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2022年9月20日
2022年9月20日

[3]実習の負担軽減は準備次第! 受け入れ時に役立つ工夫・ノウハウ

この連載では、大変そう…と思われがちな訪問看護実習の受け入れについて意外とそうじゃないかも、と思ってもらえるようなあれこれをご紹介します。今回は、実習を受け入れる場合、訪問看護ステーションの側でどういった準備を行えばよいかご紹介します。 実習受け入れ前の準備が大切 実習を受け入れることになった場合、実習受け入れ前の準備がとても大切です。訪問看護ステーションで行う実習前の主な準備としては次のようなことがあります。 ・施設オリエンテーションの準備 ・実習内容の確認 ・学生を受け入れるにあたってのルールづくり ・同行訪問可能なご家庭の選定 ・カルテの取り扱い(電子カルテではあれば学生専用のID・パスワードの設定など) ・実習指導担当者の受け持ち利用者さんの調整 ・実習費に関連する書類の作成 など今回は、ステーションの管理者の方からどうすればよいか質問を受けることの多い、学生を受け入れるにあたってのルールづくりと同行訪問可能なご家庭の選定について準備のコツをご紹介します。 実習に関する取り決めはスタッフとも共有 学生の受け入れにあたっては、ステーション内で主に以下のことを取り決めておくとよいでしょう。 ・学生の待機場所や休憩場所、持ち物の置き場 ・実習の集合時間 ・学生の服装 ・学生の持ち物 ・学生がカルテを閲覧するときの方法 など 「集合時間」は、学生が訪問看護ステーションに入室可能な時間にするとよいです。ステーションが開く前に学生が着いてしまうと、病院や施設と異なり、外で待機することになります。特に住宅街にあるステーションでは、近所の住民の方のご迷惑になることもあります。ですので、確実に学生が入室できる時間に設定し、学生には時間厳守であることを伝えます。なお、ビル内にあるステーションの場合、呼び出し方なども取り決めておきます。 また「持ち物」では、季節に応じて訪問先への移動時に必要となる防寒・防暑対策など細やかな指示が必要です。冬季であれば耳当てやカイロ、夏季であればサンバイザーなどを各自で用意するように伝える訪問看護ステーションもあります。自転車や徒歩で訪問する場合には必須の注意事項ですね。 「カルテを閲覧するときの方法」は、第1回でも触れましたが、個人情報保護の観点から学生専用のID・パスワードを用意しておきます。また、スタッフには、スタッフがいつも使用しているID・パスワードは、学生に教えないように伝えておきます。 こうした取り決めは、オリエンテーション用の資料にまとめておき、学生だけでなく、スタッフも閲覧できるようにしておくとよいでしょう。実習指導担当以外のスタッフが学生から質問を受けたときに、スムーズに対応できます。 受け入れ家庭選定のポイント 実習の受け入れ準備の中でとても大切なのが、実習を受け入れていただけるご家庭の選定です。受け入れ家庭の選定は、利用者さんの状況、利用者さんと学生の両方の立場、訪問看護師の業務の状況などをふまえて行います。利用者さんの状態によっては、学生の同行が負担になる場合もあるので、基本的には次のような条件を満たすご家庭を選定するとよいでしょう。 ・病状や精神状態が安定している ・週に1回以上の訪問を受けている ・学生の同行訪問に同意している 受け入れ可能なご家庭を選んだら、学校の教員と実習指導担当者で打ち合わせをし、学生が受け持つ利用者さんを具体的に決めていきます。 決め方としては、学生が希望する疾病や日常生活動作(ADL)の程度に合わせて決める場合もあれば、利用者さんの状況やスタッフのマンパワーをふまえて、訪問看護ステーション側で対象となる候補をリストアップする方法もあります。他に、小児の訪問看護が多いステーションでは、学生が小児の在宅看護を学べる機会と考え、ステーションの特徴を活かした候補を挙げてくださる場合もあります。 そして、実習の開始前に、学生の同行訪問について利用者さんとご家族に同意を得ます。実習が始まる数ヵ月前に同意を得るステーションもあれば、訪問看護契約時に同意を得るステーションもあります。 契約時の場合、例えば、施設紹介の際に「学生の実習を受け入れることがあります」と説明し、看護教育に携わっていることをあらかじめ伝えておくと理解が得られやすいです。また、契約書に学生の同行訪問について意思確認できるチェック項目を設けることで、候補のリストアップもしやすくなりますね。 このように同意の取得にあたっては、利用者さんやご家族に対して、訪問看護実習へのご協力の同意が得られていることを確認できるしくみづくりが必要です。 電子カルテの画像情報を活かした実習準備 ここで日ごろの訪問看護業務を行いながら、電子カルテのシステムを活用し、学生の実習準備をしてくださっているステーションをご紹介します。 「訪問看護ステーション彩」の管理者である上野朋子さんは、利用者さんとご家族から許可を得て、普段から利用者さんの療養環境や使用中の医療機器の写真を撮っています。そして、画像をカルテに保存し、学生との情報共有に活用されています。 このコロナ禍で実習時の同行訪問が難しいケースもあるため、なかなか現場に行けない学生にとって写真が貴重な情報源になっているそうです。在宅酸素療法や点滴、吸引などが在宅でどのように行われているのか、写真を通して情報収集でき、利用者さんに実施しているケアや利用している医療機器についても理解しやすくなります。 また、学生だけでなく、スタッフにとっても担当以外の利用者さんの状態がよくわかるため、ステーション内の情報共有にも役立っているとのことでした。 ■取材協力者訪問看護ステーション彩~いろどり~管理者 上野 朋子さんhttps://tact-company.com/ 執筆 王 麗華大東文化大学 スポーツ・健康科学部 看護学科 教授 ●プロフィール1999年、国際医療福祉大学保健学部看護学科を卒業。看護師と保健師資格取得後、地域の病院と訪問看護ステーションでの勤務を経験。その後、国際医療福祉大学看護学科准教授などを経て、2018年より現職。 記事編集:株式会社照林社

