政は支援したくても、どこにどうつなげていいのかわからないため、まず引きこもりについて勉強したいということで、講演の要望が多くなっています。 川越●在宅医療で伺うと、やはりそういう人に出会うことがありますが、何か事件が起こったりすると急に注目を浴びるわけです。 池上●引きこもる人の多くは、本当は真面目で優しくて、頼まれたことを断れなかったり、助けを求められなかったりする人たちです。職場でさんざん傷つけられて、誰も自分の話を聞いてくれない、受け止めてもらえないと絶望した結果、引きこもりに至っている状況です。 病気や障害ではないという思いから医療機関は受診しておらず、何十年も引きこもっている子どもの存在を、高齢になった親は世間に対して隠している。それでますます身動きが取れず、一種の精神的虐待を受けているようになっています。 川越●そもそも存在が把握できていない、診断も受けていないということで放置されてしまうんですかね。 学校での体験が就職後の引きこもりの原因に 池上●以前、ある県の社会福祉協議会で高齢者の居場所づくりのための調査をしたところ、「私のことより子どもを何とかしてほしい」という高齢者が多かったことがわかりました。地方には、都会で働いて傷ついて帰ってきたり、親の介護のために戻ったりした人が、看取り後に仕事に戻ろうとしても、持っているスキルが時代遅れになっていて職場に復帰できない。そこで社会福祉協議会が引きこもりの人の居場所をつくって、資格の勉強会をしたり仕事自体を創出したりすることで、引きこもる人が激減したと話していました。 川越●ご本人がチャンスだと思って出ていったのなら、いいことですね。 池上●ほかの例では、引きこもっている子どものためにお金を残さないといけないからと、介護サービスを拒否する人もいました。親とのつながりが唯一なので、親が亡くなると、お金があっても手をつけずに後を追うように亡くなる例もありました。お金も大事ですが、それぞれ本人が生きたいと思える意思や希望が大事だと思うんです。 川越●子どもの引きこもりはどうでしょう。本来なら学校で把握しているはずですよね。 池上●不登校でなくても、学生時代のいじめの後遺症やトラウマで、社会に出てから引きこもる人が結構います。 学校に行きたくなくても、親を悲しませないために通いつづけてしまうから、引きこもりに至る背景までは学校も想像できない。むしろ、学校や教師が組織防衛のため加害者側についてしまうと致命的になる。何とか卒業できても、社会に出てから、たまたま同じようなシチュエーションに遭うと、トラウマがよみがえって会社に行けなくなることもある。 また、発達障害の人は頭のいい方が多いので、学生時代は気づかずに大学を卒業し、社会に出てから集団生活の人間関係でつまずいて引きこもりになる人も多いですね。 世間に迷惑をかけたくないという日本的価値観 川越●独居の引きこもりでは、生活インフラも止まったような、ごみ屋敷に住んでいる人もいますね。 池上●周囲からみると「ごみ」でも、楽しかったころの大事な思い出だったり、生きていくための安心材料になっていたりすることもあります。片付けられない特性もあるのかもしれません。歩けるし買い物もできるけれど、社会と接点を持っていないので、周囲からも問題視されてしまうんです。 川越●どうして相談しないのと聞いても、そういう方法を知らないし、お役所は敷居が高いと思っているのかもしれません。 池上●相談しない人や引きこもりの子どもを隠す人たちには、国や世間に迷惑をかけられないとか、他人に頼らずに自力で何とかしなければという日本人特有の腹切り文化の遺伝子がいまだに脈々と受け継がれているような気がします。 川越●生活保護を申請したがらない人も、お上に申し訳ないからといった理由が多いように思います。税の滞納、保険料滞納、家賃や給食費滞納などは実はSOSで、行政がつながるチャンスなんですけどね。 ただそこにいていいと思える居場所づくりを 川越●親の高齢化に伴う問題も、これから深刻化してくるでしょうね。 池上●私がかかわった案件でも、母親が認知症になり、父親が亡くなったけれど相続の手続きもしていない。口座も母親が管理しているのでわからない、というケースがありました。