教育に関する記事

コラム
2021年1月22日
2021年1月22日

思いを吸い上げるスキル・想像するスキル

利用者さんご本人やご家族と接する時間が長く、より生活視点での看護的観察やアセスメントが必要なのが訪問看護です。本コラムでは、特に訪問看護師に必要なスキル・知識について、これまでの訪問診療医としての経験や、訪問看護師さんとのコミュニケーションから得た気づきを、私なりにまとめました。   訪問看護師に必要な8つのスキル・知識 ①本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル②本人・家族の平時の生活を想像するスキル③他職種とコミュニケーションを取るスキル④マネジメントスキル⑤医師のいない場で医療的判断を行うスキル⑥在宅療養利用者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力)⑦医療制度・介護制度などに関しての知識⑧礼節・礼儀などを実践できる素養 さまざまな意見があると思いますが、これまで私自身が大学病院、市中病院、外来/在宅診療所などで勤務した経験から、訪問看護については最もその看護スキルを発揮できる場と私は捉えています。   ①本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル 利用者さん本人の医療、介護に対しての思いや考え方を吸い上げることは、最も重要なことと考えられます。なぜなら、医療介護は我々医療従事者の満足のために行われるものではなく、利用者さんご本人のために行われるものだからです。そのため、その思いや考え方の吸い上げなくして、医療介護方針の立案はないと考えています。ただし、意思の表出が難しい方や、本人や家族が我々(特に医師)への気遣いで考え方を述べることを躊躇され、その意向の吸い上げが難しくなることがしばしばあります。そういった時の意向の確認で、最も適している職種が訪問看護師であると考えています。 必要なことは何かを考えるスキル 私も連携している訪問看護師から、ご本人やご家族の思いや考え方を伺い、方針決定の参考にさせていただき、さらに方針変更をしたこともあります。その時に求められるのが、その方が希望する生活を継続するために、必要なことは何か考えるスキルです。さらに、その希望も時期によって変わるため、利用者さんにとって必要なことは何かを「考え続ける」こととなります。なお、意向の吸い上げは以下の項目について利用者さん側が理解した上で、初めてできると考えます。 利用者さんに必要な理解・医療に対しての理解・今後、起こりうることとその対処方法についての理解・医療介護サービス提供方法や頻度についての理解・必要な費用についての理解 前者2つは医療的な側面のため、説明が漏れることが少ないようです。一方、後者2つは制度面に紐づけられるため、特に訪問看護をはじめて間もない看護師さんは、病院や外来診療所ではこういった話をすることがほとんどなく、知識面から説明が不足することが多くなる傾向にあります。しかし、非常に重要な事項であるため、ぜひ知識を身に着けていただきたいと感じています。特に経済的側面と医療介護に対しての意向については、それが良いことか悪いことかの議論はあると思いますが、大いに相関すると感じています。それでも意思疎通ができる方の中において、意向や考えの表出が少ない利用者さんもおられるでしょう。ただ、考えのない方は絶対におらず、その場合、ちょっとした表情の変化や言動の変化などをもとにその考えを推測することとなり、場合によりそれをもとに、こちら側からの問いかけなどで、意向をより明確なものにしましょう。 思いを吸い上げるスキル さらにご本人が自身の考え方に気づいていないこともあるため、その際もこういったアプローチを繰り返すことで、ご本人に自身の考えを気づいていただくことが重要になります。利用者さんの思いを知ることにより、良いケアができた事例をひとつ紹介します。 ある高齢の乳癌ターミナルの女性の話です。その方は常に疼痛を訴え、自宅で布団をかぶり、うずくまっている状態でした。もちろん疼痛コントロールを目的として、麻薬などを内服していましたが、内服量を増やしても、その疼痛の訴えは一向に減らず、その方の活動性は向上しませんでした。ある時、訪問看護師が「何か不安や困っていることがあるのではないか?」という仮説のもと、その方と多くの時間を使い、色々と話す時間を設けました。話は1回ではなく、数回におよびましたが、結果として、その方は乳癌という病気についてのこと、そして今後、どういった病態になるのか、また疼痛が強くなるのではないか・・という不安と常に戦っていることがわかりました。それらに対して、その訪問看護師は病気のこと、内服によって多くの場合、疼痛は抑えられることなどを非常に丁寧に説明しました。その説明により、その方は不安が取れ、疼痛の訴えは急激に減少し、一時的にではありますが、内服による疼痛コントロールは必要ない状態になり、散歩もするようになりました。その数か月後にその方は亡くなりましたが、その方が与えてくれた強烈な示唆は、やはり本人の思いの吸い上げは何よりも重要だということです。私たちは常時それを念頭におき、治療に臨まないといけないと思います。   ②利用者さんの平時の生活を想像するスキル このスキルは、利用者さんの病態などの変化を感じるために必要なスキルです。利用者さんやご家族は我々が訪問診療や訪問看護でご自宅にうかがう時、部屋の整理整頓や掃除をして頂いていることが多いです。それ自体は決して問題ではないのですが、それにより日常の生活が見えなくなることがあります。 探偵力 例えば、日常から部屋を掃除されている方が、さまざまな要因から掃除の頻度が下がり、訪問診療や訪問看護の前だけ実施する場合などがあります。訪問者である我々から見ると、部屋は綺麗になっているため、掃除の頻度が低下していることに気付きにくくなり、その要因の発見が遅くなります。同様に、トイレに行っているかどうかなどについても、ご本人は事実と異なることを言われることがあります。これらに対して、我々は疑いの目というより、変化を感じる視線が必要となります。平常時を推察するために、特に独居の方などは、訪問した際に部屋の隅などを見て、その清潔感などの変化をみます。あるいは、トイレであれば、トイレットペーパーの端を折り曲げたり、トイレのスリッパなどを揃えて帰り、次回訪問時に、それらを確認し、トイレを実際に使っているかどうかを推察したりすることができます。また家屋や本人の臭いの変化などももちろん重要となります。要は利用者さんの日常の変化に気付く「探偵力」が必要となるのです。やはり我々がベンチマークとするべきは、利用者さんの日常です。これらのちょっとした生活環境の変化などに気付くことで、本人の病態や考え方の変化、家族を含めた介護力の変化を推測し、サービス提供方法の検討に生かすことが重要です。   医療法人プラタナス 松原アーバンクリニック 訪問診療医 / 社会医学系専門医・医療政策学修士・中小企業診断士久富護東京慈恵会医科大学医学部卒業、同附属病院勤務後、埼玉県市中病院にて従事。その後、2014年医療法人社団プラタナス松原アーバンクリニック入職(訪問診療)、2020年より医療法人寛正会水海道さくら病院 地域包括ケア部長兼務。現在に至る。

コラム
2021年1月22日
2021年1月22日

管理者は組織に勇気をもって関わろう(対話の場)

