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亡くなる前の変化への対応と家族への支援【せん妄や呼吸・循環動態】

亡くなる前の変化への対応と家族への支援【せん妄や呼吸・循環動態】

在宅医療の第一線で活躍されている、すぎもと在宅医療クリニックの杉本由佳先生に解説していただき、臨死期における訪問看護師の役割を深く掘り下げていきます。今回は、死期が迫り、せん妄や呼吸、循環動態の変化などが見られた利用者さんや、それを見守るご家族への対応について解説します。

亡くなる前の変化とその対応

病状が進行すると、利用者さん自身が「終わりの時」が近づいていることを肌で感じるようになります。亡くなる約1~2週間前(終末期)からせん妄が出現することが多く、ご家族の介護疲れも蓄積してきます。その後、亡くなる数日前には呼吸状態や循環動態の変化が現れ、その様子にご家族は強い不安を抱くことがあります。そのため、症状について、事前にご家族へ丁寧に詳しく説明しておくことが重要です。そして、ご家族の不安、寂しさ、悲しみ、これからのことなどを傾聴し、共感することが大切です。

せん妄への対応

終末期患者の約9割にせん妄が出現するとされ1)、これは特別なことではなく、ある意味「自然な現象」ともいえます。特に「もっと生きていたい」「まだ死にたくない」と強く願う方ほど、せん妄が激しく現れる傾向があります。死を望んでいないのに、身体が徐々に衰えていく感覚を体験することで、心と身体の乖離が生じ、せん妄が起こりやすくなるのです。

ここではせん妄について、予防と対策の基本、具体的な症状と対応の工夫について解説します。

せん妄の予防と対策の基本

激しいせん妄にならないよう、できるだけ穏やかに保つためには以下の取り組みが大切です。

  • 訪問開始時から利用者さんの性格や人生観を丁寧にリサーチすること
  • 病状について繰り返し説明することで、少しずつ恐怖を和らげていくこと
  • 「常に在宅スタッフがそばにいる」という安心感を持ってもらうこと

せん妄の具体的な症状

せん妄の症状は多様で、以下のような行動が見られることがあります。

  • ベッド柵を叩く、大声を出す、怒鳴る
  • 「消防車を呼んで!」といった突飛な要求
  • 「~さんが来ているからお茶を出して!」と幻視に対して指示する
  • 手で何かを払いのけるような動作
  • 小声で独り言を言い続ける

これらは、死を受け入れようとしながらも、恐怖や葛藤が残っていることの表れです。家族には「せん妄はほとんどの人に起こる現象であり、特別なことではない」と説明し、「自分も同じ道を歩むのですよ」と伝えることで、理解と共感を促します。

夜間の対応と工夫

せん妄は特に静まり返った夜間に強く現れやすく、家族の疲労も重なりやすい時間帯です。暗く静まり返った部屋で目覚めた時、「死んでしまったのでは」と不安になることもあるため、以下のような工夫が有効です。

  • 部屋を明るく保つ
  • テレビやラジオをつけっぱなしにする(音楽よりも話し声が安心感を与える)
  • 扇風機で風を送ることで感覚刺激を与える
  • ベッドの高さを下げ、床に座布団や毛布を敷いて安全対策を講じる
  • 家族は別室で休みながら、必要に応じて対応できるようにする

せん妄の時間も「大切な時間」として

在宅移行後の期間が非常に短く、家族との時間も限られている場合には、せん妄の時間も「かけがえのない時間」として捉えるよう促すことがあります。

「明日になれば静かになるかもしれません。そうなると、逆に寂しく感じるかもしれません。今晩だけでも、少し付き合ってみませんか?」

このような声かけは、ご家族が利用者さんとの時間をより深く受け止めるきっかけになります。

呼吸状態や循環動態の変化への対応

死が近づくと、呼吸状態や循環動態に変化が現れます。前回の訪問時と比べて「今日はこう変わっています」と具体的に伝えることで、死が近づいてきていることを少しずつ実感していただけるようにしましょう。

例えば、以下のように具体的な症状を伝えることで、ご家族が心の準備をしやすくなります。

「病状が進行し、さまざまな治療を行っても症状のコントロールが難しくなってきました。ステロイドの効果も薄れ、血圧が低下し、尿量も減少しています。肝機能の悪化を示す特有の臭いも感じられます。あと数日かもしれません」

下顎呼吸、舌根沈下

亡くなる直前には、無呼吸の時間が長くなり、下顎呼吸(顎を上下させるような呼吸)に移行します。舌根沈下によっていびきが強くなり、「苦しそう」と感じるご家族もいます。その際は、側臥位にして背中側にクッションを置いて倒れてこないように支えることで、いびきが軽減されます。

