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CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その2:なぜ連携がうまくいかないのか?
CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その2:なぜ連携がうまくいかないのか?
特集
2023年2月7日
2023年2月7日

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その2:なぜ連携がうまくいかないのか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第8回は前回に引き続き、連携がしにくいと評判のドクターについてのケースです。 はじめに 前回(「その1:なぜ連携しにくいのか?」参照)は、連携しにくいと評判のK医師の特徴や、K医師に関係する周囲の人々の状況について、A・B・C・Dさんそれぞれの考えを出しあいました。続く今回は、なぜK医師との連携がうまくいかないかをテーマに意見交換を進めます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか  「K医師と連携がしにくい。どうしたらよいか」とスタッフナースから相談を受けている。K医師は、地域で在宅療養支援診療所を複数経営している大きな医療法人に所属している。K医師はふだん大学病院で働いており、在宅医療は初めてだそうだ。  K医師が担当する利用者の多くは内科疾患を持つ人だが、なかには認知症を疑わせる症状がある人や、専門的なリハビリが必要と思われる人もいる。訪問看護としては、それらの症状に対して専門の医師にもみてもらいたいと考えているが、K医師は取り合おうとしない。利用者本人や家族は、「他の医師にみてもらったとわかったら主治医であるK医師が怒るのではないか」と考えているようで、自ら他院を受診はできないと言っている。管理者としてどうしたらよいだろうか?  設問あなたこの管理者であれば、連携がしにくいという評判があるK医師に対して、どのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 なぜ連携がうまくいかないのか 講師ここまで(「その1:なぜ連携しにくいのか?」参照)のみなさんの意見から、K医師との連携がうまくいかない理由として、①K医師の特徴と②多職種連携の際に生じる問題、の二つが出てきました。では、この二つを連携がうまくいかないことの原因として考えたとき、みなさんはどんな意見を持ちますか? Aさん注2性格って、人から言われて変わるものではないですよね。在宅医療の経験を増やすといっても、これには時間もかかります。組織や職種も違いますし、私たち訪問看護管理者が働きかけられることでもありません。 Bさん他の組織の、違う職種に関することですし、私たちが無闇にどうこう言うことで、今後その医療法人との連携で角が立つのもよくないと思います。とはいえ、利用者のことや今後の連携を考えると、何かはしないといけませんよね。 講師他人の性格を変えようとするのは難しいことですね。私たちに何ができるかを考えると、多職種連携の際に生じる問題の解決に目を向けるほうが建設的ですね。 Cさんケースに書かれているのは「K医師が看護師の提案に耳を傾けてくれない」という看護師側の訴えだけで、K医師の考えはわかりません。K医師の考えや、K医師の所属する診療所としての考えを聞いてみてもよいかもしれません。 Dさんもしかしたら、看護師からの提案がK医師にとっては自分への批判ととらえられてしまっているのかもしれませんよね。ふだんから、「看護師がどのような情報を持っていて何を考えているのか」を伝えていくなどのコミュニケーションも必要でしょうね。 「なぜ連携がうまくいかないのか」の小括 議論が進むと、K医師自身(性格や働きかた など)を変えることの難しさが改めて浮き彫りになりました。そして話題は「他職種連携の際に生じる問題」の難しさに移りました。この問題の難しさの原因は、突き詰めると二つです。 目的の不一致K医師(利用者の治療を目指す)と訪問看護(利用者の在宅生活の維持向上を目指す)の目的が一致しない。K医師の行動は、違う目的を持った訪問看護の側からは理解しにくいかもしれない。情報の非対称性医師が病院や診療所内でどのように動いているのか、利用者の治療についてどのように考えているかが、訪問看護側からは見えにくい。 逆に、医師からは訪問看護が何を考えてどのように動いているか、訪問看護が把握している利用者の普段の生活状況や悩みなどの情報が見えていない可能性もある。 この二つを解消するために動くことが管理者には必要です。そして次回は、「管理者として連携しにくいと評判の医師に、どのように働き掛けるか」を考えていきます。 >>次回「その3:どのように働きかけることが効果的なのか?」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇入山章栄.『世界標準の経営理論』東京,ダイヤモンド社,2019,114-132.

休職の目安や復職支援のポイントは? 訪問看護管理者が行うメンタルヘルスケア
休職の目安や復職支援のポイントは? 訪問看護管理者が行うメンタルヘルスケア
特集
2023年2月7日
2023年2月7日