引きこもり問題は複数の部署が連携しないと支援できないので、縦割り行政に横串を入れないと難しいと思います。 川越●私が最近経験した例では、両親と娘の三人暮らしで、お父さんが肺がん末期で診療を依頼され訪問したものの、いるはずのお母さんの姿が見えない。やがてお父さんが亡くなり、包括が訪問してもお母さんに会わせてもらえない。最後は警察や消防のレスキュー隊と突入したら、お母さんはごみの中で足が壊死して動けない状態でした。もともとはお母さんが引きこもりはじめたのが始まりのようです。 池上●そういう場合は、先生のところに連絡すると対処してもらえるんですか? 川越●松戸市は医師会の医師が地域包括や行政職員と一緒に訪問できるしくみを作っているのですが、介護保険ではすべての市町村の義務として、認知症の疑いがある人のところへは認知症初期集中支援チームを派遣することができます。受診していなくても「疑い」さえあれば可能です。 池上さんがかかわっている「居場所づくり」では、どのような活動をしていますか。 池上●当事者たちに「居場所には何があったらいい?」と聞くと、「何もないのがいい」と言うんです。支援者はどうしてもメニューをつくってしまいがちですが、何もやらされないのがいいんです。 川越●ただそこにいていい、ということですね。 池上●社会が怖くて家にいる人たちなので、就労支援を急いだりせず、生きていくための支援を必要としている人には誰でもサポートが受けられるような、引きこもり支援法のような法整備も考えてもらいたいですね。 ー第6回に続く あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護 Next」2019年11月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

特集
2022年9月27日
2022年9月27日

[4]教員との密な連携で、スタッフも学生も『やってよかった』と思える実習を!

この連載では、大変そう…と思われがちな訪問看護実習の受け入れについて意外とそうじゃないかも、と思ってもらえるようなあれこれをご紹介します。最終回の今回は、実習の実施にあたって順調に進める秘訣をご紹介します。 実習中の連絡方法を事前に取り決めておくことが重要 実習でお世話になっている訪問看護ステーションは、小規模のステーションが多く、受け入れていただける学生の人数が限られています。そのため多くのステーションに学生を受け入れていただいているので、実習中教員は複数のステーションを巡回指導することになります。 このような状況なので、いざ実習が始まってしまうと、なかなか実習指導担当者や学生との連絡が取りづらく、すれ違いになってしまう場合があります。まったく連絡が取れないと、教員、実習指導担当者ともに不安になると思うので、私は、必ず実習が始まる前に時間調整し、情報共有を図る機会を設けていただけるように訪問看護ステーションにお願いをしています。 実習中は直接会えないことも多いので、電話やFAX、メールを活用しています。話し合う必要がある場合、Web会議を設定することもあります。なるべく連携不足を解消できるような手段を講じていくことが大切ではないかと思っています。 また、これまでの経験から、実習前のほうが実習指導担当者とも連絡が取りやすいので、実習が始まるまでの間に、効率よく、かつ十分な情報共有を行う取り組みを行っています。 具体的には、訪問看護ステーションの基本情報の確認、実習の目的・目標・実施方法の共有を行っています。具体的な内容を順に説明していきます。 訪問看護ステーションの基本情報の確認 実習先の情報を学生にも把握してもらうため、訪問看護ステーションの基本情報をシートに記載しまとめています。図1に実際に使用しているシートをお示しします。 図1 実習時に活用している訪問看護ステーションの基本情報シート 青字は記載例。訪問看護ステーションの名称、所在地・行き方、実習指導に関わるメンバーの名前と連絡先、特記事項、服装、持ち物なども記載しています。このシートを見れば基本的なことは何でもわかるようにしています。 