記事一覧

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

元気なうちから、地域に出ていこう

地域の高齢者は医療や介護が必要になって初めて、専門職に関わったという方が多いでしょう。しかし、澤登さんはもっと前の元気なうちから、お互いが関わることが大切だとおっしゃいます。 『みま~も』に参加することで、参加者ご自身(『みま~もサポーター』)にどんなメリットがあるのか、お伺いしました。  『みま~もサポーター』のメリット 澤登: 例えば病院に入院して、医療や介護のサービスが必要となり地域に帰るとします。その方たちに医療や介護のサービスだけを提供して、地域で暮らし続けられるかというと、これが難しい。 こちらの平均寿命と健康寿命のデータをみてください。 日本は世界的にみても長寿国ですが、女性の場合には平均寿命約87歳、健康寿命が約75歳で、介護や医療が必要な状態が平均約12年もあるというデータがあります。この約12年というのは、専門職が関わる期間と言ってもいいでしょう。 一方、『みま~もサポーター』は平均加入年齢が72歳なので、活動の中で元気なうちから専門職と関わることになります。 これは健康でいる時間を長くする、あるいは介護になってからも、顔の見える関係の専門職にケアしてもらえるというメリットがあります。  新型コロナウイルスの影響 ―新型コロナウイルスの影響で、できなくなった取り組みも多いかと思いますが、今はどんな活動をされていますか? 澤登: 一部セミナーや公園での体操などはコロナ禍で一旦中止にしています。その代わりに『みま~も』のYouTubeチャンネルを作り、専門職がオンライン上でいろんな情報をあげていています。 コロナ禍で、高齢者の中でも今まで地域とのつながりも十分にあって、自分自身が地域のいろんな活動も積極的に参加していた方ほど、影響がすごく大きいと感じます。 活動などが一切なくなってしまったわけで、そういう中かで精神的に落ち込んでしまったり、うつ症状や認知症が進んでしまった、という話も多く聞きました。 『みま~も』は、2020年8月くらいから今までと同じような活動を再開する予定でしたが、セミナーでもまだまだ人と会うのが怖い、自粛したいという人も多いですし、平行してオンラインでも参加できるものを少しずつはじめて、選択肢を増やしているところです。 ―時代に合わせて地域に合わせて、変化し続けながら活動されているんですね。 澤登: はい。しかし、まだまだ高齢者の人たちにとってオンラインの参加は難しいものがあります。スマホを持っている人は7割ほどいるのですが、多くは電話機能として活用しているだけなんです。 人と繋がる手段としての操作はまだまだできない人たちが多く、高齢者の方たちにもスマホやパソコンなどにも慣れてもらう、つながりを切らさないでいられるような取り組みも引き続きやっていきたいと思います。 コロナの状況になって地域の人の声を聞きながら柔軟に、スピード感をもって新たなことをはじめています。 『みま~も』は自治体や行政などのしがらみにとらわれないから、いろいろなことが可能なのかもしれません。楽しいからこそ、みなさんやっているし、続けていける。それが何より大事なのかなと思います。  牧田総合病院 地域ささえあいセンター センター長 澤登久雄 大学時代、児童演劇に夢中になり、舞台芸術を提供する地域の団体職員として8年勤務。結婚し、子供ができたことをきっかけにデイサービスに就職。介護福祉士・ケアマネージャー・社会福祉士の資格を取得後、牧田総合病院に入職。病院内に地域ささえあいセンターを立ち上げ、センター長として地域貢献に尽力している。

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

地域に選ばれる訪問看護ステーションになる

新規開業した訪問看護ステーションの中には、利用者がなかなか獲得できないステーションもあります。地域ささえあいセンターから見た、頼みたくなるステーションには、どんな特徴があるのでしょうか。引き続き、澤登さんにお話を伺います。  依頼したいステーションの特徴 澤登: 訪問看護ステーションの中には、小児や認知症などに特化しているところもあります。その部分のケアが重点的に必要であれば、こういったステーションに連絡を取ることもあると思います。 しかし、在宅で看ていくと考えた時には、さまざまな多職種連携やサービスによって、その人が地域で暮らしていけるよう支えていくわけです。 その視点からいうと、地域の多職種の方、あるいは多職種連携のコーディネーターとなるような方と顔の見える関係づくりができている訪問看護ステーションは依頼しやすいというのはあります。 ―地域の方と信頼関係を築いていくにあたり、訪問看護ステーションが具体的に取り組むべきことは何でしょうか。 澤登: 信頼関係って抽象的で難しいですが、生活を支えるという具体的な作業を通して、徐々にできてくるものだと思います。 管理者さんなどステーションと地域をつなげる役割の人が、自分たちのステーションがどんなことを大事にしているのか、看護の専門職として何ができるかなどを、多職種の方に明確に伝えていくことが大切だと思います。 例えば、『みま~も』でもデイサービスやデイケアで働く理学療法士さんたちが商店街裏の公園で、元気な人たちを対象にした体操を毎週やってくれているんです。当然ながら、これは本来の仕事ではありませんが、こういう取り組みをしている事業所は地域から信頼され、地域に根差していると感じます。  地域に入り込む方法 ―例えば、立ち上げたばかりのステーションなどは、どのように多職種のネットワークに入っていけば良いと思われますか? 澤登: どこの地域でも多職種が集まる会が、今すごく盛り上がっているなと感じます。そういう場に顔を出していくことが、まず大事だと思います。 その中で、看護師という立場からチームに何が貢献できるか、ほかのサービスの人たちの立場も踏まえることが必要です。 どうしても医療と介護って壁を感じることがある中で、看護師の方から介護に携わる人たちのことを理解しようという姿勢が、関係づくりでも大事だと思います。 ―訪問看護師は、どのように地域に関わっていけば良いと思いますか。 澤登: 専門職が地域に出ていき、元気なころから地域住民に関わることによって、その方が健康でいる時期を長くするためにさまざまなことができます。 そのため通常の訪問看護のように、元気がなくなってしまってから関わるのではなく、もっと早くに地域に出て、関わっていくことも必要だと思います。 元気なころから訪問看護ステーションの看護師が関わっていれば、利用者さんとしても安心できるし、例えば看取りの時期も本人自身では思いを表出できなくなったとしても、その方の生き方を支えていけると思うんです。 また、訪問看護師さんも管理職か現場の方かにもよりますが、毎日毎日、時間単位のケアに追われる仕事をしていたら、いつか力尽きてしまうかもしれません。 そんな時も、利用者の方たちが元気だったころをイメージすると、がんばろうと思える、地域に支えられる面もあると思います。  牧田総合病院 地域ささえあいセンター センター長 澤登久雄 大学時代、児童演劇に夢中になり、舞台芸術を提供する地域の団体職員として8年勤務。結婚し、子供ができたことをきっかけにデイサービスに就職。介護福祉士・ケアマネージャー・社会福祉士の資格を取得後、牧田総合病院に入職。病院内に地域ささえあいセンターを立ち上げ、センター長として地域貢献に尽力している。 地域で活躍する訪問看護ステーションについてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