休職の目安や復職支援のポイントは? 訪問看護管理者が行うメンタルヘルスケア

この連載では産業医学が専門の精神科医・西井重超先生に、訪問看護にまつわるキャリア別メンタルヘルスケアについて解説いただきます。今回は、管理者によるラインケア・スタッフ管理について考えていきましょう。 管理者が忙しいとスタッフは相談しづらい  「少しお話があります」。退職や勤務削減のお願いのセリフは管理者が聞きたくないセリフの上位です。なぜもう少し早く相談してくれなかったのかと思う人もいるかもしれません。とはいえ、相談できる体制にしていても相談をしにくい環境を作っている場合があります。 ストレスチェックで高ストレス者になった人の話を聞くと、自分の残業時間が多いことより、上司の残業時間が多いことを悩みとして挙げている方が多くいらっしゃいました。なぜ、自分ではなく上司がたくさん残業をしていることがストレスなのか? 理由は「相談ができない」「常に忙しそうなので相談すると申し訳ない」というものでした。「なんでも相談してね」と言うだけではなく、言える雰囲気を作る、イライラしない、余裕を見せるといった態度を示すことで、相談しやすい環境を作ることが大切です。 スタッフの問題に気づいたら注意ではなく心配を スタッフの不調に事前に気づくことはできないものでしょうか。先に述べたように相談する環境が整っていないと、スタッフは不調があっても相談することを避けてしまい、「大丈夫です」と言う場合も出てきてしまいます。スタッフの抑うつが気になった場合は、以下の点に注意して観察してみてください。・仕事の能率が落ちたり、ミスが増えたりしていないか・会話や口数が減っていないか・食事量がいつもより少なくなっていないか・日中ウトウトしたりぼーっとしたりと睡眠不足がありそうかこうした表面に現れやすいところをチェックするとよいでしょう。 そして、問題に気が付いたときは決して注意から入らず、心配する態度で接してください。声をかけるなら「しっかりしてちょうだい」ではなくて「大丈夫?」です。あなたのことを心配しているという気持ちを伝えると同時に、起こっている問題を一緒に解決していきましょうという気持ちを伝えるのです。 がんばっているよりもがんばっていないほうがよい 職場環境はある程度余力があるような状況にしておくことが大事です。管理者としては心配になるかもしれませんが、一見ダラダラ働いているような時間がそれなりにある状況です。むしろ、いつもギリギリの状況で全員忙しそうに働いている職場のほうが危機的です。何かあったら総崩れになるリスクを抱えています。リラックスしている状況でゆったり働けているのであれば安心してください。 僕がよく患者さんに話すことで、「がんばっている」と言う人と「がんばっていない」と言う人ではどちらのほうがよいか、という話題があります。メンタル面に関してはがんばっていない人のほうが、明らかに余裕があります。「毎日がんばっています。一生懸命がんばって仕事に行っています」と「特にがんばらなくても、普通に仕事に行くことができています。何も問題ないです」というセリフを比べてもらえればわかりやすいでしょう。 休職中のルールを伝えて安心して休めるようにする 休職者が出てしまったときの対応もお伝えしておきます。スタッフが休職したばかりのときは、こちらも気が動転してしまい、いろいろと聞きたいことも出てくると思います。ですが、まずはスタッフの気持ちが落ち着くまでは職場と距離をおいてあげることが重要です。 ありがちなよくないケースとして、毎週報告を求めてしまい、休職者に苦痛を与える方がいます。とはいえ、会社も雇用している限りは安全配慮義務もあるので休職中月1回程度はメールで様子を窺うことは合理的といえるでしょう。 休職を開始するときに、本人の希望を聞いて面談や定期連絡のルールを設定することも望ましいです。例えば、連絡の窓口は管理者がよいのか、親会社があるなら親会社の人事担当がよいのかなどを聞いておきます。会社ごとに何ヵ月間か休職可能期間が設定されていますので、そのような人事上のルールを早めに伝えるのもよいでしょう。 「元気そうね」はNGワード! 「無理せず、ゆっくり」が安心につながる 少しよくなってきたら職場面談を行うところもあると思います。そのときのポイントとしては「元気そうね」とは言わないことです。まだ休職中で不調な状態ですので、人によっては「元気そうなのに休んでいる」と嫌味を言われたと受け止める人もいます。こちらの感想を伝えることは一切不要です。 「早く戻ってきてほしい」もNGで、あなたは必要な人だと伝えたいのかもしれませんが本人を焦らせてしまう言葉です。どうしても気遣いをしているという声かけをしたいなら「無理せず」「焦らずゆっくり休んで」くらいが妥当でしょう。あとは「何か聞きたいことはないですか」とたずねて、本人が気になることや話したいことを中心に会話を進めるとよいでしょう。 日常生活が可能な状態と就業可能な状態は異なる 「休職中の面談時になぜか元気そうに見える」というお話もよく聞きます。それは、その面談が仕事の負荷がかかっていない通常の会話だからです。他の例を挙げると、映画館に行けるからといって仕事ができるわけではありません。復職リハビリテーションでは日常生活を問題なく送れるようになったら、その次の段階として負荷のかかる作業ができるかを指導していきます。日常会話や映画に行くことは日常生活の負荷なのです。 また、「いつになったら治るのか」と聞く人もいますが、本人が一番苦しんでおり、答えられない内容です。がんの人にいつになったら腫瘍が消えるのかと聞くようなものと思っておいてもらえたらと思います。 精神科を受診される際は産業医学に詳しい医師、せめて産業医資格を持つ医師が望ましいです。精神医学分野では就労者支援は希望者しか学ばないので、就労者支援をできる医師とできない医師がいます。できない医師でも患者さんに求められたら休職の診断書を書くことはできますが、その後の療養中の指導や復職の適切な判断を行うことができません。場合によっては、復職までのリハビリテーションが十分でない状況で復帰の診断書が出てしまうこともあります。 最後に、事業所レベルで本当に復職できる状態かどうかを判断できる基準例をご紹介します。それは、復職プログラムの策定にも有用な「生活リズムの確認」という方法です。具体的には、月~金に自宅から外出し、図書館やカフェなどで9~17時まで本を読んで過ごすことができるかどうかを見ます。これは普通の日勤の生活ができるかどうかを試しています。逆に、これができる程度に心身の耐久力が戻っていないと就業可能な状態とは言えません。職場で復職プログラムを考えたい場合、この生活リズムが取れるかどうかを確認してみてください。 執筆 西井 重超はたらく人・学生のメンタルクリニック 院長 ●プロフィール日本精神神経学会専門医・指導医。元東京アカデミー看護師国家試験対策講座講師。奈良県立医科大学病院精神科を経て産業医科大学精神医学教室へ移り、在籍中に助教・教育医長を歴任。現在は大手企業の専属産業医・次長として勤務しながら、「はたらく人・学生のメンタルクリニック」の院長を務める。専門は医学教育、職場・学校のメンタルヘルス、成人期ADHD。著書に『精神疾患にかかわる人が最初に読む本』(照林社) がある。 記事編集:株式会社照林社

【セミナーレポート】ご家族を支えるために看護師がすべきこと -ターミナル期における家族看護-
【セミナーレポート】ご家族を支えるために看護師がすべきこと -ターミナル期における家族看護-
特集 会員限定
2023年2月7日
2023年2月7日