実習の目的・目標・実施方法の共有 学校側で定めた実習の目的や目標を訪問看護ステーションの実習指導担当者と共有します。そして、実習目標に到達できる実習方法をステーションの特徴に合わせて検討します。 実習の実施方法を具体的に検討することで、実習指導に必要な情報が見えてきますので、よりスムーズに実習を進めることができます。また、学校のほうで実習指導に活用してもらえる内容をまとめたファイルを作成し、訪問看護ステーションにお渡ししています。このファイルについては次の項目で詳しくご紹介します。 訪問看護ステーションに『学校発の実習ファイル』を設置 実習指導担当者からある時、指導する学生さんについてもっと知りたいという要望を受けたことがありました。実習に出るまでにどういったことを学んできているのか、学習への取り組み姿勢など、実習指導に活かせる情報を共有してほしいと言われました。 そこで、私の学校では『学校発の実習ファイル』を作成し、実習期間中ステーション内に置かせてもらっています(図2)。ファイルには、教員の連絡網や学生の実習配置表(どの学生がどこの実習先に行っているかをまとめた表)、実習要綱、学生の評価方法をまとめた資料に加えて、学生が実習までに取り組んできた課題やレポートなどを綴じています。他に、学生のアレルギー情報を記載した資料も入れています。 こういった資料を通して、学生のことを少しでも知ってもらいたいと考えていますし、実習への考え方を伝えることができればと思っています。 図2 実習ファイル このファイルには学生のアレルギー情報も記載しています。動物を飼っている利用者さんもいらっしゃるので、動物アレルギーの有無は事前にお伝えしています。なお、ファイルは実習終了後に回収します。 学校側はこんなことを知りたいと思っています 最後に、学校側から訪問看護ステーションの方へのお願いとして2つあります。 連絡の取りやすい時間帯を教えてください 実習指導担当者は、訪問看護業務のためステーション内にいらっしゃらない時間や申し送り、定例会議の時間帯があるかと思います。そういった時間を避けて、比較的連絡がつながりやすい日時を教えていただければ、タイミングのよいときにこちらからご連絡します。カンファレンスの日程調整や実習指導のお打ち合わせもスムーズに進むと思いますので、ぜひ学校側に遠慮なく『この時間なら空いているよ!』と声をかけていただけるとうれしいです。 訪問看護ステーションのスタッフの方からも実習に対するご意見を伺いたいです 我々教員は、管理者や実習指導担当者とお話しする機会は多いのですが、他の訪問看護師やリハビリテーションのスタッフとは、実習開始後の巡回指導のとき以外、交流する機会がほとんどありません。限られた時間しかお会いできませんが、実習指導に関して日ごろ感じていらっしゃることなどを気軽に話していただけると幸いです。教員の多くは、スタッフのみなさんとも交流を深め、指導に関する助言や考えに触れたいと思っているのではないでしょうか。 実習以外の交流も進めています! 私の大学ではちょうど実習が始まる前の時期に在宅看護の実際をテーマにした講義を実習先の訪問看護師の方にお願いしています。 学生にとっては現場の訪問看護師から直接話を聞ける機会であり、訪問看護師さんにとっては実習前に学生の雰囲気を感じてもらうよい機会になっています。また、実習が始まれば、講義で一度会っているので、共通の話題もあり、コミュニケーションを図りやすいそうです。 講義を引き受けてくださった「訪問看護ステーション彩」の管理者・上野朋子さんは、授業の資料準備は大変だけれど、準備の過程で日々実践している訪問看護の振り返りができ、学生に伝えたいことを整理するチャンスになっていると話してくれました。 「ニーズ訪問看護・リハビリステーション西大宮」の所長・金子孝奈さんは、大学での講義について、看護の実践や経験などを後輩に聞いてもらえることをうれしく思うと話してくれました。 * 今回、この記事の執筆をきっかけに日ごろお世話になっている訪問看護ステーションの管理者や実習指導担当者に、訪問看護実習の受け入れについてじっくりとお話を伺うことができました。 みなさん、未来を担う訪問看護師の育成に少しでも貢献したいという気持ちで受け入れてくださっていることがわかり、学生を送り出す側として感謝の気持ちでいっぱいになりました。 