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2022年8月30日
2022年8月30日

利用者さんとつながってこその「かかりつけ薬剤師」

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第8回は、薬剤師の齊藤直裕さんから、利用者さんの背景をふまえた「かかりつけ薬剤師」の支援と連携を紹介します。 「間違いのない服薬」だけではない 私は、在宅支援診療所である新宿ヒロクリニックで院内薬剤師をしています。大学卒業後は数年間、救急病院に勤務し、その病院勤務時代の知り合いであった訪問看護師さんに引っ張り出されたことをきっかけに、以来20年ほど薬剤師として在宅医療にかかわっています。 在宅患者さんへの薬剤師のかかわりは、薬の適正使用サポートが大きい部分ではあります。間違った飲みかた・使いかたを防ぐため、患者さんの理解度を確認しながら、管理方法をサポートすることです。 しかし、現実の治療と在宅生活を考えたときに、教科書どおりの「正しい使いかた」はできないことがままあります。たとえば「一日3回服用する」ことだけでも、生活のなかで毎日確実にできるかは難しい人もいます。必要なのは「間違いなく確実に飲ませる」といった厳格な管理ではなく、現在の病状と日常生活のバランスだと考えています。 医療や服薬が中心になりすぎることで、その人の生きがいや満足につながらない可能性を考えなければなりません。在宅療養支援診療所の大きな役割は、地域生活や社会生活のサポートです。その人が何を考え、これからどう生きていきたいかを、地域で一緒にサポートするスタッフと話し合いながら進めていく必要があります。 「一日3回服薬」が難しい場合は かといって、いい加減な服薬でよいわけでもありません。認知機能の低下などあって、一日に1回の服用なら何とかできるが、一日3回は難しい人がいたとします。それを「しょうがない」ですませるのではなく、たとえば一日1回の服用で長く効くタイプの薬に変更できるかもしれない。そこで仮に変更した場合、長く効き目がある薬はそのぶん、体に薬の成分が長く残ります。腎臓や肝臓の機能はどうか、万が一副作用が出たときにいかに早く気づくことができるか、などを考えて提案や調整を行います。 「薬剤師は医師の処方に従って薬を出すだけの人」と思われがちですが、在宅医療では薬剤師も、その方がどんな暮らしをしており、お体はどんな状況なのか、事前情報の段階でしっかり確認します。 その上で、特に薬を変更した場合などは、どんなタイミングで、何のために、どんな薬に変更して、どんなことに気をつけるのがよいか。地域で一緒に働くスタッフにも「専門家の意見として」共有させていただいています。病院などとは違い、ご自宅では医療従事者が常時いるわけではありません。万一異変があったら誰かが訪問した際に気づけるよう、すぐ連絡できる体制──「連携」が大切だからです。 在宅医療にかかわる薬剤師の多くは、直接患者さんのそばでケアをするわけではありません。病状と想いを共有して、地域の薬局と連携し、ふだんの服薬状況を確認しながら、ケアマネジャーさんを中心として情報共有し「支えようとしている人を支えること」で間接的なサポートができているのだと思っています。 「飲み忘れ」より多い「飲みすぎ」の相談 実際には、「飲み忘れ」でなく「飲みすぎ」の相談が、意外に多くあります。予定より早く薬がなくなってしまうため、管理方法などどうしたらよいかといった内容です。 外来に通院している人なら「薬がない」とご本人が病院に来ることもありますが、ご本人に過量服用している自覚がない場合が多く、対応に苦慮することがあります。 お一人でいる時間に服用してしまうことを防ぐのは難しく、薬を預かったり隠したりすることもご本人の自尊心を傷つけて、不安や不信感につながることがあります。ですから一概に「このようなケースはこうする」と決めることはできません。やはり連携が必要となり、日々変化する感情や病状に合わせての対応が求められます。 ご本人の認知機能はもちろんですが、それまで生きてきた過去(プライドやキャラクターなど)、生活の自立度、そしてどの程度管理すべきかの病状と経過、医師の見解を地域の薬局と共有し、ケアマネジャーさんとはサービスの受け入れ状況や、協力体制、薬剤の支給のタイミングを共有します。 私たちは、異変に気づいたときにすぐに共有できるような体制づくりや、情報共有システムなどの整備にも取り組んでいます。 多職種がともに学び、ともに悩むことの価値 血圧を下げる薬を例にとると、「血圧のコントロール」は手段であって、目的は、「脳卒中や心筋梗塞など大きな病気の予防」「予防した上で地域生活を維持すること」であったりします。前述の、病状や生きがい、人生満足度によっても、血圧のコントロールで考えられるリスクと、地域生活が維持できるかどうかのリスクの許容範囲は変わってきます。 多職種で共有するためには前提が重要です。在宅ケアは、他職種がどのようなことをしているか、同行しないと見えない部分が多くあります。新宿食支援研究会に参加することで、さまざまな職種について学ぶだけではなく、表面上わからなかったそれぞれの想いや現状も、交流を通して知ることができました。 それぞれの義務とプロフェッショナリズムを理解しつつ、病気や障害があったとしても、地域で安心して暮らせる社会をともに目指す。多くの職種が集まるなかで、それぞれのケースでともに悩むことが重要であり、サポートする側も含めた地域づくりをしていくことこそが大切なのだと学ばせていただきました。 執筆齊藤直裕薬剤師新宿ヒロクリニック新宿食支援研究会 記事編集:株式会社メディカ出版