職場の人間関係がスタッフの離職率の高さに影響していると感じることはありませんか? 訪問看護ステーションのスタッフは、その一人ひとりの専門性が高く、かつさまざまなバックグラウンドを持ち、働き方も異なります。今回は、管理者としてスタッフ同士の関係性をどのようにみるべきかを解説し、組織の関係の質を高める「対話の場」のつくり方をお伝えしていきます。 目に見えない上下関係 はじめに注目していただきたいのが、「職場内で心理的安全性が保たれているかどうか」です。 あなたのステーション内で、スタッフ同士の関係性にさまざまな「目に見えない上下関係」が発生してはいないでしょうか。 「目に見えない上下関係」とは、各々が仕事に誇りを持つがゆえに、他の人との価値観や看護観の違いを理解できない、あるいは、理解しようとしないということが原因でできあがってしまう人間関係のことです。 例えば、働き方が異なる同僚を下に見る、スタッフ内で派閥ができてしまう、事務スタッフへの上から目線な対応、ベテランスタッフが面倒臭がって新人を育てない。これらにはすべて「目に見えない上下関係」が存在します。 第2回のコラムで触れたように、管理者として個々のスタッフと関係を深めたとしても、上述のような「目に見えない上下関係」が職場内にあると、それぞれのスタッフの言い分が異なるため、個々にいくら対応しようとしても溝が埋まらないという経験もあるのではないでしょうか。 この軋轢が大きくなればなるほど、解決は難しくなっていきます。そこで軋轢が大きくならないうちにやっていただきたいのが、普段の業務管理、進捗管理とは異なる目的で、スタッフ同士を集めてミーティングを開くことです。 スタッフ一人ひとりに向き合う場を「1on1」と呼ぶのに対し、スタッフ同士が向き合うこのミーティングをここでは「対話の場」と呼びます。 「対話の場」開催のポイント この対話の場は、業務の話をする場ではありません。さらに飲み会とも別で行うことをおすすめします。飲み会はつい話が流れてしまいがちになり、また人によって集中力に違いが出やすくなるためです。 上述のような上下関係が生まれるのは、大概「相手が本当は何者かわからない怖さ」から来ます。管理者として、その「怖さ」がなるべく小さいうちにお互いを「相手が本当はどんな人か」理解し合える場を作ることが大切です。 最初は話しやすい話から始め、徐々にもっとその人がわかるような深いテーマにしていくといいでしょう。下記に開催時のポイントをいくつか具体的に挙げます。 ①話しやすいテーマからスタートする 対話の場は一度で終わらせる必要はなく、何度も開催するものだと思ってください。なので、最初はとにかく話しやすいテーマからスタートさせるといいでしょう。 その際に注意していただきたいのが、相手の許可なしに興味本位で話を掘り下げないようにすることです。各自「話せる範囲」を前提とし、互いに尊重して話を聴き合うことが大事です。 【テーマ例】過去のキャリアや背景、なぜこの仕事についたか、大変だったこと、充実していたこと、乗り越えたことなど ②対話の場のルールを明確にする この場で話したことは絶対に他の場では話さない、相手の話を遮らずちゃんと最後まで聴く、などお互いのことを少しでも安心安全に話せる場を前提とするためにルールを明確にしておくとよいでしょう。 【ルール例】守秘義務、相互サポート、評価判断はしない、尊重し合う、など ③時間を区切る(ダラダラ話さない) 対話の場の開催をはじめた当初は、業務以外の事を話すことに価値を見出してくれるスタッフはそう多くないでしょう。 やっていくうちに徐々に「自分の話もできる」「相手を知ることがそう悪くない」という気持ちになるので、時間としてはあくまで業務を邪魔しない程度の時間(30分〜1時間くらい)でお互いの事を話し合えるよう、配慮する必要があります。これは何度目の開催でも同様です。 そのためには1人が話す時間もせいぜい10分以内。もし、事前準備が必要ならそのように伝えておきましょう。人数が多いなら、数回に分けて同じテーマを話すのもいいかもしれません。 管理者のあり方を見せることが関係性を創る 管理者としては、各々のスタッフのプロ意識や仕事ぶりに信頼を置いている人が多いことでしょう。 管理者自身とスタッフ個人の関係性ができていれば、仕事自体は回るかもしれません。ですが、組織は人の集まりである以上、やはり職場全体のやりづらさ、働きづらさについても、少し注意しながら観察する必要があります。 そして関係性について気づいたことがあったらそれがなるべく小さな火種の時に何かしら関わることが必要です。組織のあり方を信じつつも、そこに勇気を持って関わっていくこと。 管理者がオープンで正直であり、フラットな気持ちで組織の関係性に関与していることが、その組織のあり方に反映されていくのです。 対話の場を設けたとしたら、ぜひ管理者自身が自分の話もしていきましょう。管理者のリアルな話が「その話をしてもいいんだ」という安心感を場にもたらすきっかけになるかもしれません。 組織のメンバーが互いに理解しあい、関係性についてもお互い気を使うことができれば、組織としてもっとやりたい看護を地域に提供することも可能です。ひとりの力ではできないことを、組織で取り組むことが可能だからです。 人をマネジメントするということは、その業務の管理だけではなく、人を育て、組織を育てることに管理者として心を砕いていくことです。そのことを通じて、個人としての成長のみならず、組織としての成長をも促すことができるでしょう。 OfficeItself 代表 コーチ・ファシリテーター 山縣いつ子 2008年から企業や医療従事者向けにコーチングや研修を提供。クライアントは中間管理層を始め、女性管理者も多く、ベンチャーの執行役員、医療従事者、NPO組織の代表など幅広く担当している。 【コラムご意見番】 ~訪問看護ステーション管理者 ぴあの目~ 訪問看護ステーションは開設当初は十分に話し合いができる人数でスタートすることが多いですが、利用者が増え、スタッフの人数も増えるにつれて出勤しても他のスタッフと顔を合わせないことも増えていきます。 その様な状況になると、コラムにもあるように先輩看護師と若い看護師の間に目に見えない上下関係が生じることや、相談したいことを話せず悩んでしまうスタッフが出てくると感じます。 対話の場の一つとして、現場で最も馴染みがあるのは「カンファレンス」かと思います。 これは、看護師の人数が少ないうちは活発な意見交換を行う場として適していますが、組織が大きくなってくると、意見を発することができないスタッフも出て来てしまいます。 例えば私が働いていたステーションでは、どうしてもベテランのスタッフの意見に対して、若手のスタッフが意見を出しにくいという問題がありました。 そこであるカンファレンス時に、スタッフをランダムに組み合わせて話し合ったところ、一人一人が意見を出してくれるようになりました。 またこの時のカンファレンスの議題が「ステーション内のルールを決める」という、スタッフ一人ひとりが自分自身に関係のある身近に感じられるテーマだったのですが、そこでスタッフの業務だけではわからない新たな一面を知ることができました。 このカンファレンスを振り返ってみると、対話の場の「話しやすいテーマからスタートする」というポイントをクリアした話し合いになっていたからこそ、以前のカンファレンスより有意義なものに感じたのかもしれないと思いました。 私自身、管理業務を行なっていると、業務に追われスタッフが話しかけにくい雰囲気を醸し出してしまうことがありました。 今回のコラムを読んで、「1on1」の面談だけではなく、「対話の場」を通してスタッフの新たな一面を知り、私の一面を知ってもらうことで、小さな軋轢が生まれそうになっても、思いやりを持ってお互いの関係性を構築していけるようになるといいなと思いました。

インタビュー
2021年1月22日
2021年1月22日

牛丼チェーンを見習って、訪問看護をメジャーに!