この記事を通して訪問看護実習の受け入れについて、読者の皆様に少しでも関心を持っていただければ幸いです。 ■取材協力者(登場順)訪問看護ステーション彩~いろどり~管理者 上野 朋子さんhttps://tact-company.com/ ニーズ訪問看護・リハビリステーション 西大宮所長 金子 孝奈さんhttps://www.needs-houmonkango.com/ 執筆 王 麗華大東文化大学 スポーツ・健康科学部 看護学科 教授 ●プロフィール1999年、国際医療福祉大学保健学部看護学科を卒業。看護師と保健師資格取得後、地域の病院と訪問看護ステーションでの勤務を経験。その後、国際医療福祉大学看護学科准教授などを経て、2018年より現職。 記事編集:株式会社照林社

コラム
2022年9月27日
2022年9月27日

管理者に必要な「自己効力感」とは

この連載は、訪問看護ステーションで活躍するみなさまに役立つコミュニケーションのテーマを中心にお届けします。第4回は、「自分ならうまくできる」と思える、自己効力感のお話です。 うまくできる!と思える力 チーム運営をするときに、誰もが「明るく前向きなチームにしたい」と思います。しかし、実際にやってみると「うちのメンバーはネガティブな人が多くて、前向きなコミュニケーションがとりにくい」と思うことがあるかもしれません。そんなときはコミュニケーションの方法だけではなく、メンバーの「自己効力感」にも目を向けてみましょう。 自己効力感とは「自分がどんな状況に置かれても適切な行動がうまくできる予測、および確信」のことをいいます。社会的学習理論アプローチとして、カナダの心理学者アルバート・バンデューラが唱えたものです。 自己効力感が高い人 どんな逆境においても最後の最後まであきらめず勝利を狙うスポーツの世界では、ときどきそんな姿を見ることができます。 ピンチに強い人、チャンスに強い人、どちらも自己効力感の高い人です。自分は絶対にこのピンチを乗り越えられる、このチャンスをモノにできる! そんな人が率いるチームは、最後まであきらめなくなります。だから奇跡の大逆転が起こったりするのです。 自己効力感が低い人 一方、自己効力感が低い人はどうなるか。ものごとにうまく対処できる自信がないため失敗をイメージしてしまい、そのとおりになってしまう。 チャンスが来ても「どうせうまくいくはずがない」と勝手に失敗をイメージする。ピンチがくると「ほら、やっぱりここでやられてしまう」と、これまた失敗や負けをイメージしてしまう。 自己効力感は持って生まれたもの? みなさんはいかがでしょうか。どちらの面もあるのではないでしょうか。 先天的に自己効力感を高く持っている人もいます。根拠のない自信のある人もいます。こういう人がいちばん強い。何があっても「たぶん大丈夫」って人。本人もよくわからないけど「うまくいく感じがする」って人。 これは、ある種のメタ認知能力かもしれません。たとえば運動能力の高い人は、初めてチャレンジする種目でもそこそこ良い結果を出したりします。そんな人が、仕事でもいきなり結果を出したりします。それこそ天性ですね。 しかし、そうではない人もいます。でも安心してください。自己効力感は育てられるのです。 自己効力感を育てるには 自己効力感を高められない理由は大きく二つです。 一つは「自分の過去」です。いつまでも過去の失敗を忘れられない。また失敗するのではないかと恐れる。人間の体は不思議なもので、頭でイメージすると体もそのとおりに動くようにできているのだそうです。 子どものころ自転車に乗りはじめたときに、「コケる」と思ったら本当にコケたことはありませんか。スキーであっちのほうに行ってはいけないと思ったら、なぜかそっちへ行ってしまった経験はありませんか。それです。 もう一つは「他人との比較」。どうしても他人と比べてしまう自分がいます。自分がうまくいっているときでも「きっと他人はもっとうまくいくだろう」とか「私なんてあの人に比べたら」と勝手に考えて自滅してしまうなんてことがありませんか。 そんなときに思い出してほしい、心理学者エリック・バーンが言った有名な言葉があります。 