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2022年8月23日
2022年8月23日

【セミナーレポート】vol.2 具体的なケア方法 ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日に行われたNsPace(ナースペース)の訪問看護師向けオンラインセミナー「フットケア・爪のケアのポイント」。皮膚科専門医の高山かおる先生と、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さんをお招きし、それぞれの視点から高齢者の足元のケアについてお話をいただきました。セミナーレポート第2回となる今回は、大場マッキー広美さんによる「在宅でのフットケアの実際」をご紹介します。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ 訪問看護でフットケアを行う意義 ・ケアプランの具体的な記載方法▶ 爪切り、足浴(清拭)の具体的なやりかた ・まずはよく観察する ・爪切りの流れとポイント ・足浴(清拭)のポイント▶ フットケアがもたらす心身へのメリット --> ▶ 訪問看護でフットケアを行う意義 足や爪のトラブルは、転倒や下肢筋力の低下、ADL・QOLの低下につながるリスクが大変高い重大な問題です。訪問看護師のみなさんにはそのことを理解していただき、ぜひフットケアを看護の一環として積極的にケアに組み込んでほしいと思っています。 具体的なアクションとしては、まず利用者さんの足の状態をよく見て、医師に報告します。その上で、訪問看護指示書にフットケアについてしっかりと記載してもらい、ケアプランに盛り込むといいでしょう。その際、ケアマネージャーやご家族の方々にも、フットケアの必要性や期待される効果を説明してあげてください。 なお、訪問看護ステーションでのフットケアの提供方法については、自費サービスのメニューに組み込むことをご提案しています。 ケアプランの具体的な記載方法 ケアプランの記載方法に決まりはありませんが、私は単に『フットケア』とだけ書くのではなく、足浴や足の清拭、軟膏の塗布、爪切りなど、具体的なアクションの一つひとつを明記するといいと考えています。 ▶ 爪切り、足浴(清拭)の具体的なやりかた ここからは、実際に現場で提供するフットケア、爪切りと足浴(清拭)のノウハウをご紹介していきます。 まずはよく観察する まず、足や爪の状態をチェックする上で注目すべきポイントを細かく確認します。利用者さんの足を見る際は、以下の点に着目してみてください。 ・皮膚や爪の色・爪の長さ、厚さ、形・足の指の状態(伸びた爪で傷がついていないか など)・浮腫の有無・皮膚の温度、乾燥の具合・関節や皮膚の硬さ・脈 とくに爪の長さは要チェック。伸びたまま放置されているケースが多く見受けられます。 爪切りの流れとポイント STEP 1 ゾンデで爪と皮膚の境界線を分ける安全に爪切りを行うためには、ゾンデという細い棒状の器具を使って、まず爪と皮膚の境界線を分けましょう。フリーエッジ(爪床とつながっていない部分)にゾンデを優しく差し込み、しっかりと『切れる部分』を確認してください。このとき、ゾンデで溜まった汚れや角質を掃除すると、境界線を確認しやすくなりますよ。このゾンデを使った事前準備を怠ることで、出血してしまう爪切り事故が起きやすくなります。大きな問題がない爪であれば介護士も切ることができるので、ぜひ介護職の方にもやりかたを指導してあげて、現場でうまく分担できるようにしてみてください。 STEP 2 ニッパーで爪の端から切る爪と皮膚の境界線を確認したら、ニッパーで切っていきます。その際、爪の端から切ることで、短く切りすぎたり皮膚を巻き込んだりといった事故を防げます。なお、爪が厚い、もしくは固い場合は、まずは横からニッパーを入れて切り、次にその先端部分に向かって縦に切ると上手にカットできます。また、爪の長さをどのくらい残すかは、利用者さんの生活によって判断が異なります。歩ける方はある程度の長さをとっておかなければなりませんが、歩かないのであれば短く整えてもいいでしょう。 STEP 3 ヤスリでなめらかに整える次に、ヤスリで爪を整えましょう。ニッパーで切っただけだと角が残り、隣の指を傷つけてしまったり、靴下の繊維に引っかかって痛みが生じたりすることがあります。指で爪に触れて、引っかかりがないくらいを目指してください。また、爪に厚みがある場合は上から削ってもいいと思います。 なお、爪切り後は皮膚の状態をチェックしましょう。長年爪に覆われていた部分の皮膚は弱く、ひどい場合は傷になっていることもあります。爪切り直後はぬるま湯につけただけで皮膚がピリピリすることもあるので、扱いには細心の注意を払ってください。 足浴(清拭)のポイント フットケアにおいて、保清・保湿は重要なポイントです。足浴(清拭)を行い、仕上げに保湿する流れは、ぜひ実践していただきたいと思います。ここで間違えてほしくないのが、単に温かい湯に足をつける『足湯』ではなく、足を洗う『足浴』が必要だということ。清潔保持の観点では、石鹸を使って足の指や趾間まできちんと洗うことが大切です。 ▶ フットケアがもたらす心身へのメリット フットケアには、おそらくみなさんの予想を超えた効果があります。これまで外出できなかった方が少しずつ歩けるようになるといった事例は、決して珍しくありません。巻き爪、陥入爪、むくみなどが改善することで、歩くのが億劫ではなくなるのです。 また、利用者さんとの信頼関係が深まることも大きなメリット。私はこれまで、「今まで足元のケアなんてしてもらったことがない、うれしい」ととても喜んでくださる利用者さんをたくさん見てきました。高齢者の中には、自分の爪は一生このままよくない状態なのだと諦めている方が多いので、爪が短くきれいになるだけで心情に大きな変化があるのです。 利用者さんの身体にも心にもいい影響を与えるフットケア、訪問看護の現場にもっと浸透してほしいと考えています。 次回は、「専門家が考える正しいフットケアQ&A」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年8月23日
2022年8月23日