【セミナーレポート】ご家族を支えるために看護師がすべきこと -ターミナル期における家族看護-

2022年10月28日、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「ターミナル期における家族看護」を開催しました。講師を務めてくれたのは、家族支援看護に造詣が深い堀 美帆さんです。 今回はそのセミナーの様子を、前後編にわけてご紹介。前編では、訪問看護の現場で家族看護を実践する堀さんに、ターミナル期の家族看護にあたる上で看護師にもとめられる意識や、ご家族に対してできることを教えてもらいました。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】堀 美帆さんウィル訪問看護ステーション葛西サテライト元 家族支援専門看護師(2017年~2022年)新卒で小児専門病院に入職。そこで病気の子どもを育てる家族の思いを知り、自分にできることを模索すべく大学院に進学し、家族看護について学ぶ。その後、重症心身障害児者病院での勤務を経て、地域で生活する子どもと家族の生活を支えたいとの思いから訪問看護の世界へ。現在は幅広い年代の利用者さん、およびその家族に寄り添い、「家族の力を引き出すケア」を提供している。 目次 1. ターミナル期の家族看護の難しさ 2. ターミナル期の家族看護のポイント3つ  (1)ご家族の病気体験を理解する  (2)死への準備教育  (3)ご家族一人ひとりに療養上の役割を見出す --> ターミナル期の家族看護の難しさ 私はこれまで、ターミナル期における家族看護の難しさを実感する場面にたくさん直面してきました。 とくに最近多く見られるのは、利用者さんが入院するもコロナ禍で長らく面会できず、ご家族が入院中の状況をきちんと把握できていないケース。退院後、想像以上に利用者さんが衰弱しており、「こんなにケアが大変だと思わなかった」と私たちに話すご家族は多くいらっしゃいます。 自宅での看取りに向けて訪問看護が介入する際は、予後が数週間〜半年程度というケースも多く、わずかな時間でご家族との関係を構築しなければならないことも多いです。また、利用者さんとご家族、その他関係者の希望の折り合いがつかない意思決定場面も多々あるでしょう。 利用者さんの病状がご家族の心理に影響を与えることも、難しさのひとつです。利用者さんが体調不良でイライラすれば、ご家族も気持ちに余裕がなくなってしまいます。 ターミナル期の家族看護のポイント3つ では、ターミナル期の家族看護において、具体的にどんなことをすればいいのでしょうか。ひとつは、ご家族の病気体験を理解すること。次に、死への準備教育をすること。そして3つめは、ご家族の一人ひとりに療養上の役割を見出すことです。 ご家族の病気体験を理解する 利用者さんの病気が発症し、診断され、現在に至るまでに、ご家族はどんな体験をしてきたのかを詳しくヒアリングします。話を聞く中で、「がんになってから家事ができなかったけれど、家族が手伝ってくれて助かった」という言葉があれば、家庭の中で柔軟に役割を交代できていることがわかりますよね。 ほかにも、ご家族の病気や服薬への理解と捉え方、現在の心情、信念や価値観、これまでの生き方やライフワーク、今後の治療や看護への希望……病気体験からは、さまざまな情報を得られます。 なお、病気体験を理解する上で私が最も大事にしているのは、やはり話を丁寧に聞くことです。時間はかかりますが、その行為自体がご家族との関係づくりの第一歩にもなります。 死への準備教育 たとえ予後数週間であっても、利用者さんもご家族も、退院時に「亡くなるために家に帰る」とは思っていません。もちろん、自宅で最期を迎えたいという考えはありますが、ご本人は家でやりたいこともあるでしょうし、ご家族もできるだけ長く一緒に過ごしたいと思っています。そんな気持ちを汲み、実現に向けたお手伝いをするという意識をもって関わることも、死への準備教育のひとつです。 病院で自宅看取りの方針が決定すると、ご家族は片道切符を渡されたような絶望感を抱くもの。そんなときはぜひ、緩和ケアの目的を伝え、「マイナスなことばかりではないですよ」と寄り添ってください。 あとは基本的なことですが、先々起こる症状やその対処方法などを、看取りのパンフレットを用いながらご家族に説明するのもよいでしょう。このように死への準備教育を行う中で、ご家族が少しずつ「看取る覚悟」をもてるようにすることが重要です。 難しいことではありますが、覚悟がないと、苦痛をとる薬剤もうまく使えないことが多いんです。副作用が出た際、「この薬剤はだめなんじゃないか」とご家族が自己判断して適切に薬剤を使用しなくなってしまうケースもあります。 ご家族一人ひとりに療養上の役割を見出す ご家族一人ひとりの心身の状態や担っている役割(家事役割や経済的に支える役割など)との兼ね合いを考えながら、できるだけ介護負担が集中することのないように、療養上の役割を見出します。このとき、大きな役割を担えないがゆえに不全感を抱く方が出ないように注意する必要があるでしょう。些細なことでも肯定的にフィードバックするよう心がけることが大切です。 それから、役割を言葉で明確に伝えることもおすすめです。ただ見守るのみの役割であっても、「そばで見ていてあげるだけでいいですよ」と声をかけ、承認するよう意識してみてください。また、治療システムの中でご家族がどのような役割を果たせるか、ご自身がもっている力を考慮しながら模索してもらうこともあります。 何をしていいかわからず、結果的に何もできずにいるご家族は多いもの。訪問看護師として寄り添い、一緒に役割を見つけていただければと思います。 次回は「ご家族の力を引き出すためのQ&A」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