記録作成や事務作業で残業時間が長くなりがちな訪問看護業界の中で、リカバリーインターナショナル株式会社は、ICT化により平均残業時間は10時間未満を達成しています。 チャレンジを続ける大河原さんに、業界を変える取り組みについて伺いました。 働きやすさへのチャレンジ ―お話をうかがって、大河原さんは「より良くしたい」という気持ちが強い方だと感じました。具体的に今、チャレンジしている取り組みなどはありますか? 大河原: 訪問看護業界をもっと働きやすい業界にするために、リカバリーとして取り組んでいることが四つあります。 残業を減らす取り組み 大河原: 私は無駄な時間が非常に多いのが、訪問看護の課題だと感じていました。そこで、ICTを活用した業務効率化に取り組んでいます。スマホでのスケジュール管理、業務管理のアプリ利用などした結果、現在は平均残業時間が10時間未満となりました。 1分単位の残業代支給 大河原: これはIPOを視野に入れた取り組みでもありますが、私自身が病院で思っていた「頑張った分、評価して欲しい」「しっかり対価として報酬もらいたい」という気持ちを少しでも体現化したいと思って作った制度です。 時間有給の制度 大河原: この制度は特に好評で、お子さんがいらっしゃる方や勉強したい方、定期的に通院が必要な方などが1時間単位で利用しています。また訪問看護だけでなくもっと広く外部のことを知りたい、という方がデイサービスや病院で週に1回兼業するということも可能にしています。 電動自転車通勤の制度   大河原: 訪問の際に使ってもらっている電動自転車を、通勤で使うのも許可しています。そのため、通勤も含めてすべて自転車保険に入っています。車はもちろん保険に入っていますが、自転車保険まで入っているステーションは少ないのではないかと思います。 ―平均残業時間が10時間未満というのは驚きですが、ICT化にあたりスタッフの皆さんの反応はいかがでしたか? 大河原: 初めは「なぜ紙で書かないのか」「緊急のものは全部ファイリングした方が良い」「こんな電子カルテの情報では分からない」という反対の声が非常に多くありました。 しかし、私自身がICTを利用して「緊急で訪問した際にこうしたらうまく行った」「ICTを利用しておかげでこういうことができて現場で助かった」ということを常に声を大にして言い続けたことで、徐々にスタッフの理解を得ることに繋がりました。 ICT化を始めてから7年が経ちましたが、今は皆ICTがないと仕事できないという状態になっています。またICT化は利用者さんにも大きなメリットがあると感じます。 当社は24時間365日対応のステーションですが、利用者さんから夜間緊急で電話が来た際に「看護師が電話に出て話して安心して終わり」ではなく、ICT化された電子カルテがあるからこそ「きちんと電子カルテを見て素早く駆けつけること」が可能になっています。 当社は夜間の緊急時タクシー利用もOKとしているので、看護師さんがタクシーの中でカルテを見ながら訪問先へ向かうことができます。 こんなやり方もあるというということを、知ってもらえると嬉しいです。 チャレンジしてみたいこと 大河原: 訪問看護業界に現在約4万人しか看護師が従事していない中、2025年に向けて10万人以上必要となると言われているので、業界全体で協力しなくてはいけないと思っています。 一番分かりやすい例として、僕は牛丼の話を教えてもらいました。牛丼はもともとメジャーな食べ物ではありませんでしたが、松屋さんや吉野屋さんなど色んな牛丼チェーンが出てきたおかげで皆牛丼が好きになり、結果として牛丼業界全体が儲かったそうです。 訪問看護は、まだ看護師も一般の方々もあまり知らない業界だと思います。「どうしたらしっかり運営できるか」「どうしたらうまく行くか」を、皆に知ってもらい適正な経営ができるステーションが増えればもっと良い業界になっていくと思います。 正直まだスタッフが約100人の会社で大きな成功と言えないと思っていますが、私なりの成功モデルを提示して、皆さんにも認めてもらえるような会社を作っていきたいと考えています。それが当社のIPOを目指している1つの理由でもあります。 ―直近の目標がIPOということですが、もっと先の目標も伺えますか? 大河原: 当社がリカバリーインターナショナルという会社名をつけているのも、私自身が海外で、在宅の大切さや海外の人たちの気持ちの力を知ったためです。なので、いずれは「外国人の看護師さんを採用する」「海外で訪問看護の提供する」これが私の最大の夢、目標です。 コロナウイルスは本当に全世界に大きな影響を及ぼしていますが、今だからこそ私たちがいままでやってきたことを全世界に発信していきたいと思っています。 新型コロナウイルス対応 大河原: 当社では「こういった時期だからこそ、訪問看護に行こう」と言っています。それは利用者さんが家で一人、病を抱えたまま悩んでいる状況が非常に心苦しいからです。 おそらく「利用者さんが発熱している場合は訪問を見送る」というステーションもあると思いますが、実際行けば「肺炎だった」「脱水だった」、あるいは「熱中症だった」ということがあります。 こういう時期だからこそ訪問看護の大切さを伝えていくことで、スタッフ自身に「自分が看護に行くことに意味があるんだ」と思ってもらうことが必要ですし、利用者さん自身も「相談していいんだ」と思う、そういう環境を作ることが大切だと思います。 経営的な面でお話すると、先日の訪問看護財団の発表でもあったように多くのステーションさんで収益が下がっている中、当社は実は20%ぐらい利用者さんが増えている状況です。 コロナ禍では、ケアマネジャーさんは対面で営業に来られるのを嫌がります。その気持ちはよく理解できるので、営業に行かないという選択肢ではなく、電話でケアマネジャーさんの不安に寄り添いコミュニケーションをすることを大切にしました。 具体的にはすでに連携しているケアマネジャーさんには、ご利用者の状態を丁寧に説明したり、まだ連携していないケアマネジャーさんには、プランを作る上で困っていることはないかなど相談にのったりしています。 この状況で「どう訪問看護ステーションを運営していけばよいかわからない」という声を非常に多く聞きます。当社では現在訪問看護事業としての感染予防対策を誰にでもわかりやすい形でマニュアル化しています。 今後はこの社内で作っているマニュアルも外部に公開して、訪問看護業界全体に少しでも貢献できればと考えています。 リカバリーインターナショナル株式会社 代表取締役社長 / 看護師 大河原峻 大学在学中に海外にホームステイしたことをきっかけに、海外で働くことに興味を持つ。卒業後、手術室勤務を経てオーストラリアで働くが現実と理想のギャップに、看護師として働く自信を失う。その後、旅行先のフィリピンの在宅医療に強い衝撃を受け、帰国後にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。2020年12月現在、設立7年で11事業所を運営している。 インタビューをした人 シニアライフデザイン 堀内裕子 桜美林大学大学院老年学研究科博士前期課程修了。「ジェロントロジスト」のコンサルタント・マーケッターとして、シニア案件に数多く参画。日本応用老年学会常任理事、日本市民安全学会常任理事を務め、リサーチ・コンサルティングとして、大手不動産企業新規商業施設戦略/大手GMSのシニア向け売り場企画/大手百貨店の高齢者向けサービス・婦人服企画等を多数行う。活動にはNHK 総合 「首都圏情報ネタドリ!」出演、「新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ!」(ダイヤモンド社)編著他、企業・自治体での講演多数。     新型コロナ感染症対策についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