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2022年9月20日
2022年9月20日

安心感をどう作るか③ 心理的安全性が安心して働ける職場を作る

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。今回は、岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山の野崎加世子さんです。 お話野崎 加世子岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山 管理者 2020年1月、新型コロナウイルス感染症がまだまだ遠い所の出来事だったころ、職員の一人に「利用者さんに感染者が出たら、訪問するのですか?」と尋ねられました。 今までとは違う怖さ 職員の質問に、管理者の私は「いつもどおりの感染対策で」と答えられませんでした。以前のSARSやMERSとは何かが違う感じがありました。看護師になって43年、訪問看護を続けて30年、私自身の看護師歴のなかで、初めて味わう怖さでした。 特に流行初期のころ、新型コロナウイルス感染症はその正体がわからず、得体の知れない不気味さがありました。 感染対策チームを立ち上げる 感染拡大が避けられないものになりはじめた2020年3月、「新型コロナウイルス感染対策チーム」を立ち上げました。 私たちのステーションは、利用者が500人を超える大規模事業所です。居宅介護支援事業所、重度の方を対象としたナーシングデイなどを併設し、60人の職員がいます。感染対策チームは、当初管理者だけがメンバーとなりましたが、現場の声を反映させるために、各事業所の代表も加わりました。 主な活動は、国や自治体などからの通達の確認や最新情報の収集です。また、感染管理認定看護師を招いて、全事業所の感染対策について具体的な意見をもらいました。 最新情報を全職員に届ける そうした情報を感染対策チームは、「新型コロナウイルスニュース」として全職員向けに発行。職員は、各自に配布されたタブレット端末ですぐに確認することができます(タブレットは情報発信、周知のツールとして非常に有効でした)。 ニュースには、ほかの感染症との違い、濃厚接触者の新定義、訪問時や職場での感染対策、PPE(個人防護具)の正しい装着法などの最新情報を掲載しました。これにより、「正しく恐れる」ことができるようになりました。また、法人の考えかたや、濃厚接触者に対する処遇方針などを掲載することで、「組織は、職員の安全を最優先に考えてくれる」という安心感を届けることもできました。 不安の中身を知る 一口に「不安」といっても、その種類や度合いは、職員一人ひとりで違います。そこで、日本赤十字社の「COVID-19対応者のためのストレスチェックリスト」を活用し、「不安の見える化」を行いました。すると、「怖い、怖い」と口に出している職員よりも、黙って仕事をしている職員のほうが、多くのストレスを抱えていることがわかりました。 自分の素直な気持ちを口に出せない職場は、「心理的安全性」の低い職場です。それは、私たちの目指す職場ではありません。職員の本当の気持ちを知るために、全職員と1対1の面談を行いました。一人あたり20〜30分。面接時の距離、換気、時間など感染対策を行いながら、1対1で行った面接には、とても意義があったと感じています。 「訪問したくない」と言える雰囲気 面談で配慮したのは、「訪問したくない」「とても怖い」など、自分の気持ちをオープンにしてもいいんだという雰囲気づくりです。 訪問したくない理由は、人それぞれです。家族に小さい子どもがいる、年老いた親の介護をしているなど、はっきりした理由もあれば、漠然と「怖い」と思う人もいます。感染したくない、感染させたくない……。看護師だって人間です。「看護師だから『怖い』と言ってはいけない」ということはありません。 「発熱など感染の疑いのある利用者宅に訪問したくないと職員が言った場合は、私たちが訪問しよう」と管理職どうしで合意していました。その覚悟のうえで職員の言葉に耳を傾けたから、職員は胸の内を話せたのだと思います。 「心理的安全性」の高い職場 不安や恐怖心は、変化します。身近な人が感染すれば、他人事ではなくなります。「看護師さんがいる家だから」と、地域で差別的な扱いを受ける職員も出てきました。 ストレスチェック、個人面談、さらには、アンケートを繰り返しながら、いつでも不安な気持ちを口にすることができる雰囲気、まさに、「心理的安全性」の高い職場づくりを心がけていきました。 そんなある日、一人の看護師が訪問で濃厚接触者となりました。そのころは2週間の自宅待機です。その職員は、「みんなに迷惑をかけて申し訳ない」と言います。でも、「謝る必要なんかない」とほかの職員たちは思っています。 私は、ほかのチームに応援を要請したことや、その職員が担当していた利用者さんの様子を電話で伝えるとともに、地元で評判の饅頭を自宅玄関先にそっと置きました。 チームの仲間も、代わる代わる買い物を代行するなどして自宅待機を支えました。その姿を見て、ほかのチームも心強い仲間の存在を感じたことと思います。安心して働くことができる、そんな職場風土は、私たちにとって、かけがえのない財産になりました。 ―第5回に続く  記事編集:株式会社メディカ出版