ターミナル期における家族看護
ターミナル期における家族看護
特集 会員限定
2023年2月14日
2023年2月14日

【セミナーレポート】ご家族の力を引き出すためのQ&A -ターミナル期における家族看護-

2022年10月28日、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「ターミナル期における家族看護」を開催しました。講師を務めてくれたのは、家族支援看護に造詣が深い堀 美帆さんです。 そのセミナーの様子を、前後編にわけてご紹介。今回の後編では、セミナー参加者からの質問に対するQ&Aセッションの様子をお伝えします。明日から役立つ情報が満載です。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】堀 美帆さんウィル訪問看護ステーション葛西サテライト元 家族支援専門看護師(2017年~2022年)新卒で小児専門病院に入職。そこで病気の子どもを育てる家族の思いを知り、自分にできることを模索すべく大学院に進学し、家族看護について学ぶ。その後、重症心身障害児者病院での勤務を経て、地域で生活する子どもと家族の生活を支えたいとの思いから訪問看護の世界へ。現在は幅広い年代の利用者さん、およびその家族に寄り添い、「家族の力を引き出すケア」を提供している。 目次 Q1 看取りパンフレットを使用するタイミングは? Q2 ご家族の介護負担が大きくなる場合、どうサポートする? Q3 ご家族にコミュニケーションを拒否されたらどうする? Q4 利用者さんとご家族の希望に相違があるときの対応は? Q5 がん告知がされていないケースで注意すべきことは? --> Q1 看取りパンフレットを使用するタイミングは? 【質問】訪問看護の現場で看取りにまつわるパンフレットを用いることがありますが、いつも使用するタイミングに迷ってしまいます。気をつけるべきポイントはありますか? 【回答】ご家族の病気の捉え方を基準に判断することをおすすめします。例えば、「家で看取る覚悟ができています」とおっしゃっている場合は、早めにパンフレットを活用してもいいでしょう。症状の経過をパンフレットで追いながら「今はこの状態ですね」とか、「今後こういう症状が出てきますが、自然な経過ですよ」などと少し先回りして説明してみてください。 一方、ご家族がまだ現状を受け止められていない場合は、利用者さんの状態が一段階落ちたときに説明するといいと思います。経口摂取が減った、歩けなくなったなどのタイミングです。あとは、ご家族の病気の捉え方をこまめに確認しながら、「今だったら説明が頭に入るかもしれない」という機会をうかがうといいと思います。 Q2 ご家族の介護負担が大きくなる場合、どうサポートする? 【質問】ご夫婦ふたりで生活していて介護者がひとりしかいないケースなど、介護負担が大きくなりすぎる場合はどのように関わればいいでしょうか? 【回答】介護者がひとりしかいないケースでは、かなりの役割過重が生じます。社会資源を活用する場合、ヘルパーさんが朝夕、訪問看護が昼に介入できるかもしれませんが、おそらくそれでもサポートが足りないでしょう。 そんなときは、まず同居していないご家族をどれくらい巻き込めるか確認します。夜間の付き添いまではできなくても、食事をもってくるといった、できるサポートがあるかもしれません。 あとは、やはり精神的なケアです。介護者さんの負担に注目し、その解消のためにどんな手段があるのか考えます。社会資源をもっと活用できたらいいのか、ご家族の支援が得られたらいいのか、利用者さんの症状をもっとコントロールできればいのか……。さまざまな角度から検討してみてください。 Q3 ご家族にコミュニケーションを拒否されたらどうする? 【質問】ご家族が訪問看護師とのコミュニケーションを拒否している場合、どのようにアプローチしていけばいいでしょうか? 【回答】私の場合、歩み寄りたいという気持ちを常に出すようにしています。以前、さまざまな事情があって「訪問看護師=敵」とみなされたケースがありましたが、諦めずにしっかりと挨拶するようにしていました。あとは、ご家族が嫌だと思わないレベルのコミュニケーションを探ったり、利用者さんとのコミュニケーションの中で「ご家族のことを気にしている」「ご家族の頑張りを承認している」ということを伝えたりしましたね。 ご家族のニーズに着目してアプローチすることもあります。病状についてあまり話したくない場合でも、介護について困りごとはあるかもしれませんから、「お困りのことはないですか?」と声をかけてみる。そうやって少しずつコミュニケーションをとっていくといいと思います。 Q4 利用者さんとご家族の希望に相違があるときの対応は? 【質問】利用者さんは毎日のように「早く逝きたい」といいますが、ご家族は一日でも長く生きてほしいとの思いから、点滴中止の選択を迷われています。こういう場合はどうしたらいいでしょうか? 【回答】私だったら、一日でも長く生きてほしいと思う背景にはどんな気持ちがあるのか、まずはご家族の話を丁寧に聞きます。その中で、ご本人とご家族の折り合いがつくポイントを見つけられるのではないかと思います。言葉で説明するのは難しいのですが、「本人が苦しんでいるから、これ以上の治療はやめよう」と思えるタイミングがあるというか……。 あとは、どういう状態で長く生きてほしいかを、ご本人の希望をふまえてご家族と話してもいいかもしれません。「本人が嫌がっているからもう点滴はやめませんか」という伝え方だと受け入れてもらいにくいので、「どういうふうに過ごしてほしいか、そのためにはどうすべきか」という観点で考えてもらい、折り合うポイントを探っていくといいと思います。 Q5 がん告知がされていないケースで注意すべきことは? 【質問】がん告知がされていないターミナル期の利用者さんを担当しています。今後の対応について悩んでいるので、ぜひアドバイスをいただきたいです。 【回答】こういうケースでは、できるだけ早い段階でご家族から話を聞くことを意識しています。ご家族はどのタイミングでご本人に伝えたいか、利用者さんから私たち看護師に病気に関する質問があったらどう答えるべきかなどを伺い、その回答に基づいて方針を決めておきましょう。 がん告知がされていない場合、利用者さんご本人とご家族、それぞれの思いが乖離しやすいものです。とはいっても、私たちがご家族の思いを飛び越えた対応をするわけにはいきませんから、早めにご家族と連携しておくことをおすすめします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

相続・遺言の「いろは」―「遺産を寄付したい」と相談されたら?
相続・遺言の「いろは」―「遺産を寄付したい」と相談されたら?
特集
2023年2月21日
2023年2月21日

相続・遺言の「いろは」―「遺産を寄付したい」と相談されたら?