大規模化と多角化で、安定した経営を実現

訪問看護ステーションは小規模の事業所が多く、その多くが赤字で、大規模になるにつれて黒字化していることがわかっています。 ケアプロ株式会社では、事業の多角化とステーションの大規模化で持続性のあるモデルを実現しています。代表取締役の川添さんに、ケアプロの戦略を伺いました。 ステーションの大規模化 ーケアプロ株式会社では、大規模ステーションを展開していると伺いました。 川添: 国の政策として、機能強化型訪問看護ステーションの認定を受けていると報酬が多くつくなど、規模が大きい事業所を優遇する流れがあります。 実は創業当初はどんどん店舗を増やす予定でしたが、1ヶ所で大きな店舗を構える大規模化戦略に切り替えていきました。現在は、 ① 常勤換算看護師・セラピスト数30名以上の人員基準 ② 居宅介護支援事業所併設など機能強化型訪問看護管理療養費1の条件を満たしたステーション を造語として「総合訪問看護ステーション」と呼び、実現を目指して拡大しています。 ー総合訪問看護ステーションには、どんなメリットがあると感じていますか? 川添: 疾患・病期・年齢の異なる、さまざまな利用者様を受け入れられるようになりました。 また、小規模のステーションで24時間365日、休祝日、夜間問わず対応をすると、1人のスタッフが休んだときの影響も大きく、スタッフのワークライフバランスが崩れてしまいますよね。一方、スタッフが多くいれば、リソースをコントロールでき、サービスの持続性を持って提供する訪問看護ステーションのモデルを作れると思っています。 スタッフの働き方においても、新卒から中堅、ベテランまでさまざまなスタッフが働くことができ、キャリアアップ、家庭との両立、ダブルワークなど多様なキャリアのスタッフが働くことができるようになったこともメリットだと感じています。 事業の多角化 ーケアプロ株式会社では、ステーション経営以外にも、多角的に事業展開していると伺いました。 川添: 事業としては始めた順に、予防医療事業、在宅医療事業、交通医療事業の3つを展開しています。ステーション経営は在宅医療事業の一環です。 予防医療事業 1年以上健診を受けていない3,600万人に対する生活習慣病予防、日本全体の医療費の抑制をミッションに掲げています。 事業内容は、セルフ健康チェックサービスです。47都道府県に看護師、保健師、管理栄養士、臨床検査技師が出張して血糖値やコレステロール、肝機能、骨密度などをその場で測定します。以前は一回500円など有料で展開していましたが、現在はスーパーマーケットなどにスポンサーになってもらい、無料でサービスを提供しています。年間1万人くらいの方に私たちの健診を受けていただいていますね。 交通医療事業 交通弱者のための外出支援マッチングサービスと、サッカーの救護手配を中心とする「サッカーナース」をやっています。特に交通医療事業は立ち上がったばかりなので、投資する観点でいうと今一番力を入れているところです。 予防医療事業から在宅医療事業に展開 川添: 東日本大震災のボランティアとして健診や健康相談を行う機会があり、仮設住宅で孤独死が増えている現状を目の当たりにしました。 病床数や在院日数を減らしても在宅での受け皿が十分でない状況で、このままいくと、日本中で、病院でも在宅でも看られない孤独死のような形が出てきてしまうだろうと思いました。 そうした状況をちょっとでも変えていきたいと思ったのが、訪問看護事業に取り組んだ経緯です。 立ち上げ当初は看取りや孤独死の課題に取り組んでいましたが、今ではもう少し広いところで「在宅医療の課題を解決し、”私らしくいきたい”を支える社会を創造する」をミッションとして取り組んでいます。 ケアプロ株式会社 代表取締役 川添高志 幼少期に入退院を繰り返す中で、「当たり前の健康」の大切さを実感するとともに、病や障害があってもよりよく生きていくことを支える看護に、大きな価値を感じる。 看護学生時代、足を切断する糖尿病患者に出会い、予防医療が十分行き届いていない現状に問題意識を感じる。ケアプロ株式会社を起業後、2012年より在宅医療事業部を立ち上げ、訪問看護に参入。 ケアプロ株式会社 「革新的なヘルスケアサービスをプロデュースし、健康的な社会づくりに貢献する」をミッションに2007年12月創立。直営で2店舗の訪問看護ステーションを運営するとともに、予防医療事業、在宅医療事業、交通医療事業の3事業を展開している。(2020年12月現在)