「過去と他人は変えられない。変えられるのは未来と自分だけ」 きっとどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。 ではどうやって未来と自分を変えていけばよいのか。先ほど「人はイメージをすると体もそれに反応して動く」と言いました。それをプラスに活用するのです。成功をイメージすれば、体も成功するように動いていきます。 「それができれば苦労はない!」と思うかもしれません。次回は、その方法をもう少し深掘りしていきます。 松井貴彦・まついたかひこ ライフキャリアコンサルタントNPO法人いきいきライフ協会理事、一般社団法人看護職キャリア開発協会所属。1962年生まれ。同志社大学文学部心理学専攻卒(現心理学部)卒。出版社にて求人広告制作(コピーライター、ディレクター)、就職情報誌編集者、編集マネジャー。その後、医療・看護系出版社、関連会社の代表取締役など歴任。国家資格キャリアコンサルタント、GCDF-Japanキャリアカウンセラー(米国CCE, Inc.認定のキャリアカウンセラー資格)。自分史アドバイザー。YouTubeは「松井貴彦まっチャンネル」で検索。 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇Albert Bandura.本明寛ほか翻訳.『激動社会の中の自己効力』東京,金子書房,1997,368p.〇安部朋子.『ギスギスした人間関係をまーるくする心理学:エリック・バーンのTA』大阪,西日本出版社,2008,228p.

インタビュー
2022年9月20日
2022年9月20日

親と子のおなかと心を満たす訪問の食事支援「おうち食堂」

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第4回は、いち早く子どもの食の貧困に注目し、独自の施策を実施する東京都江戸川区の児童女性課課長、野口さんと語り合った。(内容は2019年3月当時のものです。) ゲスト:野口 千佳子江戸川区子ども家庭部児童女性課課長。 住民が若く子どもも多い地域の課題はやはり「貧困」 川越●子ども食堂が全国的な広がりを見せていますが、江戸川区では、個々の世帯に食事支援ボランティアが入って、買い物・調理・片づけまで行う「おうち食堂」に力を入れていると伺いました。 野口●江戸川区は、東京23区のなかでは年少人口率が高く、一方で離婚率も高く、複数の子どもを育てている一人親世帯が多いのが現状です。昔からそういう状況でしたので、地域の力を活用した事業を以前から実施しています。たとえば、子育て経験者の方のお宅でゼロ歳児を預かる「保育ママ制度」や、放課後の小学校を利用して、定員を設けず誰もが利用できる居場所事業「すくすくスクール」を実施しています。 川越●すくすくスクールで対応しているのはボランティアですか? 野口●指導員のほかに年間延べ2万人以上のボランティアがスポーツや囲碁・将棋などを教えています。なかには80歳代以上の方で「子どもたちに教えることが生きがい」という方もいます。子どもたちは正直なので、教える側の自己満足でやっていると「つまんない」とすぐ来なくなる(笑)。どうやったら面白さが伝わるか、反応をもらうことが続けるパワーになっているようです。 三食とれず夏休みにやせてしまう子どもたち 川越●子ども食堂もそうですが、子どもをキーワードにすると、自然に人が集まります。それが「おうち食堂」にもつながっているんですね。 野口●子どもの貧困ということが言われるようになって、江戸川区でも実態調査を行いました。すると、小学生でひらがなが読めない、自分の名前が書けない、きょうだいが多く上の兄姉が小さい子の面倒をみている、経済的問題で高校進学を諦めるなど、学習支援が必要な子や経済的困窮が浮き彫りになりました。なかには一日三食とれずに、給食だけが頼りで夏休みにやせてしまう子どもがいることもわかりました。 川越●深刻ですね。生活保護世帯との重なりはありますか。 野口●生活保護世帯は行政としっかりつながっているので逆に大丈夫なんです。