この連載では、訪問看護師のみなさんが現場で遭遇しそうなケースをもとに、利用者さんからの相談に関連する法律や制度についてわかりやすく解説します。法律に苦手意識がある方でも自信をもって対応できるよう、役立つ知識をお届けします。今回のテーマは「相続・遺言」です。 事例 豪邸に住む利用者のCさん(80代男性)。大金持ちですが、一人暮らしで、どことなく寂しそうです。Cさんは寝たきりで、全額自費で訪問看護サービスをフルタイムで利用しています。 そんな中、看護師のDさんはCさんから次のように依頼されました。「私はもう長くないことがわかっている。あなたも知っていると思うが、私には子どももきょうだいもおらず、私の死後、遺産を相続する者がいない。そうなると国に納めることになると思う。そうなるよりは、少しでも有意義なことに使いたいと思い、かねてから応援している環境保護団体に私の遺産を寄付したい。Dさん、こんなときどうすればよいか、教えてくれないか。」 Dさんは心の中で「えーっと、これっていわゆる相続の問題ですよね。何をどこまで説明すればよいのだろう…」と焦りました。もちろんDさんは法律の専門家ではありませんからアドバイスはできません。でも、自分の親や、いずれは自分自身も関わらざるを得ないテーマですから、基本的なことは知っておきたいと思っていました。「遺書みたいなものを書けばよいのかしら? 相談する先は弁護士? まずは、ケアマネジャーに伝えればよい?」とぐるぐる考えが巡るDさん。この悩みをスッキリ整理しましょう。 回答例 「その場合、遺言を書くことになると思います。ただ、遺言の書き方には決まり事があるそうです。法的に有効なものを作り、確実に実行するには、やはり法律の専門家に相談されたほうがよいでしょう。相続や遺言を専門とする弁護士や司法書士を探されるとよいと思います。」 遺産を「相続」する人は法律で決められている 人が死亡すると「相続」が発生します。相続とは、その人が所有していた預貯金や不動産、有価証券などの遺産を、相続人が相続割合に基づき引き継ぐことをいいます。相続では、この亡くなった人を「被相続人」、遺産を引き継ぐ人を「相続人」と呼びます。 相続人は、民法でどのような関係の人がどういった順番でなれるのかが定められています。被相続人に配偶者(妻や夫)がいる場合、必ず配偶者が相続人になります。そして、子がいるときは子が第1順位、子がおらず親が生きているときは親が第2順位、子も親もおらず、きょうだいのみがいるときはきょうだいが第3順位として相続します(図1)。 そして、今回のように相続人が誰もいない場合、被相続人の遺産は国に帰属することになります。 図1 相続人の範囲と優先順位 遺言を作成すれば相続の内容を決められる では、どうすれば自分の死後、財産の使い道を指定できるのでしょうか? 実は、簡単な方法があります。それは、どのような紙でもよいので、本人が自筆で「遺言」を作成することです。(※「遺言」は「ゆいごん」と読みますが、法的に正確な読み方は「いごん」です。) なお、遺言には民法で定められたいくつかの要件があります。以下に、その一部を簡単にまとめました。こういった要件を満たしていないと、せっかく遺言を作成しても無効になってしまう恐れがあるため、注意が必要です。  【求められる要件(一部)】・本人が、遺言の本文のすべてを自筆する(※)。・遺言を作成した年月日を具体的に記載する。・本人が署名・押印する(押印は実印でなくてもよく、認印でも問題ない)。・誰に何を相続させるのか、相続内容を明記する。・誤字・脱字は訂正する(訂正方法は民法で定められている)。※遺産目録を付ける場合、その目録は自筆ではなく、パソコンで作成してもかまいません。 今回の事例であれば、「私の死後、私の財産は〇〇環境保護団体に遺贈する」と全文を自筆します。そこに、作成日、氏名を記載し、氏名の横に押印すれば完成です。これにより立派に法律上有効な遺言となり、Cさんの死後、書かれているとおり実行されます。 自筆では心配なら「公正証書遺言」の選択もあり 自筆の遺言は、手軽に作成できる反面、その有効性を争われやすいというデメリットがあります。また自宅で保管していると、紛失したり、死後誰にも発見されなかったりというリスクがあり、心もとない面もあります。また、麻痺や筋肉の疾患などで自筆が困難な場合もあります。 そのようなとき、第三者機関に遺言を作成してもらうことができます。これを「公正証書遺言」といいます。公証役場で公証人が間違いのない遺言を作成してくれます。また、健康上の理由で公証役場まで出向けない場合、公証人が自宅や病院へ出張してくれるサービスもあります。Cさんにとってはうってつけですね。ただし、公正証書作成の手数料以外に、1~2万円程度の日当や交通費が必要です。 「遺言執行者」を決めておこう ここで、遺言を確実に実行するためのワンポイントアドバイスをお伝えします。せっかく遺言を作成したのに、死後、誰にも気づいてもらえず処分品の中に埋もれたまま…という事態にならないよう、「遺言執行者」を指定しておくことをおすすめします。 遺言執行者とは、相続が遺言どおりに実行されるように必要な手続きを行う人のことをいいます。特別な資格は必要ないので、未成年や破産者でない限り、誰でもなることができます。信頼できる人を見つけたら「このような遺言を書きたいので、執行してくれないか」と頼み、承諾を得たうえで、遺言に「〇〇さんを執行者に指定する」と追記すれば完了です。 執行者の責任は重大なため、法律の専門家で、業務を間違いなくやり遂げてくれる弁護士や司法書士に依頼すると確実です。 今回の事例では、遺産を受け取る環境保護団体(受遺者といいます)も執行者になれます。生前に贈り先の団体に受遺者になってほしいとの意思を伝え、先方の承諾を得られるのであれば、執行してもらうのが最も確実な方法といえるでしょう。一方、生前に受遺者を明らかにしたくないのであれば、やはり法律業務の専門家に仕事として依頼することをおすすめします。 些細なミスで遺言が無効にならないように ここまで読んで「よしわかった、早速手近にあるメモ用紙に書いていただこう」とお手軽に遺言を利用者さんにすすめてしまうことは禁物です。簡単なように思えますが、先ほどご紹介した要件を1つでも満たさなければ無効とされてしまうのが遺言の恐ろしいところです。 例えば、作成日を「令和5年1月吉日」とぼかして書いた場合、それだけで「日付が書かれていない」として無効と判断されます。また、押印が何もない場合も無効です。なお、押印は、印鑑である必要はなく、拇印、そのほかの指の頭に墨や朱肉をつけて押捺すること(指印)でもよいとされています。 遺言は自分で作成が可能ですが、いざというときに使えないと無用なトラブルを引き起こしかねません。トラブル回避のためにも間違いのない遺言を作成する必要があるのです。 遺言作成の相談先は課題に応じて選択 では、Cさんの事例の場合、Dさんはどのような専門家に相談すればよいでしょうか。「法律家なんて知り合いにいないし…」という場合、検索して一から探さざるを得ませんが、信頼できるところに頼みたいものです。 相談先は以下のとおり、たくさんあります。それぞれに特徴がありますので、抱える課題や状況に応じて選択するとよいでしょう。ただし、相談先が相続関係に精通しているとは限らないため、「遺言作成業務を取り扱うか」を必ず事前に確認することが大切です。 弁護士 法律といえば弁護士ですが、トラブル解決の専門家であり、費用が最もかかります。そのため、「相続人が揉めている」といったトラブルの火種がない場合、司法書士や行政書士でも十分と思います。 司法書士 司法書士は不動産の登記業務を得意とする専門家です。もし遺産に不動産がある場合、不動産の相続方法や登記を含めた遺言作成の相談が可能です。 行政書士 行政書士は書類作成を主に行う専門家です。複雑な事情がなく、遺言の形式チェックを依頼したい場合、行政書士が適任でしょう。 税理士 税理士は税に関する専門家なので、相続税や贈与税の負担をなるべく軽くしたいといった相談が可能です。 各士業の公的団体 各専門家の事務所を検索すると多くの候補が出てきます。迷う場合は、各士業の公的団体にアクセスするのが無難です。弁護士であれば弁護士会です。「お住まいの都道府県名+弁護士会」で検索し、相談窓口の部署に電話をかけ、相談予約を取ります。 法テラス(日本司法支援センター) 利用者さんに金銭的な余裕がない場合、「法テラス(日本司法支援センター)」がおすすめです。法テラスは、国(法務省)が設立・運営する相談機関で、弁護士や司法書士に無料相談することができますし、そのまま着手を依頼することも可能です。なお、役所で開催される無料市民相談もありますが、相談した弁護士にその場で依頼することができないという欠点があります。「法テラス+地元の名称」で検索し、最寄りの法テラスに予約を取ることをおすすめされるとよいでしょう。 執筆 外岡 潤介護・福祉系 弁護士法人おかげさま 代表弁護士 ●プロフィール弁護士、ホームヘルパー2級介護・福祉の業界におけるトラブル解決の専門家。介護・福祉の世界をこよなく愛し、現場の調和の空気を護ることを使命とする。著書に『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)他多数。 YouTubeにて「介護弁護士外岡潤の介護トラブル解決チャンネル」を配信中。https://www.youtube.com/user/sotooka 記事編集:株式会社照林社