インタビュー
2021年1月22日
2021年1月22日

「初めてだから」の教育

リカバリーインターナショナル株式会社では、入社時に訪問看護未経験者の方が9割以上で、平均年齢33.4歳です。 若くて活気のある会社で、一番大切にしているのは「安心して働いでもらうこと」と語る大河原さんに、ステーション設立への想いと教育制度について伺いました。 初めての看護の教育 大河原: 訪問看護ではどうしても即戦力が求められるため、入社後のフォローアップが難しい状況はあります。ただ私としては、看護師が安心して働けることが何より大切だと考えています。 安心してもらうために、入社時のオリエンテーションでは私たちの想いを知ってもらい、同じ想いを持って仕事をしてもらえるように、必ず私から当社の軌跡の話をしています。 ―会社の軌跡とは、どんなお話をされるんですか? 大河原: 私が訪問看護ステーションを始めた経緯などをお話しています。 新卒から8年間、公立や私立の病院で働く中で、専門職として「一生懸命勉強して自己研鑽している人」と「そうではない人」の評価が変わらない画一的な日本の人事評価システムに疑問を感じるようなっていました。 一方海外では、スペシャリストとしての看護師の努力が評価されていると聞いていたので、海外で働きたいと強く思うようになったんです。 ―海外志向が強かったんですね。 大河原: はい。その頃、たまたま看護師としてオーストラリアに行くチャンスを得て現地で、働くことになりました。しかしそこで憧れていた海外での働き方が、自分自身の想像と違うことに、すごくショックを受けました。 ―どのように違ったのでしょうか? 大河原: オーストラリアでの看護師の仕事はマネージメントや研究がメインで、現場の仕事はほぼできないことがわかったんです。 ショックのあまり「もう看護師を辞めようか・・・」とまで思い詰めたのですが、このままではダメだ!とにかく元気になろう!とフィリピンに行くことにしました。 その旅行中、たまたま現地のご家庭を訪問するボランティアを募集していました。参加してみると、伺ったお宅でご家族が寝たきりの高齢者の面倒を見ている場面に遭遇しました。 私が「施設には行かないの?」「他にお願いできる人はいないの?」と聞くと、ご家族は「私たちは家族だから、最後まで協力して家で看るんだ」と教えてくれました。この何気ない一言で、自分の中で非常に大きな変化がありました。 ―フィリピンでの体験が、転機になったんですね。 大河原: はい。私自身を振り返ってみて、元々は患者さんやご利用者さんのために仕事をしていきたいという思いがあったのに、いつの間にか「自分が、自分が」という気持ちが強くなっていたことに気づいたんです。 そこで初心に帰って、ご本人と家族の思いを大切にする訪問看護を日本でやろうと思って、リカバリーインターナショナルを設立しました。 経験は問わず「もう一人の温かい家族」という経営理念を共有できる方を採用していますし、そういった思いは入社時にも改めてお話しています。 「初めてだから」の入社後教育 大河原: 入社後は、最長3か月の同行訪問を行っています。20代で訪問看護が初めてという看護師も多いですが、同行の中でやったことのないケアや自信のないケアは先輩を見て勉強してもらうと、大体4か月目には一人で安心して訪問できるようになります。 また定期的な勉強会も開催しています。病院でも皆さん色々な勉強会を毎月のように行っていたかと思いますが、訪問看護ではなかなか全員が集まって勉強会をすることはできません。なので、勉強会を開催する際は同時にその様子をビデオ撮影し、後日いつでも勉強できる環境を整えています。 実際、当日の参加率は20%程度ですが、後から見るスタッフも多く、半年後には75%ぐらいの視聴率になっています。 ―勉強会はどのようなテーマで開催されていますか? 大河原: 専門的なケアの内容の勉強会も多いですが、ビジネスマナー研修なども実施しています。 看護師や医療職者はこういった勉強をしたことがない場合が多いですが、訪問看護では利用者さんや多職種の方と直接関わる機会も多いため、メールの送り方や件名の書き方など基本的なマナーの勉強会も開催しています。 また将来の管理者やリーダー候補には、リーダー研修やマネージメント研修を通してP/Lや販管費の見方も勉強してもらっています。ただし、実は一般的な訪問看護の経済的な価値については、管理者候補以外の全スタッフにも考え方を共有するようにしています。 ―訪問看護の経済的な価値とは、どういったことでしょうか? 大河原: 私は、訪問看護の「自分が行った価値」がいくらかなのかを知るべきだと思っています。 入社したばかりのスタッフは「30分訪問に行ったらいくらもらえるのか」を知りません。聞いてみると「1000円」とか「2000円」といった答えが返ってきますが、実際には、30分訪問に行ったら約6000円もらえます。 これが訪問看護の経済的な価値です。 これを知っているか知らないかでは、自分の仕事に関する考え方に大きな違いが生まれます。また利用者様への契約や説明をスタッフが行う、カンファレンスにも役職者だけでなく全スタッフが行くという方針で運営することで、自分の仕事に誇りと責任感をもってもらいたいと思っています。 リカバリーインターナショナル株式会社 代表取締役社長 / 看護師 大河原峻 大学在学中に海外にホームステイしたことをきっかけに、海外で働くことに興味を持つ。卒業後、手術室勤務を経てオーストラリアで働くが現実と理想のギャップに、看護師として働く自信を失う。その後、旅行先のフィリピンの在宅医療に強い衝撃を受け、帰国後にリカバリーインターナショナル株式会社を設立。2020年12月現在、設立7年で11事業所を運営している。 インタビューをした人 シニアライフデザイン 堀内裕子 桜美林大学大学院老年学研究科博士前期課程修了。「ジェロントロジスト」のコンサルタント・マーケッターとして、シニア案件に数多く参画。日本応用老年学会常任理事、日本市民安全学会常任理事を務め、リサーチ・コンサルティングとして、大手不動産企業新規商業施設戦略/大手GMSのシニア向け売り場企画/大手百貨店の高齢者向けサービス・婦人服企画等を多数行う。活動にはNHK 総合 「首都圏情報ネタドリ!」出演、「新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ!」(ダイヤモンド社)編著他、企業・自治体での講演多数。    