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

新卒訪問看護師を当たり前に

訪問看護は病院での経験がないと難しいといわれることが多い中で、ケアプロ株式会社では若手や新卒看護師が多く活躍しています。 新卒採用を投資と考え、看護師やセラピストが現場に注力できるようにバックオフィスで支えるしくみとはどんなものかを伺いました。 新卒採用は投資と考え、業界をリード 岡田: ケアプロでは、若手や新卒看護師を当初から採用しています。 「共に育つ」という会社の文化や風土を大切にしていて、若手がかなり多いので、新卒の採用もスタッフみんなで教育に携わり、共に成長していくことができます。 会社としても、新卒採用は投資と考え、力を入れています。社内での教育体制の構築し、実践していくことはもちろんのこと、聖路加国際大学と全国訪問看護事業協会の代表の方々と共同研究で、『きらきら訪問ナース研究会』を運営しています。 活動としては、新卒訪問看護師の教育体制や採用、魅力ある事業所作りについて検討しながら、訪問看護業界に発信しています。 また、『きらきら訪問ナース研究会』では育成者養成講座を開いて、全国の訪問看護ステーションでも新卒看護師を採用できるよう支援をしています。今後、訪問看護でも新卒が当たり前になるよう、業界をリードしていきたいですね。 『きらきら訪問ナース研究会』 きらきら訪問ナースは看護基礎教育を終えて、新卒で訪問看護を始める看護師のこと。新卒から訪問看護にチャレンジする看護師を支援するために、聖路加国際大学、千葉大学、ケアプロ株式会社、全国訪問看護事業協会が共同で2014年に結成。研究活動、研修・講演、キャリア開発などに取り組んでいる。 バックオフィスでサポート ー新人や若手の看護師を、どのようにサポートされていますか? 岡田: バックオフィスのサポート業務は、経営的なサポート、サービスの質の管理のサポート、人事関連のサポートなど多様です。ケアの提供はしませんが、ステーションの看護師やセラピストが利用者さんへの実践に注力できるようにしています。 例えば経営的なサポートでは、スタッフの人数や成長の程度によって、何件訪問できるかどうか、新たにどのくらい利用者様受け入れることができるかなどを予測計算して、ステーションの所長に伝えます。そうすることで、病院やケアマネから新規の利用者様の受け入れの相談が来た時に判断ができるようになります。 また、スタッフの入社に伴うオリエンテーションの対応や、事業報告、行政関連管理なども、一括して実施しています。 ステーションのバックアップをする中で、2つのステーションのノウハウが蓄積され、互いの成功例を共有することができるようになっています。 まだ、成功例と言い切れるわけではないですが、大規模化を見据えた組織化を進める中で、少しずつ利用者様への安定したサービス提供や、スタッフがやりがいを持って働き続けられる組織に近づけていると感じています。 ケアプロ株式会社 在宅医療事業部 クオリティマネジメント部門長 岡田理沙 病院で働く中で、若手看護師の教育に関心を持ち、大学院に入学。大学院在学中にアルバイトでケアプロ訪問看護ステーションに入職し、若手の訪問看護師が一生懸命がんばる姿を見て、若手・新卒の訪問看護師の教育へ携わることを決意。病棟の若手看護師や新卒が訪問看護にチャレンジするハードルを下げ、訪問看護師を増やすべく、事業運営に取り組んでいる。 ケアプロ株式会社 「革新的なヘルスケアサービスをプロデュースし、健康的な社会づくりに貢献する」をミッションに2007年12月創立。直営で2店舗の訪問看護ステーションを運営するとともに、予防医療事業、在宅医療事業、交通医療事業の3事業を展開している。(2020年12月現在)

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

看護師を成長、定着させる制度

訪問看護業界は、看護師の離職率の高さが問題となっています。 ケアプロ株式会社では、成長を促進させる人事評価制度と手厚い福利厚生制度で定着率を上げる取り組みをしています。どんな制度を設けているのか、在宅医療事業部長の金坂さんにお話を伺いました。 成果の評価方法 金坂: 大学病院などでは、キャリアラダー評価と、経験年数に応じた人事評価などが行われていると思います。またその上がり方は、かなり緩やかです。 ケアプロでは、人事評価の指標としてラダーを活用しています。そのラダーに沿った絶対評価をしていることが特徴です。ラダーは6ステップに設定していて、ステップごとの目標と、達成時の給与のプラス額が明確になっています。 ラダーのステップに応じた目標や課題が明確に言語化されているので、若手の看護師に、漠然と「新規の利用者を受け持つには、まだ早い」と言うのではなく、「ここを強化する必要があるから、まだ新規の利用者さんを受け持つのは難しい」と伝えることができるようになりました。 ―ほかにも、特徴的な評価システムはありますか? 金坂: 会社としては、貢献した人を表彰する機会を大切にしていて、3か月に一度、ミッション・ビジョンの表彰式を実施しています。例えば最近だと、セラピストスタッフを表彰しました。 入社する新人セラピストが増える中で、病院と訪問看護では求められる役割や考え方、連携のしかたが異なります。それをわかりやすく整理した比較表を作ってくれました。 表彰はただ「ありがとうございます」で終わるのではなく、表彰されるに値する行動になぜ移せたのか、その人の経験を言語化してもらいます。 そうすることで、「自分も何か少しでもやってみよう」と思う人が増え、社内が活性化するのを感じています。 スタッフの働き方をサポート ーケアプロ株式会社では、スタッフの働きやすさのサポートに力を入れていると伺いました。 金坂: はい、20代が6割くらいを占める会社なので、若い世代にもやりがいをもって長く働いてもらうことを目指しています。そのために、さまざまなサポートを用意しています。 休みが取りやすい 現在足立区と中野区にステーションにはそれぞれ、30名弱のスタッフが所属しているため、スタッフが一人休んでも、ご利用者さまの定期訪問が提供できる体制になっています。年間休日120日+有休、それに加えて、介護・子育て応援有休というものもありプラス5~10日間の特別休暇がつきます。 オンコールが2人体制 「いざとなったら所長に電話してもいいよ」というのは、訪問看護ではよく聞きますが、ケアプロのように最初から2名体制のところは珍しいかもしれません。 150人くらいの利用者さんを基本は1人で対応しますが、電話が重なった時や、新人スタッフの時は夜間でも2名のスタッフで同行訪問できるような体制にしています。 福利厚生、手当が充実 ステーションはスタッフのボランティア精神でなんとか維持するものではありません。利益率が多少悪くなっても、仕事としてしっかりと評価するようにしています。 例えば、夜間待機は一晩担当すると6,000円、1回出動すると加えて5,000円が支給されます。また、土日・祝日出勤に対する手当や、家賃補助もあります。 多様な働き方が可能 週5で8時間勤務が基本ですが、育児や副業などの理由で、時短で働きたいというスタッフについては、週休3日や6~7時間の時短勤務など多様な働き方が選べるようにしています。また1人1台パソコンとスマートフォンを貸与して、在宅ワークに対応するなど、働きやすい環境作りには力を入れています。 就学、資格取得、研修参加などキャリアアップへの支援の充実 ケアプロでは、キャリアアップの支援にも力を入れています。大学院への進学、認定看護師の資格取得、外部研修への参加時の費用補助や出張扱い、勤務調整など多様な方法で支援を行っています。 ケアプロ株式会社 在宅医療事業部 事業部長 金坂宇将 地元島根の急性期病院で臨床経験を積む。看護師3年目で看護連盟活動に参画し、病院看護だけではなく地域医療や政治の世界を知り、もっと地域医療に貢献したいという気持ちから、看護師10年目で在宅医療業界に転身。現在、日本の在宅医療業界の課題を解決するために、事業運営に取り組んでいる。 ケアプロ株式会社 「革新的なヘルスケアサービスをプロデュースし、健康的な社会づくりに貢献する」をミッションに2007年12月創立。直営で2店舗の訪問看護ステーションを運営するとともに、予防医療事業、在宅医療事業、交通医療事業の3事業を展開している。(2020年12月現在)