訪問看護のヒヤリハット
訪問看護のヒヤリハット
特集
2023年2月21日
2023年2月21日

ケア・忘れ物・移動トラブル…訪問看護のヒヤリハット体験談23連発

限られた時間のなかで、利用者さんの病態や自宅の環境等に応じて臨機応変に対応する訪問看護師。病棟看護師ではなかなか経験しないヒヤリハット&インシデントも数多くあるはず。今回は、訪問看護師さんたちから寄せられた体験談をご紹介します。 ※訪問看護ステーションによっては、「アクシデント」に分類される体験談も含まれる可能性があります。あらかじめご了承ください。 【ケア編】 自動点滴停止、指示見落とし… まずはケア編から。在宅看護ならではの医療機器・コミュニケーションにまつわる体験談も寄せられています。 「利用者さん宅の交換ノートに書かれていた医師の褥瘡への軟膏変更指示を見落としてしまったスタッフがいた。それまでめったに指示変更がなかったことと、訪問時に見学者がいて気を取られてしまったことが影響したようだ」(40代) 「在宅用の自動点滴ポンプを使用していたところ、電源プラグが抜け気味になっており、充電がゼロになってしまった。あわてて電池を入れたが、作動せず。充電がゼロになると電池を入れてもすぐには動かず、手動に切り替えたため、ある程度充電されるまで滞在せざるを得なかった」(50代) 「電池・バッテリーが使える在宅用の自動点滴ポンプについて、災害時用に充電式電池を2~3日に1回交換するようにしていたが、あるとき業者から『毎日交換しないと放電する可能性がある』と聞いた。それ以降、ご家族の協力も得ながら毎日交換するようにしている。災害が起きる前に知れてよかった」(30代) 「爪がとっても切りにくい利用者さんで、爪切りのときに皮も切ってしまい、出血してしまった。出血は少量で、ご本人には『大丈夫』といってもらえたが、ヒヤッとした」(50代) 「薬の処方がかなり複雑な利用者さんの訪問が始まり、まだ薬の色分け・記載分けなどの工夫をしていないときのこと。一緒に同行した看護師が薬のセットを間違えてしまった。複数人で訪問していたためその場で気づくことができたが、危なかった」(30代) 【忘れ物編】 バッグ・バイタルセット忘れ… 訪問看護師は毎回移動するため、忘れ物をしてしまうと取りに戻るのが大変…。時間に追われるなかで、うっかり大事なものを置いてきてしまう経験をした人も多いようです。 「バイタルセットを忘れてしまうケースはよく耳にする。次の訪問先でバイタル測定物品を借りられるケースでない限り、急いで取りに戻るしかない…」(40代) 「緊急コールで深夜に独居の認知症の方に訪問したところ、ご本人から不審者扱いをされてしまった。なんとか理解してもらおうと必死に説明しながら慌てて看護や薬のセットなどの対応を行い、訪問を終了。しかし、訪問バッグをまるごと忘れてしまった…。取りに戻るしかなく、再び利用者さんからは不審者扱いをされた」(30代) 「非常に点滴の針が入りづらい利用者さんで、針を2~3本使用した。時間が押しており、一度棚の上にその針を置いて片付けていたところ、次の訪問歯科の方々が来てしまい、針を置いてきてしまった。ご自身で移動ができない利用者さんのため実害はなかったが、ご家族は『針を何本もさした上に忘れるなんて』と不信感を抱かせてしまった…」(50代) 「ものの置き忘れはステーション内で何度か事例がある。はさみをベッドのなかに置いてきてしまって、報告になったこともあった」(50代)  「清拭の際は給湯器の温度をマックスの60℃まで上げることがあるが、元の温度に戻し忘れてしまい、ホームヘルパーさんに下げてもらうように頼んだことがある」(50代)  「電子カルテを閲覧できるタブレットを忘れてきてしまった。たまたま目が見えない利用者さんだったため情報流出はしなかったが、『いつもはないものがある』とご本人からお電話をいただいてしまった」(30代) 【スケジュール管理編】 訪問のすっぽかし… 訪問の予定が変更になったケースで、気を付けてはいても訪問漏れを経験してしまった方々もいました。 「訪問をすっぽかしてしまい、青くなって利用者さん宅に駆け付けたことがある。お風呂やマッサージなどがメインの方で、利用者さんも『忙しいと思ったから連絡しなかった』と怒っていなかったが、いつも訪問を心待ちにしてくれているので心が痛んだ。予定変更があったのだが、そのことを失念してしまったことが原因。最新の予定表はステーションにしかなく、出先では確認できなかった」(50代) 「翌月から曜日変更がある利用者さんの予定を、自分(管理者)がシステムに入力し間違えてしまい、訪問漏れを起こしてしまった。それ以来、管理者以外の実担当者にも直近1週間の予定をダブルチェックしてもらうようにしている」(40代) 【訪問・移動編】 電動自転車を路駐の車に… 訪問看護師ならではの「移動」に関する体験談。違反切符をきられたケースや、怖い経験をした人もいました。 「利用者さん宅の前に路上駐車していた車に、うっかり訪問用の電動自転車を倒してぶつけてしまったスタッフがいた。そのスタッフは当初自分でなんとかしようと思ったようだが、激怒した車の持ち主からガンガン電話がかかってきて、先輩や所長に相談。所長が間に入り、和解できた」(40代) 「車で移動する際、基本的には利用者さんに駐車料金を払ってもらうが、『自宅の前で大丈夫』『一度も駐禁とられていないから』と言われ、そのとおりにしたところ駐禁をとられてしまったスタッフがいた。ステーションからは『駐禁は払わないからね』と前もって言われていたため、自己負担…」(50代) 「初めての利用者さん宅に車で行ったスタッフが、ナビに従って運転していたら、『住民以外進入禁止』の看板を見落とし、警察に違反切符を切られてしまった。看板もあまり目立たないものだったようで、誰がやっていても防ぎづらかった事例と考え、看護師が支払った罰金相当額をステーションが負担した」(40代) 「いつもカギをあけてくれるご家族が不在で、利用者さんご本人は動けないため、家に入れなかったことがある。窓越しに利用者さんと会話ができ、ご本人から『窓から入って』と言われた。木によじ登って入ろうとしたが、近隣の方から不審者扱いをされそうになり、結局訪問はできなかった」(30代) 【経理・事務関連編】 指示書が期限切れ… 訪問看護師が理解しておけなければならない手続き・制度の知識はたくさん…。煩雑で、抜け漏れが生じるケースも多いようです。 「訪問看護の指示書が2ヵ月切れていたにも関わらず、訪問していた。指示書発行依頼や管理は事務の方にお願いしているが、期限の把握が不十分だった」(40代) 「新規事業所で、本部から指定許可がおりていると言われてサービスを開始したが、実際は許可が下りておらず、結局10万円分ほどの訪問看護費用をいただけないことになってしまった」(50代) 「気管カニューレを使用している利用者さんだったので、特別管理加算がとれたのだが、チェック項目に入れておらず、加算されていなかった。管理者も現場の看護師に伝えきれておらず、現場の看護師もそうした意識が薄くなりがち」(50代) 「ファクスの送り間違えがあり、お叱りの電話を受けたことがある。以降、できるだけファクス機に番号を登録するようにしている」(50代) 「初回の訪問を終えていたが、すぐに入院されてしまい、契約書に書かれていたご家族は連絡がとれなかった。どこに入院されているのか、いつ戻ってこられるかもわからず、口座は残金不足。訪問費用を請求できない状態が続き、半年ほど経過したが、結局回収できなかった」(30代) 「訪問看護師になりたてのころのこと。振込依頼書の書き方をあまり理解していなかったので利用者さんの記入ミスに気付かず受領。後日書き直していただくことになってしまった」(30代) 「わかる!」という声が聞こえてきそうな体験談から、「そんなことがあったの…?」と驚く体験談まで、多種多様なエピソードが寄せられました。さまざまな事例を知ることで、重大な事故を防げるケースも多くあります。報告までには至らない内容でも、ぜひ積極的に訪問看護ステーション内で共有してみてください。ヒヤリハット・インシデントを防ぐヒントが見つかるかもしれません。 編集・執筆: NsPace編集部