安心感をどう作るか① ミーティング、カンファレンスなどのオンライン化

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。第2回は前回に続き、東久留米白十字訪問看護ステーション所長の中島朋子さんです。 お話中島朋子東久留米白十字訪問看護ステーション 所長  カンファレンスをオンライン化 新型コロナウイルス感染症への対応で、オンライン化への取り組みは、一気に速度を上げました。結論から言ってしまえば、「やって良かった、デメリットはまったく感じない」と断言できると思います。 従来どおりの頻度でミニカンファレンス 利用者情報の共有は、訪問看護業務の生命線といってもよいでしょう。従来から、出勤者全員が参加する、毎朝30分のミニカンファレンスを開いていましたが、コロナ禍になっても休止したり、縮小したりすることは、まったく頭にありませんでした。 そこで、いち早くZoomを活用したオンライン会議を開始。3密を避けるために事務所のレイアウト変更を行ってからは、三部屋に分かれ、壁に向くようにデスクを配置。スタッフそれぞれは、背中合わせになるような形でパソコンの画面に向かいます。 また、事業所内のスタッフ密度を減らすため、自宅が近い人は自宅から会議に参加します。自宅参加のスタッフは、会議終了後に事務所に立ち寄り、訪問看護バッグをピックアップする方式に切り替えました。 余談ですが、壁向きのデスク配置は、業務が集中してできるという観点から、コロナ禍以前から検討していたレイアウトです。結果的に、コロナ禍で早期に実現できることになりました。 夕方の申し送りは、アラームが合図 17時30分、事務所内にアラームが響きます。夜勤者に引き継ぐための申し送りもZoomで行います。アラームを合図に、参加者は各自のデスクから会議に参加します。また、直帰したスタッフは自宅から参加します。 直帰するのは、主に、発熱のある利用者を訪問したスタッフです。発熱者への訪問は1日の最後とし、訪問後は直帰して、ただちに自宅で入浴することにしています。これは感染症対策の一環ですが、オンライン会議なので、自宅からの参加が可能となるのです。 そのほか、オンラインによる研修や外部機関との会議も、積極的に参加したり、活用したりしています。Zoomなどのオンライン会議システムは、コロナ禍が終わっても、欠かすことはできないでしょう。 在宅勤務を可能にするクラウド活用 感染状況に応じて、事務職を中心に在宅勤務を進めました。それを可能にしたのが、クラウドの活用です。 計画書、報告書、各種フォーマット、利用者情報、記録、サービス内容実績など、必要な人が、必要な時に、どこからでもアクセスすることができます。業務効率化のために、コロナ禍以前からシステム構築を行っていましたが、一気に実用レベルに仕上がりました。 訪問中に瞬時に共有 訪問看護の主戦場は、利用者の自宅です。訪問中に、タブレット端末(iPadなど)からクラウドにアクセスできることは、コロナ禍でなくても、極めてメリットが大きいと考えます。加えて、メッセージ交換アプリを利用し、ケアチームなどのグループ内で利用者情報を共有するといった方法もごく普通に行われるようになりした。 もはやICTは、訪問看護業務になくてはならないものになっています。 ICTに詳しいスタッフの力 2021年3月に採用した事務職員がICTに詳しく、ICT化の相談に乗ってくれたり、使い方を教えてくれたりなど、職場内でのICT普及に大きな力になってくれたことも報告しておきます。 どちらかというと、情報機器に弱いナースが多いなかで、「情報機器に明るいスタッフ」の存在は、必要不可欠なのかもしれません。 「助成金」を貪欲に狙う こうした一連のオンラインやICTなどの推進には、ある程度の費用がかかります。法人トップの決断は言うまでもありませんが、私は、助成金を貪欲に狙ってきました。都、市、その他、注意深く通達などをチェックしたり、アンテナを張っておいたりすると、さまざまな助成金をキャッチすることができます。 申請手続きなど若干面倒ですが、予算に限りがあるなかでの助成金の魅力は、それを超えるものがあります。 たとえば、iPadを夜間当番に配布できたのも助成金によるものです。 一般企業向けの助成金も活用する 訪問看護ステーションや在宅医療関連だけではなく、一般企業向けの助成金を活用することもできます。 就業規則の改定やICT化に向けたコンサルテーションを受ける費用は、中小企業向けの市の助成金制度で賄いました。 スプレッドシートを利用した、私たち事業所自慢のシフト表も、そのコンサルテーションの結果生まれました。無理なく、効率よく、柔軟な勤務を実現するシフト表により、感染予防に必要な健康的な働きかたが可能です。 ―第3回に続く  記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年8月23日
2022年8月23日

多くの「気づき」の情報が利用者の生活を快適に

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第7回は、福祉用具専門相談員の山上智史さんから、利用者の「できる」を引き出すための環境整備について紹介します。 在宅生活に必須の福祉用具のプロフェッショナル 私たち福祉用具専門相談員は、高齢者や障害を持つ人が残存機能を生かして生活しやすいよう、また、介助者が負担軽減しやすいように、住まいの環境整備をする専門職です。環境整備の選択肢としては、用具の使用や、住宅改修を行い整備します。 現在、介護保険ではレンタルできる福祉用具は13品目、購入できる福祉用具は5品目、住宅改修は5項目あります。福祉用具専門相談員は福祉用具サービス計画を立て、ケアマネジャーがそれをプランに入れて利用します。私たちは、そのプランどおり継続できているか、ミスマッチが起きていないかなど定期的に見直しをしながら、常にベストを目指して環境づくりをしています。 特に退院後の生活に必要な環境を整備 利用者に合った生活環境を作るためには、利用者の身体機能や疾患の状態などの情報が必須です。看護師と福祉用具専門相談員が情報共有することが多いのは、次のような場面です。 退院時の調整 病院ではできていたことが、在宅ではできないことがあります。 たとえば、病院では便座の高さが40cmで立ち座りができていたが、在宅では38cmで立ち座りが不安定になることがあります。また、食器や食具が病院と異なるため、家での食事はうまく食べられない方もいます。そのため、病院側の情報が多く入りやすい看護師との情報共有は重要です。 姿勢調整の相談 生活場面での座位姿勢やベッド上での姿勢は、嚥下や排泄に密接にかかわっているため、看護師からの情報が重要になります。たとえば看護師が把握している情報(座位保持時間、関節可動域、痛みの部位・具合など)に合わせて車いすの調整やクッションの選定を行っています。 生活動線の確保 生活のなかの「できない」には、さまざまな原因があります。たとえば「食べたくない」と言う利用者の本当の理由が「トイレに行く頻度を増やしたくない」ことだったこともあります。このように問題点を解決するヒントは間接的にほかの場所にある場合も少なくありません。 そのため、生活に密接にかかわっている家族・ヘルパー・看護師の情報を共有してもらうことで、環境面の改善に役立てることができます。 環境への「気づき」がポイント 福祉用具導入で食事介助が不要になった例 Aさん、80歳代女性、パーキンソン病 当時、私はヘルパーとしてパーキンソン病で座位が安定しないAさんの食事介助をしていました。40分隣に座り、Aさんの体を抱えながら食べ物を口に運び、Aさんは体を固くして口を開けるのが精いっぱいでした。 そんな時期に、私が部署移動で福祉用具専門相談員となり、当時新商品だった端座位保持テーブル「Sittan」という商品を見つけ、ケアマネに相談しました。すると端座位が安定しただけでなく、Aさんはテーブルに肘をついて自分で食事を食べだしたのです。 食事介助に40分かかっていたものが、自分で、20分で食べられるようになりました。このとき、「よかった」と喜びの感情と同時に「筋緊張で食べられなかったのは座る時の環境が悪かったんだ。気づかなくて申し訳なかった」と、環境づくりの大切さ、環境に目を向ける責任を痛感しました。 残存機能を生かした環境づくりで排泄行動が自立した例 Bさん、80歳代男性、脳梗塞片麻痺で歩行不可 脳梗塞をきっかけに車いす生活になったBさん。家のトイレは手前に段差が2ヵ所あり、立位が安定しないBさんは、歩行移動も、段差のせいで車いす移動もできない環境でした。退院時に看護師からおむつかポータブルトイレを用意するように言われ落ち込み、退院後はトイレ回数を減らすために食事も制限するようになってしまいました。 Bさんは、車いすの足こぎ移動やベッド上での横移動ができていました。それを知っていた私は、その自立機能を生かした環境にすることでトイレまで行けないかを考えました。そこで車いすの足漕ぎでトイレ近くまで移動してもらい、いすをトイレまで並べて置き、立ち上がらなくてもベッド上で横移動をする要領で移動ができるように工夫しました。 この環境にすることにより、Bさんは介助者の手を借りることもなく、自分のタイミングでトイレまで行くことができるようになりました。 福祉用具専門相談員が役立てること どんな福祉用具でも、メリットだけでなくデメリットもあります。 たとえば、エアマットレスは褥瘡防止のメリットがある反面、動きづらいデメリットがあります。車いすも下肢の負担軽減になるメリットの反面、下肢筋力低下の可能性というデメリットがあります。 ある利用者は、誤嚥を繰り返す原因が、体の機能低下と診断されていました。しかし実際に伺うと、テレビを見上げるような位置にあり、姿勢が崩れて結果的に誤嚥を繰り返していたことがわかりました。テレビの配置を低くし、誤嚥が改善されました。 私たちは利用者に合った用具を正しく選定する義務があり、そのためにも福祉用具専門相談員にできるだけ多くの情報をいただけると助かります。そしてぜひ私たちにも相談してみてください。 ー第8回へ続く 山上智史福祉用具専門相談員株式会社K-WORKER新宿食支援研究会記事編集:株式会社メディカ出版記事協力:パラマウントベッド株式会社