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

未曽有の事態への対応

在宅医療の災害対策は、利用者や関わる職種も多いため、十分に準備ができているステーションは非常に少ないのが現状です。 そんな状況を変えようと、ケアプロ株式会社では『ホームケア防災ラボ』を立ち上げています。在宅医療事業部事業部長の金坂さんに、取り組みの内容を伺いました。 災害対策への取り組み 金坂: 現在、発災時には全国各地からDMAT(災害派遣医療チーム)が支援にくることが主流ですが、日ごろから地域を支える訪問看護師、ケアマネジャー、介護士だからこそできる災害対策があると考えています。 また、こういった地域を支えるケアスタッフが災害対策に取り組むことは、発災後の地域資源を守っていくという視点でも効果的であると考えます。 一方で、地域で働くケアスタッフは災害対策を学ぶ機会が少ないという現状があったため、訪問看護師だからこそできる防災対策という視点で、利用者さんの支援をはじめとした情報発信や勉強会の運営のために立ち上げたのがホームケア防災ラボ(別名「在宅ケア防災研究会」)です。今年で活動は4年目で、参加エリアの制限などはありません。 活動としては、防災に関する講演や勉強会の開催、訪問看護事業所の災害対策などに関する研究活動をしています。 ―どのような方が、運営されているのでしょうか? 金坂: ホームケア防災ラボの代表はケアプロの訪問看護師2名で、DMAT(災害派遣医療チーム)の経験のあるスタッフと災害看護専門看護師の資格を持ったスタッフです。この二人が中心となり活動をしています。 私は、訪問看護事業所のおける災害時事業継続計画(BCP)の策定や実践、研究活動にかかわっています。この活動は、日本赤十字看護大学の地域在宅看護学の教授や東京大学の危機管理シミュレーションの専門に研究をしていらっしゃる教授などと定期的に意見交換や研究活動を通して行っています。 新型コロナウイルス対応 ―災害に関連して、未曽有の事態である新型コロナウイルス感染症へは、どのように対応されていましたか? 金坂: 初めての緊急事態宣言の時は、情報が少なく、何をすべきか対応が難しかったです。会社としては、可能なスタッフには直行直帰をさせる、訪問が少ないスタッフは別の人に訪問をまとめてもらい、その分1人をテレワークにする、などの対応で乗り越えました。 新型コロナウイルス感染症が流行する前から、訪問スケジュール管理も看護記録も電子化していたので、テレワークへの移行はスムーズでした。 その後はある程度、感染対策のガイドラインもできあがり、収集した情報をもとにして適切な判断を行えるようになり、徐々に通常の運営に近い状態に切り替えていきました。 今も、感染リスクを減らすようには努めています。 ―大規模ステーションならではの対策はありますか? 金坂: 大規模で余裕があるからこそ、できることがあると思います。 例えば、マスクや防護服が足りなくなった際に、所長から区に物品の支給を訴えたことがありました。所長が現場だけではなく、組織管理ができる余裕があったことが、迅速な対応につながったと思います。 また、間接部門を独立して設置しているため、助成金や補助金の情報収集や煩雑な申請対応にリソースを割くこともできました。 ケアプロ株式会社 在宅医療事業部 事業部長 金坂宇将 地元島根の急性期病院で臨床経験を積む。看護師3年目で看護連盟活動に参画し、病院看護だけではなく地域医療や政治の世界を知り、もっと地域医療に貢献したいという気持ちから、看護師10年目で在宅医療業界に転身。現在、日本の在宅医療業界の課題を解決するために、事業運営に取り組んでいる。 ケアプロ株式会社 「革新的なヘルスケアサービスをプロデュースし、健康的な社会づくりに貢献する」をミッションに2007年12月創立。直営で2店舗の訪問看護ステーションを運営するとともに、予防医療事業、在宅医療事業、交通医療事業の3事業を展開している。(2020年12月現在) 新型コロナ感染症対策についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。 災害対応についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

【精神科訪問看護】「管理しない」精神科看護とは?