それよりも、行政が把握していない世帯、どうしても生活保護を受けたくなくて一人親で頑張っているとか、福祉サービスにつながっていない家庭のほうがかなり深刻ですね。 週1回の支援で驚くほどの変化が 野口●江戸川区では子ども食堂は以前からあったのですが、本当に助けが必要な子が来ているか確認のしようがないんですね。実際、ダブルワークやトリプルワークのお母さんが子どもに一日500円渡して「これで何か買って食べなさい」と言っても、子どもはゲームのカードを買ってしまったり、困っているという認識がないという現実がありました。そこで、実際に家庭に入り食事をつくる「おうち食堂」と、お弁当を届ける「CODOMOごはん便」の二つの食支援事業を立ち上げました。 川越●困っていても自ら情報も取れない世帯に、食を直接届けようという発想ですね。利用者負担や利用回数に制限はありますか。 野口●「ごはん便」は非課税世帯対象で一食100円、「おうち食堂」は支援が必要な家庭対象で、無料です。保健師や虐待を扱うケースワーカーなど、家庭の実態を知っている人から紹介してもらい、職員が家庭訪問をして課題を把握しながら支援につなげています。利用は年48回としています。 川越●だいたい週1回のペースですね。お弁当を届けるだけでも家の様子は観察できますし、「おうち食堂」となるとさらに長い時間、ボランティアと一緒にいるわけですね。 野口●有償ボランティアは短くても2時間は家にいます。精神疾患のあるお母さんなど、最初は人とのかかわりの苦手な人もいましたが、繰り返し週に1回入っていくことで本当に変わっていくんです。そして食の支援が必要な家庭は学習支援や経済的支援、健康面などほかにも支援が必要であることがみえてくるので、課題発見と、医療機関や福祉など必要なサービスにつなぐのが目的です。 家庭との距離を測れるボランティアの力 川越●ただ栄養を満たすとか、お母さんの心の支援だけでない効果もありそうで、これはボランティアさんの力が大きいですね。 野口●そうなんです。われわれはつい「こうしたらだめよ」と言ってしまいがちですが、支援を必要としている世帯は、親も子どもも怒られてばかりの人が多く、言ったら叱られるからと相談せずに孤立していく。でも、おうち食堂で「おいしい」という会話から少しずつ、硬かったところがやわらかくなっていくし、ボランティアの皆さんは世帯ごとの踏み込まれたくない部分などを肌で感じながら、家庭との距離をつくってくださっています。 川越●そういうことは行政ではなかなか難しいですね。このような食をきっかけにしたアプローチは子どもだけでなく、たとえば引きこもりの人、ゴミ屋敷の住民や独居の認知症の方にも使えそうですね。 野口●医療と連携した例もあって、中学生で肥満と糖尿で入院した子の退院後の食生活が心配だということで、ごはん便の支援を続けたら1ヵ月後に5キロ痩せたんです。届いたお弁当を、ふだん家で使っている器にあけてみて「あ、普通の人はこれぐらいしか食べてないんだ」と、いかに自分たちが食べすぎていたかがわかったとご家族が言っていました。食生活改善につながり体重が落ちてきていい方向に向かっていると、医師からもほめられたそうです。 川越●お話を伺っていると、食を中心とした支援、年齢を問わない居場所・交流の場づくりなど、江戸川区は今の地域課題解決の優れたモデルですね。いろんな部署が横断的にかかわらないと解決できない複合的な問題が増えているので、ほかの市区町村でもそうした取り組みが広がるといいですね。 ー第5回に続く 〇東京都江戸川区子育て支援事業 > おうち食堂https://www.city.edogawa.tokyo.jp/e077/kosodate/kosodate/kosodateshienjigyo/syokunosien.html あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。記事編集:株式会社メディカ出版 『医療と介護Next』2019年3月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

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