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2022年8月16日
2022年8月16日

【セミナーレポート】vol.1 フットケア アセスメント ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日のNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーでは、訪問看護師の方に向けて「フットケア・爪のケアのポイント」をご紹介しました。講師は、皮膚科医の高山かおる先生と、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さん。3回に分けてセミナーの様子をお届けします。第1回の本記事では、高山先生にお話いただいた「高齢者のフットケア アセスメント」についてまとめます。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ フットケアの重要性 ・足元のトラブルは子ども時代から始まる生活習慣病▶ 足や爪のトラブルの原因 ・白癬 ・皮膚の老化 ・筋力や関節可動域の低下▶ フットケアに期待される効果 ・足浴の効果は絶大▶ 爪切り難民を救うために必要なこと --> ▶ フットケアの重要性 日本は人生100年時代を迎え、超高齢社会に突入しました。そこで考えなければならないのが、介護を要する年数を短くする方法です。介護を要する年数とは、すなわち経済を圧迫する年数。私たち足育研究会は、国民にのしかかる負担をこれ以上増やさないためにはどうしたらいいか、足元に着目してその解決策を模索しています。なぜなら、足や爪のトラブルは歩行に支障をきたすため。歩けなくなることは、介護が必要になるリスクに直結します。 足元のトラブルは子ども時代から始まる生活習慣病 足元のトラブルは生活習慣病であり、そのスタートは子ども時代にあります。私は日ごろから子どもたちの足を見ていますが、すでに足趾の変形が認められ、爪のトラブルが発症しているケースは少なくありません。これを放っておくと、加齢に伴い足趾の変形はさらに強まり、爪に不可逆的なトラブルが起こり、重症化します。そうして転倒しやすくなったり、痛みなどが生じて歩けなくなれば、フレイルや寝たきりになるリスクが高まったりもするでしょう。私たちは、この負のスパイラルをできるだけ早く断ち切るべく取り組んでいます。訪問看護師のみなさんにおかれましても、ぜひ足元のトラブルの成り立ちや患者さんが被る不利益を理解し、積極的にケアにあたっていただければと思います。 ▶ 足や爪のトラブルの原因 高齢者の足や爪のトラブルの代表的な原因としては、以下の3つが挙げられます。 白癬 非常に多くの高齢者が罹患している白癬は、爪を悪くする原因になります。爪は、爪母と呼ばれる皮膚に隠れた根元の部位でつくられ、爪床という『爪のベッド』に沿って前へと運ばれて、常に新しいものに置き換わる構造になっています。 そもそも、白癬というのは、足の白癬から始まります。①足の水虫(白癬)を放置してそれが爪に入ると②のような「くさび形」になるなどの変化が生じます。②の状態であれば、まだ爪の形を保ち、爪としての機能も果たせているケースが多いです。しかし、そのまま放置して重症化すると③のように変化して、爪の機能を果たせなくなるほどになります。糖尿病や下肢の末梢動脈疾患を抱えている方、もしくは透析を受けている方などのケースでは、④のような壊疽にもつながります。 皮膚の老化 高齢者の皮膚は、褥瘡をつくりやすい状態にあります。具体的な特徴は以下のようなものです。 【表皮】表皮細胞が減少し、免疫やターンオーバー、皮膚感覚が低下します。また、角層では皮脂の分泌が減り、天然保湿因子が枯渇して、強い乾燥が起こります。これによりバリア機能が低下したり、亀裂が生じたりして、アレルゲンや細菌などが皮膚内部に入りやすくなります。 【真皮】コラーゲンや弾力繊維が減少し、血管に変化が起きます。それが外力に対しての脆弱化を招き、創傷治癒力のさらなる低下、血管の閉塞をもたらします。 【脂肪組織】著明に萎縮します。とくに踵は筋肉がなく、脂肪組織だけで守っているため、ダメージを受けやすくなります。 筋力や関節可動域の低下 関節可動域が低下することで通常の歩行ができなくなり、皮膚や爪に過度な、もしくは不適切な負荷がかかって、指先を傷めたり爪が変形したりします。私たち足育研究会の調査では、巻き爪は足趾間力の低下がもたらしているというデータも得られました。 また、膝や股関節の可動域の低下、さらには筋力の低下によって座り方も変化します。大腿部をそろえて座ることができなくなり、足がパカッと開いてしまうのです。すると、踵の外側に強い圧力がかかり、褥瘡が現れやすくなります。 このように足や爪のトラブルの背景には、皮膚や関節、筋肉の変化など、さまざまな要因があります。これ以外にも、靴の問題なども深く関係してきます。こうした全身的な老化現象、生活習慣の果てにあるのが、高齢者の足の問題なのです。 先ほども少し触れたとおり、問題の発端は子ども時代にさかのぼります。柔らかい足で合わない靴を履いたり、運動量が不足したり。そして、足のケアが不足した状態も続き、やがては白癬や膝・腰の痛み、糖尿病、脳梗塞などの合併症が起きて、足元のトラブルにたどり着く……足や爪の状態は、その人の人生を色濃く反映しているといえます。 ▶ フットケアに期待される効果 そんな足や爪のトラブルを抱えた高齢者にぜひ行ってあげてほしいのが、フットケアです。肥厚した爪甲のケアは、フレイルやサルコペニアなどの予防につながることがわかっています。歩いても痛みがない状態、靴下などに引っかからない状態に爪を整えてあげることで、下肢機能の低下を改善できるからです。現場では、フットケア後に今まで運動できなかった方が歩き出したというケースはよく見られます。 また、爪白癬を患う要介護者に積極的にフットケアを行ったところ、実施期間中は介護度が上がらなかった、つまりADLを維持できたという研究結果もあります。歩ける期間をできるだけ長くするために、そして歩けない方も安全・安楽・衛生的に過ごすために、フットケアをやらない理由はありません。 足浴の効果は絶大 フットケアの中でぜひ行っていただきたいのが、足浴です。利用者さんに気持ちいいと感じてもらえることはもちろん、皮膚や粘膜の機能と関連のある器官を正常に保って感染を予防できる、筋肉を温めながらマッサージすることで運動効果を得られるなど、さまざまな効果が期待できます。継続的に足浴を実施すると、足関節の背屈可動域が改善するというデータも出ているほどです。足は『感覚臓器』。足浴で触ってあげる、少し動かしてあげることで、正常な感覚を呼び戻してあげてください。 ▶ 爪切り難民を救うために必要なこと このように、高齢者へのフットケアは大変重要であるにもかかわらず、『爪切り難民』は少なくありません。とくに介護を受けておらず、病院にも通っていない方は、多くの場合適切な爪のケアを受けられずにいます。 近年、足育研究会では爪切り難民対策として薬局に専門家を派遣してフットケアを行う取り組みを全国で始めていますが、こちらは要介護予備軍の方々を対象としています。介護を受けている方は自宅や施設で爪切りができることが前提の取り組みです。訪問看護の現場や、高齢者施設などは、当然『患者さんの足を守る場所』であってほしいと考えています。 みなさんには、高齢者の足の衛生や機能を守るという意識をもって、ぜひできる範囲でフットケアに取り組んでいただければと思います。 次回は、「在宅でのフットケアの実際」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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2022年8月16日
2022年8月16日