インタビュー
2021年1月22日
2021年1月22日

【精神科訪問看護】向き合い、選ぶ採用

精神科訪問看護を提供する、訪問看護ステーションみのりの採用基準を進さん、小瀬古さんにお話頂きました。 どんな人材を求め、どういった意識付けをしているのか、引き続き、進さんと小瀬古さんにお伺いしていきます。 採用したいのはどんな人材? 進: みのりでは、組織の中でも自分の役割とは何かを見つけて、主体的に動いていってくれる方を採用したいと思っています。 採用基準としては、自分が正しい、利用者さんのために何かしてあげたいと押し付けるのではなく、自分としっかり向き合うことができる、向き合いたいと思っていることです。 みのりは土日祝日休み、有休消化率100%で給料もそこそこ、16~17時までの時短などもあり、子育て中の人も働きやすい仕組みなので、応募者は多いです。最近は小瀬古が書いた本(※注1)を読んで、みのりで働きたいと思ってくれている方もいますね。 そこからメールでやりとりし、電話やzoomなどで一次面接、同行訪問、最後に私との対面面接の流れです。 まず、メールの時点で「自分と向き合うこと、アウトプット、自己研鑽を求めます」とはっきり書くと、そこで半分くらいは辞退します。履歴書から、物事を選択した理由とその方の行動が一致しているかは厳しく見ていくようにしています。 結果的には、問い合わせから実際に採用になるまで、最近は20人に1人くらいの割合になっています。 小瀬古: よくある話で言うと、例えば新卒でA病院に入りました。1年くらいで辞めて、次はB病院の精神科で2年働きました。次はCという老人福祉施設に行って半年で辞めて、訪問看護として当ステーションに応募したとします。 それぞれ転職した理由を聞くと、「A病院はこういう形で学びになると思ったけど、管理が厳しくてすごく窮屈になってしまった」ともっともらしい理由は出てくるんです。 でも詳細を確認していくと、なんとなく就職先を選択している人が多く、中には人のせいや環境のせいにして転職を繰り返している人もいます。 新人に必要なスキルは ―新人の訪問看護師に必要なスキルなどはありますか? 進: 利用者さんのところに行くと1対1なので、最低限何が起こっているのかを言語化して、記録に書けないといけません。 特に若い頃はインプットばかりに偏りがちなので、経験したことを自分の言葉で整理して、アウトプットすることを大事にしています。アウトプットは本人の学びにはなるし、聞く側も自分がこういう状況だったらどうしようと、考えることになりますよね。 チームとしては、朝と夕に30分ずつミーティングの時間を設けていて、先輩やスタッフ同士で意見交換ができるようにしています。情報共有としての申し送りではなく、教育としての気づきや、視野を広げるのが目的です。 それだけでは時間が足りないこともあるので、会社で支給しているiPadで自分のもやもやとした話を社内SNSにアウトプットして、スタッフ全員が共有できるようにしています。 小瀬古: また精神科の訪問看護が初めてという方は、どうしても利用者さんに拒否されることがあります。その場合は拒否のつらさも共有しながら、利用者さんの背景などを一緒にチームで考えていきます。 「長時間の対応で気を遣っていたのかな?」「ベテランさんとの信頼関係に執着していたのかな?」と話していくと、その利用者さんの生きづらさが見えてきます。 この生きづらさに寄り添っていけるようになると、新人も受け入れてもらえますし、利用者さんも生きやすくなっていきます。 そこに精神科の技術があります。 ―最後に、知識や技術のアップデートをする方法や意識していることがあれば教えてください。 小瀬古: 看護師は疾患や看護の勉強をする人は多いですけど、コミュニケーションに関して勉強することは少ないのではないかと思います。もちろん利用者さんとのやりとりを後ほど振り返ることでの学びはありますが、それだけではなくスタッフ間のやりとりの中から勉強になることもあります。 例えば、管理職がスタッフにどう動機付けをして、どんな風に人が動いていくかも1つの学びです。日々の仕事やスタッフへの接し方でも、応用できるものがありますよね。 ささいなことも、自分だったら、相手だったら、上司だったら、部下だったらと立場を変えて想像することで、知識と経験が積み重なっていくと思います。 (※注1)『精神疾患をもつ人を、病院でない所で支援するときにまず読む本 “横綱級”困難ケースにしないための技と型』小瀬古伸幸著、医学書院、2019年09月第1版 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括管理責任者 / 看護師・WRAPファシリテーター 進あすか 精神科の急性期閉鎖病棟に勤務していた頃、退院した患者がすぐ病院に戻ってくる現状を見て地域に興味を持つ。30歳の頃に精神科特化型の訪問看護ステーションに転職。より良い働き方とケアの実現のため、2012年にみのり訪問看護ステーションの立ち上げる。2020年11月現在、大阪、東京、横浜、奈良に4事業所・8つのサテライトを運営している。 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括所長 / 精神科認定看護師・WRAPファシリテーター 小瀬古伸幸 看護補助者として精神科病院に就職、勤めながら正看護師を取得。その後、精神科救急病棟に約8年勤務。進さんに出会い、病院の中からではなく地域から精神科看護を変えていきたい思いから、訪問看護ステーションみのりに入職。 採用と定着についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

新卒訪問看護師を当たり前に

訪問看護は病院での経験がないと難しいといわれることが多い中で、ケアプロ株式会社では若手や新卒看護師が多く活躍しています。 新卒採用を投資と考え、看護師やセラピストが現場に注力できるようにバックオフィスで支えるしくみとはどんなものかを伺いました。 新卒採用は投資と考え、業界をリード 岡田: ケアプロでは、若手や新卒看護師を当初から採用しています。 「共に育つ」という会社の文化や風土を大切にしていて、若手がかなり多いので、新卒の採用もスタッフみんなで教育に携わり、共に成長していくことができます。 会社としても、新卒採用は投資と考え、力を入れています。社内での教育体制の構築し、実践していくことはもちろんのこと、聖路加国際大学と全国訪問看護事業協会の代表の方々と共同研究で、『きらきら訪問ナース研究会』を運営しています。 活動としては、新卒訪問看護師の教育体制や採用、魅力ある事業所作りについて検討しながら、訪問看護業界に発信しています。 また、『きらきら訪問ナース研究会』では育成者養成講座を開いて、全国の訪問看護ステーションでも新卒看護師を採用できるよう支援をしています。今後、訪問看護でも新卒が当たり前になるよう、業界をリードしていきたいですね。 『きらきら訪問ナース研究会』 きらきら訪問ナースは看護基礎教育を終えて、新卒で訪問看護を始める看護師のこと。新卒から訪問看護にチャレンジする看護師を支援するために、聖路加国際大学、千葉大学、ケアプロ株式会社、全国訪問看護事業協会が共同で2014年に結成。研究活動、研修・講演、キャリア開発などに取り組んでいる。 バックオフィスでサポート ー新人や若手の看護師を、どのようにサポートされていますか? 岡田: バックオフィスのサポート業務は、経営的なサポート、サービスの質の管理のサポート、人事関連のサポートなど多様です。ケアの提供はしませんが、ステーションの看護師やセラピストが利用者さんへの実践に注力できるようにしています。 例えば経営的なサポートでは、スタッフの人数や成長の程度によって、何件訪問できるかどうか、新たにどのくらい利用者様受け入れることができるかなどを予測計算して、ステーションの所長に伝えます。そうすることで、病院やケアマネから新規の利用者様の受け入れの相談が来た時に判断ができるようになります。 また、スタッフの入社に伴うオリエンテーションの対応や、事業報告、行政関連管理なども、一括して実施しています。 ステーションのバックアップをする中で、2つのステーションのノウハウが蓄積され、互いの成功例を共有することができるようになっています。 まだ、成功例と言い切れるわけではないですが、大規模化を見据えた組織化を進める中で、少しずつ利用者様への安定したサービス提供や、スタッフがやりがいを持って働き続けられる組織に近づけていると感じています。 ケアプロ株式会社 在宅医療事業部 クオリティマネジメント部門長 岡田理沙 病院で働く中で、若手看護師の教育に関心を持ち、大学院に入学。大学院在学中にアルバイトでケアプロ訪問看護ステーションに入職し、若手の訪問看護師が一生懸命がんばる姿を見て、若手・新卒の訪問看護師の教育へ携わることを決意。病棟の若手看護師や新卒が訪問看護にチャレンジするハードルを下げ、訪問看護師を増やすべく、事業運営に取り組んでいる。 ケアプロ株式会社 「革新的なヘルスケアサービスをプロデュースし、健康的な社会づくりに貢献する」をミッションに2007年12月創立。直営で2店舗の訪問看護ステーションを運営するとともに、予防医療事業、在宅医療事業、交通医療事業の3事業を展開している。(2020年12月現在)