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2022年9月13日
2022年9月13日

【セミナーレポート】vol.1 BCP策定の基礎知識/BCP策定へのSTEP~いのちと暮らしを守る、継続可能な業務計画を考える~

2022年6月24日(金)に行ったNsPace(ナースペース)主催の訪問看護師向けオンラインセミナー「BCP策定へのSTEP~いのちと暮らしを守る、継続可能な業務計画を考える~」。来年度の診療報酬改定で訪問看護ステーションでもBCPの策定が義務化されることを受け、BCPとはどんなものか、どういう手順でつくればいいのかを、複数の訪問看護ステーションを運営するWyL株式会社 代表取締役の岩本大希さんに教えてもらいました。第1回の本記事では、今知っておきたい基礎知識についてご紹介します。※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】岩本 大希さんWyL株式会社 代表取締役/ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長/看護師・保健師・在宅看護専門看護師2016年4月にWyL株式会社を創立し、直営で2店舗、関連会社でフランチャイズ4店舗を運営(2020年12月現在)。訪問看護現場におけるBCPの重要性にいち早く着目し、2021年には厚生労働省が推進する研究事業(厚生労働科学特別研究事業)「在宅医療の事業継続計画(BCP)策定に係る研究」に参画。 目次▶ BCPってどんなもの? 定義と策定が必要な理由▶ 医療領域におけるBCP策定の重要性と難しさ ・医療領域のBCPは独自に作成することが必要▶ BCPと災害対策マニュアルとの違い ・使用する順番は災害対応マニュアル→BCP▶ 同業者や地域の他業種と一緒につくるBCPもある --> ▶ BCPってどんなもの? 定義と策定が必要な理由 近年よく耳にするようになった「BCP」とは、正式には「Business Continuity Planning」といい、日本語では「事業継続計画」と呼ばれています。その名前のとおり、災害をはじめとした何らかのリスクが発生した際、万が一業務を中断せざるを得ない状況になっても、できるだけ早く復旧するための計画のことです。『何らかのリスク』とは、具体的には以下のようなものが挙げられます。 自然災害(天災):地震・台風・水害・土砂崩れ・積雪・感染症・火災技術的リスク(事故):停電・上水道停止・下水道機能不全・火災・ガス共有停止・PCシャットダウン人為的リスク(人災):多数傷病者事故・テロ BCPを策定する理由は、端的にいうと『亡くなってしまう方を減らすため』。BCPをきちんと策定し、それに準じた対応をすることで、災害それ自体でいのちを落とす方の数、または二次災害を含めた関連死の件数を半減させられる可能性があるといわれています。ちなみに、この『亡くなってしまう方』の中には、利用者さんだけでなく従業員も含まれます。つまりBCPの策定は、みなさんの周りにいる大切な人たちの、そしてみなさん自身のいのちを守るための重要なアクションなのです。 ▶ 医療領域におけるBCP策定の重要性と難しさ BCPの策定が早くから進められていた業界の代表例としては、工場をもつ製造業や鉄道をはじめとした交通事業、水道・ガス・電気などのインフラ事業が挙げられます。サービスの供給をストップするわけにはいかない業界が先駆けとなっていることがわかるでしょう。 では、私たちが従事する福祉を含めた医療サービスはどうでしょうか? 間違いなく『公益性が高いインフラ』に該当するはずですよね。そこで2024年度の診療報酬改定で、訪問看護ステーションにもBCPの策定が必須となったのだと考えられます。 医療領域のBCPは独自に作成することが必要 医療現場におけるBCPの策定には課題が多くあります。まず大前提として、医療サービスの提供には高い専門性が求められ、誰でもできるわけではありません。さらに、発災直後に患者数、それも緊急性の高いケースが急増するという需要の変化や、個別性が高いサービスであることなども考慮しなければならない。つまり、他の業界で使われているものを流用することは難しく、自分たちで一から対策を練らなければなりません。 ▶ BCPと災害対策マニュアルとの違い BCPというワードを聞いて「既存の災害対策マニュアルだけでは不十分なの?」と疑問に思われる方もいらっしゃるかと思いますが、BCPと災害対応マニュアルでは役割が異なります。BCPは事業を復旧させていくための大きなプランで、災害対応マニュアルはその中の一部、初動の部分のみについて対応をまとめたものです。 なお、災害対策マニュアルは事象(地震、水害など)ごとに対応をまとめているのに対し、BCPは天災に限らず事故や人災などあらゆるリスクに対応する形、『オールハザードアプローチ』となっているのもポイントです。BCPは、原因となるリスクが何であるかに関わらず、事業の継続・復旧を図るための計画をまとめたものということですね。 使用する順番は災害対応マニュアル→BCP 活用の順番としては、何らかのリスクが起こった際、まずは災害対応マニュアルを使って初期対応にあたります。その後、事業をすぐに復旧することが難しい場合はBCPを発動し、計画に則ってじわじわと元の状態に戻していく流れになります。 ▶ 同業者や地域の他業種と一緒につくるBCPもある BCPと一口にいっても、厳密にはいくつかの種類があります。まずは、事業所単位での対応を考えるBCP。基本的にはこれが最小単位となるでしょう。これをベースにして、外部組織と連携してつくるBCPがあります。 連携型BCP:近隣の同業者と連携してつくるBCP地域包括BCP:同じエリアにある病院やヘルパー事業所、クリニック、医師会、保健所など、他業態の組織も含めて幅広く連携してつくるBCP  こうしてネットワークが広がれば、ひとつの事業所単位では対応できないリスクも乗り越えられる可能性が高まります。ただ、最小単位である事業所のBCPをまとめられていない段階で、連携型や地域包括BCPのことまで考えるのは、なかなかハードルが高いはず。まずは事業所のBCPを策定することで、自分たちのリソースだけでは対応できないこと、連携の必要性が自ずと見えてくるので、そこを最初の第一歩として取り組んでもらえればいいのではと思います。 次回は「vol.2 具体的なBCP策定手順 前編」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年9月13日
2022年9月13日

[2]たくさんあります! ぜひ、知ってほしい、実習受け入れのメリット

この連載では、大変そう…と思われがちな訪問看護実習の受け入れについて意外とそうじゃないかも、と思ってもらえるようなあれこれをご紹介します。今回は、実習受け入れのメリットについて訪問看護ステーションの管理者の方のお話をもとにご紹介します。 実習受け入れのメリットを教えていただきました 訪問看護実習を受け入れることが、訪問看護ステーションにどのような影響を与えるのか、学生を送り出す側としてはとても気になるところです。そんな中、私たちの実習施設「ニーズ訪問看護・リハビリステーション西大宮」の管理者、金子孝奈さんから受け入れの実際についてお話を伺う機会がありました。 日々とても忙しい業務の中で実習にご協力いただいているので、実習受け入れの負担が大きいのではないかと考えていましたが、意外にも「実習を受け入れるメリットがあるよ」と教えていただきました。教えていただいたいくつかの例をご紹介します。 自分の行っているケアを言語化する貴重な機会に 利用者さんのお宅では、訪問看護師は学生に一つひとつ順を追って行っているケアについて説明していきます。手技の根拠や観察のポイント、注意点を言語化することで、普段何気なく実施しているケアを振り返る機会になっているとのことでした。 そして、その場にいる利用者さんやご家族からも「これはこんな意味があったのね」「注意して見てくれているのね」といった反応があり、訪問看護師に対する信頼がさらに増したそうです。 実習は、学生にとって実際に訪問看護師が行う点滴や吸引などを間近で見学できる貴重な場です。それが指導を担当する看護師や利用者さん、ご家族にとってもプラスになっていることがわかり、とてもうれしく思いました。 学生の新鮮なアイディアが課題解決の糸口に 時には学生の思いも寄らないアイディアに助けられ、利用者さんが抱える課題の解決方法が見つかることもあるようです。 例えば……。どうしても薬を飲み忘れてしまう利用者さんの服薬支援に着目し、実習指導を担当する看護師と学生でアセスメントを行いました。すると、学生から「その利用者さんは携帯電話を持っていますか?」という質問が出てきました。看護師は質問の意図がわからなかったので、学生に理由をたずねると「服薬時間に合わせて、目覚まし時計のように携帯電話にタイマー設定をすればよいかと思いました」との答えが返ってきました。この発想は、看護師にとってとても新鮮に思えたそうです。 さっそくこのアイディアを、利用者さんの服薬支援の一環として使ってくださり、利用者さんはアラーム音をきっかけに服薬のことを思い出すので飲み忘れの軽減につながったとのことでした。これは、利用者さんが使用している身近なものを使って、セルフケアの援助が可能になった例です。生活の場のことですから、とてもよいアイディアだったと思います。 学生の発想や個性を大切にし、吟味したうえで、訪問看護の現場で活かしていただいたことをとても感謝しています。 学生の学ぶ姿にエネルギーをもらえる 同行訪問では、学生はバイタルサインの測定やおむつ交換、体位変換、清拭などのケアに参加させていただくことがあります。ケアへの参加を通じて、例えば「体位変換にはこのくらいの体力を使うんだ」と実体験でき、学ぶ姿勢がどんどん変わってくるそうです。 いろいろな気づきを得て、感じた疑問を実習指導の担当者に話し、活発なディスカッションが展開されることもあると聞きました。学生との会話を通じて、『フレッシュなエネルギーをもらった気がします』と話してくださる訪問看護師の方もいらっしゃいました。 さらに、学生は訪問看護師が利用者さんお一人おひとりの病状や体調、生活スタイルに合わせてケアを行う様子を間近で見学しながら、在宅ならではのケアや援助に対する理解を深めていきます。その人らしい暮らしを支える訪問看護に感動し、実習前よりも興味・関心を高める学生もいます。 また、学生と会話をする利用者さんにはいつもとは違う表情やしぐさがあるそうです。いきいきとした表情が見られることもあり、こうしたさまざまなできごとから、実習指導担当者がエネルギーをもらい、訪問看護の楽しさを再発見することもあると教えていただきました。 若い人に訪問看護に携わってもらえるように希望を込めて 金子さんは、訪問看護実習を受け入れる理由について、次のようにお話しされます。「若い人にこれからも訪問看護に携わってもらえるように、という希望を込めて実習を受け入れています」 そして、受け入れにおいて大切にしていることについて、「実習の受け入れは不安があるかもしれませんが、実際にやってみないとわからないこともあります。やってみて問題に感じたところは改善しながら進めることも大切です。また、利用者さんの中には、孫を見るような目で学生さんに接してくれる人もいます。学生さんにとっても、利用者さんとのそうした触れ合いは、看護師になってからもいろいろな意味で役立つと考えています。ですから、できる限り在宅で暮らす利用者さんとふれ合える機会をつくっていますよ」と教えていただきました。 金子さんのお話の中にあった、「やってみて問題に感じたところ」については、学校の教員にもぜひ頼っていただければと思います。些細な問題でもフィードバックいただき、共有できれば幸いです。 ■取材協力者ニーズ訪問看護・リハビリステーション 西大宮所長 金子 孝奈さんhttps://www.needs-houmonkango.com/ 執筆 王 麗華大東文化大学 スポーツ・健康科学部 看護学科 教授 ●プロフィール1999年、国際医療福祉大学保健学部看護学科を卒業。看護師と保健師資格取得後、地域の病院と訪問看護ステーションでの勤務を経験。その後、国際医療福祉大学看護学科准教授などを経て、2018年より現職。 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年9月6日
2022年9月6日