ケアマネは多職種との信頼あってこそ司令塔

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第6回は、ケアマネジャーの森岡真也さんから、訪問看護師を含む多職種チーム構築を紹介します。 サービス調整だけではないケアマネの仕事 私が担当している地域、東京都新宿区は人口343,662人、高齢者人口67,187人、高齢化率19.6%(2022年5月1日現在)。新宿というと、一般的には高層ビル群や歌舞伎町の繁華街がクローズアップされるため、生活している人が少ない印象ですが、実際にはかなりの数の高齢者が住んでいる地域です。 地域的な特徴としては、独居高齢者・高齢者のみ世帯の比率が多く、また高齢化率が50%を超える大規模な都営住宅が2ヵ所あります。区内には大規模な病院が数多くあり、難病などで療養生活を送る方も多くいらっしゃいます。そのためか、訪問診療や訪問看護などの在宅医療が昔から充実している地域でもあります。 そんな新宿区で私がケアマネジャーの仕事を始めて16年になります。ケアマネジャーは一般的に、利用者に適したケアプランを作成し、利用者とサービス提供事業者の間に立って連絡調整をする、いわば介護保険の道先案内人のような専門職。最近では、介護保険外のサービスを調整する機会も多くあります。 ケアマネジャーとして働くためには、もちろん介護保険の幅広い知識が必要ですが、活動する地域のさまざまなフォーマル・インフォーマルサービスを提供する方々と関係を作り、利用者に紹介できるよう準備することも重要なのです。 顔の見える関係で把握できた情報が在宅ケアチーム構築につながる 新宿食支援研究会に参加したのは、同会設立時の2009年。以降、研修会やワーキンググループ、イベントなどでさまざまな方と出会い、その出会いが現在の私の仕事の糧となっています。 在宅生活の支援では、さまざまな問題が複合的に重なるケースが少なくありません。訪問看護師さんには、疾病上の管理のみならず、生活上の支援や家族関係の情報収集など、さまざまなことをお願いしています。また、看護師さん個々人のスキルや資質を頼ってケースを依頼することもあります。 新宿食支援研究会に関係している看護師さんとは、研修会などを通してスキルと顔の見える関係ができており、また食支援全般に深い知識と興味がある方が多いため、摂食嚥下機能障害をはじめ、さまざまな問題のある利用者の支援をお願いすることが多くあります。 病院などで組織内にすでにある多職種チームで支援を行うのとは違い、在宅ではさまざまな制約があり、支援の工夫が必要です。たとえば、本来必要な専門職が地域に不足している、または経済的な面で導入ができないため、多職種からその役割を補完してケアチームを組み立てることが多くあります。本来ならばST(言語聴覚士)の導入が必要なケースに、摂食嚥下訓練に詳しい看護師さんに入ってもらうことなどが過去にありました。 また、摂食嚥下機能に問題があり、一回の食事介助で少量しか食べられない方の食事回数・水分補給の回数を増やすため、ヘルパー・看護師・理学療法士・言語聴覚士・医師・歯科医師・管理栄養士など訪問するすべての職種の方々に、こまめな食事介助、水分補給の介助をお願いしたケースもあります。 このように、在宅ケアチームの構築には、地域の専門職個々人のスキルや資質を把握しておくことが重要となります。この把握にはやはり、実際に一緒にケアチームとして仕事をする前に、さまざまな研修会などで知り合えていることが役立っています。 多職種が常駐し、介護相談できるカフェをオープン 新宿食支援研究会でよく使われる「MTK-H®」という言葉があります。「M」は「見つける」、「T」は「つなぐ」、「K」は「結果を出す」、「H」は「広める」という、食支援にかかわる人の役割を表しています。 私たちケアマネジャーの役割の一つは、「T」、つなぐこと。在宅生活を希望されているご本人にとって、現況最適な在宅ケアチームを構築する役割です。そのためには、まず「M」、見つける役割を担う人が必要となります。われわれケアマネジャーが見つける人はもちろん、ご家族や地域住民の方です。ケアマネジャーとして、地域住民の方とつながって地域の社会資源を育んでいくことも、重要な仕事です。 新宿食支援研究会では、現在ワーキンググループとして地域住民の方とともにプロジェクトを進めています。 また法人事業として2022年6月に介護事業所併設のカフェ「介護相談もできるカフェ Sunnydays Café」をオープンしました。このカフェは、地域の喫茶店として機能しつつ、ケアマネジャーをはじめ介護の専門職がカフェに常駐し、地域の方の介護相談がある場合にはさりげなく寄り添いたいという思いでつくりました。Sunnydays Café内には、地域の方と医療・介護・福祉の関係者をつなぐ、さまざまなしくみを用意しています。 ケアマネジャーとして、多くの「K」、つまり結果を出す看護師さんをはじめとする医療・介護・福祉の専門職と、地域住民をつなぐ役割をこれからも果たしていこうと考えています。 訪問看護師さんには、ぜひ私たちケアマネジャーと直接つながる機会を持っていただき、地域の看護師さんの情報を気軽に利用者・家族・地域住民・専門職の方と共有できるよう、必要な情報をケアマネジャーに教えていただければと思います。 ー第7回へ続く 森岡真也ケアマネジャー株式会社モテギ新宿ケアセンター長新宿食支援研究会Sunnydays Caféhttps://sunnydayscafe.hp.peraichi.com/記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年8月16日
2022年8月16日