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

ケアの質を向上させる!オマハシステムを徹底解説

訪問看護の記録評価システムの一つであるオマハシステムについて、「名前は聞いたことがあるけれど、実際どんなもの?」「導入すると何がいいの?」「どうやって導入するの?」と意外に知らない方も多いのではないでしょうか。 日本で一番オマハシステムに詳しい岩本さんに、徹底解説していただきます。 オマハシステムとは? 岩本: 病院の電子カルテに入っている『NANDA・NIC-NOC』などの看護問題分類と同じようなものだと思っていただければわかりやすいと思います。 ほかにも、介護現場のアセスメントで使用されるの『インターライ』、『MDS-HC』などの似たようなシステムは色々ありますが、在宅の現場で直感的に使えると私が感じたのが、オマハシステムでした。 オマハシステムの導入効果は? 岩本: 導入効果は多くありますが、ここでは三つのメリットを紹介します。 ①伸ばすべき点、改善すべき点を把握できるように 岩本: 現在ウィルでは、利用者さんの変化(知識、行動、状態)を毎月グラフ化して経時的に追っています。 利用者さんの問題について、「今どういう変化を起こしているか」が見える化されていることでPDCAサイクルが非常に論理的に回るようになってきています。 看護師自身が「今自分のやっているケアは意味があるんだ」、あるいは、「意味があると思ってやっていることに対して思ったように評点が変化していかないからプラン変更修正すべきだ」と考えることができるようになったんです。 ②ベテランの思考過程が新人に受け継がれるように 岩本: オマハシステムという共通言語があることで、ベテランと新人の思考過程の差を明らかにした上で、一緒にディスカッションできるようになりました。例えば利用者さんに対して、ベテランと新人では、フォーカスする問題に違いがあることが判明したんです。 その違いに対して、「どうして」「なぜなら」と一緒にディスカッションすることで、ベテランの思考過程が受け継がれていくという、教育的にもメリットを感じてます。 ③チームの強み弱みが明らかになり、対策を講じられるように ステーションのすべての利用者を「内疾患分類別」「立案している問題分類別」に見て、評点の平均値の変化を追うことで、ステーション全体の評価ができるようになりました。 これにより、チームの強み・弱みのあるケアが明らかになり、弱みへの対策の立案が可能になったんです。 例えば認知症のケアが弱い、ということがわかれば認知症に関する研修を集中的に行うことで、弱みを補うという感じです。システムの導入が、チーム全体のケアの質向上につながっていると思います。 システムはどのように導入するのか? 岩本: システム自体は、ただのコード文なので、運用にあたっては電子媒体が非常に重要です。 実は、初めはエクセルで作りこんでやってみたんですが、2ヶ月ほどで残業がものすごいことになったので、一回全部中止しました。 そこからシステムを業務の中に組み込める形にした訪問看護用電子カルテを開発し、現在ではウィルのすべてのチームでこの電子カルテを利用してレセプト請求まで行っています。 また開発した電子カルテは、他のステーションにも導入を始めています。データは広く使われることで価値が上がっていくため、今みなさんが利用している電子カルテとも連携していけるといいと思います。 オマハシステム徹底解説 岩本: 難しくとらえられがちなオマハシステムですが、考え方はシンプルです。システムは、三つの要素で構成されます。 ・看護問題(患者さんが抱えている問題やリスクを選ぶ) ・介入分類(その問題に対応した介入を選ぶ) ・評価の分類(介入を評価する) それぞれについて、詳しくお話していきます。 看護問題 『NANDA・NIC-NOC』の問題分類の数は非常にたくさんありますが、オマハの場合は、下図に示すように問題数自体が全部で42個です。 一人の人間が持つ色々な課題型を42個で表現しているという意味では分かりやすいと思います。 介入分類 私たちが利用者さんに対して行う介入は、大きく以下の4種類に分けられます。 ・直接何かをするケアの介入 ・直接その利用者や家族に指導して覚えてもらうという介入 ・観察をする介入 ・ケアマネジメントという介入 この中で特徴的で私が大好きなのが、「ケアマネジメントという介入」です。 直接介入はしていなくても、調整という介入を行っているということを、オマハシステムでは介入として記述ができるんですね。 具体的には、ケアマネージャーさんへの相談、福祉用具屋さんとの調整、薬局薬剤師さんと情報共有をしての薬のコントロールなども介入として扱われます。見えないケアだったものが、見えるケア、やっているケアとして記述され、さらに評価を行っていくということができるわけです。 ケアマネジメントの介入があることが個人的にオマハシステムの一つの大きな特徴だと思っています。 評価の分類 成果を測るために、私たちが介入したことで利用者さんにどういう変化があったことを評点していきます。基本的にはKBSの3つの側面から行い、5段階で評点します。 ・利用者さんの知識、理解(K) ・利用者さんの行動(B) ・利用者さんの客観的な状態(S) 例えば、認知症は高齢の方がなることが多いため、在宅ケアの介入でやっていきなり症状が改善するということは難しいかもしれない。 これは長期ケア、慢性期ケア、高齢者ケアでは当然起こりうることで、人間やはり老いを重ねていく、あるいは不可逆的な疾患に対して、すべて取り戻すというのは厳しいと思います。この時、状態の効果測定を要介護度などでするのは難しいでしょう。 しかし、状態は下がっていけども、例えば、ご本人がすごく混乱をしていたところから、自分で生活習慣に気づくことができて周辺症状が治る、あるいは苦痛なく楽しく過ごせるようになるかもしれません。 家族が「おばあちゃんなんでこんなことするの!」と怒ってしまい困っていた状態から「これは認知症の症状なんだ」だと理解し、気持ちの整理がついたということがあります。 こういった状況を ・知識、理解(K)が2点から5点になった ・行動(B)が上がった ・でも客観的な状態(S)は下がった と3つの側面で評点することができます。これが長期ケアあるいは在宅ケアの中でも私たちが介入することで変わる成果だと表現ができます。 岩本さんにとって、オマハシステムとは? 岩本: 「システムを使って何かを変えよう」と思っていたわけではなく、「在宅ケアの素晴らしさを証明したい」という気持ちがありました。 そもそもすでに現場では介護職、看護職、訪問診療をやっている医師含め、医療系の職種の皆さん、あるいは地域のお仕事をされている皆さんで協働しながら、日常的に素晴らしい実践があるわけです。 でもそれが中々、伝わらない。マニアックなサービスになっているせいで本当に必要な人に届かない、価値を知られていないためにお金がつかないことが、非常に悔しくて、それが示せるツールがほしいと思いました。 先輩たちが築き上げてきた、あるいは今は皆さんが取り組んでいる素晴らしい実践を本当に価値があることだと表現するためには、データが大事だと私は思っています。 既にある「価値のある実践」を「実際に介護看護在宅医療にとって価値がある」という表現するために、適しているのがオマハシステムだと思っていますし、こういった実践がいろんな人に認めてもらえるようになるといいな、と考えています。 WyL株式会社 代表取締役 / ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長 / 看護師・保健師・在宅看護専門看護師 岩本大希 ドラマ『ナースマン』に影響を受け、「最も患者さんに近い存在」として医療に関わりたいと思い、看護師になることを決意。2016年4月にWyL株式会社を創立し、直営で2店舗、関連会社でフランチャイズ4店舗を運営。(2020年12月現在)「全ての人に“家に帰る”選択肢を」を理念に掲げ、小児、精神、神経難病、困難な社会的な背景があるなど、在宅療養の中でも受け皿の少ない利用者を中心に訪問看護事業を展開している。 インタビューをした人 シニアライフデザイン 堀内裕子 桜美林大学大学院老年学研究科博士前期課程修了。「ジェロントロジスト」のコンサルタント・マーケッターとして、シニア案件に数多く参画。日本応用老年学会常任理事、日本市民安全学会常任理事を務め、リサーチ・コンサルティングとして、大手不動産企業新規商業施設戦略/大手GMSのシニア向け売り場企画/大手百貨店の高齢者向けサービス・婦人服企画等を多数行う。活動にはNHK 総合 「首都圏情報ネタドリ!」出演、「新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ!」(ダイヤモンド社)編著他、企業・自治体での講演多数。