[1]実習の受け入れ、こんなこと『疑問』に思っていませんか?

この連載では、大変そう…と思われがちな訪問看護実習の受け入れについて意外とそうじゃないかも、と思ってもらえるようなあれこれをご紹介します。今回は、訪問看護実習に関してよく寄せられる疑問を取り上げてお答えしましょう。 訪問看護の魅力を実習の場で伝えてほしい 近隣の看護学校から、看護実習を受け入れていただけないかと打診される訪問看護ステーションの管理者の方は多いのではないでしょうか。 看護教育では2022年のカリキュラム改正によって地域・在宅看護論が1年時から組み込まれ、地域連携の視点が教育開始時から必須になりました。 訪問看護ステーションは、地域・在宅看護実習の主な場であり、期待される役割はますます大きくなっています。とはいえ、日ごろから少ないスタッフで業務をこなしているステーションも多いため、なかなか受け入れに積極的になれないのではないかと思います。でも、在宅看護に興味のある学生や卒業後すぐに訪問看護師になりたいと考える学生も増えてきています。私は、大学の看護学科で地域・在宅看護学を教えています。訪問看護実習の受け入れをお願いする立場から、みなさんの現場で訪問看護の魅力を学生たちに伝えていただきたいと思います。 訪問看護実習への疑問、お答えします! 訪問看護ステーションの管理者の方々は学生の受け入れに関心はあるものの、事業所内のマンパワーの問題や場所が狭いといった環境面のご心配から、受け入れに一歩踏み切れないと思われることが多いようです。 確かにいろいろなご心配があるかと思いますが、正確な情報提供や少しの工夫で解決できることもあります。今回は、これまで管理者の方からお聞きしてきた疑問を取り上げて紹介していきます。少しでも訪問看護実習の受け入れについて知っていただき、意外と大変じゃないかも…と思っていたければ幸いです。 実習は1度受け入れたら、ずっと受け入れないといけないの? みなさん1度受け入れたら次の年は断れないんじゃないかと心配されることが多いようですが、答えは「ノー」です。 スタッフの人数や利用者さんの状況などから、受け入れが難しい年もあると思います。学生を送り出す側としては、毎年、受け入れのお願いをさせていただきますが、難しい状況のときは遠慮なく仰ってください。そして、また受け入れ態勢が整った段階でお声がけいただけければと思います。 学生に専用で使ってもらえるロッカーや部屋がないけれど受け入れても大丈夫? スペースの問題はご心配が大きいようで、このご質問を非常によく受けます。ですが、専用のロッカーや控え室がなくても問題ありません。 例えばロッカーがない場合、実習中の服装をあらかじめ指定していただくと、着替える必要がないのでロッカーはなくても問題ありません。白衣などの指定がなければ、学生は自宅からスニーカー、ポロシャツ、チノパンツ、冬はこれにカーディガンを加えた服装で、直接実習先に伺うことが多いです。 また、ステーション内で休憩する際は、差し支えなければ、スタッフの方が使用されているスペースを共有させていただけると助かります。スタッフの方と同じフロアにいることで、電話対応や関係者間の打ち合わせなど、事務所の日常業務を見学することができ、貴重な機会になると思っています。 実習に来てくれた学生に最初に伝えなければいけないことは?  まずは、利用者さんのお宅に伺うときの基本的なマナーについて共有をお願いします。もちろん、学校でも接遇・マナーに関する教育を行っていますが、訪問看護ならではのポイントがあるかと思います。 例えば、訪問したら靴はそろえて下座に置く、上着はたたんで身近に持っておく、利用者さんのお宅にあるものに触れるときはどうするのか、などです。訪問時に普段から注意していらっしゃることを、同行訪問前のオリエンテーションのときに伝えていただければ幸いです。 学生の中には、多職種と開催する会議に出席させていただけるケースもあるようです。その際は、会議出席時のマナーを知るチャンスなので、会議の目的・参加者・参加者の職種・日時と場所を把握する、携帯電話の電源を切る、メモをとるときは指導者の許可を得てから…といったようなことを伝えてあげてください。 個人情報の取り扱いが心配! 電子カルテの取り扱いで注意することは? 実習では、利用者さんを理解するため、実際に電子カルテの診療記録を閲覧させていただくことがあります。電子カルテは、すべての利用者さんの情報が電子保存されており、権限次第ではコピーも可能ですので、個人情報保護の観点から取り扱いには十分な注意が必要です。 学校でも実習前に個人情報の取り扱いおよびプライバシーポリシーに関する教育を行っていますが、訪問看護ステーション独自の規則も策定いただけるようお願いいたします。例えば、次のようなセキュリティ管理を徹底してもらえるとよいかと思います。 ・実習クールごとに学生専用のIDとパスワードを設定する。・電子カルテシステム上から使用権限を設定し、学生は担当患者の診療記録に限って閲覧のみ可能にする(入力・更新・転送不可にする)。・実習開始前に電子カルテのメンテナンス業者に確認を行う。 同行訪問の前は何をどこまで学生に伝えればよい? 同行訪問についてあれこれ説明していたら、ずっと話をしていたという実習指導担当者のご相談を受けたことがあります。少しでもよりよい実習にしたいとの思いからあれもこれも伝えなくては、と思ってくださるようです。 学生には、まずは利用者さんを知り、疾病や看護技術について復習し、実習での学びを深めてほしいと考えています。学生自身が情報を整理し、準備しておくことも必要ですので、同行訪問の前は訪問時に行うケアと、利用者さんの「身体状況」「環境・生活」「家族・介護の状況」「心理状況」の4点について事前にカルテを閲覧し、整理しておくように伝えてください(表1)。 また、学生は訪問先に伺うことに対してとても緊張しています。移動時間を利用して、訪問先での注意点、利用者さんやケア技術についてお話していただけると学生の緊張もほぐれてくるように思います。 表1 利用者さんの状況を整理するための4つのポイント カルテから情報収集し、利用者さんの状況を4つのポイントに沿って整理します。もし学生が利用さんの情報をうまく説明できないようでしたら、この4点について順に学生に質問を投げかけてみてください。 執筆 王 麗華大東文化大学 スポーツ・健康科学部 看護学科 教授 ●プロフィール1999年、国際医療福祉大学保健学部看護学科を卒業。看護師と保健師資格取得後、地域の病院と訪問看護ステーションでの勤務を経験。その後、国際医療福祉大学看護学科准教授などを経て、2018年より現職。 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年9月6日
2022年9月6日