コーチングと口腔ケア

この連載では、実例をとおして、口腔ケアの効果や手法を紹介します。今回と次回は、コミュニケーションが困難だった人への対応事例を紹介します。 コミュニケーションが難しい方への対応 事例 Lさん、76歳男性、要介護Ⅱ。上総義歯、下部分義歯。義歯不安定、残存歯2本のみ。痰の喀出困難、OHAT唾液-1、帯状疱疹後神経痛、前立腺肥大症ほか。6年前に妻を亡くして以降、日々、機嫌が変わりやすくなった。内科からの紹介で、義歯不安定を主訴に訪問歯科診療にかかわる。帯状疱疹後神経痛(腰痛)がつらく、口腔ケア時にも、顔をしかめるほどの痛みが発作的に襲うことがあった。 Lさんには「なんで毎週来るんだ、毎週来なくてもいいんだよ! 床が傷付くから、荷物を床に置くんじゃない!」と、初診時からしばらくは、頭ごなしに怒鳴られることもありました。対応に苦慮しながら、ひたすら寄り添い傾聴し、ハフィング(痰を吐き出しやすくする方法)の指導や、義歯の内面調整を行いました。 コーチングスキルを取り入れる Lさんとのコミュニケーションに悩んでいたころ、コーチングの研修に参加することができました。「コーチ」の語源は「馬車」で、コーチングとは、人を馬車に乗せて目的地に運ぶ、つまり目標達成を支援するための、対話的コミュニケーションの技法です1)。 研修で教わったコミュニケーション技法を、Lさんとの会話で試みました。ペーシング(歩調合わせ)やリフレイン(繰り返し)の技法により、難解と思われた関係性が、少し開けてきたように思いました。 以下、Lさんとの会話の一部を示します。(下線部がリフレインの箇所) L「独りで暮らす自信がないなあ、もう僕、独りでは無理だと思う、歯科さん(筆者のこと)どう思う?」山田「そうですか。お独りではご無理がありますよね、不安ですよね」L「娘は仕事があるから、わがまま言えないし……」山田「娘さん、お仕事を持っていらっしゃるのですね、お忙しいのですね」 相手主導で、相手の言葉をリフレインし、傾聴すると、こちらが積極的に問わなくても、Lさんが独り暮らしを不安に思っていること、娘さんがお仕事を持っていて、Lさんの娘さんへの気遣いがわかりました。初診のころの機嫌の悪さは、腰痛のせいだけでなく、孤独感の影響が大だったのだと理解しました。 サービス担当者会議の開催 Lさんへの口腔ケアの指導も順調に進み、もう「毎週来るな」とは言われなくなったころ、チームにLさんの腰痛が周知され、介護支援専門員から、腰痛対策のためのサービス担当者会議が招集されました。 コロナ下のことで、会議は文書でのやりとりでしたが、介護支援専門員がそれぞれの意見をまとめ、Lさんに丁寧に説明が行われました。 その説明を受けた後も、Lさんは不安げで、「歯科さん、僕にはよくわからないので、説明してくれるかい」とおっしゃるので、図のようにそれぞれの職種の意見を示し、「皆さんが、Lさんのことをたいへん心配されていますよ。でも、何を選ぶかは、Lさんご自身ですよ」と伝えました。 Lさんの顔は生き生きと見えました。訪問鍼灸師のお試し施術も受けられましたが、慣れない鍼灸への怖さと、施術中の姿勢保持が困難だったため、自分でできるストレッチと、内科医提案の鎮痛薬治療を選ばれたのでした。 行動変容が促される その後は、訪問のたびに、ストレッチに歯磨き、舌の訓練も見せてくれるようになり、ご自分の話をしてくれるようにもなりました。あるときは、亡くなられたご自慢の奥様の写真も見せてくださいました。 義歯の安定には機能的なケアと唾液が必要です。精神的なストレスにより、唾液が減少することもあるので、訪問時のLさんとの何気ない会話に、心理面・体調面の好不調を探ることもありました。 コーチングは初心者ですが、基本的な介入を試みてから、急速にラポール形成が進行し、行動変容も促され、実際に口腔内環境が改善されたことには驚きでした。 残念ながら、腰痛はその後も大きく改善することはなく、ベッド上での時間も長くなり、ずいぶんと痩せられて、義歯も不安定になりました。 歯科医による義歯再調整のとき、そばで心配する私に、「歯科さん、あなたがいちばん、僕のことをわかってくれている。入れ歯が合わないのはね、歯科さんのせいではないからね。心配しなくていいよ、僕が悪いんだ」と笑顔で、おっしゃるのでした。 介入して2年半、Lさんは、そんな優しい言葉とたくさんの思い出を遺したまま、入所したばかりの施設で体調が急変され、愛する奥様のもとへ旅立たれました。 ー第10回へ続く 執筆山田あつみ(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、歯科衛生士) 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】1)出江紳一ほか.『医療コーチングワークブック』東京,中外医学社,2019,168p.