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

ウィル流!ベテランも先輩も支える教育システム

前記事では新人にフォーカスした教育についてお伺いしましたが、先輩看護師やベテラン看護師の訪問看護キャリアをしっかり支援する教育制度もあります。 キャリアを長い目で見て、背中を押してくれる「看護ラダー」や「交換留学」はどんなものなのでしょうか。岩本さんに、引き続きお話を伺っていきます。 独自の教育プログラム 岩本: 多くの臨床現場で基本とされているベナーの「臨床看護実践における5つの能力レベル」と、訪問看護師して私たちが必要だと考えている要素を掛け合わせて、5段階のラダーを作っています。 まず、どんなに病院で経験がある方であっても訪問看護が初めてであれば、ラダー1から始まります。 ラダーの考え方は、タスクベースではなく、「個人と組織の2軸に対する影響範囲」と考えていただくとわかりやすいと思います。 ■個人への影響範囲 「目の前の患者さんに対して良いケアを直接行った」というのは対個人への影響です。このラダーが上がってくると、 ・この患者さんに関わっている家族 ・近隣の住民 ・キーパーソン ・関わる多職種 ・地域全体 に対して、自分自身の看護がどこまで影響を及ぼすつもりで介入や行動ができるか、あるいは実際に影響を及ぼすことができるかと考えられるようになっていきます。 ■組織への影響範囲 「自分自身がとにかく勉強できて、成長できて、熟達できればいい」と個人で完結しているならばラダーはまだ低いです。 ・同僚の人にも自分が得意で相手が苦手な部分であればサポートしよう ・後輩が入ってきたら先輩としてサポートをしよう ・新人が入ってきたら自分が新人を支える先輩を支えよう ・先輩としてそのしくみ全体を支えよう とチーム全体や複数のチームに影響範囲を広げられるようになると、ラダーが上がって行きます。 これは病院のラダーで言えば、新人看護師からプリセプターになり、リーダーといった役割を持ち、主任→師長→看護部長といったように、影響範囲が広がっていくのと似たような考え方かと思います。 ウィルで人気の「交換留学制度」とは? 岩本: 私たちは全国に7拠点ありますが、地域が違うとやはりチームの強み、運営スタイル、利用者属性の偏りなどが異なります。そうすると非常にバリエーションがあって面白いです。 そこに実際に出かけて、他のチームの実践や運営を体験して戻ってくるのが交換留学生制度です。 この交換留学制度は、ラダーが一定以上になった看護師に対し、すべて法人側で費用を負担し、研修として行っています。。留学といっても長い期間ではなくて1泊2日から長くて1週間程度です。 これはとても有効で、ずっと同じチームにいて先輩側になってくると、相談できる相手もだんだん減ってきます。どうやって後輩や周りの人たちを支援していくといいのか、思い詰めて悩みがちになりってしまいます。 そうした時に隣のチームに行って同じような立場の人とディスカッションする、あるいはこんなやり方があるのかと感じて帰って来る。これは暗黙知のシェアと呼ばれますが、そういった体験をして帰ってきます。 ちなみにこれは余談ですが、一番人気の交換留学先は沖縄です(笑) ―そのほかに、社内で取り組まれている学習支援はありますか? 岩本:学習教育に関しては、社内の専門家によるEラーニングを展開しています。こちらがその内容の例です。 ・精神看護の専門看護師による「在宅ケアでの精神看護」 ・小児看護学における博士課程進学者による「在宅ケアでの小児看護」 ・家族支援の専門看護師による「在宅ケアでの家族支援」 ウィルでは社内の専門家にコンサルテーションの依頼やウェブ上で地域に関係なくいつでも相談やディスカッションが行えるしくみも整えています。実際に現場に一緒に出かけて、看護実践について迷っていることの支援することもあります。 WyL株式会社 代表取締役 / ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長 / 看護師・保健師・在宅看護専門看護師 岩本大希 ドラマ『ナースマン』に影響を受け、「最も患者さんに近い存在」として医療に関わりたいと思い、看護師になることを決意。2016年4月にWyL株式会社を創立し、直営で2店舗、関連会社でフランチャイズ4店舗を運営。(2020年12月現在)「全ての人に“家に帰る”選択肢を」を理念に掲げ、小児、精神、神経難病、困難な社会的な背景があるなど、在宅療養の中でも受け皿の少ない利用者を中心に訪問看護事業を展開している。 インタビューをした人 シニアライフデザイン 堀内裕子 桜美林大学大学院老年学研究科博士前期課程修了。「ジェロントロジスト」のコンサルタント・マーケッターとして、シニア案件に数多く参画。日本応用老年学会常任理事、日本市民安全学会常任理事を務め、リサーチ・コンサルティングとして、大手不動産企業新規商業施設戦略/大手GMSのシニア向け売り場企画/大手百貨店の高齢者向けサービス・婦人服企画等を多数行う。活動にはNHK 総合 「首都圏情報ネタドリ!」出演、「新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ!」(ダイヤモンド社)編著他、企業・自治体での講演多数。

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

なぜ、若手の看護師が集まり定着するのか?