CASE1スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき_その2:管理者としてどう支援できるか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第2回も前回に引き続き、利用者に感情移入しすぎているように見えるスタッフナースのケースです。今回は管理者として何ができるかを考えます。 はじめに 前回は、終末期の利用者さんに過度な感情移入をしているように見える佐藤さんの状況について、A・B・C・Dさんはどう考えるか、それぞれの考えを出しあいました。続く今回は、「訪問看護管理者として何ができるか」をテーマに意見交換を進めます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE1 スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき スタッフナースの佐藤さんについて、「担当利用者に感情移入しすぎなのではないか?」と別のスタッフナースから相談があった。どうやら寝ても覚めても利用者のことを考えているらしい。佐藤さんは、在宅看取りの看護に携わることを希望して、病院から訪問看護に転職してきた背景がある。終末期の利用者を担当するのは2回目、今回は主担当として任されている。そのためか思いが強くなりすぎているように見える佐藤さんに対して、管理者としてどのような支援ができるだろうか? 設問あなたがこの管理者であれば、佐藤さんのようなスタッフへの支援はどのようにすべきと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 管理者としてどのような支援ができるのか 講師ここまでのみなさんの意見から、管理者としては佐藤さんに何かしらの働きかけが必要なのは間違いなさそうです。では、具体的に、どのように働きかけますか? Aさん注2難しいかもしれませんが、私はステーションのメンバー全員でこの件について話をして、佐藤さん担当の利用者のところに、ほかのスタッフでも訪問できるようにしたいと思います。 Bさん私は、すぐに佐藤さんと話をする必要があるので、一対一の面談の時間を作ると思います。ほかのスタッフも含めてカンファレンスをできればよいですが、忙しいとなかなか集まりにくいので、現実的には一対一かなと。訪問看護師としての佐藤さんの成長を促すような支援ができればと考えます。 Cさん私も、チームで話をするにしても、まず佐藤さんと話をしておくべきだと思います。Bさんが言われたように、管理者が支援をするなら早いほうがよいと思うので。 講師一対一かチームか、人数の違いはありますが、佐藤さんと話す場を持つのは共通の意見ですね。その上で、できるだけ早いほうがよい、チームで対話するとしてもまずは一対一の面談からという考えも出ました。管理者として佐藤さんの異変に気がついたのであれば、すぐに行動に移すというのは自然な流れでしょう。 一対一の対話をどのように進めていくのか 講師では、佐藤さんと一対一で対話をすることを考えてみましょう。その面談は、どのような目的で行いましょうか。 Aさんこの利用者のことを佐藤さんが背負い込みすぎないような支援が目的になります。そしてその後に、より良いケアができるようになるために成長支援もしていきたいです。 Bさん事実確認もしたいです。制度外での訪問や、金銭授受といったことがもしあれば、そちらへの対処も検討しないといけませんから。佐藤さんやステーション全体の今後のことも考えて、この点も確認しておきたいです。 Cさん佐藤さんの育成を主目的に面談をするのは私も賛成です。ルールからの逸脱についての確認も、佐藤さんの状況についてはほかのスタッフから聞いただけなので、事実はどうなのか、管理者として確認することが必要だと思います。ですが、「〇〇さんがこう言っていたよ」と佐藤さんに伝えることは、うまく言えませんが間違っている気がするので、避けたいです。どんな言いかたで伝えるのがいいのか……、悩みます。 「何を目的に面談をするか」の小括 みなさんの話しあいから、面談の目的が大きく二つ出てきました。1.佐藤さんの、看護師としての成長をどうやって支援していくのか。2.ルールからの逸脱の確認。もし逸脱があれば対応を検討することも含まれます。これら二つの目的の背景には、管理者としてステーションをどのように運営していくべきなのかが根底にありますね。また、具体的に佐藤さんにどうやって伝えるのかの視点も登場しました。 そこで、次は「佐藤さんとの面談をどのように行うのか」を考えていきます。 ─第3回に続く 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学び、参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年9月6日
2022年9月6日