特集
2022年8月9日
2022年8月9日

スタッフの不安解消、安心できる仕事環境の整備は管理者の責務

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。第1回は、東久留米白十字訪問看護ステーション所長の中島朋子さんです。 お話中島朋子東久留米白十字訪問看護ステーション 所長  「スタッフを感染させない!」 新型コロナウイルス感染症が国内でくすぶりはじめたとき、私の頭はその思いでいっぱいになりました。精神的緊張状態のなか、「今このときに、管理者として何をすれば最善なのか」を考え続け、一つひとつ実行してきました。 先手先手のPPEストック 感染症対策は、見えない相手との闘いです。闘いには武器が必要です。有力な武器の筆頭は、PPE(個人防護具)です。2020年2月早々には、PPEのストックを始めました。その費用が持ち出しになる心配はありましたけれど、スタッフの安全には代えられません。 日本国内では、感染者もまだまだ少なく、死者も出ていない段階でしたが、2月7日には、感染・リスクマネジメント係に、ストックを急ぐようにハッパをかけました。 個別事情に応える本音アンケート スタッフが抱く不安には個人差があります。その不安を「本音」で聞くために、アンケートを実施しました。質問は、感染、または、感染の疑いのある利用者宅を訪問できるかどうかを尋ねるものです。 事業所の看護師は13人です。そのうち、1人が「行きたくない」、数人が「できれば行きたくない」と答えました。一方で、半数が「職務上の使命から必要があれば行く」、4人が「積極的に行く」と答えてくれました。 「行きたくない」には、個別の事情もあります。「訪問したら発熱していたということもあるからPPEは持参してね」と言ったうえで、希望に添うようにシフトを組みました。 必要に応じて、躊躇なく 国内の感染者が拡大するにつれ、PPE関連が品薄になりました。ストックのおかげで少しだけ余裕がありましたが、先行きを考えると、PPEの在庫には不安を覚えます。 100均ショップなどで、代替品を工夫し補充するとともに、「どのような場合に、どの防護具を選択するのか」の白十字版の簡易マニュアルを作成し、「必要に応じて、躊躇なく使える」判断基準を示しました。これには、かなり時間を掛けました。 利用者への協力要請で働きやすくする 利用者への手紙も4報まで出しました。内容は、発熱時の事前連絡、訪問を受ける前の換気、発熱時は個人防護具を着用など、スタッフを感染から守るためのお願いです。こちら側からの要望ではあったわけですが、感染予防を徹底したスタッフが訪問してくれるとの印象を与えたのでしょう。利用者側からの苦情はありませんでした。 働きかたの環境整備 働きかたの環境も、非常時に合わせる必要が出てきます。そこで、社労士(社会保険労務士)と入念な話し合いを重ねながら、在宅ワークができるように就業規則を改変していきました。具体的には、事務職の在宅ワーク移行、直行・直帰による訪問の実施などです。 事務所レイアウトと雰囲気づくり 事務所レイアウトを大きく変更。部屋を三つに分散、デスクは壁向きなど、3密を徹底的に避けました。ただ、管理者の死角で、愚痴を言い合い気分的な負の連鎖が起きないようにする対策も必要でした。そこで、「完璧な職場なんてないんだから」と前置きしたうえで、愚痴や不満は、建設的な意見として言えるような雰囲気づくりに注力しました。 事業所連携でBCP構築 地域にはさまざまな事業所があります。コロナ禍での活動内容にも温度差があります。そのなかで、価値観を共有する訪問看護事業所に、BCP(事業継続計画)の協働を持ちかけました。どちらかの事業所が感染で休止になった場合には、代替でケアが提供できるようにするものです。その準備として、約200人の利用者をトリアージしました。事業所との連携は、管理者どうしで愚痴をこぼしあえる関係もつくれ、とても大切です。 管理者としての責務 そのほか、正しく怖がるための最新情報の収集と提供、PPE研修会の開催、スタッフの自己免疫力を高めるための残業の軽減、連携在宅診療医との発熱者対応の方向性共有、会議のオンライン化、ICT化の推進、事業所の換気工事、事務所内にシャワーと宿泊場所の確保など、さまざまな対策を講じてきました。 とはいえ、ウィズコロナへの道は、平坦ではありません。発熱した利用者宅に訪問してくれているスタッフを思うと涙が滲んだこともありました。 当初、「所長の私が発熱者宅を訪問する」と提案もしてみましたが、もちろん、副所長やスタッフから反対され、管理者としてやるべきことに注力するように割り切りました。本当にスタッフには感謝の気持ちでいっぱいです。これからは、管理者としてのプレッシャーを一人で抱え込まず、「私も不安なの」と本音をこぼせるような風土づくりも必要かもしれないと思っています。 ―第2回に続く 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年8月9日
2022年8月9日

CASE1スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき_その1:状況をどうとらえるか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第1回は、利用者に感情移入しすぎているように見えるスタッフナースに対して、管理者としてその状況をどうみるかを考えます。 はじめに 合同会社manabico代表の鶴ケ谷理子と申します。弊社は、訪問看護管理者に対するコンサルティングやセミナーを行なっている会社です。この連載は、私が講師を務めて開催しているケースメソッドセミナーの形式をもとに展開します。みなさんもセミナーに参加したつもりで、「自分だったらどうするだろう」と考えながら読んでいただければと思います。 ケースと設問 CASE1 スタッフナースが利用者に過度に感情移入している心配があるとき スタッフナースの佐藤さんについて、「担当利用者に感情移入しすぎなのではないか?」と別のスタッフナースから相談があった。どうやら寝ても覚めても利用者のことを考えているらしい。佐藤さんは、在宅看取りの看護に携わることを希望して、病院から訪問看護に転職してきた背景がある。終末期の利用者を担当するのは2回目、今回は主担当として任されている。そのためか思いが強くなりすぎているように見える佐藤さんに対して、管理者としてどのような支援ができるだろうか? 設問あなたがこの管理者であれば、佐藤さんのようなスタッフへの支援はどのようにすべきと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 佐藤さんの状況を多面的にとらえる 講師このケースで議論したいことは、「管理者として佐藤さんにどのような支援ができるか」です。その前にまず、佐藤さんの状況について、みなさんはどのように考えますか? Aさん注2佐藤さんのように利用者に対して思い入れがあることは、看護師として悪いことではないと思います。ただ、思いが強すぎる と、利用者が亡くなった後に、佐藤さんが無力感や喪失感を感じることが心配です。そこへのフォローを考えたいです。 Bさん佐藤さんは、一人で背追い込みすぎていると感じます。ほかのメンバーも含めたケアカンファレンスを実施して、佐藤さんの気持ちのケアや、どういった看護をしていけばよいかを話し合えるといいと思います。でも忙しいからなかなかメンバーが集まらないのかもしれませんね。 CさんAさんも言われたように、利用者への感情移入が大きいと、利用者がお亡くなりになられた際の喪失感も大きくなります。どの利用者のかたに、どのスタッフが訪問に行くか、最終決定は管理者がしているはずです。管理者は、利用者だけでなく、スタッフも大切に考えて判断をすべきだと私は考えます。もっとこまめに佐藤さんに対して支援をすべきだったのではないでしょうか。 Dさん佐藤さんの精神状態も心配ですが、ルールから逸脱がないかどうかも私は気になります。佐藤さんのような様子だと、計画外の訪問や、個人的なやり取りを利用者としているかもしれないと思って。金銭や物品の受け渡しがあったりしたら、加えて別の対処も必要になるので。 「佐藤さんの状況をどうとらえるか」の小括 まずは、「佐藤さんの置かれている状況をどのようにとらえるか」について、それぞれの考えを出しあいました。 ●思い入れがあること自体が悪いわけではないが、佐藤さんの精神状態をよく観察し、フォローが必要。●佐藤さんが一人で背追い込みすぎている。ケアカンファレンスを開いて、ほかのメンバーとともに話し合いたい。●そもそも、この利用者への訪問を佐藤さんに続けさせてよかったのか。佐藤さんが行くなら管理者から何かしらの支援が必要だった。●訪問看護のルールから外れていないかを確認する。 一人で考えるだけでは思いつかないこともあり、A・B・C・Dさんは、ほかの人の意見を聞きながら気づきを得ていたようです。 次回は、「管理者として、佐藤さんに対してどのような支援ができるか」を考えていきます。 ─第2回に続く 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年8月9日
2022年8月9日