血圧低下

血圧が低下してくると、鼠径部で大腿動脈の拍動を確認することで血圧の変化を把握しやすくなります。鼠径部で脈が触れなくなってきた場合は、血圧がかなり低下しており心停止が近い可能性があるため、事前にその兆候を説明しておきましょう。

発熱

亡くなる直前に、突然高熱を出すこともあります。クーリングや室温調整で対応しましょう。

在宅医や介護スタッフらとの連携

余命1~2日と考えられる場合には、在宅医から「間もなくです」とご家族に説明していただくようお願いします。

余命についてご本人に伝えるかどうかは、利用者さんの年齢、病気への理解度、ご本人やご家族の希望などを踏まえて判断します。予後が数日と見込まれる場合、必ずしもご本人に伝える必要はなく、むしろ最期を見届けるご家族にしっかりと状況を説明しておくことが大切です。

また、介護スタッフ、訪問入浴サービスのスタッフ、ケアマネジャーなど関係者にも事前に状況を共有しておきましょう。特に独居の利用者さんの場合、亡くなっているのをヘルパーさんが最初に発見することも多くあります。その際の対応については、あらかじめ以下のように伝えておくと安心です。

「驚かれるかもしれませんが、終末期ですので、もし亡くなっているのを見つけたら、落ち着いて訪問看護師や在宅医に連絡してください」

間もなく亡くなりそうな場面での家族への声かけ

せん妄の時期を過ぎ、呼吸状態や循環動態が悪化していく中で、心身ともに疲れているにもかかわらず、懸命に見守り続けてくださっているご家族に、ねぎらいの気持ちを言葉でしっかりと伝えましょう。

息を引き取る瞬間を、片時も離れず見守るご家族もいらっしゃいます。近年では老々介護のケースも増え、長期間にわたる看病は介護者の体調を崩す原因にもなっています。利用者さんの意識がなくなってからは、常にそばにいる必要はありません。この時期は、これまでの闘病生活や元気だった頃の姿を思い返しながら、時々、静かに寝顔を見守る時間です。

意識がある時に希望を伝えられ、寂しがっている時には足をさすってもらい、好みの飲み物を飲ませてもらったり、おしゃべりに付き合ってもらったり……。ご家族が寄り添ってくださったことは、ご本人にとって幸せで、かけがえのない時間だったのだと思います。

目を閉じる瞬間を見届けることが重要なことではないのです。家族の温もりに包まれながら過ごす時間そのものが、利用者さんにとっての安らぎです。この頃には、主介護者以外のご家族も集まっていることが多く、家庭の音や団らんの声を聞きながら眠ることが、何よりの幸せです。

「家族に見守られながら自宅で旅立つことは、とても幸せなことです」と、心を込めてご家族にお伝えしましょう。

自宅で亡くなるということ

愛する人、大切な人を失うことは、残されるご家族にとって深い悲しみを伴う体験です。自宅で介護することにより、「人は死ぬ」という過程を肌で感じることができます。介護は大変だけれど、共に過ごした大切な経験を通じて、「大変だったけれど、やれることを一生懸命頑張った。寂しいけど後悔はない」と残されたご家族の前進につながっていきます。

またこの体験は、子や孫、若い世代に「死」というものを伝える機会にもなります。命の尊さ、家族の絆の深さを感じ、さらに次の世代につないでいくのです。「タオルを取ってきてもらう、コップに水を汲んできてもらう、体を支えてもらう」、そんな些細なお手伝いであっても、子や孫の心にしっかり刻まれることでしょう。

人は誰しも、年を重ね、病を患い、少しずつ衰えていきます。やがて日常の動作も誰かの手を借りなければならなくなり、そして静かに死を迎える時が訪れます。

一人の人間がこの一生を終える時、その姿がどんなに変わってしまっても、近くにいてくれる人がいるということは、きっとその人が本当に愛されていた証です。私自身も、いつか死を迎える時、誰かがそばにいてくれるような生き方をしていけたらと思います。

執筆:杉本 由佳
すぎもと在宅医療クリニック 院長
執筆:杉本 由佳
1995年名古屋市千種区にすぎもと在宅医療クリニック開業。
在宅栄養管理、緩和医療が専門分野。
 
所属学会
日本在宅医療連合学会(専門医・指導医・評議員・特任理事)
日本緩和医療学会(認定研修施設 認定医)
日本栄養治療学会(認定医)
 
その他、活動実績
● 日本在宅医療連合学会「がん疾患の在宅医療人材育成講座」執筆
● 原著論文「在宅静脈栄養における脂肪乳剤の使用状況と問題点 」
Medical Nutritionist of PEN Leaders Vol.2 No.1 2018 に掲載
 
編集:株式会社照林社

【引用文献】
1) Lawlor PG,Gagnon B,Mancini IL,et al.Occurrence, causes, and outcome of delirium in patients with advanced cancer: a prospective study.Arch Intern Med 2000;160(6):786-794.

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