一般の訪問看護ステーションでも精神科の利用者さんを受け入れることもありますが、対応に難渋するケースもあるかと思います。 今回は訪問看護ステーションみのりの進さんと小瀬古さんに、そもそも精神科訪問看護とはどんなものか、何をゴールと考えるべきなのか、お伺いしました。 精神科看護の考え方 進: 生活を成り立たせるための管理をすることが、精神科の看護だと考えている方もいるかもしれませんが、それでは支援がないと生活が成り立たなくなってしまいます。 みのりでは、支援がなくても利用者さんが生活を組み立てられるようになり、最終的には訪問看護を卒業することを目指します。 精神疾患は症状が目に見えるものばかりではないので、利用者さんご自身が自分の変化に気づくのが難しいです。 人との関係性や環境の変化により、視野の偏りが出てしまったり、今まで通りにしようとしているのに、なんだかうまくいかない、コントロールできないということが出てきます。 幻聴などの症状はなくならないかもしれないけど、それを含めてどうやって自分自身をコントロールしていくか、一緒に考えて行動をサポートしていくのが精神科看護ですね。 ―訪問看護ステーションみのりとして、どんなことを大切にされていますか? 進: みのりでは、利用者さんもスタッフもすべての人が自分らしく、共に成長できる関係を大切にしています。そのために、どんな自分でいたいのか、あり続けたいのかというところをまず共有するようにしています。 例えば、利用者さんから「自分はやさしくありたい」と言われたとします。 私は、利用者さんの精神症状が悪くなり、客観的にやさしいと思える行動が少なくなったとしても「あなたがやさしい人だと知っていますよ、今は症状が悪化していて余裕がなくなってしまっているだけですよね。あなたなりの対処ですよね」というメッセージを送るようにしています。 どのような状態になったとしても、利用者さんがあり続けたい姿を見続ける。そうすると、他の人の前では大暴れする利用者さんも、「進さんの前ではちゃんとしよう」と思うようになるんです。 看護師は問題解決思考で、どうしても問題や悪いところをピックアップしてしまう傾向はあります。しかし、問題ばかりに着目してしまうと、その人のありたい姿が見えなくなり、看護師自身も利用者さんを「困った人」と認識することがあります。 その「困った人」という認識に偏ると、相手を変えて問題解決しようという思いが強くなり、説教くさくなったり、相手を変えるための管理行動が増えたりして、信頼関係が築けない状況が続くと考えます。 ―精神訪問看護では卒業を目指すということでしたが、導入からの流れはどのような形ですか? 進: 訪問看護導入の時期は、利用者さんが自分自身の症状や感情に振り回されてしまう傾向があります。 つまり利用者さん自身も、どのようなことが起こっているのか、それがなぜ生活に影響しているのか、なぜ行動がうまくいかないのかなど、わかっていないことが多いです。 中には、日々をなんとか乗り越え生きている人や、時間やお金に追われているような生活を送る方もいます。 ですので、初めの関わりとしては、そういった自分を知る、客観視するというアプローチが必要です。そこに病状や特性、捉え方の偏りがあったりすると、その思いに引っ張られて客観視しにくく明らかにできないので、どう取り扱うのかを一緒に試行錯誤していくイメージです。 このような訪問看護を展開すると、卒業間近には、「今月はこういう予定があるから、早めに準備しておこう」「ここまでは頑張れるけど、ほかのところで手を抜こう」などと生活を組み立てることができるようになります。 ―卒業が近づいてくると、訪問の頻度にも変化はありますか? 進: 訪問する頻度はそれぞれですが、週1~3回の方が多いです。セルフコントロールができるようになってきて訪問看護の卒業が近くなると、2週間に1回から月に1回くらいの頻度になります。 卒業するまでには2~5年くらいはかかりますけど、大阪のステーションは今年で9年目なので(2020年11月時点)、卒業される利用者さんも多くいます。 薬に頼らず回復する対処を考える、WRAPとは ―お二人はWRAP(元気回復行動プラン)のファシリテーターという資格をお持ちと伺いました。どのように活用されているのでしょうか? 小瀬古: WRAPは精神障害を持つ人たちによって作られた、自分で作る自分のための回復プランです。 「自分の取扱説明書」とも言われていますが、どんなときにどんなことを考えたらいいのか、いわゆる説明書というものには状態とそのときの対処が載っていますよね。それと同じようなことをやるんです。 例えば、「昨日は疲れてお風呂に入らなかったんだ」という話が利用者さんからあったとします。 ついつい「お風呂に入らないのは不潔になるので入りましょう」と促したくはなるのですが、あえて、「お風呂に入らないという対処なのかもしれない」「いつもの入浴をしないというのは早期のサインかもしれない」という視点が必要です。 具体的には、前者であれば疲れがピークなのでシャワーだけにしているのか、2日に一回の入浴にしているのかなど、意識的な行動なのかどうかということがポイントになります。後者であれば入浴する気力もなく、気づいたら入浴していないというサインとして捉えることが出来ます。 普段何気なくやっていることに注目して、利用者さんと共有することが対処にもつながるし、早期サインの共有にもなるということです。 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括管理責任者 / 看護師・WRAPファシリテーター 進あすか 精神科の急性期閉鎖病棟に勤務していた頃、退院した患者がすぐ病院に戻ってくる現状を見て地域に興味を持つ。30歳の頃に精神科特化型の訪問看護ステーションに転職。より良い働き方とケアの実現のため、2012年にみのり訪問看護ステーションの立ち上げる。2020年11月現在、大阪、東京、横浜、奈良に4事業所・8つのサテライトを運営している。 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括所長 / 精神科認定看護師・WRAPファシリテーター 小瀬古伸幸 看護補助者として精神科病院に就職、勤めながら正看護師を取得。その後、精神科救急病棟に約8年勤務。進さんに出会い、病院の中からではなく地域から精神科看護を変えていきたい思いから、訪問看護ステーションみのりに入職。