安心感をどう作るか② スタッフに安心感をもって訪問してもらうための工夫

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。今回は、東久留米白十字訪問看護ステーション所長の中島朋子さんによるお話の最終回です。 お話中島朋子東久留米白十字訪問看護ステーション 所長  「迷い」は「不安」につながります。スタッフが迷うことなく訪問に臨むためには、「判断基準」の共有が欠かせません。第1回では、安心できる仕事環境整備について述べましたが、今回はもう少し掘り下げて具体的な事柄をお伝えします。 PPE使用についてのスタッフの遠慮 スタッフに迷いが最も見受けられたのは、PPE(個人防護具)の着用についてでした。新型コロナウイルス感染症が拡大しはじめたころ、テレビや新聞などのメディアは、感染対策用品の不足を連日伝えていました。 それもあり、巷では、マスクが店頭から姿を消し、トイレットペーパーさえも、奪い合いが起こりました。医療現場も同様です。特に在宅は病院に比べPPE不足が顕著でした。 私たちの事業所では、先手先手のPPEストックを心がけていましたが、それでも、PPEの入手は潤沢にはいきません。たとえ入手できても、価格がつり上がっていました。 そうした状況のなか、スタッフは事業所のことを心配したのでしょう、PPEの使用に迷い、特に高額なN95マスクの装着には、遠慮がみられるようになりました。 躊躇なくPPEを使うために PPEの利用を控えてしまっていては、スタッフ自身、そしてスタッフがかかわる利用者や家族を感染から守ることはできません。何よりも、そのときの状況に適合した「感染対策マニュアル」のアップデートが急務でした。 そこで、まずは、所長の私と副所長とで、PPE使用の判断基準のベースを作りました。 ベース作りにあたっては、厚生労働省、日本看護協会、東京都看護協会などが発信する信頼できる情報に毎日目を通すとともに、メディアの報道にもアンテナを張りました。たとえば、スーパーコンピュータ「富岳」による、マスクごとの飛沫の拡散検証結果を見ることにより、N95マスクの有効性を知ることができました。 私と副所長は、PPEの在庫や調達予定なども加味しながら、ベース作りを急ぎました。 わかりやすさと実行のしやすさ 迷わず・躊躇なくPPEを使うための判断基準には、わかりやすさと実行のしやすさが必要です。 たとえば、訪問先で向かい合う相手(利用者・家族)に症状がある、または、症状がなくても、小児・認知症・呼吸困難などでマスクができない場合には、N95マスクをもれなく使用するなどの判断基準を、できるかぎり具体的に示しました。 判断基準の合意と共有 判断基準は、納得のもとに利用してもらう必要があります。「判断基準」をトップダウンで守ってもらうのではなく、スタッフから現場感覚にあふれる意見をもらいながら、場面ごとに「これでいいよね」と合意を行い、納得のもとに共有していきました。 感染対策は、タイムリーさと迅速さが求められますが、スタッフ全員による共有の作業は、きわめて重要だと思っています。 利用者情報の入手 判断基準を実際に使用する際は、利用者情報を、正しく・速く入手することが大切です。 まずは、利用者宅に手紙を送り、PPEの使用に理解を求めるとともに、発熱などの場合には事前に知らせてほしい旨を伝えました。もちろん、利用者に発熱があるからといって訪問しないわけではないことを申し添えます。症状に応じた感染対策を行うことは、利用者自身や家族を守ることにもなる点を強調しました。 他職種からの情報入手も効果的です。「訪問したら、家族に○○という症状があった」といった報告は、PPE要否を判断するのに貴重な情報となりました。 N95マスクを躊躇なく使用する たとえ判断基準を整備しても、ケチケチの基準では、スタッフの迷いは軽減できても、不安を消し去ることはできません。 訪問看護ステーションのなかでも、私たちの事業所は、おそらくN95マスクの使用頻度は高いほうだと思っています。利用者にも納得してらい、できるかぎりの対策を行うことを心がけました。 その結果、訪問した後に、たとえ相手が陽性になったとしても、「訪問したスタッフは濃厚接触者に該当しない」ことが、しばしばありました。判断に迷う場合は保健所に連絡し、該当の有無を確認することもあります。 濃厚接触者についての情報も常に刷新 コロナ禍では、濃厚接触者の定義が何度か変わりました。管理者として、厚生労働省や東京都の最新情報を継続的に入手し、私たちの事業所における濃厚接触者の基準を常に刷新していきました。 そうした積み重ねにより、感染をむやみに怖がることはなくなりました。スタッフは、「これさえ押さえておけば安心なんだ」と、不安がらずに訪問を行うことができます。そして、管理者である私自身も、「これでいいんだ」という安心感を抱くことができるようになりました。 * 次回は、岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山の管理者、野崎加世子さんにお話しいただきます。 記事編集:株式会社メディカ出版

特集 会員限定
2022年8月30日
2022年8月30日

【セミナーレポート】vol.3 専門家が考える正しいフットケアQ&A ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日に実施した、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「フットケア・爪のケアのポイント」。講師に皮膚科医の高山かおる先生、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さんをお招きし、訪問看護の現場における足元のケアについて考えました。セミナーレポート第3回となる今回は、Q&Aセッションの様子をお届けします。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ Q1 白癬を患っている方の脆い爪はどこまで切ったらいい?▶ Q2 肥厚爪、巻き爪のケアのポイントは?▶ Q3 おすすめのケアアイテムを教えて!▶ Q4 訪問看護で実践できる白癬の応急処置はある?▶ Q5 深爪にしてはいけない理由は?▶ Q6 足浴時に軽石を使用しても問題ない?▶ Q7 爪切り器具の洗浄方法を教えてください。 --> ▶ Q1 白癬を患っている方の脆い爪はどこまで切ったらいい? 【質問】白癬を患っている利用者さんが多く、厚く、脆くなっている爪を整える場面がよくあります。脆い爪は際限なく削れてしまうのですが、どこまでケアしたらいいのでしょうか? 【回答】高山先生:出血などしない程度であれば、自然に剥離してしまっている部分は削ってしまっても問題ありません。爪が靴下などに引っかからないようにする、隣の指を傷つけるなど危なくないようにするという意識をもってもらうといいと思います。 ▶ Q2 肥厚爪、巻き爪のケアのポイントは? 【質問】肥厚した爪、巻いている爪はどのように除去したらいいですか? 【回答】大場さん:まずはその方が歩けるかどうかで、残す爪の長さを検討してみましょう。歩く方の場合は、痛みが出ないように配慮しつつ、ある程度の長さを保って端から切っていきます。爪が皮膚に食い込んでいる場合はヤスリを使ってください。ただ、巻き爪は長くなればなるほど巻きが強くなるので要注意。あとは炎症が起きていたり、化膿していたりする場合は処置が必要になるので、その見極めも重要です。 高山先生:痛みがなければ、巻き爪であること自体は悪いことではありません。大場さんがおっしゃるとおり、伸びてしまうと先端が丸くなるので、適切な長さに整えることが大切です。すでに痛みを訴えている方の場合は、痛むポイントを探してあげて、そこに念入りにヤスリをかけるのもいいですよね。 大場さん:そうですね。痛みを取り除いてあげるだけでも、歩けるようになりますから。ADLの低下だけは避けたいので、私も歩行に支障が出ないようなケアをすること、自身では対応できないケースは訪問看護師さんにお願いすること徹底しています。 ▶ Q3 おすすめのケアアイテムを教えて! 【質問】大場さんが現場で使用している愛用のヤスリを教えてください。 【回答】大場さん:基本的にダイヤモンド平ヤスリを使っています。 高山先生:厚い爪甲も削れますか? 大場さん:はい、ほとんどのケースで削れますよ。煮沸消毒できるので、衛生面を考えてもおすすめです。 ▶ Q4 訪問看護で実践できる白癬の応急処置はある? 【質問】次回の診療までに、訪問看護の現場でやっておくべき白癬の応急処置はどんなものですか? 【回答】高山先生:きれいに洗ってもらえれば十分です。白癬の餌は角質なので、足浴と保湿で角質をなくしてあげれば、症状は進行しにくくなります。なお、ワセリンで白癬が繁殖することはないので、保湿もしっかり行ってください。特別なことをして刺激を与えるより、基本的な処置を徹底してくださいね。 ▶ Q5 深爪にしてはいけない理由は? 【質問】利用者さんから、まだあまり爪が伸びていない段階で「切ってほしい」とお願いされて判断に迷います。深爪にしてはいけない理由はあるのでしょうか? 【回答】高山先生:足の爪には体重の負荷を支える役割があるため、深爪はNGです。爪を切りすぎたり、斜めに切ったりすると、巻き爪につながってしまいます。また、そもそも適切な爪の長さを知らずに長年深爪にしてしまい、結果巻き爪になってしまっている方も多く見られます。まさに生活習慣病ですね。この利用者さんには、靴下に引っかかるなど不快な状態にならないように、ヤスリのかけかたを教えてあげるといいと思います。 ちなみに、歩行時にきちんと踏み込めている方は、理論的には深爪にはできません。なぜかというと、きちんと指先まで使って踏み込んで歩くためには、硬さのある爪が必要不可欠だからです。足を踏み込むと床反力(足と床の接地部分にかかる反力)が生じますが、必要十分な長さの爪がないと、この床反力が上手く体に伝わりません。つまり深爪にしてしまう方は、きちんと歩けていない可能性も高いと考えられます。 ▶ Q6 足浴時に軽石を使用しても問題ない? 【質問】足底の白癬で皮膚が肥厚している方に対し、足浴時に軽石で削りながら洗い、保湿剤を塗布することを一年半ほど続けています。現在は肥厚部がかなり薄くきれいになりましたが、この方法を続けてもいいでしょうか? 【回答】高山先生:軽石でゴシゴシ削ることには賛成しかねますが、削りすぎにならない程度に、目の細かいヤスリをかけるのはいいと思います。ただ、濡れている足を削ると傷がつく恐れがあるので、風呂場などで行うのは控えてください。削りすぎて逆に皮膚が厚くなってしまう可能性もあります。このケースでは、おそらく保湿剤をしっかり塗っていることが効いているのだと思いますね。 ▶ Q7 爪切り器具の洗浄方法を教えてください。 【質問】爪切りに使う器具の洗浄はどのようにしていますか? 【回答】高山先生:体液がつかなければ、表面の汚れを落として乾かす、つまり除菌すれば十分だと考えています。もちろん、出血が見られたときなどは滅菌が必要ですが。衛生管理の専門家の先生に聞くと、大切なのは毎回同じ工程で洗浄することとおっしゃいますね。そうすることで習慣化でき、洗浄不足になることを防げるので。器具のどこをどうやって何回洗うか、ルールを決めて実践してみてください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年8月30日
2022年8月30日