ニャースペース
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特集
2023年2月22日
2023年2月22日

入浴介助時の足元って…ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

入浴介助って長靴…?裸足…? 利用者さんの入浴介助。みんなは何を履いてるにゃ…? 裸足でやって足が濡れるのは嫌だけど、長靴もっていくのも大変にゃ 「浴室で入浴介助をするとき、みんなは何を履いているの?」という声が訪問看護師さんから聞かれます。確かに難しい問題です。長靴を持参して履く? 裸足で介助して、あとで足を拭く…? 長靴を全員分用意しているステーションもあれば、利用者さんに用意していただくステーションもあるようです。小さなことに見えるけれど、結構困りますよね。 ニャースペース病棟看護経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

ケースメゾットで考える管理業務
ケースメゾットで考える管理業務
特集
2023年3月7日
2023年3月7日

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その3:どのように働きかけることが効果的なのか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第9回はCASE3「ドクターをどう動かせばいいのか」の議論のまとめです。 はじめに 前回(その2:なぜ連携がうまくいかないのか?を参照)は、なぜK医師とは連携しにくいのかについて、A・B・C・Dさんそれぞれの意見を交換しました。今回は、訪問看護管理者としてどのようにK医師に働きかけるかをテーマに意見交換を進めます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか  「K医師と連携がしにくい。どうしたらよいか」とスタッフナースから相談を受けている。K医師は、地域で在宅療養支援診療所を複数経営している大きな医療法人に所属している。K医師はふだん大学病院で働いており、在宅医療は初めてだそうだ。  K医師が担当する利用者の多くは内科疾患を持つ人だが、なかには認知症を疑わせる症状がある人や、専門的なリハビリが必要と思われる人もいる。訪問看護としては、それらの症状に対して専門の医師にもみてもらいたいと考えているが、K医師は取り合おうとしない。利用者本人や家族は、「他の医師にみてもらったとわかったら主治医であるK医師が怒るのではないか」と考えているようで、自ら他院を受診はできないと言っている。管理者としてどうしたらよいだろうか?  設問あなたこの管理者であれば、連携がしにくいという評判があるK医師に対して、どのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 K医師にどのように働きかけることが効果的なのか 講師ここまで(その2:なぜ連携がうまくいかないのか?を参照)のみなさんの意見から、K医師とよい連携をするために管理者としてできることは、「K医師と訪問看護の目標を一致させる」「K医師と訪問看護の情報の非対称性を解消する」の二つが出ました。では、具体的な取り組みとして訪問看護管理者は何ができるでしょうか? Aさん注2当たり前のことですが、 各利用者の在宅生活の目標についてよく知ってもらい、医師と看護で目標を一つにするために、K医師と話し合う時間をとりたいです。訪問看護は、利用者の意思を尊重したケア体制を構築したいので、K医師に看護側の考えを理解してもらうことは必須のことと思います。 BさんK医師はお忙しいのでしょうから、報告書を持参して相談するなどの機会を探ってみるのがよいかもしれませんね。専門医による診察がない状態がこのまま続くことによって、「利用者にこんな支障が起こりうるのでは」など、看護側がどんなことを懸念していて、なぜK医師に相談したいと思っているのかを、まず報告書に書くことも一つです。 CさんあまりにもK医師の対応がひどいなら、医療法人の本部に相談することも必要だと思います。なので、K 医師の対応について客観的な事実を集めるようにスタッフには指示をしておこうと思います。 Dさんケアマネジャーなどの関係者との情報交換を通じて、誰に働きかければK医師が動くのかを考えたいです。また、この在宅療養支援診療所には他の訪問看護ステーションもかかわっているでしょうから、地域の訪問看護ステーションの管理者会議などでK医師について聞いてみることもできると思います。 講師K医師に情報を提供するさまざまな手立てと、K医師やK医師が所属する医療法人の情報を収集するための具体的な取り組みが出てきましたね。さまざまな困難があることでしょうが、医療法人の本部との相談も視野に入れ、利用者の利益を中心としたケア体制の構築を進めていってください。 連携の鍵は「目的の不一致」と「情報の非対称性」の解消にある 講師では、これまでの議論を受けて、CASE3のまとめです。 みなさんの意見から、・利用者の状況を小まめに医師に伝えること・利用者ごとの在宅療養の目標を医師と看護師で擦り合わせておくことの必要性が見えてきました。 医師に限らず、多職種連携の場面においてキーとなる人物がなかなか動いてくれないという話はよく聞きます。その人自身に問題があるというよりは、その人物の合理的な選択の帰結として生じるものと捉えるほうが、効果的な働きかけを考えることができます。どなたかも発言されていましたが、人の性格などは急に変わるものでもありません。 今回のケースで管理者としてできることは、K医師との「目的の不一致」と「情報の非対称性」(その2:なぜ連携がうまくいかないのか?を参照)を解消するために動くことです。 Cさん連携しにくい医師への対応をしていて、「どうしてこの人はわかってくれないのだろう」と思うことが多々あったのですが、相手のことを十分に理解していなかったかもしれないと思いました。 講師はい、そうなんです。変えられないところを気にしても自分が疲れてしまうだけです。働きかけをして効果がありそうなところにご自身の力を集中させてください。ある人や組織との連携がうまくいかないことがあれば、「目的の不一致」と「情報の非対称性」の解消を考えてみてください。このことは他の場面でも応用できる考えかたですよ。 * 次回は、CASE4「クレームを受けるスタッフをどうするのか」を考えます。 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇入山章栄.『世界標準の経営理論』東京,ダイヤモンド社,2019,114-132.