インタビュー
2021年1月22日
2021年1月22日

【精神科訪問看護】精神看護の技術の磨き方

訪問看護ステーションみのりは、利用者さんへの向き合い方で、他の精神科訪問看護ステーションとは一線を画す存在として知られています。みのりの進さんと小瀬古さんに、具体的な精神科訪問看護の実践についてお伺いしました。 精神科訪問看護における、看護師と他職種の役割 進: ステーションには看護師と作業療法士がいて、大きく業務内容が違うということはありませんが、持っているスキルが異なるため、強みは変わってくると思います。 作業療法士は日常生活の活動を通して、利用者さんの精神症状や、何がやりにくくなっているのかなどをアセスメントします。看護師は、医療的なデータなどもふまえながら、さらに精神症状の細かなアセスメントをします。 理論でいえば、オレムの「セルフケア理論」や「メンタルステータスイグザミネーション」という精神機能をアセスメントするものを活用しています。 ―精神科医との役割の違いはいかがですか? 進: 私個人の考えではありますが、簡単に言えば、医師は利用者さんとはコミュニケーションを取りながら、精神症状に合う薬を調整しています。一方、私たち訪問看護ステーションは、生活に直接的に関わるところで支援しています。どう生活を組み立てているのか、コミュニケーション技術を使いながら、行動までのつながりを意識して一緒に考えていきます。 ―生活を組み立てるについて、詳しく教えていただけますか。 進: 人間関係から家のこと、子どもの世話、お金のやりくり、買い物などさまざまな問題を一緒に解決していきます。 例えば、お金の使い方が荒く、生活もままならない場合、「それなら封筒を小分けにして管理する」だけではなく、なぜお金の管理ができないのかを明らかにします。幻聴で「〇〇を買え」と命令されているのか、どう病状が生活と関係しているのかアセスメントすることによって関わり方が変わってきます。 小瀬古: みのりでは、主体性を軸にした看護を大切にしています。ですから、看護計画も利用者さんと一緒に立てているんです。こちらが計画を立てて、紙を渡すだけでは意味がありません。 利用者さんが自分のことを知り、症状とつきあいながら生活を組みたてていく必要があります。看護計画をベースにケアをするわけですから、契約書と同じ意味をもつと考えています。 とはいうものの、本人と看護計画を立てるときには「言うは易し行うは難し」で、技術が必要です。 例えば、ゴミ屋敷に住んでいる利用者さんがいたとします。発達障害なのか、精神障害の影響なのかによって、ゴミ屋敷になったプロセスは変わってきます。 あるケースでは、「片付けましょう」と提案して一旦受け入れてもらい、片付けをしました。だけど、ゴミの量が膨大で処分するのに料金が発生してしまうとなったときに、「お前らが勝手に片付けをしたんだから払え!」と言われてしまったと聞いたことがあります。 なぜ、こういう結果になってしまったのかを推測すると、利用者さんの主体性を軸とした看護計画になっていない可能性があります。 訪問看護が誘導するようなアセスメントやアプローチが存在し、利用者さんとしては「勝手にやられた」という認識をもつことは理解できると思います。 対話を通して症状なのか、本人のこだわりなのか、ゴミ屋敷に至るまでどのようなプロセスがあったのかなど、きちんとキャッチしながら、本人と一緒に看護計画を立てることが大切です。 そして、そこに話す人の技術が必須になるとは感じます。 ショックからの立ち直り方 ―ゴミの件のように利用者さんとのトラブルになることもあるようですが、拒否された時はショックではないですか? 小瀬古: 拒否が続いた時には訪問看護師として向いていないのではないかと、何度も思いましたよ。そういうときに、進さんから言われていたのは「小瀬古さん(肩をポンポン叩く)、今日もラッキーやったな。こんな経験もあと5年くらい経ったらできへんよ」と。 当時は「何がラッキーや」と思いましたけど(笑)。私の場合は、これを機会として捉えて、今しかできない経験から学ぶことも多いだろうなと、思考の転換ができるようになりました。利用者さんに「お前なんやねん」と怒鳴られても、「自分に対して何か言ってくるというのは、つまり“言える関係性”ではあるんだ」と捉えられるようになったんです。 看護師として、利用者さんの苦しみがそこにあるはずだから、どう転換していくか、その巻き返しをどうするかを考えられるようになりました。 進: すべてを機会として活用することを、当ステーションでは働きかけています。だからといって、何をされてもいいということを言いたいわけではありません。不可抗力で女性スタッフが抱き付かれるなどのケースも実際ありますし、スタッフ自身が怖い思いや、悔しい思いをすることもあります。 その時に、看護師としての思いと、女性としての思いがあって苦しむこともあります。そこを一旦、自分の持っている役割のなかで、それぞれの立場の気持ちに分けて考えた上で、次の行動を決めてもらいます。 看護師として行くと決めるのか、怖さが勝るから行かないのか、いずれの選択であっても私は受け止めます。明らかに精神症状が悪化しているのであれば、複数名訪問もできますが、男性に変われば大丈夫という単純な話ではないですよね。 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括管理責任者 / 看護師・WRAPファシリテーター 進あすか 精神科の急性期閉鎖病棟に勤務していた頃、退院した患者がすぐ病院に戻ってくる現状を見て地域に興味を持つ。30歳の頃に精神科特化型の訪問看護ステーションに転職。より良い働き方とケアの実現のため、2012年にみのり訪問看護ステーションの立ち上げる。2020年11月現在、大阪、東京、横浜、奈良に4事業所・8つのサテライトを運営している。 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括所長 / 精神科認定看護師・WRAPファシリテーター 小瀬古伸幸 看護補助者として精神科病院に就職、勤めながら正看護師を取得。その後、精神科救急病棟に約8年勤務。進さんに出会い、病院の中からではなく地域から精神科看護を変えていきたい思いから、訪問看護ステーションみのりに入職。 精神訪問看護についてもっと知りたい方は、こちらの特集をご覧ください。