利用者さんとつながってこその「かかりつけ薬剤師」

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第8回は、薬剤師の齊藤直裕さんから、利用者さんの背景をふまえた「かかりつけ薬剤師」の支援と連携を紹介します。 「間違いのない服薬」だけではない 私は、在宅支援診療所である新宿ヒロクリニックで院内薬剤師をしています。大学卒業後は数年間、救急病院に勤務し、その病院勤務時代の知り合いであった訪問看護師さんに引っ張り出されたことをきっかけに、以来20年ほど薬剤師として在宅医療にかかわっています。 在宅患者さんへの薬剤師のかかわりは、薬の適正使用サポートが大きい部分ではあります。間違った飲みかた・使いかたを防ぐため、患者さんの理解度を確認しながら、管理方法をサポートすることです。 しかし、現実の治療と在宅生活を考えたときに、教科書どおりの「正しい使いかた」はできないことがままあります。たとえば「一日3回服用する」ことだけでも、生活のなかで毎日確実にできるかは難しい人もいます。必要なのは「間違いなく確実に飲ませる」といった厳格な管理ではなく、現在の病状と日常生活のバランスだと考えています。 医療や服薬が中心になりすぎることで、その人の生きがいや満足につながらない可能性を考えなければなりません。在宅療養支援診療所の大きな役割は、地域生活や社会生活のサポートです。その人が何を考え、これからどう生きていきたいかを、地域で一緒にサポートするスタッフと話し合いながら進めていく必要があります。 「一日3回服薬」が難しい場合は かといって、いい加減な服薬でよいわけでもありません。認知機能の低下などあって、一日に1回の服用なら何とかできるが、一日3回は難しい人がいたとします。それを「しょうがない」ですませるのではなく、たとえば一日1回の服用で長く効くタイプの薬に変更できるかもしれない。そこで仮に変更した場合、長く効き目がある薬はそのぶん、体に薬の成分が長く残ります。腎臓や肝臓の機能はどうか、万が一副作用が出たときにいかに早く気づくことができるか、などを考えて提案や調整を行います。 「薬剤師は医師の処方に従って薬を出すだけの人」と思われがちですが、在宅医療では薬剤師も、その方がどんな暮らしをしており、お体はどんな状況なのか、事前情報の段階でしっかり確認します。 その上で、特に薬を変更した場合などは、どんなタイミングで、何のために、どんな薬に変更して、どんなことに気をつけるのがよいか。地域で一緒に働くスタッフにも「専門家の意見として」共有させていただいています。病院などとは違い、ご自宅では医療従事者が常時いるわけではありません。万一異変があったら誰かが訪問した際に気づけるよう、すぐ連絡できる体制──「連携」が大切だからです。 在宅医療にかかわる薬剤師の多くは、直接患者さんのそばでケアをするわけではありません。病状と想いを共有して、地域の薬局と連携し、ふだんの服薬状況を確認しながら、ケアマネジャーさんを中心として情報共有し「支えようとしている人を支えること」で間接的なサポートができているのだと思っています。 「飲み忘れ」より多い「飲みすぎ」の相談 実際には、「飲み忘れ」でなく「飲みすぎ」の相談が、意外に多くあります。予定より早く薬がなくなってしまうため、管理方法などどうしたらよいかといった内容です。 外来に通院している人なら「薬がない」とご本人が病院に来ることもありますが、ご本人に過量服用している自覚がない場合が多く、対応に苦慮することがあります。 お一人でいる時間に服用してしまうことを防ぐのは難しく、薬を預かったり隠したりすることもご本人の自尊心を傷つけて、不安や不信感につながることがあります。ですから一概に「このようなケースはこうする」と決めることはできません。やはり連携が必要となり、日々変化する感情や病状に合わせての対応が求められます。 ご本人の認知機能はもちろんですが、それまで生きてきた過去(プライドやキャラクターなど)、生活の自立度、そしてどの程度管理すべきかの病状と経過、医師の見解を地域の薬局と共有し、ケアマネジャーさんとはサービスの受け入れ状況や、協力体制、薬剤の支給のタイミングを共有します。 私たちは、異変に気づいたときにすぐに共有できるような体制づくりや、情報共有システムなどの整備にも取り組んでいます。 多職種がともに学び、ともに悩むことの価値 血圧を下げる薬を例にとると、「血圧のコントロール」は手段であって、目的は、「脳卒中や心筋梗塞など大きな病気の予防」「予防した上で地域生活を維持すること」であったりします。前述の、病状や生きがい、人生満足度によっても、血圧のコントロールで考えられるリスクと、地域生活が維持できるかどうかのリスクの許容範囲は変わってきます。 多職種で共有するためには前提が重要です。在宅ケアは、他職種がどのようなことをしているか、同行しないと見えない部分が多くあります。新宿食支援研究会に参加することで、さまざまな職種について学ぶだけではなく、表面上わからなかったそれぞれの想いや現状も、交流を通して知ることができました。 それぞれの義務とプロフェッショナリズムを理解しつつ、病気や障害があったとしても、地域で安心して暮らせる社会をともに目指す。多くの職種が集まるなかで、それぞれのケースでともに悩むことが重要であり、サポートする側も含めた地域づくりをしていくことこそが大切なのだと学ばせていただきました。 執筆齊藤直裕薬剤師新宿ヒロクリニック新宿食支援研究会 記事編集:株式会社メディカ出版