WyL(ウィル)株式会社の岩本さんは、訪問看護業界に多くのファンを持つ若手の経営者です。 ベテラン中心のステーションが多い中で、ウィルでは若手看護師がステーションを支えているそうです。 「やる気があるならためらわずに、若手からでも訪問看護はやるべき」を裏付ける採用、教育方針とはどんなものでしょうか。 スタッフの構成 岩本: 私たちの利用者さんは医療依存度が高い方が多いため、24時間365日営業を基本としています。病院では、看護師は夜勤がつきものですが、夜勤の主戦力となっているのは基本的に20代~30代の看護師です。 訪問看護も同様で、家庭のある40代~50代の先輩看護師を中心としたチームでは、どうしても夜間や土日にスタッフ全員が都合つかないケースが発生します。若手を中心にチームを組みますが、もちろんチーム内にはベテランの先輩看護師も必要です。チームとしてのバランスを最も重視していますね。 ―「チームとしてのバランス」とは? 岩本: 色々な病棟を経験した方は、幅広い疾患を持つ利用者さんに対して網羅的に対応できる、ジェネラリストである場合が多いと思います。ただし、私はいつも「本当にすべてをこなせるジェネラリストって存在するのだろうか」と疑問に思います。 すべての病棟を経験した看護師はおそらくいなくて、そうなるといくつかの病棟を経験しつつも、やはり経験してきたことには偏りがある。偏りがあるからこそ、色々な経歴を持った看護師が集まることで、組み合わせでチームが強くなると私たちは考えています。 30代前半ぐらいまでの若手、中堅の看護師が訪問看護に来るのはやはり勇気がいることですが、実際に現場に出ている先輩方に聞けば、「やる気があるならためらわずにやるべき」という声の方が多いです。 ー若手の看護師さんをどのように採用されているんですか? 岩本: 採用に関しては、「ウィル」というブランドの形成だけでなく、ウェブ上の露出、ファンの形成、そのファンとコンタクトをとった後の行動に至る部分まで、細かに設計しています。 これらをグループ全体で活用していくことで、他の地域でもホームページから見学者が来て、その見学者が働きたいと思えるような採用支援を行っています。 若手訪問看護師の教育制度 岩本: 訪問看護に初めて従事する看護師がほとんどなので、導入として ・訪問看護がどのように行われるのか ・どう考えていくべきなのか ・私たちが提供する看護にはどういう価値があるのか について、きちんと理解してもらいます。 学習期間としては3ヶ月から半年ぐらいを最初のステップとして、標準的な学習の期間としています。ただし、私たちは沖縄、福岡、一関など地方にも拠点があるため、新人が入った時に1か所に新人を集めて研修をすることは難しいです。 そのため、学習はすべて学研メディカルさんと一緒に開発したEラーニングで標準的な学習ができる体制を組んでいます。このEラーニングですべての理解や実践、心構えができるのかというと、そういうではありません。インプットした学習は、「頭の片隅にまず引き出しを作る」くらいのものだと考えています。 基本的に臨床における看護教育の中心はOJTなので、OJTを細かく分類→整理→言語化して実践しています。 (OJT:On-the-Job Training、現場教育のこと) ―どのようにOJTを実践されているんですか? 岩本: 訪問看護のOJTでは同行訪問が基本ですが、実はこの同行訪問について言及している教育プログラムは多くありません。私たちはこの同行訪問についても、5つのステップに分けて考えています。 ステップ1:ケアの見学 ステップ2:先輩の真似をして一部やってみる ステップ3:そのケアについて一通り自分でやってみる ステップ4:ケアマネジャーや医師への報告連絡相談を実施する ステップ5:長期的な予測のもと、この数週間過ごせるかという看護過程を頭の中で回してみる ステップ5まで1人でできて、初めて単独で訪問ができるのではないかと考え、このOJTの5ステップを自立へのステップとしています。ですので、皆さんがやっていることと基本的には変わりはないですが、私たちなりに細かく分類→整理→言語化をしています。 新人に合わせて上手くアレンジをすることで、どのステーションでも標準的なステップが踏めるよう、再現性のある制度にしています。 WyL株式会社 代表取締役 / ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長 / 看護師・保健師・在宅看護専門看護師 岩本大希 ドラマ『ナースマン』に影響を受け、「最も患者さんに近い存在」として医療に関わりたいと思い、看護師になることを決意。2016年4月にWyL株式会社を創立し、直営で2店舗、関連会社でフランチャイズ4店舗を運営。(2020年12月現在)「全ての人に“家に帰る”選択肢を」を理念に掲げ、小児、精神、神経難病、困難な社会的な背景があるなど、在宅療養の中でも受け皿の少ない利用者を中心に訪問看護事業を展開している。 インタビューをした人 シニアライフデザイン 堀内裕子 桜美林大学大学院老年学研究科博士前期課程修了。「ジェロントロジスト」のコンサルタント・マーケッターとして、シニア案件に数多く参画。日本応用老年学会常任理事、日本市民安全学会常任理事を務め、リサーチ・コンサルティングとして、大手不動産企業新規商業施設戦略/大手GMSのシニア向け売り場企画/大手百貨店の高齢者向けサービス・婦人服企画等を多数行う。活動にはNHK 総合 「首都圏情報ネタドリ!」出演、「新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ!」(ダイヤモンド社)編著他、企業・自治体での講演多数。 採用と定着についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

コラム
2021年1月20日
2021年1月20日

訪問看護の組織・現場でリーダーシップを発揮するために必要な3つのポイント

リーダー、主任、師長、係長など看護師の中にもリーダーシップが求められる立場・役割があります。そして、それは訪問看護のような小さな組織の中でも必ず必要となってきます。 リーダー次第で組織の雰囲気、機能性は大きく変わります。現在、私自身は看護師15名、リハビリ職5名程度の訪問看護ステーションで働いており、中間管理職としてリーダーシップを常に意識しています。 今回はこれまで関わってきた上司のリーダーシップを見て、学び、私自身も実践している3つのポイントをお伝えできればと思います。 ①掲げる まずこの組織、グループ、個人が何を達成するために存在するのか、その目標を掲げることが求められます。ゴールはどこなのか?人は目標・ゴールが分かることで頑張ることができます。 逆に方向性が決まらず、とりあえず頑張れ!と言われると、不信感や疲弊につながります。定性的・定量的に目標を設定し、その目標を互いに共有することが大切です。 ②決める 会議やカンファレンスの場面で「結局どうするの?」となることがあります。メリット、デメリットや情報だけ並べて、最終的な決断がないという場面。こういうときにリーダーには決めることが求められます。 組織の意思決定の場面で正解も不正解もないです。①で決めたゴールを判断基準にベターな選択を決めること、そして、決めたことを正解にしていくことが大切です。 ③伝える 目標を掲げ、方向性を決めたら、達成に向けて言葉で伝える、伝え続けることが求められます。伝わっていると思い込むことで気づかない間に方向性がバラバラになっていることがあります。 訪問看護の組織ではそれぞれ看護師が訪問に出てしまい、全員で集まる機会が少ないです。伝えられる機会を意図的に作ることが大切です。 さいごに 今回お伝えした3つのポイントは組織のリーダーでなくても、例えばプリセプターとして後輩指導するときや多職種カンファレンスで恊働する場合など多様な場面で応用が可能です。 今の自分に照らし合わせて「掲げる・決める・伝える」この3つを意識して行動してみてください。皆さんの組織・現場での活動がより円滑に進む一助になれば幸いです。 藤井 達也 地元名古屋の大学を卒業後、聖路加国際病院の救命救急センターで看護師として働き始める。高齢者の最期の在り方について疑問を抱く中で、より深く意思決定の場面に関わっていきたいと考え、訪問看護の道へ。現在はウィル訪問看護ステーション江戸川にて訪問看護師として働きながら、教育、採用、管理業務の一端も担っている。

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