インタビュー
2021年1月22日
2021年1月22日

【精神科訪問看護】『きつい?怖い?』精神科訪問看護の醍醐味

病院から訪問看護ステーションに転職すると、利用者さんとの関わり方などに戸惑う方が多くいます。精神科訪問看護は、病院やほかの訪問看護とどのような違いがあるのでしょうか。 訪問看護ステーションみのり の進さんと小瀬古さんに、転職時の悩みや精神科訪問看護の醍醐味についてお伺いしました。 病院から訪問看護へ転職の難しさ 進:見えない精神機能や精神症状を可視化していくことや、「これが正解」ということがわからない難しさはあります。 中には緊迫した状況はありますが、導入からしっかりと関わっていくと、そのような状態に至る前に回避できると感じます。 私自身は精神の訪問看護を怖いと感じた経験もあります。 昔、病棟でのやり方をそのまま訪問看護に持ち込んだら、知らない間に利用者さんが「看護師に死ねと言われた」と周囲に話しまわっていたことがありました。 このときに、こちらのペースで思い込みのままやっていると、突然相手が思いがけないことをしてくる怖さを感じました。 これまでも病院でそれなりにやってこられたから、その経験を活かして、「バイタルを測って話をすればいいんでしょ」というように、あまり勉強してこない人もいましたが、知識や技術が少ないまま訪問をしていると、怖さや難しさなどを感じることがあると思います。 小瀬古: 自分も最初は利用者さんから訪問拒否ばかり受けて、難しさを感じていました。 新人の時には、注射の練習は何度もやりますけど、コミュニケーションの練習はしないですよね。なぜならコミュニケーションって普段から練習しなくても相手と意思疎通がとれれば問題ないわけで、看護をするために練習しようとならないわけですね。 しかし、自分の感覚だけで対話いくと、どんどんおかしな方向に向かっていくことを痛感しています。現場での積み重ねを試行錯誤しながら言語化して、根拠となる文献を紐解き、また現場で実践するといったサイクルで徐々に上達したと思います。 精神訪問看護の醍醐味 小瀬古: 訪問看護に来て、自分はもう病院には戻れないなと思ったのは、自分が地域でやればやるほど、利用者さんだけではなく、地域全体も変わっていくのを目の当たりにしたことでしょうか。 違う組織の人たちと仕事をすることも多くなり、自分が地域の役割の一端を担っているという認識が強くなっていきました。同時にその責任は大きいものと感じています。実際に行政機関や家族、利用者さんご本人から直接ご相談をいただくことも多いです。 自分たちの精神科訪問看護の意義や目的、具体的な実践が当事者や家族に伝わると、自ら「訪問看護を受けたい」という依頼も多くなります。 長くやればやるほど、地域での信頼も増していくので、地域の役割としての変化がしっかりと出てきます。それが自分の中ではとても大きいですね。 ―印象的な利用者さんは、いらっしゃいますか? 小瀬古: パーソナリティー障害の方に、「訪問看護を受けたことで、自分自身が変われた」と言ってもらえたことが印象に残っています。 当初「私を良くするのが医療者じゃないのか」と、利用者さんは言われたのですが、私はサポートの意味を山登りに例えてご説明しました。 「目的地まで連れていくことも、あなたの荷物を背負うことはできない。でも山頂まであなたと向き合い、一緒に考えて歩いていくことはできる」という内容です。 その後、「どのような自分で在りたいのか」「周りの人を振り回すような言動や自傷行為は、どのような状況や人との関わりで生じたのか」「そのとき本当はどうしたかったのか」など、対話していく中で、ご本人が少しずつ変化していくのが見えました。 私が当時の事業所を離れることになった時、ご本人が 「自分は当事者として今のままではダメだとわかってはいたけれども、どうすればいいかわからなかった。だけど訪問看護のケアを受け、当事者としてやれることがすごく見えてきた」 と話してくれました。また、 「自分の経験を活かし、ピアスタッフとして当事者を支える活動に参加したい」 と将来の希望も語ってくれて、自分が関わってよかったと思いましたね。 ―素敵なエピソードですね。 進さんは精神科訪問看護の醍醐味について、いかがでしょうか? 進: 精神科看護では利用者さんと向き合い、寄り添うことをしますが、そのなかでお互いに成長していくものだと思っています。 例えば、「貯金がなくなったから風俗で働く」と利用者さんが言ったとします。 その時に、最初から「風俗はダメ」と伝えるのではなく、「どうしてその選択をしたのか」ということを詳細にやりとりできるのが精神科訪問看護だと思うんです。 その方が考える「ありたい自分」を一緒に探して、どんなことができるか一緒に考える。そうすることで、利用者さんとの経験を通じて、看護師も成長するし、ご本人もどんどん元気になっていく。 利用者さん主体で、症状を持ちながらも考えて選択し、行動することをサポートする。そうした人生を歩んでいるところに向き合っていくと、その循環の中で看護師自身も成長できます。 それが精神科訪問看護の醍醐味ではないでしょうか。 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括管理責任者 / 看護師・WRAPファシリテーター 進あすか 精神科の急性期閉鎖病棟に勤務していた頃、退院した患者がすぐ病院に戻ってくる現状を見て地域に興味を持つ。30歳の頃に精神科特化型の訪問看護ステーションに転職。より良い働き方とケアの実現のため、2012年にみのり訪問看護ステーションの立ち上げる。2020年11月現在、大阪、東京、横浜、奈良に4事業所・8つのサテライトを運営している。 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括所長 / 精神科認定看護師・WRAPファシリテーター 小瀬古伸幸 看護補助者として精神科病院に就職、勤めながら正看護師を取得。その後、精神科救急病棟に約8年勤務。進さんに出会い、病院の中からではなく地域から精神科看護を変えていきたい思いから、訪問看護ステーションみのりに入職。