特集 会員限定
2022年8月23日
2022年8月23日

【セミナーレポート】vol.2 具体的なケア方法 ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日に行われたNsPace(ナースペース)の訪問看護師向けオンラインセミナー「フットケア・爪のケアのポイント」。皮膚科専門医の高山かおる先生と、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さんをお招きし、それぞれの視点から高齢者の足元のケアについてお話をいただきました。セミナーレポート第2回となる今回は、大場マッキー広美さんによる「在宅でのフットケアの実際」をご紹介します。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ 訪問看護でフットケアを行う意義 ・ケアプランの具体的な記載方法▶ 爪切り、足浴(清拭)の具体的なやりかた ・まずはよく観察する ・爪切りの流れとポイント ・足浴(清拭)のポイント▶ フットケアがもたらす心身へのメリット --> ▶ 訪問看護でフットケアを行う意義 足や爪のトラブルは、転倒や下肢筋力の低下、ADL・QOLの低下につながるリスクが大変高い重大な問題です。訪問看護師のみなさんにはそのことを理解していただき、ぜひフットケアを看護の一環として積極的にケアに組み込んでほしいと思っています。 具体的なアクションとしては、まず利用者さんの足の状態をよく見て、医師に報告します。その上で、訪問看護指示書にフットケアについてしっかりと記載してもらい、ケアプランに盛り込むといいでしょう。その際、ケアマネージャーやご家族の方々にも、フットケアの必要性や期待される効果を説明してあげてください。 なお、訪問看護ステーションでのフットケアの提供方法については、自費サービスのメニューに組み込むことをご提案しています。 ケアプランの具体的な記載方法 ケアプランの記載方法に決まりはありませんが、私は単に『フットケア』とだけ書くのではなく、足浴や足の清拭、軟膏の塗布、爪切りなど、具体的なアクションの一つひとつを明記するといいと考えています。 ▶ 爪切り、足浴(清拭)の具体的なやりかた ここからは、実際に現場で提供するフットケア、爪切りと足浴(清拭)のノウハウをご紹介していきます。 まずはよく観察する まず、足や爪の状態をチェックする上で注目すべきポイントを細かく確認します。利用者さんの足を見る際は、以下の点に着目してみてください。 ・皮膚や爪の色・爪の長さ、厚さ、形・足の指の状態(伸びた爪で傷がついていないか など)・浮腫の有無・皮膚の温度、乾燥の具合・関節や皮膚の硬さ・脈 とくに爪の長さは要チェック。伸びたまま放置されているケースが多く見受けられます。 爪切りの流れとポイント STEP 1 ゾンデで爪と皮膚の境界線を分ける安全に爪切りを行うためには、ゾンデという細い棒状の器具を使って、まず爪と皮膚の境界線を分けましょう。フリーエッジ(爪床とつながっていない部分)にゾンデを優しく差し込み、しっかりと『切れる部分』を確認してください。このとき、ゾンデで溜まった汚れや角質を掃除すると、境界線を確認しやすくなりますよ。このゾンデを使った事前準備を怠ることで、出血してしまう爪切り事故が起きやすくなります。大きな問題がない爪であれば介護士も切ることができるので、ぜひ介護職の方にもやりかたを指導してあげて、現場でうまく分担できるようにしてみてください。 STEP 2 ニッパーで爪の端から切る爪と皮膚の境界線を確認したら、ニッパーで切っていきます。その際、爪の端から切ることで、短く切りすぎたり皮膚を巻き込んだりといった事故を防げます。なお、爪が厚い、もしくは固い場合は、まずは横からニッパーを入れて切り、次にその先端部分に向かって縦に切ると上手にカットできます。また、爪の長さをどのくらい残すかは、利用者さんの生活によって判断が異なります。歩ける方はある程度の長さをとっておかなければなりませんが、歩かないのであれば短く整えてもいいでしょう。 STEP 3 ヤスリでなめらかに整える次に、ヤスリで爪を整えましょう。ニッパーで切っただけだと角が残り、隣の指を傷つけてしまったり、靴下の繊維に引っかかって痛みが生じたりすることがあります。指で爪に触れて、引っかかりがないくらいを目指してください。また、爪に厚みがある場合は上から削ってもいいと思います。 なお、爪切り後は皮膚の状態をチェックしましょう。長年爪に覆われていた部分の皮膚は弱く、ひどい場合は傷になっていることもあります。爪切り直後はぬるま湯につけただけで皮膚がピリピリすることもあるので、扱いには細心の注意を払ってください。 足浴(清拭)のポイント フットケアにおいて、保清・保湿は重要なポイントです。足浴(清拭)を行い、仕上げに保湿する流れは、ぜひ実践していただきたいと思います。ここで間違えてほしくないのが、単に温かい湯に足をつける『足湯』ではなく、足を洗う『足浴』が必要だということ。清潔保持の観点では、石鹸を使って足の指や趾間まできちんと洗うことが大切です。 ▶ フットケアがもたらす心身へのメリット フットケアには、おそらくみなさんの予想を超えた効果があります。これまで外出できなかった方が少しずつ歩けるようになるといった事例は、決して珍しくありません。巻き爪、陥入爪、むくみなどが改善することで、歩くのが億劫ではなくなるのです。 また、利用者さんとの信頼関係が深まることも大きなメリット。私はこれまで、「今まで足元のケアなんてしてもらったことがない、うれしい」ととても喜んでくださる利用者さんをたくさん見てきました。高齢者の中には、自分の爪は一生このままよくない状態なのだと諦めている方が多いので、爪が短くきれいになるだけで心情に大きな変化があるのです。 利用者さんの身体にも心にもいい影響を与えるフットケア、訪問看護の現場にもっと浸透してほしいと考えています。 次回は、「専門家が考える正しいフットケアQ&A」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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