利用者を通して実感する多職種とのつながり

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第5回は、言語聴覚士の佐藤亜沙美さんから、連携で気づきを得た経験を紹介します。 在宅医療の世界へ 私は新宿にある訪問看護ステーションで働いている言語聴覚士(以下ST)です。 以前は急性期病院で働いていました。在職中、脳卒中で高次脳機能障害のみが残存してしまい、回復期病院にも転院できず不安を抱えたまま自宅退院される方。誤嚥性肺炎で入院後、ご家族へ食事指導をして退院となっても、再度誤嚥性肺炎を発症し入院される方。病院所属での力不足を感じることが多くありました。 縁があり、現在働いている訪問看護ステーションでSTを募集していると知り、在宅で働ければ私が感じていたモヤモヤは解消されるのではないかと思い、在宅医療の世界に仲間入りしました。 STへの需要に追いついていない 私が新宿で働きだした2015年、新宿区で常勤で働く訪問STはほかにいませんでした。現在でも、新宿区内全体(人口約33万人)で一桁しかいない状況です。需要に対し、供給が追いついていない現状です。 2022年4月、当社にSTが一人入職しましたが、1か月ほどで十数人分の枠が埋まりました。それだけST訓練を待っている方がいるのだと実感しました。 訪問で伺う利用者さんには、脳卒中後に自宅退院はしたものの、言語障害や高次脳機能障害に悩まされている人が多くおられます。そして病院で想像していたとおり、継続したリハビリを必要としていました。 誤嚥性肺炎を繰り返す事例では、病院でご家族に食事指導をしていましたが、実際食事を作り、介助していたのはヘルパーさんだったのかもしれないと、今の私なら考えることができます。 他職種との連携の実際 現在訪問しているALS(筋萎縮性側索硬化症)の方では、嚥下機能に合わせて、ヘルパー、管理栄養士とともに、理想の食形態を追求して調理方法を試行錯誤しています。 まず、訪問歯科の先生にVE(嚥下内視鏡)をやってもらい、食形態を決定します。食事の内容については、なるべく少量でも栄養が確保できるように、管理栄養士からアドバイスをもらっています。介入から2年が経ち、嚥下機能も徐々に低下がみられていますが、今のところ、誤嚥性肺炎や窒息などの問題は起きていません。 このように現在、他職種と連携して介入を行えるようになったのは、「新宿食支援研究会」に出会えたおかげだと思います。同会に参加させていただくようになったころは、まだ訪問に転職したばかりで、右も左もわからない状況だったので、他職種の方は何をしているのか、そして多職種連携の大切さをイチから教えてもらいました。 多職種連携については何となく知っていましたが、STとどんな連携ができるのか、そして他職種が何をやっているのかを細かく知ることで、私自身も視野が広くなりました。何より、私には解決できない問題があるときに、誰に頼ればよいのかがわかるようになりました。 以前の私なら気づけなかったかもしれない 在宅では、病院で働いていたときよりもたくさんの職種の方がいます。病院勤務時代は聞いたことがなかった職種もありました。新宿食支援研究会に参加する方だけでも30近い職種の方々がいます。そのそれぞれの仕事を知れただけでも、ご利用者様を助ける術が増えるのだと心強く感じました。 その一つとして、失語症の訓練で依頼が来たSさんの事例を経験しました。 初回訪問時、とても痩せている方だなと思い、体重の変化をご家族に確認すると、4か月で5kg体重が減少していたことがわかりました。食欲がなくなっているのは年齢的にしかたがないと思っていたとのことでした。Sさんは軽度の嚥下障害がありましたが、ご家族が作ってくれる食事を食べていたため、管理栄養士の力を借りて、食事内容を少量でカロリーがとれるように少し工夫し、間食で高カロリー食を摂取してもらいました。また薬剤師に確認したところ、副作用として食欲の低下がある薬剤を内服していたため、医師に相談し量の調整をしてもらいました。 体重は半年で4kgと少しずつですが増加し、以前よりもリハビリに対して意欲的になってきました。自分から散歩に行きたいと言うなど、体を動かすことが苦ではなくなってきたようだとご家族も嬉しそうでした。 恥ずかしながら以前の私なら、言語訓練のみに視点が向いてしまい、体重の変化には気づけなかったかもしれません。新宿食支援研究会に参加してよかったと思えた一例です。 「食べる」リハビリに密接にかかわるST 福祉系の方やご家族から、いまだによく聞かれることがあります。「STって何をしてくれるんですか?」と。 STは言語訓練をする人、摂食・嚥下訓練をする人などのイメージはあると思います。食べることは、生きていくうえで大事なことですよね。しかし栄養をとるだけが「食べる」ではないと思います。 家族と食べる、おいしく食べる、外食をする、旅行先で地元のものを食べるなど、「食べる」から連想されることはいろいろあると思います。でも、そのためには、いすに座る、口腔内を清潔に保つ、食事を食べる体力がある、などさまざまな条件が整わないと「食事」はできないのです。 ST一職種だけではどうにもできないこともたくさんあります。そんなとき、他職種の手を借りることの大切さを学びました。食べること、栄養、お口の中、何か困っていることがあれば、ぜひSTにご相談ください。 ー第6回へ続く 執筆佐藤亜沙美言語聴覚士訪問看護ステーションリカバリー・新宿食支援研究会記事編集:株式会社メディカ出版

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