インタビュー
2021年1月22日
2021年1月22日

【精神科訪問看護】向き合い、選ぶ採用

精神科訪問看護を提供する、訪問看護ステーションみのりの採用基準を進さん、小瀬古さんにお話頂きました。 どんな人材を求め、どういった意識付けをしているのか、引き続き、進さんと小瀬古さんにお伺いしていきます。 採用したいのはどんな人材? 進: みのりでは、組織の中でも自分の役割とは何かを見つけて、主体的に動いていってくれる方を採用したいと思っています。 採用基準としては、自分が正しい、利用者さんのために何かしてあげたいと押し付けるのではなく、自分としっかり向き合うことができる、向き合いたいと思っていることです。 みのりは土日祝日休み、有休消化率100%で給料もそこそこ、16~17時までの時短などもあり、子育て中の人も働きやすい仕組みなので、応募者は多いです。最近は小瀬古が書いた本(※注1)を読んで、みのりで働きたいと思ってくれている方もいますね。 そこからメールでやりとりし、電話やzoomなどで一次面接、同行訪問、最後に私との対面面接の流れです。 まず、メールの時点で「自分と向き合うこと、アウトプット、自己研鑽を求めます」とはっきり書くと、そこで半分くらいは辞退します。履歴書から、物事を選択した理由とその方の行動が一致しているかは厳しく見ていくようにしています。 結果的には、問い合わせから実際に採用になるまで、最近は20人に1人くらいの割合になっています。 小瀬古: よくある話で言うと、例えば新卒でA病院に入りました。1年くらいで辞めて、次はB病院の精神科で2年働きました。次はCという老人福祉施設に行って半年で辞めて、訪問看護として当ステーションに応募したとします。 それぞれ転職した理由を聞くと、「A病院はこういう形で学びになると思ったけど、管理が厳しくてすごく窮屈になってしまった」ともっともらしい理由は出てくるんです。 でも詳細を確認していくと、なんとなく就職先を選択している人が多く、中には人のせいや環境のせいにして転職を繰り返している人もいます。 新人に必要なスキルは ―新人の訪問看護師に必要なスキルなどはありますか? 進: 利用者さんのところに行くと1対1なので、最低限何が起こっているのかを言語化して、記録に書けないといけません。 特に若い頃はインプットばかりに偏りがちなので、経験したことを自分の言葉で整理して、アウトプットすることを大事にしています。アウトプットは本人の学びにはなるし、聞く側も自分がこういう状況だったらどうしようと、考えることになりますよね。 チームとしては、朝と夕に30分ずつミーティングの時間を設けていて、先輩やスタッフ同士で意見交換ができるようにしています。情報共有としての申し送りではなく、教育としての気づきや、視野を広げるのが目的です。 それだけでは時間が足りないこともあるので、会社で支給しているiPadで自分のもやもやとした話を社内SNSにアウトプットして、スタッフ全員が共有できるようにしています。 小瀬古: また精神科の訪問看護が初めてという方は、どうしても利用者さんに拒否されることがあります。その場合は拒否のつらさも共有しながら、利用者さんの背景などを一緒にチームで考えていきます。 「長時間の対応で気を遣っていたのかな?」「ベテランさんとの信頼関係に執着していたのかな?」と話していくと、その利用者さんの生きづらさが見えてきます。 この生きづらさに寄り添っていけるようになると、新人も受け入れてもらえますし、利用者さんも生きやすくなっていきます。 そこに精神科の技術があります。 ―最後に、知識や技術のアップデートをする方法や意識していることがあれば教えてください。 小瀬古: 看護師は疾患や看護の勉強をする人は多いですけど、コミュニケーションに関して勉強することは少ないのではないかと思います。もちろん利用者さんとのやりとりを後ほど振り返ることでの学びはありますが、それだけではなくスタッフ間のやりとりの中から勉強になることもあります。 例えば、管理職がスタッフにどう動機付けをして、どんな風に人が動いていくかも1つの学びです。日々の仕事やスタッフへの接し方でも、応用できるものがありますよね。 ささいなことも、自分だったら、相手だったら、上司だったら、部下だったらと立場を変えて想像することで、知識と経験が積み重なっていくと思います。 (※注1)『精神疾患をもつ人を、病院でない所で支援するときにまず読む本 “横綱級”困難ケースにしないための技と型』小瀬古伸幸著、医学書院、2019年09月第1版 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括管理責任者 / 看護師・WRAPファシリテーター 進あすか 精神科の急性期閉鎖病棟に勤務していた頃、退院した患者がすぐ病院に戻ってくる現状を見て地域に興味を持つ。30歳の頃に精神科特化型の訪問看護ステーションに転職。より良い働き方とケアの実現のため、2012年にみのり訪問看護ステーションの立ち上げる。2020年11月現在、大阪、東京、横浜、奈良に4事業所・8つのサテライトを運営している。 トキノ株式会社 訪問看護ステーションみのり 統括所長 / 精神科認定看護師・WRAPファシリテーター 小瀬古伸幸 看護補助者として精神科病院に就職、勤めながら正看護師を取得。その後、精神科救急病棟に約8年勤務。進さんに出会い、病院の中からではなく地域から精神科看護を変えていきたい思いから、訪問看護ステーションみのりに入職。 採用と定着についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

あなたにオススメの記事

× 会員登録する(無料) ログインはこちら