ニャースペースのつぶやき
ニャースペースのつぶやき
特集
2023年3月7日
2023年3月7日

冬場の利用者さん宅の床と水が…ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

とっても床が冷たい&お湯が出ないお宅も 冬場の床、とっても冷たくて凍えそうになることがあるにゃ…。お湯が出ない洗面所も、肉球がかじかむにゃ 冬場にフローリングやビニールの床がとっても冷たくなってしまうお宅、ありますよね。洗面所でお湯が出ないお宅もあり、手足が冷えてしまいます…。訪問看護師さんからは、「冬は厚手の靴下を履いている」という声や、「訪問先によっては逆にとても暖かいこともある。厚着するとかさばるし、ケア・シャワー浴等の邪魔になってしまうので悩ましい」といった声が聞かれました。 ニャースペース病棟看護経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

在宅で行う認知症看護
在宅で行う認知症看護
特集 会員限定
2023年3月7日
2023年3月7日

【セミナーレポート】看護師が意識したい7つのポイント -在宅で行う認知症看護-

2022年11月24日に行われたNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーでは、認知症看護認定看護師である福岡 裕行さんを講師に迎え、「在宅で行う認知症看護」を開催いたしました。 今回はそのセミナーの様子を、前後編にわけてご紹介。前編では、認知症訪問看護において福岡さんが大切にしている7つのポイントや、利用者さんの自信を育てるテクニックについて教えてもらいました。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】福岡 裕行さんオールハッピー訪問看護ステーション 管理者/認知症看護認定看護師認知症治療病棟に勤務する傍ら、兵庫県看護協会認知症看護認定看護師教育課程で学び、2012年 認知症看護認定看護師資格を取得。その後も臨床経験を積みつつ、認知症サポーター養成講座などの講師も務め、2015年には認知症ケア上級専門士資格を取得する。2018年7月にはオールハッピー訪問看護ステーションを設立し、現在まで地域の医療を最前線で支え続けている。 目次 1. 認知症看護で意識したい7つのポイント (1)まず聞いてみる姿勢 (2)「1訪問1笑い」にチャレンジ (3)「あんたがいうなら」を目指す (4)「死ぬまで元気でいてほしい」という想い (5)「老いては子に従え」は考えもの (6)雑談の中で情報収集 (7)「ベスト」より「ベター」を目標にする 2. 失敗の回避と成功の蓄積で利用者さんの自信を育てる --> 認知症看護で意識したい7つのポイント 私が訪問看護の現場で認知症の利用者さんとかかわる際は、以下の7つのポイントを意識しています。 まず聞いてみる姿勢 「認知症だからこんなこと聞いてもわからないだろう」と決めつけず、利用者さんご本人に積極的に質問するようにしています。記憶の障害が認められるときは、例えば「昨日はどう過ごしていたんですか?」といった過去についての質問は避け、現在の考えや気持ちに焦点を当てた問いを投げかけてみるといいでしょう。 「1訪問1笑い」にチャレンジ 訪問する際、必ず1回は利用者さんに笑っていただくこと、つまり「いい感情の記憶」を残すことを目指しています。訪問看護で行ったことが嫌な記憶として残ってしまうと、ご家族が同じように介護することが難しくなってしまう可能性があるためです。逆に、いい記憶を残せればご家族の介護がスムーズになることもあります。 また、レビー小体型認知症の場合、ストレスがかかると症状が悪化するといわれる一方で、人と笑い合うことは安心感や自信を生み、症状の改善が期待できるとされています。ぜひみなさんも、利用者さんとご家族のために「1訪問1笑い」にチャレンジしてみてください。 「あんたがいうなら」を目指す 「あんたがいうなら、デイサービスに行ってみよう」「あんたがいうなら、お風呂に入ってみよう」などと利用者さんにいってもらえるような信頼関係を築くことを常に目指しています。 「死ぬまで元気でいてほしい」という想い ある利用者さんは、以前「私はもう死にたいんだから、来なくていい」と訪問看護を拒否されていました。そこで私は「◯◯さん(利用者さん)に死ぬまで元気でいてほしいし、亡くなる前日まで笑っていられる生き方をしてほしいから、訪問看護に来ています」と伝えたんです。すると、その日からスムーズに訪問看護に入らせてもらえるようになりました。今でもその方を担当していますが、「最期まで笑っていたいね」といってくれるようになりましたよ。 「老いては子に従え」は考えもの 「老いては子に従え」という考え方は、利用者さんの自己決定の妨げになる場合があります。「子どもがいうから◯◯している」とおっしゃる方に対しては、私たちがまずご本人の意見を丁寧に聞き、自己決定支援に取り組むことが大切だと考えています。 雑談の中で情報収集 長谷川式認知症スケールのような認知機能の検査ではなく、雑談の中で情報を収集することも意識しています。 病院の心理士に聞いたところによると、検査のために簡単な計算問題を出すと、「なぜこんなことを聞くんだ、人をバカにしているのか」と怒り出す方もいらっしゃるそうです。訪問看護において利用者さんの怒りを買ってしまうと、以降の介入に支障をきたすリスクがあるので、何気ない雑談から情報を得るように努めることはとても重要です。 「ベスト」より「ベター」を目標にする ベストではなくベターを目標にするという考え方も大切です。例えば、薬を飲めない利用者さんの訪問看護を担当したとします。看護師が介入したからといって、決められた服薬量を毎日欠かさず飲むことはなかなか難しいでしょう。しかし、まったく薬を飲めなかった状態から7〜8割でも飲めるようになれば、私はそれでもいいのかなと思います。 服薬ルールをどこまで遵守する必要性があるかについてはもちろん主治医との相談が必要ですし、状況の改善に向けて工夫することは大切ですが、ベストを強く求めすぎると利用者さんに大きなストレスを与えかねません。前述のとおり、嫌な記憶が積み重なることはご家族の介護負担の増加や症状悪化のリスクになりますので、柔軟な対応を心がけてください。 失敗の回避と成功の蓄積で利用者さんの自信を育てる 失敗体験を回避する、および成功体験を蓄積することは、認知症の利用者さんの訪問看護において非常に重要です。失敗してしまい、それを周囲に指摘されると、利用者さんはどんどん自信や意欲を失ってしまいます。 ・失敗しにくい状況をつくること・失敗しても「黒子」になって見えないところでフォローすること・ときには見て見ぬふりをして自信の喪失を防ぐことを心がけるといいでしょう。 その逆に、成功体験を増やすことで自信を育てることができます。例えば、認知機能の低下が見られる以前の「利用者さんが光っていた時代」を承認することも効果的です。このやり方は回想法といい、「昔はどんなお仕事をしていたんですか?」「〇〇(その方の経験が活きるような内容)について私にアドバイスをください」などと声をかけ、その回答に対して「すごいですね」「教えてくれてありがとうございます」と承認していきます。これを繰り返すことで、利用者さんは自身の存在価値を改めて認識することができ、どんどん自信がついてくるはずです。認知症を患うと、生活障害によってどうしても成功体験が減ってしまうもの。ぜひみなさんが意識的にその機会をつくるようにしてください。 >>後編はこちら【セミナーレポート】ご家族とのかかわり方 -在宅で行う認知症看護- 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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